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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<315>サガンはジロとツールへ、総合系ライダーも充実 ボーラ・ハンスグローエ 2020年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 サイクルロードレースのトップシーンはオフに入り、おおよそ1カ月が過ぎようとしている。今年のストーブリーグ(移籍市場)は例年と比べゆっくりと進行しており、実力者でもいまだ次のチームが決まらないといった事態も起きている。かたやメンバー編成を完了させ、来季の準備を加速させるチームも出てきた。そこで、本コーナーでもオフ恒例の「チーム展望」を開始しようと思う。2020年シーズンに向けた第1弾はボーラ・ハンスグローエ。チームの顔、ペテル・サガン(スロバキア)を中心としながらも、サガンだけに頼らないチームづくりが着々と進行中。ビッグチームへの歩みを進めるドイツ期待の精鋭軍団について探っていく。

2020年はジロ・デ・イタリア初出場などが控えるペテル・サガン。まずはシーズン前半に集中する =ツール・ド・フランス2019第16ステージ、2019年7月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

ジロとツール、サガンはポイント賞2冠なるか

 タレントがそろうチームとはいえ、やはりサガンの話題は欠かすことができない。特に、10月下旬に自ら発表した「ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス、2つのグランツール出場」は、2020年シーズンに向けたビッグトピックの1つとなっている。

ジロ・デ・イタリア2020プレゼンテーションに臨んだペテル・サガン。ポイント賞のマリアチクラミーノを狙うと宣言している ©︎RCS

 近年のサガンは、まず1月にツアー・ダウンアンダー(オーストラリア)で初戦をこなしたのち、ティレーノ~アドリアティコ(イタリア)で最終確認をしてシーズン前半のヤマ場となる春のクラシックへと向かっていた。すでに定番化していたプログラムだが、5月にジロ参戦が組み込まれることによって、必然的にスケジューリングの見直しがなされた。

 現時点でサガン本人が明かしているのは、1月下旬に開催されるブエルタ・ア・サンフアン(アルゼンチン、UCIアメリカツアー2.1)でシーズンインを果たしたのち、3月のティレーノ~アドリアティコ、そして春のクラシックの流れ。今年は「クラシック全戦出場」を謳い、アルデンヌクラシックにも乗り込んだが(最終的にリエージュ~バストーニュ~リエージュを欠場)したが、来季は4月12日に行われる北のクラシック最終戦のパリ~ルーベで一区切りとなる見通し。

 ルーベからジロ開幕までは約1カ月。初のジロ出場とあり、この期間中の調整がシーズン全体においてもポイントとなりそうだ。すでにポイント賞ジャージの「マリアチクラミーノ」を目指すと公言し、第1ステージの8.6km個人タイムトライアルを上手くクリアできれば、その後に控える平坦ステージの結果次第でリーダージャージ「マリアローザ」を数日間着用できる可能性もある。自国の南隣に位置するハンガリーでのジロ開幕とあり、仕上げて臨むことは必至。

ツール・ド・フランスのマイヨヴェールこそ獲得したがシーズン勝利数は4つにとどまった。ペテル・サガンにとって2020年は復権を目指すシーズンともなる =ツール・ド・フランス2019第5ステージ、2019年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

 さらには、ジロを経てからは国内選手権、そして8回目のマイヨヴェールがかかるツールへと向かうことになる。ジロ、ツールともポイント賞を狙ううえで、いかに戦い抜くかが彼の見せ場ともなりそうだ。

 今シーズンを振り返ってみると、ツールではステージ1勝を含め、狙い通りマイヨヴェールを獲得したものの、シーズン全体では4勝にとどまり、クラシックでの勝利はゼロに終わった。どのレースでも執拗なマークに遭い、タフな戦いを強いられているが、それにしてもインパクトに欠けた1年であったことは事実。2020年は、復権をかけたリスタートのシーズンになる。いまのところツール後については流動的で、コースがハードな東京五輪もターゲットから外れるよう。まずはクラシックシーズンで軌道に乗せ、2つのグランツールでポイント賞戦線の主導権を握ることが目標になる。

 クラシックで魅せるサバイバルを生き抜いてのスプリントや独走、ステージレースでは確実に上位を押さえてのポイント量産。このスタイルを貫くことができれば、新たなレースプログラムにも問題なく適応するはずだ。

アッカーマンのスプリントは来季の目玉に

 この数年で完全にお家芸となったスプリント路線。これまではサガンを主軸としてきたが、いまやパスカル・アッカーマン(ドイツ)が絶対的な存在に成長。さらなるチーム浮上のキーマンとなる。

初のグランツールだったジロ・デ・イタリアでポイント賞を獲得したパスカル・アッカーマン =ジロ・デ・イタリア2019第21ステージ、2019年6月2日 Photo: Yuzuru SUNADA

 25歳のアッカーマンは、昨年のプロ初勝利以来、次々と勝ち星を重ねる。今季は2月中旬のシーズンインからレースの大小問わず勝利を量産。シーズン最大目標だったジロでは、“予定通り”マリアチクラミーノを獲得。その後も力を出し惜しむことなく、UCIワールドツアー最終戦のグリー・ツアー・オブ・グアンシーまで走り抜いた。

 プロトンを代表するスプリンターの1人となったアッカーマンだが、フィニッシュ前での強さを支えるのは圧倒的なスピードだけに加えて、スプリント態勢に入る段階での巧みなポジショニングやバイクテクニックにも表れている。同時に、スピード勝負になった際のミスや、大きなクラッシュが少ないことも挙げられる。リードアウトを務めるリュディガー・ゼーリッヒやミヒャエル・シュヴァルツマン(ともにドイツ)とのホットラインが完成形に至っており、最終局面の連携が決まれば無敵ともいえるほどの強さを誇っている。

シーズン13勝を挙げたパスカル・アッカーマン。2020年はさらなる勝利数アップなるか =エシュボルン・フランクフルト2019 =2019年5月1日 Photo: STIEHL / SUNADA

 今シーズンは13勝を挙げたが、ステージレースの平坦ステージに限らず、スプリント系のワンデーレースでも勝てるのが強み。自国開催のUCIワールドツアー、5月のエシュボルン・フランクフルトでも劇的な勝利を挙げるなど、取りこぼしが許されないレースでの勝負強さも光った。

 ともにエーススプリンターの座にあったサム・ベネット(アイルランド)が退団することになり、自然とアッカーマンへのさらなる期待が膨らむ。チームとしても、生え抜きかつ自国ライダーのアッカーマンへは高い信頼を置いている。来季へ向けて本人はツールデビューを視野に入れているとしており、サガンとの棲み分けが気になるところだが、いずれにせよグランツールにとどまらない幅のある戦いぶりをこれからも目にすることができるはずだ。

ツール表彰台目指すブッフマンら実力者が充実

 今シーズンは、グランツールやステージレースでの総合上位進出もチーム目標の1つに挙げられていたが、その点でも大成功の1年だった。

ツール・ド・フランスで個人総合4位となったエマヌエル・ブッフマン。ステージレースでの安定感が光る =2019年7月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 筆頭格となったのが、エマヌエル・ブッフマン(ドイツ)。やはりツール個人総合4位は今年のハイライトだ。大会開幕から一貫して安定した走りを続け、山岳が本格化した第2週以降は大崩れすることなく前線をキープ。グレゴール・ミュールベルガーやパトリック・コンラッド(ともにオーストリア)といった山岳アシストにも助けられながら、総合エースとしての役割をまっとう。大躍進の上位進出を果たした。

 早い段階でツール出場が決めっていたこともあり、狙いをこの1本に絞ってもよかったところだが、シーズン序盤からステージレースで確実に上位フィニッシュを重ね、ハイクオリティの走りを継続したあたりは高い評価に値する。まったくと言ってよいほど取りこぼしがないあたり、グランツールレーサーの中でも屈指の安定感を誇っている。シーズン最終盤にはイル・ロンバルディアで8位となるなど、ワンデーレースへの適応力を証明している。

 来季もまずはツール出場が既定路線となりそうだが、現実目標としてステージレースでの個人総合優勝も掲げていきたいところ。今年はイツリア・バスクカントリーとクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで個人総合3位となり、表彰台を確保。さらに高いところへとステップアップできるだろうか。そして、その先にはツールの総合表彰台が視野に入ってくる。

 実績ではブッフマンをしのぐラファル・マイカ(ポーランド)は今年、ジロとブエルタ・ア・エスパーニャともに個人総合6位。2015年にはブエルタで個人総合3位となるなど、総合表彰台争いの常連だったが、このところはあと一歩のところで逃し続けている。グランツールでトップ10入りを逃した昨年を思えば、今季は復調したともいえるが、ライバルを一瞬にして置き去りにしたような山岳での強力アタックを見せてこそ完全復活となる。

ツールでのアシストぶりが光ったグレゴール・ミュールベルガー(右)。次期エース候補に名前が挙がる1人だ =ツール・ド・フランス2019第20ステージ、2019年7月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ツールでの働きが光ったミュールベルガーやコンラッド、今年のプレジデンシャル・サイクリング・ツアー・オブ・ターキーで個人総合を制したフェリックス・グロスチャートナー(オーストリア)といった選手たちも次期エース候補として控える。誰が総合エースを任されても計算できるだけの戦力が整っており、来シーズンのステージレースをにぎわす可能性は大いにある。

 一方で、平地系ではマークス・ブルグハート(ドイツ)やダニエル・オス(イタリア)といったベテランが健在。クラシックではサガンの脇を固めることになる。

 このほど発表された2020年シーズンの陣容は27選手。5選手が入れ替わることになり、なかでも今年のツールで再三山岳での逃げを見せたレナード・ケムナ(ドイツ)や、昨年のツアー・オブ・ジャパン東京ステージを制したマルティン・ラース(エストニア)といった即戦力ライダーが新たに加わる。

ボーラ・ハンスグローエ 2019-2020 選手動向

【残留】
パスカル・アッカーマン(ドイツ)
エリック・バシュカ(スロバキア)
チェザーレ・ベネデッティ(イタリア)
マチェイ・ボドナル(ポーランド)
エマヌエル・ブッフマン(ドイツ)
マークス・ブルグハート(ドイツ)
ジャンピエール・ドリュケール(ルクセンブルク)
オスカル・ガット(イタリア)
フェリックス・グロスチャートナー(オーストリア)
パトリック・コンラッド(オーストリア)
ラファル・マイカ(ポーランド)
ジェイ・マッカーシー(オーストラリア)
グレゴール・ミュールベルガー(オーストリア)
ダニエル・オス(イタリア)
パウェル・ポリャンスキー(ポーランド)
ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア)
ユライ・サガン(スロバキア)
ペテル・サガン(スロバキア)
マキシミリアン・シャフマン(ドイツ)
アンドレアス・シリンガー(ドイツ)
ミヒャエル・シュヴァルツマン(ドイツ)
リュディガー・ゼーリッヒ(ドイツ)

【加入】
マッテオ・ファッブロ(イタリア) ←カチューシャ・アルペシン
パトリック・ガンペール(オーストリア) ←チロル・カテエム サイクリングチーム
レナード・ケムナ(ドイツ) ←チーム サンウェブ
マルティン・ラース(エストニア) ←チーム イルミネート
アイド・シェリング(オランダ) ←SEGレーシングアカデミー

【退団】
シェイン・アーチボルド(ニュージーランド) →未発表
サム・ベネット(アイルランド) →未発表
ダヴィデ・フォルモロ(イタリア) →UAE・チーム エミレーツ
レオポルド・ケニッグ(チェコ) →未定
クリストフ・フィングステン(ドイツ) →ユンボ・ヴィスマ

※2019年11月19日時点

今週の爆走ライダー−アンドレアス・シリンガー(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 チーム最古参の36歳。現チームの前身であるチーム ネットアップ立ち上げの2010年から所属し、献身的なアシストとして仲間たちの飛躍に貢献してきた。

パリ〜ルーベを走るアンドレアス・シリンガー。アシストとして石畳から山岳まで、何でもこなす =2019年4月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 アシストとして何だってこなす。北のクラシックや平地系のレースでスピードを生かすこともあれば、ステージレースの山岳でレースを構築することも。今年はドイツ選手権で3位に入り、ヨーロッパ選手権のドイツ代表入り。グランツール出場はかなわなかったが、この年齢で数々のチャンスがめぐってくることに自信を深めた。

 そんな彼だが、プロ入りまではクライマーとして鳴らしてきたのだという。ジュニア時代はバイエルン地域のチャンピオンになり、その後も国内のヒルクライムレースを制するなど、アマチュアではたびたび強さを誇った。プロ入り後はそれまでとは違った役割をこなすことも多くなったが、長くキャリアを歩むことができるのは、自らの居場所を見つけられたからこそ。伸び盛りの選手が多いチームに今後も尽くしていくつもりだ。

 実家は自転車ショップ。つい最近店舗拡大をしたそうで、その記念にブッフマンらドイツ人ライダーたちが集まってサイン会を開いたのだとか。後輩たちに慕われ、愛される彼の人柄が、そんなところにも表れているように思える。

チーム最古参、現チームで11年目を迎える。後輩たちからも慕われるベテランだ =ツール・デ・フランドル2018、2018年4月1日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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