かつてのコーチ・飯島誠さんが魅力を引き出す脇本雄太はここがスゴい 東京五輪の金メダルに期待高まるチームブリヂストンサイクリングの新選手 

by 大澤昌弘 / Masahiro OSAWA
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 東京五輪の開催は遠い未来ではなくなった。自転車競技でも五輪代表の行方が気になってくる頃だろう。そんな折、チームブリヂストンサイクリングに脇本雄太が加入するとのニュースが入った。ケイリンで東京五輪代表、そして金メダルの獲得を目指す脇本。彼のことを少し調べればとてつもない選手だとわかるはずだ。ここではブリヂストンサイクルの飯島誠さんがインタビュアーとなり、脇本のスゴさがどこにあるのかを本人から引き出してもらう。脇本のスゴさがわかり、五輪代表を勝ち取り、金メダル獲得は夢ではないと期待が高まっていくはずだ。※文中敬称略

脇本雄太(わきもとゆうた)。1989年3月21日生まれ。福井県出身。主な戦績:リオデジャネイロ2016オリンピック・ケイリン出場、トラックワールドカップチリ大会・ケイリン優勝(2017年)、トラックワールドカップフランス大会・ケイリン優勝(2018年)、アジア自転車競技選手権大会2019・ケイリン優勝、アジア自転車競技選手権大会2020・ケイリン優勝 Photo: Kenta SAWANO

スタート前は何を考えているか

飯島:そもそものケイリンを知らない人が多いので少し説明しておきましょう。ケイリンは最大7名の選手が6周(1500m)走り、ゴールラインを一着通過した選手が勝利となります。最初の3周はモーターバイクの先導車がいて、スタートの並び順どおりに隊列を組んで走行します。その並び順はくじ引きで決まります。先導車は残り3周時点で時速50kmまで加速し離脱、そこからゴールまでの駆け引きが始まります。

 さて、アジア選手権トラック2020の振り返りからですが、まず最初に並び順について。脇本選手は4番手だったんですよね。日本の新田祐大が1番手、リオデジャネイロ五輪のケイリンで銅メダルを獲得、かつてのケイリンの世界王者のアジズル・ハスニ・アワンが3番手。脇本選手はあのメンバーで4番手。くじ引きの時は何を考えていましたか。

かつてリオ・デ・ジャネイロ五輪の日本代表コーチとして脇本(右)とかかわっていた飯島誠(左)。その飯島が持ち味を聞き出す Photo: Kenta SAWANO

脇本:アワン選手や新田選手を見ますね。自分がレースをどこで仕掛けようかというのを考えていました。

飯島:並び順が決まると、隊列の順番が決まるんですよね。どうやったら自分が有利な展開にもっていけるのか、別の選手がどんな動きをするのか、を考えるんですよね。

 では、アジア選手権トラック2020の決勝を振り返ってみましょう。先導車が退避してから、後ろの選手が番手を上げて、脇本選手は一時的に5番手になりました。5番手になって、最初にアワンが動いたと思いますが…。

脇本:自分では1番仕掛けたいベストの位置で仕掛けられたと思います。僕自身、瞬間的に「勝った」と思うくらいの自信がありました。ちょうどアワンが先頭に出てレースを作りにいったところを、すかさず僕がレースを作りにいった。残り2周に入った後ですね。これが一番の理想の形ですね。先頭に出たのが残り1.5周くらいのところです。

脇本雄太は何がスゴイのか

編集部:並びで有利不利というのはありますか?

脇本:並び順では、1番前が嫌だという選手や1番後ろがいいという選手もいれば、真ん中ぐらいがいいという選手もいます。僕自身は、短距離種目の中で一番長い距離を走れるのが持ち味なので、有利不利と感じることはないほうなんですよ。

飯島:トップスピードの持続時間は短距離選手の中では世界トップ3に入りますね。もしかしたら世界一かもしれない。

脇本:他の選手は本当に嫌がります。僕が行くタイミングをみんなが見ていますから。

自分の持ち味について客観的に話してくれた脇本 Photo: Kenta SAWANO

飯島:改めて聞きたいのですが、人よりも長い時間、トップスピードを維持できるメリットは?

脇本:精神的な余裕が全然違います。ケイリンは相手を利用して勝つのが定石ですが、僕はそれに頼らなくても済むんです。ヒルクライムレースで言うならば「いつでもアタックできるぜ」という感じでしょうか。引き出しがたくさんあるわけです。ゴールまで残り200mからしか行けないところを残り400mから行けちゃう感じです。だから、レースではみんなが僕みたいな選手を見ちゃうんですよ。レースの基準になってしまう。

飯島:アジア選手権の映像をみると、みんな脇本選手の後ろを狙うんですよ。脇本選手の後ろのポジションは1つしかない。けれども、みんながそこを狙うのでごちゃごちゃしてしまう。ポジション争いをしていくうちに脚を使うことになってしまう。対して、脇本選手にはまだ余力がある。脇本選手のペースになると勝てないことがわかると、他の選手は最初に動いてくるんですよね。

脇本:そうやって相手にプレッシャーをかけることができますね。

脇本が語るトラック競技の魅力

飯島:チームブリヂストンサイクリングに入って、ファン層も変わってきますが、どこを見てもらいたいですか?

脇本:自転車だとロードレースに注目が集まりがちですが、トラック競技のアピールにつなげたいですね。トラック競技の魅力は、競技場がコンパクトで選手と観客の距離が近いことです。ハイタッチしようと思ったらできるほどです。実際、会場に来てもらったらわかるんですよ。選手が外側ギリギリを走ったら風を感じられますから。

飯島:目線が観客と一緒ですよね。

脇本:そうですね。自分が乗っている自転車の目線と観客の目線の高さがまったく同じなんです。わかっているお客さんはフェンスの目の前でフェンスをたたいて応援したりとか、すごいアグレッシブな応援ができるんです。あとは音がスゴイですね。実際に見に来てもらえればと。

観客との目線が同じであることを室内で再現してくれた二人  Photo: Kenta SAWANO

飯島:ケイリンの魅力は他にもありますか?

脇本:まずはすごいスピードで走っていることですね。アジア選手権決勝のラスト1周はアベレージが時速73km、トップスピードでは時速78kmでした。それから、選手と選手の距離がものすごく近いこと。車輪同士が当たって音がするほどです。格闘技のような感じですよ。ギリギリまでくっつかないと選手を抜けないですし、多少のコンタクトはセーフだったりと、風切り音がすごかったりと、ロードレースでは味わえない臨場感がありますね。

手ごたえを感じたアジア選手権とこれから

飯島:アジア選手権では「緊張しました、落としちゃいけないレースで…」とコメントしていましたが…。

脇本:勝って当然と思われる立場になってきているんですよ。最低条件が優勝です。期待に応えねばという気持ちでレースに臨んでいます。

飯島:今回2位だったアワンは、ケイリンの元世界チャンピオン。その選手に力で勝負して力で勝てましたね。

脇本:自分のなかでの価値は大きいです。通過点としてクリアできているのかなと。

飯島:今シーズン、これからの目標は?

脇本:直近の目標は、ワールドカップに出場してケイリン、スプリントのいずれかで金メダルを取りたいですね。去年、ケイリンのワールドカップで金メダルを獲れたので。まずはそこですが、最大の目標は東京オリンピックです。

五輪直前のワールドカップでは、仕上げてくるライバルも多く大事な大会になると脇本は見る Photo: Kenta SAWANO

飯島:すごく自信が伝わってくるコメントですね。

脇本:むしろ自信をもたないといけないのかなと。コーチも勝つためには、精神的な準備も必要だと言っていますし、自分も前もって準備しています。

東京五輪での金メダル獲得は脇本の“夢”ではない

飯島:自分がコーチとして関わっていた4年前とは変わりましたよね。弱気な感じがしない。

脇本:弱気というか、言い訳をつくる自分がいましたね。かつてのようにならないために、「俺は勝ちます」という宣言をしたほうがいいんじゃないかと思っています。ワールドカップでは「必ず金メダルをとります」と。

飯島:リオデジャネイロ五輪に出場しましたが、どういう感じでしたか?

脇本:自信を持たずに行っても何もできずに終わってしまいます。周りの選手の気合の入り方が違います。実際にスタートラインに立ったとき、世界選手権で同じメンバーだったとしても、みんな別人かなと思うくらい違います。これはTVで観る世界とはまったく違うものです。出てみないとわからない世界ですね。

メンタル面での準備をしないと何もできないと語る脇本 Photo: Kenta SAWANO

飯島:オリンピックの雰囲気にのまれるというのはこういうことなんだなと…。

脇本:五輪に出場した人からさんざん聞かされて、さすがに僕は大丈夫だと思っていたいたんですが、そうではなかったというのが身に染みて感じたことですね。

飯島:まだ五輪開催まで254日先(※)になりますが…。(2019年11月13日取材)

脇本:リオ五輪のときとは、自分のなかでの自信が違いますね。リオではメダルを獲るのが“夢”でしたが、今回、金メダルを獲ることは夢ではなくて“目標”に変わっているんです。目標になるとそこに向けての具体的な手段ができます。どうすれば目標が達成できるのかというビジョンができるんです。目標にすることで具体的な道が見える。アジア選手権を優勝したことで一歩を踏み出せていると思うんですよ。

五輪開催まで200日余り。心の準備も整えていると脇本は言う Photo: Kenta SAWANO

飯島:最後にファンに一言。

脇本:チームブリヂストンサイクリングのなかでしっかりと頑張って、自転車業界自体を盛り上げていきたいです。目標に向けてしっかりと頑張り、金メダルを獲ることで自転車がより多くの人に身近なものになったらいいなと思います。自転車を楽しむものとして、より多くの人に取り入れてもらえたらいいなと思っています。

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