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猪野学の“坂バカ”奮闘記<41>殺気漂う新城幸也のバイクペーサー 餃子の味も消えた猛烈タイ合宿<3>

by 猪野学/Manabu INO
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スタート前。今回は恵みのスコールは降らず晴天

 いよいよタイ合宿が牙を剥く日がやって来た。まる1日230kmのトレーニングだ。前回は朝に降った恵みのスコールのため距離が160kmに短縮されたが、今回はスコールは降らず、チェンセンまで行って餃子を食べて折り返す“フルコース”となる。私にとっては未知への挑戦だ。本当に『チャリダー★』という番組は、初老の私に過酷な挑戦を与え続ける。そして気掛かりなのは、今回は参加選手が少ないということ。新城幸也選手(バーレーン・メリダ)とシマノレーシングの小山貴大選手。そして前回、死闘を繰り広げた現地のタイ人ライダーという顔ぶれ。前回は若手選手が十数人いたのでその中に紛れていたが、今回は「目立つ!」、もっと言えば「悪目立つ」のだ!

人生初「アウタートップをケイデンス100」

 不安要素しかないがタイ合宿は待ってくれない。地獄の一日が幕を開けた! スタート直後は緩いペースかと思いきや、速度は40km/h、250W巡航が続く。私のFTPは240Wなのでもうすでにキツい。これは先が思いやられると思っていたら、新城選手が「ワープしましょう!」と仰った。

 何のことかと思ったらタイの大きな長距離トラックの後ろに付く。始めはゆっくりの速度だが、見る見るうちに速度が上がる。が、気がつくとすでにギヤがない! 無我夢中にペダルを回し、アウタートップをケイデンス100で回すという人生初の経験をさせて頂いた。この“ワープ”のおかげで、ものすごい速さで距離70kmを消化した。

 ワープが終わると道が細い田園地帯に入って行った。ここで新城さんが私のフォームをチェックしてくれた。「悪くないですが、今日は長いですから色々と変えて下さいね」と言っていただいた。私はすかさず質問した。

 私「グランツールを走る時は、やはり色々な乗り方するんですか?」

 新城選手「変えますね…でも200km以上ずっと同じフォームの選手もいますよ! 例えばヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、チーム イネオス)とかはいつ見てもずっと一緒です」─。

 グランツールを走る選手の目には、彼等にしか見ることのできない特別な景色があるのだろう。

回収車から見るプロの本気

 そうこうしていると徐々に強度が上がり始めた。会話が終わり、聞こえるのは呼吸音だけになる。来た…この緊張感がタイ合宿だ。

 私は前回よりは走り込んで来ている。「千切れるものか!」とペダリングとフォームに意識を集中する。上がり続ける強度…。すると前方に坂が現れた! なるほど…この坂の頂上までアタックするのか!? 坂に入ると一気にパワーがぐぃーんと上がる! 300W後半だ…。しかし新城選手は楽々と上って行く。小山選手も千切れる…。私は必死に小山選手に食らいつこうとするが、相手は現役のプロ!高いケイデンスであっけなく千切られた。

 残るは1人しかいない…そう!現地タイ人ライダーだ!どこにいる!? と後ろを振り返ると、少し離れたところで流している…。今日はあまり調子がよくないのだろうか?

 あまり長くない上りで三番手でゴールすると、新城選手が「ここで猪野さんは回収車に乗って下さい」と言った。ここからチェンセンまではバイクペーサー練が始まるらしい。私は戦前の小学生の様に「はいっ!」と即答した。その返事の速さに自分でも驚いた…。

回収され、複雑な心境の筆者

 お前にはプライドも悔しさもないのか? 確かに今考えるとバイクペーサーから千切れても、現地タイ人ライダーに付いていけばチェンセンまでは行けたはずだ。しかしここは合宿のルールに従うのが鉄則! 思いがけず回収車で距離を稼ぐことになった。

 クルマからバイクペーサーを見守る。信じられない強度でフルモガキだ! タイ人ライダーは早々に千切れ、2人で猛烈に追い込んでいる。背中から殺気を感じるほどだ…。なぜここまで追い込めるのだろうか? 私があんなところに混ざることは決してできないだろう。

クルマから見るバイクペーサー。信じられないスピードで走る二人

 チェンセンの少し手前で小山選手が千切れ、新城選手は最後のスプリントで出し切っていた。まだ往路なのに…。

とてもサッパリしていてトレーニング中でも食べられる餃子。あまり覚えていないが…

 チェンセンの餃子屋に着いても、追い込んだ2人からはまだ殺気のようなものが漂っていた。うまく説明することはできないが、追い込む前と追い込んだ後では「何か」が違った。美味しい餃子らしいが、私は餃子の味をあまり覚えていない。それほど凄まじいバイクペーサーだった。

 しかしタイ合宿の本当の恐ろしさはまだ始まっていなかった…。復路の「恐怖の3段坂」で信じられない怪奇現象が私を襲うのである。

<続く>

(画像提供:猪野学)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:50)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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