森本禎介さん注目・2019年のニュース漫画でさえ描かないような偉業 ロード、シクロクロス、MTBで活躍するファンデルプール

by 森本禎介 / Teisuke MORIMOTO
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2019年も残すところあとわずか。年末企画として、『Cyclist』執筆陣が選ぶ「今年の注目ニュース」をお届けします。 TKC Productions(ティーケーシープロダクションズ)代表・森本禎介さんが注目したのは「 マチュー・ファンデルプール(オランダ)の驚異的な強さ 」。 アムステル・ゴールド・レースでの勝ち方も目立ちますが、本業のシクロクロスや マウンテンバイク(MTB)にも参戦し、3種目のワールドカップ(WC)やワールドツアー(WT)で優勝を果たすなど、漫画でさえ描かないような偉業を達成しています。

ロードレース、MTB、シクロクロスの3種目でトップレベルで活躍するマチュー・ファンデルプール。写真は2019年のロードレース世界選手権  Photo : Yuzuru SUNADA

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ここ30年で登場した最も重要な選手

 今年の自転車レースで注目トピックと言えばマチュー・ファンデルプールが最初に思い浮かびます。今年に限らず、この30年で登場した自転車選手で最も重要な選手だと個人的には考えています。

ラスト7km地点で先頭から1分以上も離れた後方集団からの追い上げ優勝は、マチュー・ファンデルプール(写真左)の一側面に過ぎない Photo: YSP

 既にあきさねゆうさんがアムステル・ゴールド・レースでの圧倒的な走りについて記事(ファンデルプールが勝ったアムステル・ゴールド・レース、驚きを通り越して笑いを誘う規格外の走り)にされていますが、これは今年の活躍を捉えたほんの側面にしか過ぎません。

 2019年のファンデルプールは、2020年東京五輪マウンテンバイク クロスカントリー・オリンピック(MTB XCO)種目で勝つことを目標しながらも、本職と言えるシクロクロス、MTB、ロードレースの3種目に出場し、その全てのUCI (国際自転車競技連合) WC/WTで優勝するという漫画でさえ描かないような空前絶後の偉業を達成しています。

マチュー・ファンデルプールが2015年以来、4年振りの世界タイトルを獲得した2019年度のシクロクロス世界選手権 Photo: YSP

 MTB ワールドカップ(WC)に至っては、スポットで参加した4戦中3戦で圧倒的王者ニノ・シューター(スイス)を勝負所の上りでアタックして振り切るという、判で押したかのような戦略で突き放して優勝。WC総合ランキング2位で終えており、このまま世界選手権も初制覇か? と思われたのですが、あっさりとヨークシャーで開催されたロードレース世界選手権に集中するため参戦を取りやめ、ロードシーズンの疲れを取るという理由で東京五輪テストイベントもキャンセルしてしまいました。この割り切り、判断の良さは父親である偉大な元選手のアドリ・ファンデルプール(オランダ)も大きく関わっているのでしょう。

MTB、クロスで活躍した選手はいるものの…

MTBとシクロクロスのオフロード系種目を両立したトーマス・フリシュクネヒト(スイス)。写真は2003年のMTB世界選手権 Photo: Yuzuru SUNADA

 3種目を高い次元で両立させた選手はこの30年間で皆無で、かろうじてシクロクロスとMTBの2種目を高い次元で両立させたスイスのトーマス・フリシュクネヒト(スイス)が思い浮かぶものの、さすがにロードレースではファンデルプールほどの実績を残していません。シクロクロスとMTB、同じ未舗装路を走る自転車競技なので両立は簡単に見えますが、完全な両立は不可能と言われてきました。ファンデルプールが登場するまでは。

 1999年のMTB XCOはレース時間が2時間20〜30分で戦われており、ようやくディスクブレーキが登場した直後でした。コースも比較的イージーで、延々と登らせ、延々と下るような単純なコースが多く、圧倒的な登坂力のある選手が強い傾向にありました。

 その20年後、現在ではホイール径がほぼ29erに統一され、フレームもフルサスペンションが圧倒的大多数になっています。UCIがよりTV映え、ソーシャル映えする過激なジャンプなどを含む人工的なコースへと少しずつ舵を切り、レース時間を1時間20分ほどへと短縮した結果です。ここに見事に適応したのがファンデルプールなのです。

オフロード種目に類似点

 60分のシクロクロスとMTB XCOのレース時間が大きく接近し、さらに現代のMTBコースの特徴である細かいアップダウンがマイクロインターバルを必要とする部分までもが、シクロクロスと近くなったのです。また、トップレベルのシクロクロスではバニーホップが必須なのもMTBと同じと言えます。

20年の間に機材やコースレイアウト、レース時間が目まぐるしく変わっていったが、そこに上手く適応した Photo: YSP

 このように20年の歳月を掛けてMTBとシクロクロスが競技として接近してきたので、かつてより両立させやすくなってはいますが、ここにロードレースを加えるとなるとまた別の話になります。

 今年のアムステル・ゴールドは距離265kmで獲得標高は3600mでしたが、普通のシクロクロス選手やMTB選手はこのような長距離レースで最終局面まで生き残り、スプリントで1200Wを出すようなトレーニングはしていません。つまり、身体作りから全く違う種目で勝っているのです。これは今までの常識を完全に壊す異常事態です。

東京五輪、修善寺で歴史を目に刻もう

 ここまでファンデルプールがいかに完成された選手であるのか述べてきましたが、実は彼も完璧ではありません。先日ベルギーのシクロクロスレースで408日ぶりに敗れて3位になったことが話題になりましたが、泥でこねられたような重い路面で集中力を失う傾向にあります。

 2018年に地元オランダで父アドリによるコースデザインで開催されたシクロクロス世界選手権では必勝と思われたものの、重い路面により失速して3位、さらに今年のMTB WCドイツでは本人が望んだ雨だったにも関わらずレース序盤で順位を下げてしまい、後半に盛り返したものの2位でレースを終えています。今年のロードレース世界選選手権でも下馬評は高かったものの、さすがのファンデルプールも寒さとその長距離に耐えきれず勝負所でドロップしました。

ロードレース世界選手権では雨と寒さのバッドコンディションに苦しんだ Photo: Yuzuru SUNADA

 彼が最大の目標とする東京五輪も雨に見舞われる可能性は高いだけあり、若干の気がかりではありますが、それでも大本命なのは間違いありません。筆者はMTB種目のチケットを未だ確保できていませんが、歴史が作られる瞬間はこの目で見たいと思っています。夏の修善寺でお会いしましょう。 

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