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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<313>視線はすでに2020年へ チームキャンプやトラック参戦など有力選手のオフを追う

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 10月半ばに今年のUCIワールドツアーが終わったばかりのサイクルロードレースシーズンだが、一部チームや選手は次のシーズンに向けてすでに動き始めている。ペテル・サガン(スロバキア)を擁するボーラ・ハンスグローエは、選手間の親睦を目的とした「チームビルディングキャンプ」を実施。プロトン屈指のスプリンターのエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)はトラックでの五輪出場を目指し活動するなど、その姿はアクティブ。そこで、オフも活発なロードシーンの動向を押さえていこう。

チームによってカラーがさまざまなオフのキャンプ。ボーラ・ハンスグローエのキャンプではペテル・サガンがアーチェリーに挑戦 © BORA - hansgrohe / Veloimages

来るシーズンへの準備に欠かせないチームビルディングキャンプ

 UCI(国際自転車競技連合)が限度を30人と定める同ワールドチームの所属人数。上限の30人を所属させるチームもあれば、数人分の枠を開けた状態を維持するチームもあるなど、それぞれの方針や運営資金、給与予算などに基づいてシーズンごとに変動が発生する。

遊びの要素も取り入れたボーラ・ハンスグローエのチームビルディングキャンプ © BORA - hansgrohe / Veloimages

 1レースの出走人数が7選手を基本とし、例外となるグランツールでも8選手。ハイシーズンになれば、同時期に複数のレースに分かれてのチーム活動が行われるが、選手の脚質や参戦するレースタイプによって招集される選手に偏りが生まれるほか、選手たちはそれぞれに居住地やトレーニング環境が異なることから、同じチームにいながらにしてなかなか接点がないといった事例も数多い。

 そこで、選手同士はもちろん、スタッフ、その他チーム内外の関係者も含めて寝食をともにし、各人のパーソナリティーやライダーとしての特徴などを知る場としてチームは「ビルディングキャンプ」をセッティングする。

 このところはシーズンインが1月と早まっていることにともなって、選手たちのトレーニングペースも前倒しになりつつある。ビルディングキャンプでは基本的に強度の高いトレーニングを行わないのが慣例で、“遊び”の要素が含まれるアクティビティや、翌シーズンを見据えたミーティング、バイクやウェアといった、レース期間の必需アイテムのフィッティングなどに時間を費やす。また、キャンプ実施先での人々との交流やサイクリング普及活動といった、オフならではの取り組みに従事するチームも増加している。

自然体験、モータースポーツ…チームのカラー溢れるアクティビティ

 それでは、チームビルディングキャンプの様子をのぞいてみよう。

 例年10月下旬に実施するのがボーラ・ハンスグローエとUAE・チーム エミレーツだ。

ゲームにチャレンジするダニエル・オスの真剣な様子 © BORA - hansgrohe / Veloimages

 ボーラ・ハンスグローエは恒例でもある、オーストリア・チロル州をベースに自然の中でアクティビティに勤しんだ。このほど来年のジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの両グランツール出場を発表したサガンも、もちろん参加。アーチェリーなどのスポーツにもトライしている。

 チームは2つのグランツールを戦うサガンのみならず、今年のツールで個人総合4位と大躍進のエマヌエル・ブッフマン、サガンを上回る年間13勝を挙げたスプリンターのパスカル・アッカーマンといった、チームのお膝元であるドイツ人ライダーをエースとして完全に確立。戦力のメドが立ち、充実のオフを過ごしているといえそうだ。

 UAE・チーム エミレーツは、かかわりの深いアラブ首長国連邦(UAE)をチームが訪問。こちらも恒例行事となっている。

 期間中は、同国のテーマパーク「フェラーリ・ワールド」でのカート対決や、世界最速のジェットコースター“フォーミュラ・ロッサ”を楽しんだほか、現地サイクリストとのライドイベントや子供たちへの自転車普及活動も実施。選手・スタッフが全員そろってのミーティングも行われ、来季への心の準備も着々と進めているよう。

 今後も各チームからのキャンプインの便りが届くはずだ。チームによって取り組みが大きく異なり、バラエティに富んだオフの姿が見られるのも魅力的。ぜひこの時期の選手・チームの動きもチェックしてみてほしい。

ヴィヴィアーニやカヴェンディッシュらがトラックで激戦

 来シーズンに向けた動きはキャンプにとどまらない。

 これからがシーズン本格化となるトラック競技にも参戦するロードレーサーたちにとっては、この冬が正念場でもある。来年は東京五輪イヤー。トラック中距離種目での五輪出場を目指すライダーたちは、今後の結果次第で状況が大きく変わるのである。

 10月23日から28日まで行われた「ロンドン6days」には、ヴィヴィアーニやマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)が出場。2人1組のペアとなって、期間中に行われるあらゆる種目の結果をポイント化。最終的には6日間の合計得点で総合成績が決まる。

 体調不良からの回復に時間がかかったこともあり、ロードシーズンはパッとしなかったカヴェンディッシュだが、いよいよ復活の兆しを見せる。オウェイン・ドゥール(イギリス、チーム イネオス)と組み、5日目終了時点までは総合トップを走る。カヴェンディッシュのスプリントが炸裂し、会場を盛り上げる場面もしばしば見られた。

 しかし、最終日に劇的な追い上げを見せたのがヴィヴィアーニとシモーネ・コンソンニ(イタリア、UAE・チーム エミレーツ)のペア。最終種目のマディソン(2人1組で競うポイントレース。交代は随時可能)で圧勝し、総合優勝を決めた。

 激闘を繰り広げたヴィヴィアーニとカヴェンディッシュだが、東京五輪に向けた動向が注目されることとなる。ロードレースはタフなコースゆえ、スプリンターの両者には厳しいのは明白。それを受け、ヴィヴィアーニはトラックでの五輪出場を目指すことを公言。マディソンとオムニアム(1日に4種目を行い総合得点で順位を決める)をターゲットにしている。

2016年リオ五輪トラック・オムニアムではエリア・ヴィヴィアーニ(左)とマーク・カヴェンディッシュが自転車史に残る死闘を演じた。東京2020でその再現はあるか =2016年8月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ヴィヴィアーニのオムニアムといえば、2016年のリオ五輪で金メダルを獲得した最も得意とする種目。当時は2日間で6種目を行い、現行のレギュレーションとは大きく異なっているが、それでも同種目2連覇への意欲は高い。とはいえ、マディソンも含めて東京五輪出場には、資格獲得に必要なUCIポイントを稼ぐ必要がある。早速、11月3日にはトラックW杯ミンスク大会のオムニアムで銀メダルを獲得。引き続きトラックW杯を転戦、さらには来年行われる世界選手権にも臨んで、力のあるところを証明しようという意志だ。

 リオ五輪のオムニアムでヴィヴィアーニと歴史的な死闘を演じたカヴェンディッシュは、東京五輪への意向は明確にしていないが、復調していることもあってどんな判断を下すか。4年前のライバルであるヴィヴィアーニも戦線に戻ることを望んでおり、もしかすると、五輪のトラック競技会場である伊豆ベロドロームでこの2人が主役となっているかもしれない。

 ロードとトラックの兼用ライダーでは、今年のロード世界選手権の個人タイムトライアルで銅メダルを獲得したフィリッポ・ガンナ(イタリア、チーム イネオス)が、こちらも3日に行われたトラックW杯ミンスク大会の個人追抜で4分2秒647の驚異的世界記録を樹立。こちらは五輪種目ではないため、彼のターゲットはチームパシュート(団体追抜)となる見込みだが、東京五輪の注目株がさらにパワーアップしている。

今週の爆走ライダー−マッテオ・ファッブロ(イタリア、カチューシャ・アルペシン)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 チームの体制変化により、所属選手の多くが移籍することになったカチューシャ・アルペシン。将来を嘱望されていたイタリアンクライマーのマッテオ・ファッブロは、年々チーム強化が進むボーラ・ハンスグローエ入りが決まった。

グランツールデビューとなった今年のブエルタ・ア・エスパーニャでは第11ステージで逃げを試みるなど積極的に走った =2019年9月4日 Photo: Yuzuru SUNADA

 2年間を過ごした現チームでは、ステージレースをメインにプログラムが組まれた。かつてチームリーダーとして活躍したホアキン・ロドリゲスへのあこがれもチームを選ぶきっかけだったといい、往年のロドリゲスのような走りを理想に着実に成果を挙げていった。目標としていたジロ出場はかなわなかったが、今年はブエルタ・ア・エスパーニャに出場。完走を果たして、まずはグランツールの空気を味わった。

 新チームでは即戦力として迎えられる。「持っている能力をまだまだ発揮できていない」と述べるのはボーラ・ハンスグローエのチームマネージャー、ラルフ・デンク氏。「それでも、チームに適応さえすれば実力は証明できるだろうし、山岳スペシャリストの走りを生かさないといけない」と続けるように、首脳陣からの期待は大きい。主戦場は引き続き、ステージレースとなる。

 「最先端のチーム運営がなされていて、選手たちもレースの楽しみ方を知っている」と印象を語るファッブロ。プロ昇格のきっかけを作ってくれたカチューシャ・アルペシンにも大きな感謝を伝えて、新たな環境へと向かう。

 前途が明るくなっている彼のキャリア。「危険だからという理由で、両親は自転車に乗ることを反対していたんだ」というエピソードも、今では笑って話せる。歴史学を専攻するために入った大学を休学してまで傾倒する自転車。まだしばらくは、ロードレースで世界のトップに立つことを夢見て走り続けることになる。

両親の反対や大学の休学をありながらもロードレースに集中するマッテオ・ファブロ。2020年からはボーラ・ハンスグローエの一員となる =ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第7ステージ、2019年8月30日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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