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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<319>大物加入でビッグレースの台風の目に ロット・スーダル 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2019年シーズン、新エーススプリンターとしてロット・スーダルに加わったカレブ・ユアン(オーストラリア)は、その期待に違わず年間10勝をマーク。初のツール・ド・フランス出場をかなえ、最終日のパリ・シャンゼリゼで勝利してみせた。そして2020年、伝統のスピード路線に加えて、クラシック戦線もにぎわせようと意気込む。フィリップ・ジルベール(ベルギー)の復帰、ジョン・デゲンコルプ(ドイツ)の加入と、明るい材料の多いチームは、ベルギーの雄として新シーズンの台風の目となりそうだ。

ロット・スーダルを引っ張るカレブ・ユアン。2020年もシーズン序盤から飛ばしていくはずだ =ジロ・デ・イタリア2019第11ステージ、2019年5月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

ユアンはジロとツールの平坦ステージに集中

 2018年まで所属したミッチェルトン・スコットでは、総合成績を狙うチーム事情もあってレースプログラムに恵まれない面もあったユアン。当初はメンバー入りが確約されていた同年のツールへの出場が取りやめとなったことが、移籍を決意する決め手になった。

カレブ・ユアンの快進撃はシーズン緒戦のピープルズ・チョイス・クラシックから始まった =2019年1月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 心機一転、2019年シーズンから現チームに加入。その意義を明確にするため、発射台を務めるロジャー・クルーゲ(ドイツ)とともに早い段階からオフトレーニングに励み、UCI非公認のオーストラリア国内シリーズを転戦するほどに意欲的に取り組んだ。その成果は、シーズン初戦のサントス・ツアー・ダウンアンダーから見られることになる。オープニングレースのピープルズ・チョイス・クラシック(UCI非公認)で優勝すると、次戦のカデル・エヴァンス・グレートオーシャンロードレースでは2位。続くUAEツアーでステージ1勝と、1月から2月の時点で絶好調に近いコンディションに。

 その後もスプリントステージでは着実に上位を押さえていたが、圧巻だったのは5月のジロ・デ・イタリア、そして7月のツールだった。ジロでステージ2勝してミッションを果たすと、途中で大会を離脱してツールに集中。シーズン最大目標だったフランスでの3週間では、ジロを上回るステージ3勝。何より、「世界スプリント選手権」との別名まで用いられるパリ・シャンゼリゼでの最終決戦を制したのは今季のハイライトだ。

“世界スプリント選手権”ことツール・ド・フランス第21ステージの勝利がシーズンのハイライトになった =2019年7月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

 押しも押されもせぬエーススプリンターとして、来季もチームを引っ張っていく。今年はロード世界選手権が起伏に富んだコースだったこともあり、ツール後に目標設定できるレースがないとして9月上旬にはシーズンを終了。昨冬同様にオフトレーニングを誰よりも早く始めて、年明けからギヤをトップに入れていく構えだ。

 したがって、レースプログラムに関しては今年とおおむね変わらない見込み。自国レースのサントス・ツアー・ダウンアンダー、カデル・エヴァンス・グレートオーシャンロードレースと転戦し、以後もステージレースをメインに走っていく。

 グランツールに関しても同様で、ジロとツールに照準を定める。今年は途中離脱したジロについては、大会終盤までチャンスがあるとして完走を目指す姿勢を見せる。続くツールはもちろん、「シャンゼリゼ2連覇」も意識しての参戦となる。

 近年スペクタクル度を増すグランツールについて、「スプリンターのチャンスが減っていることは残念」と述べるなど、バランスを重視したステージ構成となることを求める。ただ、「決まった以上はその状況下でやるしかない」として、数少ないチャンスをモノにしていこうという強い意志も見せる。特に来季のジロやツールは、彼の集中力が試される重要なレース期間といえるだろう。

ジルベールとデゲンコルプの加入はチームに変化をもたらすか

 2019年のチーム勝利数は23。そのうち半数近くの10勝をユアンが挙げているが、その状勢が一変するかもしれない。

フィリップ・ジルベールが9年ぶりに“帰還”。2019年シーズンはパリ〜ルーベを制するなど健在を示した1年だった =2019年4月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 チームの大きなトピックは、ジルベールの復帰とデゲンコルプの加入だ。ジルベールにとっては、オメガファーマ・ロットだった2011年以来の復帰、実に9年ぶりとなる。2011年といえば、アムステル・ゴールド・レース、フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュのアルデンヌクラシックでの“ハットトリック”を達成したシーズン。この年はベルギー選手権やクラシカ・サン・セバスティアン、グランプリ・シクリスト・ド・ケベックなども制し、タイトルを欲しいままにしていた。

 あれから年月が経ち、当時ほどの活躍は年齢的に難しいかもしれないが、とはいっても今年はパリ~ルーベで悲願の初優勝を遂げ、ブエルタ・ア・エスパーニャでもステージ2勝と、強さは十分に証明できている。長年主戦場としてきたアルデンヌクラシックに加え、北のクラシックにも意欲的で、2連覇がかかるルーベや2017年に制したツール・デ・フランドルももちろんターゲットになる。

 急坂やパヴェといった難所で決める一撃のアタックや、ライバルにプレッシャーをかけながら自らの展開に持ち込む巧みな駆け引きは熟練の技。そんな走りがベストマッチするであろう東京五輪も、ベルギー代表入りが期待される。精鋭がそろう代表チームでの役割やレース展開次第の面もあるが、状況によってはメダル争いに加わることだって大いにあるだろう。

ジョン・デゲンコルプも加わりクラシック戦線に厚みが生まれる =ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第3ステージ、2019年8月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そのジルベールと北のクラシックでダブルエースの座に就くのが、デゲンコルプとなる。こちらも2015年にルーベを制し、2018年のツールでもルーベフィニッシュのステージ(第9ステージ)を制するなど、相性は抜群。ここ数年は得意としていたパヴェ、スプリントともにいまひとつだが、それでも今年はヘント~ウェヴェルヘムで2位となるなど、要所では顔を見せていた。

 新チームでの最初の目標は北のクラシックときっぱり。今年まで所属のトレック・セガフレードでは実力者が複数そろっていたチーム事情もあったが、環境を変えて再び勝負できる立場となることができるか。かつて勝利を量産していたスプリントについては、率先してユアンのサポートに回りたいとのこと。デゲンコルプからユアンの強力ホットラインが完成する可能性が高まっている。

 ジルベールとデゲンコルプの加入で、クラシック戦線は見通しは明るい。

ウェレンスやハーゲンといった実力者も上位戦線へ

 ジルベールとデゲンコルプの動向と合わせて、従来のチームリーダーであるティム・ウェレンス(ベルギー)もクラシックレースでは重要な役割を担うことになる。例年シーズンインから好調で、その勢いをアルデンヌクラシックへとぶつけていく。

ティム・ウェレンスはアルデンヌクラシックでの上位進出を狙う =ツール・ド・フランス2019第20ステージ、2019年7月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年は肝心のアルデンヌでトップ10にすら入れない悔しさを味わったが、ジルベールとの共闘となる来季はより幅のある戦術で優勝争いを動かしていくことになるだろう。勝負どころとなる上りでのアタックが決まると、一気に勝機がめぐってくる。

 穴となりがちだったグランツールでの総合狙いは、カールフレドリク・ハーゲン(ノルウェー)の台頭でおおよそのメドが立った。27歳でのプロ入りと、年齢的には遅咲きだが自転車のキャリアが浅いこともあり、まだまだ経験を積んでいる段階。それでも、ルーキーイヤーの今年はブエルタで個人総合8位と大健闘のグランツールデビュー。特に大会中盤までトップ5を狙えるポジションを走り続け、終盤も順位を大きく落とすことなく粘ってみせた。ブエルタに限らず、シーズンを通してステージレースへの適性の高さを見せており、ハードな山岳中心にチームリーダーとして走ることが期待される。

 逃げのスペシャリストとしておなじみのトーマス・デヘント(ベルギー)は今シーズン、3つのグランツールですべて完走。ツールでは第8ステージで逃げ勝つなど、タフなところを見せている。来季の全グランツール出場については明かしていないが、どんな形であれレースを盛り上げる好走は期待できそう。

 大ベテランのアダム・ハンセン(オーストラリア)やトーマス・マルチンスキー(ポーランド)、今季最終盤のパリ~トゥールで逃げ勝ったイエール・ワライス(ベルギー)といったいぶし銀の働きを見せる選手たちも健在だ。

ロット・スーダル 2019-2020 選手動向

【残留】
サンデル・アルメ(ベルギー)
ラスムス・ビュリエルイーヴァスン(デンマーク)
ジャスパー・デブイスト(ベルギー)
トーマス・デヘント(ベルギー)
スタン・デウルフ(ベルギー)
カレブ・ユアン(オーストラリア)
フレデリック・フリソン(ベルギー)
カールフレドリク・ハーゲン(ノルウェー)
アダム・ハンセン(オーストラリア)
ロジャー・クルーゲ(ドイツ)
ニコラス・マース(ベルギー)
トーマス・マルチンスキー(ポーランド)
レミー・メルツ(ベルギー)
ヘルベン・タイッセン(ベルギー)
トッシュ・ファンデルサンド(ベルギー)
ブライアン・ファンフーテム(オランダ)
ブレント・ファンムール(ベルギー)
ハーム・ファンフック(ベルギー)
イエール・ワライス(ベルギー)
ティム・ウェレンス(ベルギー)
エンゾ・ワウテルス(ベルギー)

【加入】
ステフ・クラース(ベルギー) ←カチューシャ・アルペシン
ジョン・デゲンコルプ(ドイツ) ←トレック・セガフレード
ジョナサン・ディッベン(イギリス) ←マディソン・ジェネシス
フィリップ・ジルベール(ベルギー) ←ドゥクーニンク・クイックステップ
コーブ・グッセンス(ベルギー) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)
マシュー・ホルムズ(イギリス) ←マディソン・ジェネシス
ステファーノ・オルダーニ(イタリア) ←コメタサイクリングチーム
フロリアン・フェルメールシュ(ベルギー) ←ロット・スーダルU23(アマチュア) ※2020年6月1日加入

【退団】
ティシュ・ベノート(ベルギー) →チーム サンウェブ
アダム・ブライス(イギリス) →引退
ヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー) →NTTプロサイクリング
イェンス・クークレール(ベルギー) →EFエデュケーションファースト
マキシム・モンフォール(ベルギー) →引退(スポーツディレクター就任)
ローレンス・ナーセン(ベルギー) →アージェードゥーゼール ラモンディアール
イエール・ファネンデル(ベルギー) →ワロニーブリュッセル

※2019年12月17日時点

今週の爆走ライダー−イエール・ワライス(ベルギー、ロット・スーダル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 10月13日に行われたパリ~トゥール。9つの未舗装区間が組み込まれ、難易度が増したレースを制したのは、45kmにわたって独走したワライスだった。

ブエルタ・ア・エスパーニャ最終ステージを走るイエール・ワライス。体調を崩しながらも何とか3週間を走りきった =2019年9月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そこまで早く1人になることは想定していなかったという。前年覇者のセーアン・クラーウアナスン(デンマーク、チーム サンウェブ)をチェックしながら動いていたら、クラーウアナスンがパンクトラブルで後退。思いがけず1人になったときは戸惑ったという。

 後続の追撃ムードをかわしての大逃げ成功。シーズン最終盤とあり、有力選手の多くが疲労を抱えながらのレースだったが、ワライスのコンディションはよかった。

 なぜなら、けがや体調不良で力を出し切れずにシーズンが終わろうとしていたから。1月のシーズンイン早々に落車で頭を打ち、約4カ月間戦線を離脱。ツール出場を目指してコンディションを一気に上げていったが、メンバーから外れる結果に。強引な調整のツケは、「何とかメンバー入りした」ブエルタに回ってしまう。風邪で最悪の調子に陥り、何とか完走を果たしたが、期間中に「パリ~トゥールを目指そう」と気持ちを切り替えていたという。

 シーズンの最後にやってきた大成功。チームの戦力になれずにいた日々を覆す会心の走りは、自身にとっても、首脳陣にとっても自信を取り戻すものとなった。

 2016年のチーム加入以来4年連続でブエルタを走り、2018年にはステージ勝利を挙げるなど、グランツールの走りにも慣れてきた。来シーズンは、今年実現しなかったツール出場を目指すことになる。選手層が厚くなりメンバーに入るのは至難の業だが、得意の逃げだけでなく、ユアンのスプリントを見越したレース構築など、何でもやるつもりだ。

 ちなみに、パリ~トゥールは2014年にも優勝。2010年にはアンダー23部門でも勝っており、このオフには3つのトロフィーを並べて自国メディアの取材を受けるユニークな体験も。“パリ~トゥールマイスター”として、自転車王国・ベルギーでも一目置かれている存在だ。

パリ〜トゥールで5年ぶりの優勝。アンダー23カテゴリーでの勝利も含めると通算3勝目。地元ベルギーでも一目置かれる存在だ ©︎A.S.O.
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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UCIワールドツアー チーム展望2019-2020 ロードレース 週刊サイクルワールド

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