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ロードバイク 2020モデルのトレンド<6>エンデュランスロードに今後も注目すべき理由 ロードバイク全体のレベルアップに

by 安井行生 / Yukio YASUI
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 最後にちょっと基本に立ち返り、「自転車にとって快適性とは何か」という話をして2020モデル総括の連載を終えましょう。

エンデュランスロードがロードバイク全体のレベルを上げるかもしれない Photo: Shusaku MATSUO

快適性とは何なのか

 そもそも何のために快適性を上げるのか。ライダーの身的負担を軽くするため? もちろんそれもありますが、実は「速く走るため」でもあるんです。「快適」という言葉は色んな意味に取れますが、ここでは振動吸収性と同義ということにします。

 もし全く振動を吸収しない自転車があったら。3cmの段差をタイヤが越えると、振幅3cmの上下動はそのままハンドル、サドル、ペダルまで伝わり、人間の体も上下に3cmユサッと揺れます(実際は腕や脚で振動を吸収しますが)。それって実はものすごいエネルギーの無駄なんです。3cmとはいえ67kg(日本の成人男性の平均体重)のものを持ち上げるってすごく大変ですよね。ペダリングパワーがそれだけ無駄になってるわけです。

 では、振動吸収性が百点満点の自転車だと? 3cmの段差を通過してもハンドル、サドル、ペダルに伝わってくる上下動がゼロだとしたら?

 当然人間の体は1mmたりとも上下に動きません。どこで振動吸収するかによりますが、上下動するのはホイールやフレームだけなので、持ち上げる重さは数kgで済みます。それだけ無駄なエネルギーロスがないということ。「エネルギーロスがゼロ=それだけ速く走れる」ということです(フレームの動力伝達性を別にすれば)。

 「快適性が高い」というと、なんだかのんびりとした安楽なイメージがありますが、実はストイックにスピードを追求することでもあるんです。スペシャライズド・ルーベのキャッチコピー、「smoother is faster」は、実は物理の真理なんです。

 ただ、本当に振動を完全にカットしたらどんな乗り味になるのか。「景色が変わり風が吹いてくるローラー台」みたいな、味気ないものになってしまうでしょう。

 それに、ロードインフォメーションが全く伝わってこない自転車に乗るのは恐怖以外の何物でもありません。自転車にとって、振動とは必要悪でもあり、楽しみでもあり、味わいでもあります。それが振動の難しいところ。「美味しいものは、脂質と糖でできている」ってキャッチコピー、あるでしょう。僕は「走る愉しさは、振動としなりでできている」と思ってます。

動とはロードインフォメーションの塊。必要悪でもあり、楽しみでもあり、味わいでもある Photo: Shusaku MATSUO

 そういう意味では、空力性能って簡単なんです。理想は空気抵抗ゼロ。空気抵抗が大きいことにメリットは一つもありません。動力伝達性もしかり。理想は100%。低くする意味などどこにもない。

 でも振動は難しい。振動を完全にゼロにすることがいいことなのか、そうではないのか。理想は何なのか、正解はどこなのか。いまだにぼんやりとしたままです。2020モデルのエンデュランスロード百花繚乱は、各メーカーの試行錯誤を体現した状態とも言えます。

快適性と周波数の関係

 また、自転車の快適性を考えるうえで無視できないのが“周波数”です。また話がちいとややこしくなりますが、ご容赦願います。

 人間には「不快と感じやすい周波数帯」というものがあります。ものの本には4~8Hzとありました(それが人間の体と共振しやすい周波数なのだとか)。要するに、その周波数帯をカットできれば、それより上(もしくは下)の周波数の振動が多少大きくても、不快と感じないというわけ。

 これは身をもって実感したことでもあります。『サイクルスポーツ』誌で、様々なパーツの振動を計測・分析する実験を行ったところ、「振動が大きい=不快」になるとは限らなかったんです。これには驚きました。「振動が大きいのに快適だと感じるパーツ」も、「振動が小さいのに不快だと感じるパーツ」もあったんです。そして、前者は周波数が4~8Hzから外れており、後者は4~8Hzに集中していました。

 要するに「快適性は振動の大きさだけでは決まらない」ということです。「その振動はどんな周波数なのか」も考えないといけない。おそらくビッグメーカーは、すでに周波数を含めて快適性を煮詰めているのでしょう。「振動を小さくするだけ」ではなく、「どのように不快な周波数をカットするか」を考えている。

 今後、エンデュランスロードのカタログに“この機構によって○~○Hzの振動を効果的に吸収し…”なんて表記が踊るかもしれません。

カタログには将来、周波数と快適性の関係について記される日が来るかもしれない Photo: Masahiro OSAWA

 快適性の理想形とは。振動吸収機構をどう洗練させるか。周波数というファクターをいかに設計に取り入れるか。「ロードバイク×快適性」という世界において、まだまだやるべきことはたくさんあります。

 急激に進化したエアロロードがオールラウンドロードに大きな影響を及ぼしたように、「理想の振動特性」を追求するエンデュランスロードが、ロードバイク全体のレベルをさらに押し上げることになる。僕はそう思います。

 オールラウンドロードに上から睨まれ、グラベルロードに下から突き上げられ、ツラい立場かもしれませんが、エンデュランスロード各位には、まだまだ頑張ってもらわねばなりません。

 予定よりかなり長くなってしまったうえ、やや難解な内容もありましたが、この連載がロードバイクを考えるうえでの糧になったならば、書き手として幸せです。お読みいただきありがとうございました。

安井行生
インプレッションライダー・安井行生(やすい・ゆきお)

大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。ひょんなことから自転車ライターへと転身し、現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた自転車大好き人間。

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