Team コルナゴ部長・中尾さんがリポート最凶の未舗装路に挑んだ「九州Heaven Ride」最終章  110km獲得標高2500mの旅

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 2013年から始まり今回で最終章となり幕を閉じる「九州Heaven Ride」が12月1日に開催されました。九州を中心に全国から集まった23チーム106人は、“過去最凶”となる未舗装路に悪戦苦闘しながら完走した達成感と、グラベルで落車した痛みやアザとともに記憶に残る“ラストライド”になったようです。熊本の自転車界をけん引する道の駅・阿蘇のサイクルアドバイザー中尾公一さんのリポートでお届けします。

ロードバイクにとっては最悪のグラベルなのに、みんなが笑顔…それが「九州Heaven Ride」 Photo: @t_chanoko

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Rapha「Gentlemen’s Race」が手本

 この大会はRaphaが主催する「Gentlemen’s Race」を参考にしたロードバイクイベントで、熊本県阿蘇郡南小国町で「Tea Room茶のこ」オーナーの松崎猛さんが主催し、運営はすべてボランティアで開催される招待制のイベントだ。同じサイクルウェアーを着る1チーム4~5人のメンバー(推奨男女混合)は、毎年変わるグラベル区間を含むコースをメンバーと協力しながらパンクや機材トラブルから回避し、サイクルコンピューター等の地図を見ながらルートを探し、チーム全員で規定時間内にチェックポイント走破してゴールを目指す九州には数少ないジェントルマンズレースである。

スタート前に、企画者の松崎猛さんを中央に集合写真に収まる参加者 Photo:Koichi Hirowatari 

元アジア王者・木下さんが仲間の「Teamコルナゴ部長」

 わたしのメンバーはロードレース元アジアチャンピオンでKinofitを主宰する木下智裕さんと、遠征でご一緒する東京の松澤一さん、それに道の駅阿蘇の下城さん、弱虫ペダル新聞の取材で知り合い以後もお世話になっているCyclist編集長澤野健太さんの5人で「チームコルナゴ部長」として参加した。大会にはゲストとして5回目出場となるマトリックスパワータグの狩野智也選手や、シマノドリンキングの白石真悟選手が参加され九州の有力アマチュアチームも多く参加されていた。

 大会は例年メイン会場となりスタート・ゴールとなるのは熊本県阿蘇郡小国町の「木魂館」。ここはすぐ近くに生家があり、次の紙幣の肖像画にもなる細菌学者・北里柴三郎博士を記念して造られた宿泊研修施設である。町中から外れたところにあり、レストランや温泉、無料駐車場にキャンプも出来るグランドなど、このようなイベントのベース基地となるポテンシャルをすべて兼ね備えている。

ウェルカムパーティーでは各チームがあいさつ Photo:Koichi Hirowatari 
前夜祭では“ハカ”を披露、他チームを威嚇する「水曜会」 Photo:Koichi Hirowatari

 大会前日の11月30日は午後6時30分よりウェルカムパーティが木魂館で開催された。ゲストライダーも参加し各チームの自己紹介や自転車仲間との交流で大いに盛り上がった。翌朝の朝食は6時30分から提供して頂き、温かいご飯とお味噌汁で元気にスタートラインに立つことができた。

九州Heaven Ride最終章となる朝は山間部としては寒くもなく爽やかな天気に恵まれた Photo:Kenta SAWANO
女性4名のチームKamome Squadと狩野智也選手 Photo:Koichi Hirowatari
木魂館を出発する「チームコルナゴ部長」。左から松澤さん、わたくし中尾、木下さん、下城さん、澤野さん Photo:@t_chanoko

 午前8時より3分置きにスタートし、第1・第2のセルフチェックポイントは通過するものの、それ以外は自由にコースを選べるフリー区間となる。これは小国といえども比較的交通量が多い第1CPまで集団とならないよう分散して走行するという良く考えられたものだった。

川沿いの林道に入り、落ち葉の絨毯の上を進む Photo:Koichi Hirowatari 

 私たちは地元である下城さんを先頭に朝陽を浴びながら小国の町中を抜けて静かに山へ分け入った。第1CPから川沿いの林道に入ると黄色や赤色の落葉の絨毯に目を奪われた。静かな里山の道、木漏れ日のなか朝露に濡れた落ち葉をタイヤで踏む音が心地良よかった。初冬の美しさと気持ち良さに感嘆の声が曲がり角ごとに聞こえていた。静かな林道は車が通ることもなく話をしながらゆっくりサイクリングを楽しめる。

Photo: Kenta SAWANO

 いよいよグラベルに突入。最初は走りやすいシングルトラック、朝陽を浴びながら気持ちのいい山の道が続く。

 しかし、そうは甘くない。ずっと上りが続き出す。木下君が汗をかかないようメンバーに注意を促した。汗をかくとどんなにいい素材のジャージを着ていても汗冷えで体力を消耗する。特に長時間の山間部のライドでは、上りや下りごとに面倒でも頻繁にウェアーを脱いだり着たりする必要がある。

Photo:Koichi Hirowatari

欧州仕込みの体温調節術

 そこで手っ取り早い方法を木下君が教えてくれたのが、ジッパーを止めたまま下までおろして、長袖ジャージの腕だけ脱いで腰のところに縛って走ることだ。これだとすぐに着ることができるし、脱がないので荷物にもならない。厳しい坂が続くと木下君は見た目アンダーウェアーだけのようにして走っていた。

 ウィンドブレーカーは暑いが脱いでしまうと寒い場合は、襟の部分を内側に織り込むことで温度調整ができるなど欧州の厳しい自然のなかで走った経験を教えてくれた。

ウェアの重ね着を細かく調節して走る木下さん。上りが続くあたりでは、半袖アンダーで走る Photo:Koichi Hirowatari
かつぎ区間ではすぐに上着を着る木下さん Photo:Koichi Hirowatari

草刈りして整備した最凶セクション

 Heaven Rideといえばグラベル、今回は第1回からコースディレクターをされているクロスロードバイシクル宮本利徳さん渾身の九州Heaven Ride史上「最凶」のグラベルセクションと聞かされていた。距離は6.5km、走ることが困難な押し区間も数カ所もあり、視界を妨げないように草刈りをしたと聞いていたので相当荒れた山道と覚悟はしていた。

ヘブンライド「最凶」のグラベルが始まる Photo:Koichi Hirowatari

 そのためいつも乗っているコルナゴ M10は控えて、あまり乗らなくなった2006年モデルのCLXで走った。しかし、古いフレームのため太めのタイヤは装着できず、いつも付けているコンチネンタルGP4000 23Cにチューブは新品のIRCに祈りを込めていつもの空気圧7barで挑んだ。木下君も普通装着しているタイヤで空気圧はパンクリスク解消のため通常6.5barを8barに上げたそうだがいずれも幸運にもパンクすることは一度もなかった。

林間のグラベルを進む「チームコルナゴ部長」 Photo: @t_chanoko
空気圧8barに上げたタイヤを履いて笑顔でガレ場を進む木下さん Photo: Kenta SAWANO

 荒れたグラベル区間に突入すると早々にパンク修理をするチームが続出していた。杉林では枝がディレィラーに挟まり深刻なダメージを受けた選手やチェーンが曲がった選手を見かけた。タイヤで踏んだ枝が浮いてチェーンやスポークに絡みスピードを出していると一瞬で壊れることがある。また、落車の危険が高いのは走行ルートを探しにくい薄暗い下りや落ち葉に埋もれた岩や石があるところだ。こんなところはゆっくり最も安全なルートを探しながらの走行になる。水溜りやぬかるみは逆に思い切って一気に通り抜けないと立ち往生し泥の洗礼を受けることになる。

パンク修理はメンバー全員で対応 Photo:Koichi Hirowatari
どんなグラベルやガレ場でも嬉々として進むのが「ヘブンライダー」 Photo:Koichi Hirowatari

 ヘブンライダーは次々の展開する極悪ステージに笑顔で歓声をあげ突入していく。不快な顔する人やキレる人なんていやしない。すべてを受け入れて苦痛の先にユートピアがあるかのようにみんな楽しんでいる。これが選ばれし招待制のいいところではないだろうか。

あまりに酷い道では、自転車をいたわって降りて押す人も Photo:Koichi Hirowatari 

 まず普通ならロードバイクでは絶対立ち入らないグラベルでは、大小の石がホイールやフレームに当たり悲しい音を響かせ、激しい凹凸区間ではチェーンが暴れフレームを叩く。あまりの激しさにパンクするのは時間の問題かと覚悟する。前日、ちょっと落車して右手親指を痛め、固定するため厚手で小さ目のグローブをしていたのでブレーキが思うようにできなくて、躊躇したところは無理せず自転車から降りて進んでいった。

雨で道が流された荒れた急坂は押しとなる Photo:Koichi Hirowatari
抜群のチームワークで進む熊本の「チームGINRIN」 Photo: @t_chanoko

 6.5kmのグラベル区間をセクション分けすると、明るくて見やすい堅く締まった平坦な砂利道の☆1つから急勾配の荒れた上りや道が雨に流されて凹凸になった押し区間の☆5つまで地形を生かした難易度が次々に展開し、機材トラブルや落車にめげずチーム全員で助け合う姿が目に入った。私たちのチームは木下君や澤野さんの存在感からして参加者と話しながら走ることが大切であり、比較的バラけて走行しチェックポイントごとに集まるようにしていた。

長いグラベルの後は、日当たりの良いガレた上りのご褒美が… 
笑顔か悲鳴か…という表情でガレた坂を上るコルナゴ部長 Photo: Kenta SAWANO 
昨年チームに参加させてもらった土橋さんがパンク修理をしていて尋ねると2回目だそうだった Photo:@t_chanoko

 長いグラベルの終わりを告げる植林を伐採した陽当りの良い荒れた上りガレ場になった。乗ったまま走破する人もいたがほとんど押して上っていた。ここまで立ちゴケは3回していたが身体も自転車も無事だった。

エイドには九州各地のお菓子

各地のお土産を持ち寄ったエイドステーション Photo:Koichi Hirowatari 

 釈迦岳真下の第CP到着。エイド食は参加者やHeaven Rideを応援する方が持ってこられた九州各地のお菓子などが並べられていた。どれも美味しくバラエティに富んだもので、逆に一般的なバナナがないところがHeaven Rideらしかった。

 補給して走り出すと鯛生金山の第4CPまでの長い下りが辛かった。段差の度に痛めた右手親指に激痛が走り、強いブレーキができずリアブレーキに負担がかり何度か後輪をロックさせてしまった。古い78デュラということもあるが、MTBで知った油圧式ディスクブレーキの手軽さが身にしみた。

Photo:Koichi Hirowatari

 兵戸スーパー林道の長い上りではグラベルだけを視野に太いタイヤを履いた人は辛そうだった。これも松崎さんと宮本さんの周到な「罠」に違いない。道の駅上津江のCP5から迷走し南小国のグラベルはパスすることになった。すでにグラベルはお腹一杯でもあったしで苦渋の判断もなく迷走も味方となった。

兵戸スーパー林道の長い上り Photo: Koichi Hirowatari 
フォトスポットの「Tearoom Chanoko」で記念写真。それがチェックポイントにもなる Photo:@t_chanoko

ゴール直前でまさかの…

 茶のこフォトポイントで5人が集まりここからは最短の国道を走ってゴールを目指した。そして木魂館に左折した瞬間、先頭を走る下城さんのバイクが大音響で「パーン!」、最後の最後にチームで初めてのパンクだった。段差も無いのに実に不思議だが威勢のいい終わり方だった。日が暮れかかる午後5時21分、木下君のウィリーとともに「チーム コルナゴ部長」はDNFだったが全員無事にゴールした。

最後のCPを通過せず結果的にはDNFだったが、5人でゴールした「チーム コルナゴ部長」 Photo: Tsumuri KAGURAZAKA

 澤野さんが乗っていたグラベルロードを見て、頑丈なフレームやハンドル、それとグラベル専用のコンポが付いて輪行袋に入れて移動できる手軽さはとても魅力に思えた。戦後植林された杉や檜が伐採の時期となっているそうだ。木を切り出すためだけの林道の役目以外にも、走行許可を取った未舗装林道が今後サイクルスポーツの新たなフィールドとして活用される可能性を考えるとグラベルロードに熱い視線を送らずにはいられない。

最後のグラベルをかみしめて走る「Team CHANOKO」  Photo:Koichi Hirowatari

 今回走った近くには川沿いの山間部に小さな温泉宿が寄り添う黒川温泉がある。各旅館には露天風呂があり密集しているため露天風呂は里山にある樹々で風呂を取り囲むように覆われている。これが川の淵にいるようで自然の風景に閉ざされていることが温泉に集中できて長い時間入浴していても飽きることがない。

 逆に絶景の露天風呂の風景は意外と早く飽きて、温泉の質もあまり感じられないのではないだろうか。林道ライドも同じで風景が閉ざされている分、走行に集中することができて、楽しめる理由はここにもあるのではないかと思う。

 小国といえども比較的クルマが多いところを考慮して各チーム好きなコースをサイクリングして本来のスタート地点に辿り着くという松崎さんと宮本さんの知恵。あとは両氏の手の上で踊らされ、転がされ、知らないうちにあのグラベルに支配され、かって冒険好きな悪ガキ少年少女グループは鼻水垂らして濃縮率100%の遊びにトリップすることができた。

来冬もまたどこかで

最後の「九州Heaven Ride」を満喫したコルナゴ部長こと中尾公一さん Photo:Koichi Hirowatari 

 「冬の小国の山にいったい何があるのですか?」という問いに、「究極の大人の遊び」という曇りのない答えがヘブンライダーから溢れている。「九州Heaven Ride」は一旦休止となったが、来年の冬には九州のどこかでまた集うことが出来ればと願う。松崎さん、宮本さん、運営されたスタッフの皆様、ありがとうございました。

Teamコルナゴ部長 中尾公一

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