じてつう物語<12>自転車を愛する革職人の通勤ライドは「心のゆとり」が第一 片岡好博さん

  • 一覧

 「maware(マワレ)」は、2009年に横浜で産声を上げた自転車のためのレザーブランド。高品質なバッグや小物等、さまざまなレザーアイテムを意欲的にリリースし続けている。代表の片岡好博さん(41)はもちろんサイクリスト。新横浜から横浜・元町までの17kmを、毎日自転車で通勤している。

「maware」代表の片岡好博さん

横浜・元町から発信する自転車乗りのためのレザーアイテム

 個性的なショップが集まる街、横浜・元町。みなとみらい線の元町・中華街駅を降りて代官坂を上がっていくと、「maware」の工房兼実店舗(予約制)である「maware ギャラリー」がある。ギャラリーの中には古い自転車のフレームが飾られ、レザーのフレームバッグやサドルバッグ、そしてライトケースやキーケースなど、mawareのオリジナルアイテムが並んでいた。

 代表の片岡好博さんが、mawareを立ち上げたのは2009年のこと。事務職から、職人のもとでの修行を経てのことだった。

 「ずっと以前から、友人に誘われたのをきっかけに自転車には乗っていたんです。当時はMTB中心で、レースに参加することもありました。でも、レース以外はというと、基本的には街乗りです。走ることだけが目的ではなく、どこかにお茶をしに行ったり、買い物をしたり」

 そんなふうにして自転車を楽しんでいた片岡さんは、趣味としての自転車と、日常の中の自転車にギャップを感じるようになった。

 「本当に趣味や競技の世界にのめりこんでいく人と、移動の手段として“ママチャリ”に乗っている人、その二分化を感じるようになりました。本当にのめりこむ人以外は、自転車を使い捨ててしまう。そこをなんとかしたいと思いました」

 そこで片岡さんが考えたことは、スポーツ車の世界を日常に持ってくることではなく、日常の自転車を底上げすること。

 「ロードバイクのようなスポーツ車は、クルマで言えばF1の世界。それはもちろんすばらしいものですが、日常の中で乗る自転車としては、ちょっと遠い存在だと感じます。それよりも、ちょっといい自転車を長く乗ってもらいたい……という思いに達しました」

10年間を修行と準備に費やす

 そのように聞くと、フレームビルダーにでもなりそうに聞こえる。しかし「maware」が手がけるのはレザーアイテムだ。

 「自転車を生活の一部として楽しめるような、ふだんから使えるものを作りたいと思いました。そして自分自身、革製品を使うことが多かったので、革でバッグやウェアを提案することを考えました」

 レザーアイテムを世に出すためには「革職人に頼み込む」という方法がある。実際、プロデュースだけして職人に発注しているブランドも多い。しかし片岡さんは、それを選ばなかった。

 「自分が本当にいいものをわからないと、何が良くて何が悪いのか提案ができません。自分自身が職人としての技術を身につけなければいけないと思い、職人のもとで修行を始めました」

 片岡さん自身「かなり安定した環境」と語る職場で、事務職として働いていた片岡さん。それが突然、革製品の職人になるために修行を始めるという。周囲から当然反対もあったが、片岡さんに迷いは無かった。

 準備を始めたのが、27歳のとき。そこから10年を修行をはじめとする準備に費やした。幅広い考えを持つために、修行も1人ではなく何人かの職人についた。職を辞して独立し、2008年にはオーダーメイドで鞄制作を始めた。そして万全を期してmawareを立ち上げたのが2009年の6月、片岡さんが38歳のとき。さらに2010年4月には、元町にギャラリーもオープンさせた。

レザーのライトケース。駐輪時に取り外したライトを持ち歩くのも楽しくなりそう
自転車でアートを楽しむことができるアイテム

心のゆとりを持って自転車通勤

 片岡さんは現在、新横浜から元町まで、片道17km、時間にしてきっちり1時間の自転車通勤をしている。愛車は古いミキスト車。「ミキスト=女性と思っている方も多いでしょうが、私は男性が乗れるミキストが好きなんです」と話す。

 自転車通勤自体は、会社勤めの頃からしていた。

 「その頃も横浜市内を片道15kmほど、自転車で通勤していました。当時から15年くらいは自転車通勤をしていますね。自転車で行っても、電車を乗り継いでも、所要時間がほとんど変わらないところだったのです。自転車であれば満員電車から解放される。また、職場の近くにシャワーを浴びれる場所があったのも大きかったです」

 通勤を通じて、趣味やスポーツとしてだけではなく、移動手段としての自転車に目覚めた片岡さん。

 「自転車通勤するようになって、1年で8kg痩せて、その後リバウンドすることもありませんでした。市内の移動もほとんど自転車でこなすようになり、持っていたバイク(オートバイ)も手放してしまいました。一方、自転車通勤や街乗りをするようになったことで、普段着では機能が無いが、かといってスポーツのためのサイクルウェアも違う……ということに気づきました」

 自身が自転車通勤する中で、他の自転車に乗る人を観察してみると「横浜では意外ときっちりとジャージを着て、ロードバイクで通勤している人が多い」と、片岡さんは感じている。一方で「小径車の方は、普段着が多いですね」とも。もちろん“ママチャリ”の人も普段着。その中間が無い。そして「もっといろんな提案が必要かもしれないですね」と言う。

 ふだん自転車通勤で意識していることは「心のゆとりを持つこと」だ。

 「日本の道路は自転車にとって確かに走りにくく、危ないと感じることもありますが、それをことさら強調しないように……と思っています。自転車に乗って季節感を感じたり、いつもとはルートを変えて路地裏の楽しさを発見したりと、自転車通勤は“小さな旅”にもなります。ただ会社や家を目指して走るだけではなく、そういう心のゆとりを持つことが、危険回避にもつながるのではないでしょうか」

 片岡さんお気に入りのミキスト車に取り付けられているハンドルは、高さがあって手前に曲がった“プロムナードバー”。上体が起きたゆったりとしたポジションは見晴らしも良く、ゆとりを持った走行にひと役買っている。

片岡さんが通勤で愛用している古いミキストフレームの自転車
mawareのレザーグリップを装着
このレザー製バルブキャップもmawareの製品のひとつ

mawareの世界はさらに広がる

 mawareでは今、レザーアイテムのみならず、さらにその世界を広げようとしている。昨年発表されたのが、「maware bicycle furniture」と名付けられた家具のシリーズだ。

 「部屋の中でもかっこよく自転車を置くことができる家具を作っています。外を走った自転車を室内に置くことは、自転車に乗っていない家族などからすれば抵抗があります。しかし、見せることを意識して置くことができれば、家族の見方が変わるかもしれないし、自転車に乗っていない友達を呼んでも大丈夫でしょう。自転車のグッズから部屋の中までトータルで楽しめるような、そしてこれまで自転車に乗ってこなかった人にも興味を持ってもらうような、そういう環境づくりをしたいですね」

「maware bicycle furniture」と名付けられた家具も発表。(写真提供:maware)「maware bicycle furniture」と名付けられた家具も発表。(写真提供:maware)

 すでに、左右から自転車を2台固定させることができるスツールや、自転車だけではなくウェアなども“見せる収納”ができるシェルフなどを発表している。高級無垢材と高品質なレザーを組み合わた、メイド・イン・ジャパンの製品だ。

 自転車そのものではなく、自転車を取り巻くモノや環境から、これからの「ちょっといい自転車のある生活」についてアプローチしていく片岡さん。「幸いにしてモノをカタチにすることができる環境にあるので、自転車乗りの生の声はもちろん、自転車に乗っていない人の声も生かして、人々が自転車に乗りやすい環境を作って行きたいです」と語る。

 電動アシスト自転車向けや、女性向けの提案など、取り組みたいテーマはたくさんあるという。これからどんなプロダクトが出てくるのか、とても楽しみだ。

勤務先:maware ギャラリー
ルート:新横浜〜横浜市中区元町、往復34km
頻度:毎日
使用している自転車:AQUILONのミキスト車
心がけていること:危険回避は心のゆとりから

maware
http://www.maware.net/

TEXT&PHOTO BY Gen SUGAI

じてつう人募集中!!
あなたの自転車通勤ライフを当サイトで紹介してみませんか?
目安として片道5km以上を通勤されている方。
詳しくはまで。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

じてつう物語

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載