あきさねゆうさん注目・2019年のニュースファンデルプールが勝ったアムステル・ゴールド・レース、驚きを通り越して笑いを誘う規格外の走り

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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2019年も残すところあとわずか。年末企画として、『Cyclist』執筆陣が選ぶ「今年の注目ニュース」をお届けします。サイクルロードレースライターのあきさねゆうさんが注目したのは 「アムステル・ゴールド・レースでマチュー・ファンデルプール(オランダ、コレンドン・サーカス)の勝ち方」についてです。 改めて振り返ってみると、後世に語り継がれるほどの信じがたい展開だとわかります。

◇         ◇

ファンデールプールの凄まじい走り

 アムステル・ゴールド・レースでマチュー・ファンデルプールは常識では考えられない走りで勝利を収めました。ラスト7km地点で、先頭から1分以上後方の第4集団に位置していたにもかかわらず、そこからほとんど先頭固定で集団を率いて、ラスト300mで先頭に追いつくとそのままスプリントして勝利したという、レースのセオリーでは考えられない展開に、凄まじい衝撃を受けました。

筆者が2019年に最も面白い、驚いたレースがアムステル・ゴールド・レースだ。勝者は中央のマチュー・ファンデルプール Photo : YSP

世界中のファンとプロ選手も驚愕のレース

 アムステル・ゴールド・レースでのファンデルプールの走りは世界中のファン、そしてプロ選手たちもとても驚き、面白いと思ったレースだったようです。

 海外のサイクルロードレース情報アカウントが主催した「今年のベストレース」を決めるアンケート調査では、 アムステル・ゴールド・レースが1位となりました。これはノミネートされた全64レースによるトーナメント形式で、アンケートで過半数の票を得たレースが勝ち上がっていき、最終的なベストレースを決めるものです。

 ちなみに、2018年のベストレースは「ジロ・デ・イタリア」でした。クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)の伝説的な70km独走勝利により逆転総合優勝を飾った大会でした。

 つまり、世界中のファンもやはり今年のアムステル・ゴールド・レースは面白かった!衝撃的だった!と考えているのだと思います。

 また、こちらのレース詳報でも紹介しましたが、アムステル・ゴールド・レースの直後に、プロ選手からも驚きのリアクションが多数見られました。

 特に印象的だったのはピーター・ステティナ(アメリカ、トレック・セガフレード)の反応です。「過去最高のフィニッシュだ!もし見てないなら、ラスト10kmを見返した方がいいよ」と語っています。

 ということで、筆者も改めてラスト10kmを見返してみました。

残り8km地点で第6追走集団に

 ファンデルプールがアタックを仕掛ける直前くらいと思われる残り8km地点でのレースの状況をまとめてみました。

残り8km地点 レース状況

・先頭集団
ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)
ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナプロチーム)

・第1追走(先頭から20秒差)
ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チーム スカイ)
マッテオ・トレンティン(イタリア、ミッチェルトン・スコット)

・第2追走(タイム差不明)
マクシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)

・第3追走(先頭から50秒差)
バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)
サイモン・クラーク(オーストラリア、EFエデュケーションファースト)

・第4追走(タイム差不明)
ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥゼール ラモンディアール)

・第5追走(タイム差不明)
ビョルグ・ランブレヒト(ベルギー、ロット・スーダル)

・第6追走(タイム差不明)
マチュー・ファンデルプール
ヴァレンタン・マデュア(フランス、グルパマ・エフデジ)
アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、CCCチーム)
ほか20〜30人ほどの集団

 最終的に先頭集団でフィニッシュした12人の選手の位置関係はこのようになっていました。タイム差は画面上の表示タイムを参考にしています。ファンデルプールのいた第6追走集団は、先頭からおそらく1分30秒程度は離れていたと思われます。

 アムステル・ゴールド・レースの終盤は、コーナーや細かいアップダウンはあるものの、概ね平坦区間となっています。残り8km地点で、先頭と1分30秒差は通常であればかなり絶望的なタイム差です。しかも、ファンデルプールの前には5つもの追走グループがあり、クウィアトコウスキーら第1追走グループに追いつくことも厳しく、モレマら第3追走グループに追いつくことだって大変な状況なはずです。

 にもかかわらず、ファンデルプールは残り7〜8km地点で集団から飛び出しました。ここにおそらくマデュアとデマルキが食らいついたと思われます。ファンデルプールは個人タイムトライアルさながらにハイペースで走ると、次々に追走している選手たちを吸収し、残り1kmを切ったところで、先頭のアラフィリップ、フルサングと、そこに追いついたクウィアトコウスキーの3人を残すのみとなっていました。

 後にファンデルプール自身が公開した走行データを見ると、残り8kmの区間をおよそ430ワットのペースで走っていたことがわかりました。非常にコーナーが多く、ブレーキを使う場面が多いことを考慮すると、ペダルを踏んでいる間は概ね500ワット弱のパワーを出していることとなります。すでに250km近く走ってきたにもかかわらず、個人タイムトライアルに匹敵するハイペースで追走していたのです。

 さらに、ファンデルプールは「ラスト3km地点で、自分がどの位置にいるのかわかっていなかった」と回想しています。少なくとも前に走っている選手が何人かいることだけはわかるので、とにかく前を追う。その一心でペダルを回していたようです。

 先頭のアラフィリップとフルサングが、けん制しすぎたことでペースが落ち、後続に追いつかれたことも紛れもない事実でありますが、それでもファンデルプールは吸収した選手を背後に連ねた状態で、誰よりも脚を使って、先頭を捉える位置まで上がってきたのでした。

何度見ても面白い最後のスプリント

 残り800m地点、最後の直線に入ったところで、ファンデルプールは視界の先に3人しか選手がいないことを確認。ここが先頭集団であると確信し、「もしかしたら勝てるかもしれない」と思ったそうです。

 追走集団の先頭に出たファンデルプールは、後ろを何度も振り返りながら仕掛けのタイミングをうかがい、残り300m地点でサドルから腰を上げてスプリント開始。ファンデルプールの背後で、この動きに反応できたのは付き位置にいたクラークのみ。他の選手たちは普通に千切られていました。

最後のスプリントを捉えた写真。ファンデルプールのラインに食いつけているのはクラークのみ。他の選手は後ろに取り残されている Photo: YSP

 先頭のフルサングとアラフィリップも同時にスプリントを開始しますが、ファンデルプールの伸びは尋常ではなく、残り100m地点で2人を一気に追い抜かします。そして、「手をあげる余力も残っていなかった」と振り返るファンデルプールは、頭をかかえるような仕草をしながらフィニッシュラインに先着。

フィニッシュ直後のファンデルプールは、手を上げられないほどに消耗していた Photo : YSP

 その直後のファンデルプールは精根尽き果てた様子で、地面に倒れ込みましたが、1分ほど経ったところで、むくっと立ち上がり、チームスタッフと力強く抱き合うと、片手でガッツポーズ。そして、普通に自力で歩けるまで回復していました。

フィニッシュ直後、地面に倒れ込んでいたが、1〜2分後には力強くガッツポーズして自力で歩けるほどに回復 Photo: YSP

 この最後のスプリントの場面は、あまりの凄さに何回観ても笑ってしまいます。あれだけ追走集団を力強く引いていたにもかかわらず、背後の選手たちが付き切れするくらいのパワーで加速してスプリントできることが、驚きを通り越して笑えてしまうのです。

 ところが当のファンデルプールは「長距離を走ってからのスプリントには自信があった」と語っており、決して無茶な走りではなかったことがうかがい知れるから恐ろしいものです。

 あまりにも規格外な走りにより、サイクルロードレースの常識が破壊された歴史的なレースだったと思い、今年の注目ニュース(レース)にあげさせていただきました。

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