全米マスターズ・トラック参戦記〈後編〉競輪の走りが通じず、現代のルールに合わせ全米マスターズV2 元競輪選手の案浦攻さん

  • 一覧

 元競輪選手で2019年9月に開催された全米マスターズ自転車競技選手権大会のトラック競技スプリントで2連覇した、案浦攻(あんのうら・こう)さん(52歳)の参戦記の後編をお届けします。競輪引退後に渡米、今ではヒューストンをベースに不動産業経営者へ転身し活躍していますが、2017年に競技復帰した時は日本の競輪の動きが通用せず苦悩。そこから全米タイトルを勝ち取るまでを自ら振り返ってもらいました。

←<1>全米マスターズ優勝、元競輪選手の案浦攻さんが語る、アメリカの自転車ライフ

2019の全米選手権で優勝し、チャンピオンジャージを着てサポートに来てくれた妻と記念撮影 Photo: Koh ANNOURA

◇         ◇

初挑戦2017年マスターズで失格

 2017年テキサスでのローカル大会を経験した後、初めての全米マスターズに挑みました。500mタイムトライアル(TT)では5位にひっかかり表彰台に上り、スプリントは11位。9−11位決定戦で1着でゴールするもゴール直前での押圧が審議となり降格でした。

 2018年全米マスターズは、500mTTではエイバース選手に負け2位。スプリントは予選200mTTで失敗し予想外の5位で本戦へ。準決勝でブライアン・エイバース選手と対戦となり、スピードでは完全に負けていたので、かなり厳しい横の動きを駆使して2対1で勝利しました。私が勝ったレースはどちらも走ってる本人が分からないくらいの僅差勝ちでした。

 決勝はベイズィー選手とでしたが、1本目を勝った後、2本目に接触してしまい相手選手が落車。審判から警告を受けました。再発走2本目も勝ち、初の全米マスターズ優勝。この時までは「アンノウラのレースは観ていて面白い」との評価を受けました。日本から越して来た元競輪選手とアナウンスされていますのでプレッシャーもあり絶対に無様なレースはできませんでした。

2018の全米選手権、スプリントが終わって、ライバルのエイバース選手と健闘を称えあう Photo: Koh ANNOURA

 流れが変わったのは、2018年世界マスターズ選手権でした。上位入賞を狙っていた500mTTでは、航空機ロストバゲッジにより試走する時間が取れなかったため、250m走路をスムーズに走ることができず入賞できず。スプリントは予選こそ2位で上がれたものの、1/4決勝で相手選手と接触、相手選手が落車骨折、警告を受けました。1/2決勝ではライバルのエイバース選手に完敗。3、4位決定戦では2度警告を受け、着順なしの失格と散々でした。

 ルールブックは読んでいましたし、自分の感覚では安全マージンを取ってルール内で動いているつもりでしたが、審判の眼では完全にアウトな走りだったのです。私は30年以上前のアマチュア時代の横の動きの規制が緩いスプリントと接触が許されている競輪しか知りませんので、現代ルールのスプリントになかなか対応できませんでした。どうしても私のトップスピードが低いので、負けそうになると斜行、体が横に動いてしまいました。

2018のスプリントが終わって、ライバルのエイバース選手と脚の太さを競い合う Photo: Koh ANNOURA

目標は「圧倒的なスピードでねじ伏せて勝つ」

 その夜は、SNS上でかなり厳しく批判を受けました。競技歴の長いスプリントの動きに詳しい選手や、私の事をよく知っている練習仲間が懸命に擁護してくれましたが、現代のスプリントしか知らない選手は厳しかったですね。ここで勝手に腹を立てて競技を止めるのもリスクを冒して擁護してくれた選手に申し訳ないですし、次は圧倒的なスピードでねじ伏せて勝つのが目標になりました。

 昨シーズンは脂肪を増やし過ぎないよう食事制限も入れて適正体重に抑えたつもりでしたが、いまひとつ感覚通りのパワーが出ないため、今度は2kg以上体重が増えるほど食事量、ウエイトトレーニング量を増やしました。

2018年、帰国時に競輪選手時代のホームバンク・久留米競輪場で後輩に、バイク誘導してもらう(提供写真)

帰国時には久留米競輪場でバイク誘導

 ヒューストンでは、ほとんど1人での自転車実走トレーニングですが、夏の実家への帰省を利用して競輪選手時代のホームバンクだった久留米競輪場にて、競輪選手やプロを目指している選手と一緒に練習できたのも大きかったです。また先輩、後輩選手が快くバイク誘導トレーニングを引き受けてくれ、このレース前のスピードトレーニングで一気に調子を上げる事ができました。

全米マスターズ選手権が行われたヴェロスポーツセンター Photo: Koh ANNOURA 

 そして迎えた2019年8月ロサンゼルス べロスポーツセンターでの全米選手権。今年こそはの気持ちだった500mTTは、若いクラスから上がってきた元マスターズ1kmTT世界記録保持者のウェザース選手に9/1000秒差で負けてしまいました。

 翌々日のスプリントレース本番、200mTT予選は無事1位で通過。本戦も序盤戦はタイム的に、どのような戦法でも負けない対戦相手でしたが、気持ちを引き締めるためにも全て先行逃げ切り策で臨みました。決勝は予想通りライバルのエイバース選手。一本目は私が先にスタート。遅くとも残り1周と3/4の位置でダッシュ、先行逃げ切りを狙うつもりでしたが、上手く隙を突かれてしまい先行を許します。

全米選手権スプリントで2連覇を達成し、表彰台の中央に立つ案浦さん(提供写真)

 ここロサンゼルスの競技場は周長250mで最終コーナーからゴールまでが短く、後ろからの追い込み勝ちは難しいのですが、僅差で差し切りました。この勝ちは大きかったです。次の2本目のレースは油断しなければ絶対に負けない自信が生まれました。後攻めの2本目は早めに先行位置に入り、そのまま逃げ切る事ができました。エイバース選手とお互いに健闘を称え合いスプリント2連覇を達成できました。

 友人選手たちも落車事故を誘発する可能性があるテクニック勝ちではなく、スピード差で優勝できた事を喜んでくれ、これで昨シーズンの汚名は払拭できたかと思います。

 今シーズンまでは、過去の経験を基に自分なりにスケジュールを立ててトレーニングをしていましたが、さすがに現代のトレーニング方法、テーパリング方法等々知らないことが多く、トレーニング強度対効果が悪いのを感じ始めました。周りのマスターズのトップクラスの選手は殆どコーチを付けています。私も来シーズンに向けてコーチに付いてもらう事に決めました。こちらでは、70歳、80歳になってもコーチに付き、レース活動されている方々が沢山います。走りを観ていると本当に元気が出ます。

全米マスターズ選手権のワンシーン Photo: Koh ANNOURA 
全米マスターズ選手権風景

便利なアテンドサービスを利用

 今年の全米マスターズでは、プロコーチング会社による有料アテンドサービス($85/日)を利用しました。スプリントは朝から夕方まで数多くのレースを走るので補助してくれる仲間が必要になります。通常、同じ地区からの参加選手、クラブ員同士で補助し合いますが限度があります。サービスを利用したお陰で、機材チェック、空気入れ、発走補助、次のレースの出走時間の確認等々のストレスが大きく軽減できました。今年はリアルタイムで各レース結果がスマートフォンで確認できたのも便利でした。特にポイントレースのコーチ陣は選手のポイントを随時確認できたので指示が出しやすかった事と思います。

女子チームスプリントで優勝した案浦さんの練習仲間ペア Photo: Koh ANNOURA

 また米国のプロコーチはレースに出ている人も多いです。エイバース選手も自身のコーチング会社を経営、そして今年は米国パラリンピックナショナルチームコーチも兼ねています。やはり、新しいトレーニング理論を理解した後、自分の体で試す事ができれば、また新たな発見ができる思います。日本では就業形態の違いからコーチ兼選手は難しいのかもしれませんが、可能な限りコーチ陣にも自転車に乗って頂きたいと思います。

 2021年には関西ワールドマスターズゲームが開催されます。これを機にマスターズ大会が益々盛んになる事と選手自身が年寄りの冷や水とか言わず、堂々と胸を張ってアスリートとして活躍されることを楽しみにしています。マスターズクラスの成功は、ゆくゆくはジュニア、エリートのレベルアップに繋がると思います。

 マスターズ競技を続けるには、家族、職場の理解協力が非常に重要です。今回も妻を始め、家族、息子たちの学校送迎を手伝ってくれた友人家族に深く感謝します。

この記事のコメント

この記事のタグ

トラックレース

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載