title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<317>ニバリ加入でエースクラスの方向性が定まる トレック・セガフレード 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
  • 一覧

 ステージレースとワンデーレースともに穴のない布陣で、しっかりと上位を押さえる戦いぶり。2019年シーズンは、ジュリオ・チッコーネ(イタリア)がジロ・デ・イタリアでの山岳賞で勢いに乗り、ツール・ド・フランスではマイヨジョーヌを2日間着用。ベテランのバウケ・モレマ(オランダ)はシーズン終盤、イル・ロンバルディアを制すると、続いて乗り込んだジャパンカップ サイクルロードレースを制覇。日本のファンにも強いインパクトを残した。そして2020年、さらなるビッグな存在として、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)が加わる。グランツールとクラシックへの見通しがより明るくなったトレック・セガフレードの来季を占っていこう。

2020年シーズンに向けて力のある選手を揃えたトレック・セガフレード。リッチー・ポート(中央)はグランツールでの上位進出を目指す =ツール・ド・フランス2019第8ステージ、2019年7月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

スーパーエース・ニバリはジロと東京五輪をターゲットに

 8月から本格的に始まったストーブリーグ(移籍市場)にあって、“大勝利”ともいえる結果を残したトレック・セガフレード。何といっても、ニバリの加入はロードレース界全体に轟くビッグトピックだ。

トレック・セガフレード加入のヴィンチェンツォ・ニバリ。2019年はジロ・デ・イタリア個人総合2位がハイライトに =2019年6月2日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年の戦いを振り返ると、ジロ個人総合2位が強い輝きを見せる。この大会では、個人総合優勝候補たちがアクシデントでの途中離脱や、重要ステージでの取りこぼしなどによって失速していく中、ニバリはさすがの安定感を披露。マイヨジョーヌこそリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター チーム→チーム イネオス)に譲ったが、最後の最後まで追撃姿勢を崩さず、「負けてなお強し」の印象を残した。

 76日間というレース日数をこなした今シーズンだが、ベストコンディションで走ったのは実質ジロのみ。勝つことにこだわったのはイタリアでの3週間だけで、シーズン序盤や後半はこれといったリザルトを残していない。ツールにも出場し、開幕当初は調子のよさを伝えられていたが、実際はジロの疲労があったといい、ステージ1勝で意地を見せたものの、総合争いに加わることはなかった。

2020年のヴィンチェンツォ・ニバリはジロ・デ・イタリアと東京五輪にフォーカスする =ツール・ド・フランス2019第17ステージ、2019年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 とはいえ、1点集中のスタンスは無理もないだろう。35歳となり、プロトン内では大ベテランの域。かつてのように春のクラシックからグランツール、そして秋のワンデーレースと、フル回転するのはフィジカル的にも難しくなってきた。群雄割拠のグランツール総合争いにあって、さすがに優勝候補筆頭に挙げられるほどの絶対的な力とは言えなくなったが、それでもピンポイントで状態を整えてくるあたりは豊富な経験がなす業と言えよう。まだまだ老け込むことはなさそうだ。

 2020年シーズンを戦うにあたっては、明言こそ避けているが目標ははっきりしているよう。イタリア代表のエースとして選出される公算の高い、東京五輪ロードレース(7月25日)を軸にレーススケジュールを組んでいく。

 シーズン前半のターゲットは、今年に続きジロになる見通し。大会前半に故郷のシチリア島をめぐることもあり、凱旋出場の色合いも濃い。もちろん、4年ぶりのマリアローザ奪還も視野に入れていくだろう。ジロを終えてからは、五輪に向けた調整に専念することが予想されている。

 今年までの3年間をバーレーン・メリダで過ごし、期待に違わぬ走りを続けてきたが、一方で昨年あたりからはトレック・セガフレードとの相思相愛も欧米メディアで報道されるなど、次なる環境を探る動きも見せてきた。いよいよ始まる新天地でのシーズン、最重要とするジロや五輪に向けたアプローチをいかにして進めていくかも注目したいところだ。

モレマとポートのダブルエース体制でツール総合争いへ

 ニバリの加入は、既存のエースクラスの方向性を定めるうえでもよい影響を与えているようだ。

 グランツールを中心に総合エースを務めるモレマとリッチー・ポート(オーストラリア)は、ツールをダブルエース体制で臨むことになりそう。これは先ごろ、モレマがオランダメディアの取材に対して明かしたもので、彼にとっていくつか設定される目標の1つとしてツールが組み込まれるとしている。

チームリーダーの1人、バウケ・モレマはツール・ド・フランスに加えてワンデーレースにも意欲を燃やす =ジャパンカップ サイクルロードレース2019、2019年10月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 モレマは今年、ジロとツールで連戦し、前者を個人総合5位とまとめた。一方、ツールはポートに総合エースの座を任せ、自身はステージ狙いに集中。勝利こそ挙げられなかったが、山岳逃げにトライする姿がたびたび見られた。

 ジロで成果を挙げたように、33歳で迎える来シーズンも引き続きグランツールの総合成績を意識して走るとしている。ポートと並ぶ立場にも問題はないとしており、山岳比重が高まる来年のツールに向けてモチベーションを高めている。

 さらに、ツールと合わせてワンデーレースでの結果にもこだわっていく姿勢を示している。3年前にはクラシカ・サン・セバスティアンを、今年はイル・ロンバルディアでそれぞれ独走勝利を挙げているが、その後のジャパンカップも含め、登坂力とスピード両方が求められるタフなレースには自信を持つ。もちろんUCIワールドツアーの位置付けられるレースでの勝利を目指すが、同時に「チャンピオンジャージの着用が夢」とも語っており、世界選手権やヨーロッパ選手権、国内選手権といった、勝者にスペシャルジャージが与えられる大会にも意欲を示す。

3年ぶりのツール・ド・フランス完走を果たしたリッチー・ポート。2020年は上位進出を図っていく =ツール・ド・フランス2019第11ステージ、2019年7月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 かたや、ポートは“鬼門”ともいえるツールでの浮上をかなえて、悪いイメージを払拭したいところ。これまで何度も落車によるリタイアを経験。今年は3週間を走り切ったものの、大会終盤の難関山岳で力を発揮しきれず、最終的に個人総合11位。総合エースとしては物足りない結果に終わった。

 決して総合力が衰えているわけではない。得意とするサントス・ツアー・ダウンアンダーでは個人総合2位と最高のシーズンインを果たし、ツールを目指す過程で臨んだツアー・オブ・カリフォルニアでも個人総合5位とまずまず。そこからのコンディションアップができなかった。

 その反省も踏まえ、9月半ばには早めのシーズン終了を決断。来季へじっくりと心身を整える期間を設けた。2020年も地元オーストラリアでのサントス・ツアー・ダウンアンダーでのシーズンインを予定。以降は数レースこなしてツールへと向かっていくことになるだろう。ちなみにツールでの自己最高は2016年の個人総合5位。プロトン屈指のタイムトライアル能力にとどまらず、急坂での渾身のアタックが戻ってくるようだと、再び上位戦線をかき回す存在となれるはずだ。

 なお、現状では流動的であるものの、ブエルタ・ア・エスパーニャでニバリ、モレマ、ポートのトリプルエース体制を組む構想があることをモレマが明かしている。三者そろい踏みが実現すれば、大会の目玉として彼らへスポットが当たることは必至だ。

世界王者ペデルセンや即戦力の新加入組など多士済々

 2020年のチーム編成において、決して忘れてはならないのが、現役世界王者のマッズ・ペデルセン(デンマーク)だ。

現役世界王者のマッズ・ペデルセン。マイヨアルカンシエルでの戦いぶりに注目だ Photo: Trek - Segafredo

 9月に行われた世界選手権では、実力者が次々と戦線を離脱するほどの悪コンディションの中、展開と勝負どころを読み切ってマイヨアルカンシエルを勝ち取ってみせた。このときに見せた少人数でのスプリントのほか、パワーを生かしたパヴェでの走りを得意とする。

 そうなると、シーズン前半の目標はおのずと北のクラシックとなっていく。ツール・デ・フランドルは2018年に2位になるなど、得意のレース。パリ~ルーベは過去3回出場し、いずれも下位に沈んでいるが、そろそろ攻略法をつかんでいるか。

 ペデルセンとならんで北のクラシックで上位を狙っていくのが、ジャスパー・ストゥイヴェンとジャパンカプ クリテリウムを制したエドワード・トゥーンスのベルギー人コンビ。スプリントや上りにも適応できるだけに、この3人をメインとしたクラシック戦線は、来季の台風の目となり得る存在。

ジュニア世界王者のクイン・シモンズは飛び級でプロ入りを果たす =UCIロード世界選手権2019ジュニア男子ロードレース、2019年9月26日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今シーズン、一気に株を上げたチッコーネやオールラウンドに力を発揮できるトムス・スクインシュ(ラトビア)といったおなじみの顔も、引き続きチームを盛り立てていく。

 チームは10月下旬に2020年を戦う27人の編成を発表。経験豊富な選手たちが今季からの残留を果たしている一方で、新加入組は20歳代前半から中盤にかけての若手や中堅クラスをそろえた。なかでも、ケニー・エリッソンド(フランス)は経験・実績からして即戦力となる選手。ジロを戦う見込みのニバリの山岳アシスト候補にも挙げられている。さらに、今年のロード世界選手権ジュニアで圧勝したクイン・シモンズ(アメリカ)が、アンダー23カテゴリーを経ずに飛び級でプロ昇格。ジュニア年代では敵なしの強さを誇る、将来のスター候補だ。

2020年シーズン着用のジャージも公開。モデルはジュリオ・チッコーネ Photo: Trek - Segafredo

トレック・セガフレード 2019-2020 選手動向

【残留】
ジュリアン・ベルナール(フランス)
ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア)
ジュリオ・チッコーネ(イタリア)
ウィリアム・クラーク(オーストラリア)
ニコラ・コンチ(イタリア)
クーン・デコルト(オランダ)
ニクラス・イーグ(デンマーク)
アレックス・キルシュ(ルクセンブルク)
バウケ・モレマ(オランダ)
ジャコポ・モスカ(イタリア)
マッテオ・モスケッティ(イタリア)
ライアン・マレン(アイルランド)
マッズ・ペデルセン(デンマーク)
リッチー・ポート(オーストラリア)
キール・レイネン(アメリカ)
トムス・スクインシュ(ラトビア)
ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)
エドワード・トゥーンス(ベルギー)

【加入】
ケニー・エリッソンド(フランス) ←チーム イネオス
アレクサンダー・カンプ(デンマーク) ←リワル・レディーネス
エミルス・リエピンシュ(ラトビア) ←ワロニー・ブリュッセル
フアンペドロ・ロペス(スペイン) ←コメタサイクリングチーム
アントニオ・ニバリ(イタリア) ←バーレーン・メリダ
ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア) ←バーレーン・メリダ
チャーリー・クォーターマン(イギリス) ←ホールズワース・ザッピ
マイケル・リース(ルクセンブルク) ←コメタサイクリングチーム
クイン・シモンズ(アメリカ) ←リュクス・ストラディング(ジュニア)

【退団】
別府史之(日本) →NIPPO・デルコ・マルセイユプロヴァンス
ジョン・デゲンコルプ(ドイツ) →ロット・スーダル
ファビオ・フェッリーネ(イタリア) →アスタナ プロチーム
アレックス・フレーム(ニュージーランド) →未定
ミヒャエル・ゴグル(オーストリア) →NTTプロサイクリング
マルケル・イリサル(スペイン) →引退
ヤルリンソン・パンタノ(コロンビア) →無所属(暫定資格停止中)
ピーター・ステティーナ(アメリカ) →マウンテンバイク転向

※2019年12月3日時点

今週の爆走ライダー−キール・レイネン(アメリカ、トレック・セガフレード)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 来季で現チームでの5年目を迎える33歳。すでに2021年シーズンまでの契約に合意しており、チームにおける貴重なアメリカ人ライダーとして評価を高めている。

ドワーズ・ドール・フラーンデレンに出場キール・レイネン。この時は弟を亡くす失意の中でレースに臨んでいた =2019年4月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そんな彼だが、今シーズンは2週間ほどレースからも、さらには自転車からも遠ざかっていた時期があるという。2歳年下の弟が仕事中の事故で亡くなり、帰郷を余儀なくされたからだ。しばらくは家族に寄り添い、弟の死にかかる諸手続きの手伝いなどに時間を費やしていた。

 その時期を振り返り、「レース出場枠が空いたとの連絡がなければ、ヨーロッパには戻ることはなかったかもしれない」と語る。チームメートの負傷によって急遽招集されたレースが復帰戦に。しばらくは走り終えるたびに泣くことを繰り返していたという。

 傷心のままレースを走る彼のために、父がアメリカから付き添うなど、家族の愛によって徐々に復活。元々はスプリンターで、アメリカだけでなくアジアのレースを席巻したほどのスピードの持ち主。機軸をヨーロッパに移してからはアシストを務めることが多いが、レースを構築する重要な役割を担う。来季は再び、シーズンを通して働けるよう気持ちを高めている。

 長髪と髭がトレードマークだが、目立っているのはそれだけではない。ノーベル賞受賞者を多数輩出しているコロラド大学ボルダー校で機械工学の学位を取得しているばかりか、建築士の資格を持ち、故郷に自らの家を作ってしまうほどの多才な一面も。

 こうしたライフスタイルを成功させる秘訣は「集中力」だとか。悲しみを乗り越え、新たなシーズンへ。元来の器用さと集中力を武器に、ハードな戦いへと向かっていく。

一時は戦列を離れていたキール・レイネンだが、シーズン後半にはチームの主力となるほどに復調。2020年はフルシーズン戦う心づもりだ =ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第2ステージ、2019年8月25日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

チーム展望2019-2020 ロードレース 週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載