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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<318>アラフィリップ中心にクラシック戦線をさらに強化 ドゥクーニンク・クイックステップ 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 年々凄みを増すジュリアン・アラフィリップ(フランス)の走りは2019年シーズン、さらに一段階も二段階も上へと駆け上がっていった。ミラノ~サンレモなどのクラシックレースで見せた勝負強さに加え、予想を上回る快進撃を見せたツール・ド・フランスは頂点にこそ立てずも伝説級のインパクトを残すものだった。そして、彼の活躍に呼応するように、チームはシーズン68勝と驚異的な数字を残した。2020年に向けては大幅な入れ替わりがありながらも、戦力は今年をしのぐとの予想も多い。そこで今回は、プロトン随一の選手層を誇るドゥクーニンク・クイックステップの動向を確認。新シーズンを展望する。

2019年シーズン鮮烈な印象を残したジュリアン・アラフィリップの活躍。来季もフランドル初挑戦など話題に事欠かない =ツール・ド・フランス2019第3ステージ、2019年7月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

アラフィリップは初のフランドル挑戦、そして五輪金メダルへ

 このチームの1年を語るうえで、真っ先に話題となるのはやはりアラフィリップ。その強さはこの何年間かで十二分に証明してきたが、今年の活躍でいよいよ、現在のプロトンでは誰もが未踏の領域に達した印象だ。

ミラノ〜サンレモを初制覇したジュリアン・アラフィリップ。勢いはシーズンを通して続いていくこととなる =2019年3月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 もちろん、これまでも数々のインパクトある勝利を挙げ、2018年のツールでは山岳賞獲得と、実力発揮の場は多岐にわたっていた。そして2019年シーズン、その力をさらに伸ばし、本人ですら予想していなかったほどのセンセーショナルな走りへとつなげていった。

 振り返ると、1月下旬のシーズンインを経て、3月に始まったクラシック戦線でまずストラーデ・ビアンケを勝利。ティレーノ~アドリアティコでのステージ2勝の勢いのままミラノ~サンレモへと乗り込んで、小集団スプリントで快勝。両レースともに、ここぞという局面で完璧に近い動きを見せ、最後は勝負強さを示した。

 4月は、調整の意味合いで臨んでいたイツリア・バスクカントリーで落車リタイアを喫し、そのダメージを残しながらもフレーシュ・ワロンヌで優勝。ユイの壁でライバルを完全に圧倒し、“激坂ハンター”の座を防衛した。

ツール・ド・フランスでは14日間マイヨジョーヌを着用。第13ステージでは個人タイムトライアルを制した =2019年7月19日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、真価はツールで証明することになる。アルデンヌクラシック後の休養と調整が上手くいき、絶好調でツール開幕を迎えると、第3ステージで勝利。この日を境に、マイヨジョーヌで大会のトピックを独り占めしていくことになった。途中2日間はジャージを手放したが、結果的に第19ステージまでイエローを身にまとった。その間、個人タイムトライアル(第13ステージ)での劇的勝利あり、トゥールマレー峠(第14ステージ)でのアタック成功あり、これまでのアラフィリップを知る人なら驚きの強さを見せたのだった。最終的には個人総合5位、文句なしのスーパー敢闘賞獲得となった。

 普段は朗らかで、メディアやファンへの対応にも長けるナイスガイは、ひとたびバイクにまたがると一変。勝負と見るや闘志を前面に押し出し、一番にフィニッシュへと飛び込むことだけに執着する。これまでは感覚に任せるあまり、早すぎるアタックや勝負どころの読み間違いも少なくなかったが、関係者が「頭のよさ」を評価するようにレースを通じて戦い方をアタマとカラダ双方に染み込ませていった。このオフには、フランスの名誉ある賞「ヴェロドール」に選出され、今シーズンの走りが大いに実りあるものであることを確信させた。

2019年シーズンの活躍を受け、フランスの年間表彰「ヴェロドール」を受賞したジュリアン・アラフィリップ ©Alexis Réau/L’Équipe

 こうなると、2020年シーズンも自然と期待は高まっていく。目標ははっきりしており、シーズン前半はこれまで通りクラシックレースに集中していく。アルデンヌクラシックは“本職”ともいえるが、意外にも勝っているのはフレーシュ・ワロンヌのみ。2011年のフィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ→ロット・スーダル)以来となる、アムステル・ゴールド・レース、フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュの3連勝「ハットトリック」達成に最も近い男であることは間違いないが、その実現なるか。

 シーズン半ばでは、東京五輪がターゲットになってきそう。登坂力とスピードが試される一戦に、フランスは最強布陣で臨む構え。その1つのピースとなるのがアラフィリップであり、参戦となれば金メダル争いの筆頭格にも位置付けられる。

 ツールへの意識も気になるところだが、今年の走りからすぐに「ツール制覇」を目指せるほどの脚はないと明言しており、あくまでもコース設定と自身のコンディションがマッチした結果であることを強調。山岳比重が高くなる来年は、少し違ったスタンスで走ることになっても不思議ではない。

 ちなみに、アルデンヌの前にはツール・デ・フランドルに初挑戦することも表明。こちらはアシストに回るとともに、将来を見越した“経験”の意味合いもあるとのことだが、次々と戦いの場を広げていく彼の走りに「真のオールラウンダー」の姿を見続けていくことになりそうだ。

若武者エヴェネプールは東京五輪内定

 実のところ、アラフィリップに先んじて東京五輪の見通しが明るいのがレムコ・エヴェネプール(ベルギー)である。

クラシカ・サン・セバスティアンで独走勝利を挙げたレムコ・エヴェネプール。プロ1年目の19歳は世界に数多くの驚きを与えた =2019年8月3日 Photo: KARLIS / SUNADA

 2000年1月生まれの19歳は、レース経験1年とちょっとでジュニア世代のタイトルを総なめにし、アンダー23カテゴリーを飛ばしてプロ入り。ルーキーイヤーの今年は、シーズンインから非凡さを見せつけて次々と上位進出。

 圧巻は8月上旬のクラシカ・サン・セバスティアンだった。レース後半にメイン集団から飛び出すと、そのままフィニッシュまで独走。後続の追随をまったく許さず、UCIワールドツアーでの初勝利を挙げた。

 この勝利をきっかけに完全に勢いづくと、ヨーロッパ選手権の個人タイムトライアルで優勝。さらには世界選手権の同種目でも2位と、あっという間にトップライダーの仲間入りを果たした。

 TT巧者がそろうベルギーだが、これらの活躍を受けて東京五輪の同種目の代表入りが“内定”。同国は個人タイムトライアルの出場枠を2つ保有しているが、そのうちの1枠がすでに決まったことになる。また、五輪での同種目への出場はロードレース出場選手からセレクトすることが義務付けられており、両レースともベルギー代表として走ることが事実上“内定”している。

レムコ・エヴェネプールもベルギーの年間表彰「クリスタルバイク」で最優秀ライダーに選ばれた ©︎Cor Vos

 すでにキャリアを約束されているエヴェネプールだが、年齢的に見てフィジカル面での完成にはもう少し時間を要すると見るのが賢明。現状ではアルデンヌクラシックへの意欲を見せているほかは、来シーズンのプログラムについて本人の言及はないが、グランツールなど負担の大きなレースは先送りになる可能性が高い。その分、今年同様にワンデーレースや1週間程度のステージレースで経験を積んでいくことになるだろう。いずれにしても、東京五輪を軸にスケジュールを組んでいくものとみられる。

 この1年間で、TT能力に加えてクラシカ・サン・セバスティアンで見せた独走力、距離の短い上りであれば問題なくこなせるあたりは示しており、オールラウンダーとしての未来が見えつつある。地盤を固めた後に見せる活躍はいかほどか、とてもではないが見当がつかないほどに彼のポテンシャルは高い。

 こちらも、このほどベルギーの年間表彰「クリスタルバイク」を受賞。昨年はヤングライダー部門での表彰だったことを思うと、その進化のスピードを感じずにはいられない。

メンバー入り激化のクラシック戦線、スプリントはベネット中心

 アラフィリップとエヴェネプールにとどまらず、実力者ぞろいのチーム。その顔触れから見るに、狙うはクラシックとスプリントとなりそうだ。

北のクラシックではエースの1人となるゼネク・スティバル =E3ハーレルベーク、2019年3月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 特にクラシック戦線は戦力となる選手を挙げると枚挙にいとまがないほど。チームが特に重視する北のクラシックは、今年のE3ハーレルベーク優勝のゼネク・スティバル(チェコ)やパリ~ルーベ3位のイヴ・ランパールト(ベルギー)は実力・実績からしてメンバー入り当確といえそうだが、残るメンバー枠に多くの選手がひしめくチーム状況。グランツールからワンデーレースまで対応するボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)が今年、パヴェ適性を見せるなど、戦力に厚みを持たせた。フランドル2位のカスパー・アスグリーン(デンマーク)もエース候補。前述の「クリスタルバイク」でベストアシストライダーに選出されたティム・デクレルク(ベルギー)といった職人や、移籍組にもパヴェ巧者が控えており、各レース7人のメンバー入りが誰になるのかの話題は春のトピックとなるはず。

 一方のアルデンヌクラシックは、アラフィリップとエヴェネプールをメインにレースを組み立てることになりそう。そこにリエージュ優勝経験のあるユンゲルスや新鋭のレミ・カヴァニャ(フランス)、献身的な走りが光るドリス・デヴェナインス(ベルギー)らが脇を固める。

移籍加入が決まったサム・ベネット。新チームではスプリントリーダーの重責を担う =ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第3ステージ、2019年8月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 チームは12月4日にサム・ベネット(アイルランド)とシェイン・アーチボルド(ニュージーランド)の加入を発表し、同時に27選手で来季を戦うことが確定。スプリント路線は、そのベネットが筆頭になる。

 ベネットは今年13勝を挙げながら、スプリント王国のボーラ・ハンスグローエにあって3番手の立ち位置に甘んじた。ジロ・デ・イタリアやツールへの出場を希望していたが、それがかなわず、移籍を志願。元々はボーラ・ハンスグローエとの契約延長に仮合意していたため、その有効性が移籍に際しての懸念事項となっていたが、係争の末に有効性がないことが証明され、晴れてドゥクーニンク・クイックステップ入りが決定。リードアウトマンのアーチボルドを引き連れての移籍となる。

 チームには若手スプリンターのアルバロホセ・ホッジ(コロンビア)とファビオ・ヤコブセン(オランダ)が所属するが、ゼネラルマネージャーのパトリック・ルフェヴェル氏は「若い選手のお手本となるスプリンターが必要」との考えを示しており、29歳のベネットにはスプリントリーダーの役割が与えられる。リードアウトも巧みなチームにあって、好位置から加速できれば敵なしのスピードと、ミスのないバイクテクニックを持つベネットは勝利量産の先鋒となるべく存在。どれだけの星を稼げるか楽しみが膨らむ。

 クラシックやスプリントと比べると、総合系ライダーがいささか手薄ではあるものの、経験豊富なユンゲルスやブエルタ・ア・エスパーニャで個人総合11位となった24歳のジェームス・ノックス(イギリス)が中心となって上位を目指していくことになるだろう。

ドゥクーニンク・クイックステップ 2019-2020 選手動向

【残留】
ジュリアン・アラフィリップ(フランス)
カスパー・アスグリーン(デンマーク)
レミ・カヴァニャ(フランス)
ティム・デクレルク(ベルギー)
ドリス・デヴェナインス(ベルギー)
レムコ・エヴェネプール(ベルギー)
アルバロホセ・ホッジ(コロンビア)
ミケルフレーリク・ホノレ(デンマーク)
ファビオ・ヤコブセン(オランダ)
ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)
イーリョ・ケイセ(ベルギー)
ジェームス・ノックス(イギリス)
イヴ・ランパールト(ベルギー)
ミケル・モルコフ(デンマーク)
フロリアン・セネシャル(フランス)
ピーター・セリー(ベルギー)
ゼネク・スティバル(チェコ)

【加入】
ジョアン・アルメイダ(ポルトガル) ←ハーゲンスバーマン・アクション
シェイン・アーチボルド(ニュージーランド) ←ボーラ・ハンスグローエ
アンドレア・バジョーリ(イタリア) ←チーム コルパック
ダヴィデ・バッレリーニ(イタリア) ←アスタナ プロチーム
サム・ベネット(アイルランド) ←ボーラ・ハンスグローエ
マッティア・カッタネオ(イタリア) ←アンドローニジョカットリ・シデルメク
イアン・ガリソン(アメリカ) ←ハーゲンスバーマン・アクション
スティーン・スティールス(ベルギー) ←ロームポット・シャルルス
ヤニック・シュタイムレ(ドイツ) ←チーム フォアアールベルク・サンティック
ベルト・ファンレルベルフ(ベルギー) ←コフィディス ソリュシオンクレディ

【退団】
エロス・カペッキ(イタリア) →バーレーン・マクラーレン
フィリップ・ジルベール(ベルギー) →ロット・スーダル
ダヴィデ・マルティネッリ(イタリア) →アスタナ プロチーム
エンリク・マス(スペイン) →モビスター チーム
マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン) →UAE・チーム エミレーツ
ファビオ・サバティーニ(イタリア) →コフィディス ソリュシオンクレディ
ペトル・ヴァコッチ(チェコ) →コレンドン
エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア) →コフィディス ソリュシオンクレディ

※2019年12月10日時点

今週の爆走ライダー−ジェームス・ノックス(イギリス、ドゥクーニンク・クイックステップ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 どこに縁があるかなど、予想はできない。ジェームス・ノックスにとって、現チームでの出会いは青天の霹靂だったといえよう。

ブエルタ・ア・エスパーニャでグランツールデビューを飾ったジェームス・ノックス。大会終盤の落車負傷を乗り越えて個人総合11位と健闘した =ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第9ステージ、2019年9月1日 Photo: Yuzuru SUNADA

 チーム ウィギンスの一員だった2016年から2017年の2シーズンは、ステージレースを中心に出場レースでは確実に上位進出を果たしていた。強くなっている手ごたえを感じていたにもかかわらず、トップチームからのオファーはなく、関係者から声をかけられることすらなかったという。アンダー23カテゴリーの最終年だった2017年シーズンの後半は「競技を辞めることも考えていた」という。

 状況が一変したのは、同年の8月。「若手の登竜門」ツール・ド・ラヴニールを前に現チームのスタッフから連絡があったのがきっかけだった。チーム側からしても「まだこんな選手が残っていたのか」。急遽ラヴニールがトライアウトの場に。いまをときめくエガン・ベルナル(コロンビア、チーム イネオス)らとの激闘は、入団テスト合格には十分すぎるほどの結果。すぐにプロ入りが決まった。

 16歳で競技を始め、すぐに同年代のトップクラスに駆け上がった。学業も優秀で大学の推薦入試に合格していたが、自転車一本で生きていくことを決意。一方で、狭き門であるナショナルチーム入りがかなわず、活路を見出すべくイタリアへ飛んだ過去もある。

 苦労も経験したが、今ではグランツールで上位を狙えるだけの実力をつけた。目標とする選手はイギリスの先輩であるイェーツ兄弟(ミッチェルトン・スコット)。「彼らがチーム イネオスで走っていないという事実と、私の現状は多くの共通点がある」。ナショナルチーム入りを逃しながらもロードでの可能性を広げたアダム・イェーツと自身を重ねる。

 イタリア時代にコーチ陣から「頭が良すぎる」と言われたほどの知性。実は、前述のラヴニール後にチーム スカイ(現チーム イネオス)からもオファーがあったそうだが、「すべてはタイミング次第」。今の活躍や将来性を見る限り、先に受けたオファーを大切にして正解だったようだ。

グランツールレーサーとしての期待が大きいジェームス・ノックス。ナショナルチーム入りを逃したり、プロチームからのオファーを長く待つなどの苦労も経験。それだけに最初にオファーをくれたドゥクーニンク・クイックステップとの縁を大切にし続ける =ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第9ステージ、2019年9月1日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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UCIワールドツアー チーム展望2019-2020 ロードレース 週刊サイクルワールド

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