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猪野学の“坂バカ”奮闘記<40>地獄のタイ合宿で「ドイチャン」の痛烈歓迎 新城幸也選手が教えてくれた激坂攻略法<中編>

by 猪野学/Manabu INO
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 前回、見事に『チャリダー★』(NHK BS1)のドッキリに引っ掛かり、「DAY OFF」のスケジュールから一転地獄のトレーニングへと駆り出されることになった。新城幸也選手は“坂バカ”な私にタイのとっておきの坂を用意してくれていた。その名は「ドイチャン」! 決して土井雪広選手のことではない。タイ語で「ドイ」が山で「チャン」が象。つまり「象山」という意味だ。遠くから見ると見事に象の頭に見える。象の頭を想像してみる…オデコから鼻に向かってかなりの急勾配だ。嫌な予感がした…。

頂上の「ドイチャン」の看板の前で新城幸也選手と! 実は探すのにかなり苦労した…

斜度「8%」と「13%」しかないタイ

 さっそく象山に向かった。走り始めて程なくすると前方に小さな川が現れ、子供たちがキャッキャと遊んでいた。水深はくるぶしぐらいなのでバイクに乗ったまま突っ込む。するとその先に木々の間から白い壁がチラリと見えて来た。

 「アレです」と新城選手。タイは日本と違い、前触れなく突然と激坂が現れる。それも信じられないくらいの激坂だ!

 覚悟を決めるようにギヤをインナーに入れた。260Wくらいのダンシングでゆっくりと入る。上げ過ぎは禁物だ…。しかし坂に入ってすぐに異変に気付く。直前にスコールが降ったようで、異常に蒸し暑いのだ! 全身から汗が吹き出て心拍が一気に上がる。灼熱のサウナの中で20%を超える激坂を上っていると想像してもらいたい。

 頭に血が上り、視界が狭くなる…。遠のく意識のなか看板を見ると「勾配8%」と書いてある。これぞ世にいう「勾配詐欺」! 後から聞いた話だと、タイには「8%」と「13%」しか看板がないらしい。だったらせめて13%と表記して欲しいものだ。

 ついに頭がクラクラして蛇行し出した。しかしドイチャン! なぜか激坂なのに交通量が多い…。トラックやバイクがひっきりなしに走り、蛇行を許してくれない。なんとドイチャンの中腹には村が存在する。そう、激坂の中に生活があるのだ!

 今まで感じたことのない身体のヒートアップに、これ以上走るのは危険と感じた私は村で一旦止まることにした。身体が熱くて、まるで火山になったようだった。新城選手曰く、体温が上がってしまうと一度休まないと危険らしい。皆様も真夏のライドは気を付けていただきたい。

激坂登坂のポイントは「引き脚」

 しかし! こんな状態でも私は「仕事」をする。今回の合宿は新城選手の速さの秘密に迫るミッションも兼ねているのだ。

 さっそく登坂時のペダリングのことを聞いてみた。すると、「ドイチャンのような激坂では引き脚を使うだけで全然違う」と教えてくれた。それもほんの少しアシストするだけでいい。引き脚の時の足首の角度(垂直なのか、さらに角度をつけるのか)や、引く時の方向(内側か外側)でも使う筋肉が全然違ってくるらしい。さらに引き脚は登坂時だけでなく平地でも使うらしい。ここまで来ると私の脳では理解が追い付かない。

 やっと体温が下がって来たので再スタートし、早速教えてもらった引き脚を実践してみることにした。ドイチャンはまだ半分以上残っており、これからは30%を軽く超えてるくるらしい。しかし30%を超える激坂でも引き脚をほんの少し使うだけで、自転車の進み方が全然違う。

 さらに新城選手はギヤをアウターに入れた。30%の勾配でだ! 「テコの原理なので出来るんですよ…」テコの原理?学生時代、私は物理の授業をサボっていたせいか、新城選手の言葉が理解出来なかった。

 さらに引き脚だけでなく身体の使い方を実践してくれる。「今は背中を使ってます」すると背中の筋肉が一気に隆起する。「今は骨盤を入れてます。こうなるとニバリのフォームに近いですね…。これでお尻の穴を前に向けるようにして顎を引いて下まで踏むとフルームですね…」

 すごい! すごすぎる! まるでバーレーン・メリダのジャージを着たフルームがそこにいた。それくらいフォームがそっくりだった。グランツールを何度も完走する選手は、己の身体だけでなく他の選手の身体の使い方まで把握しているのだ。タイの激坂で、改めて新城選手の凄さを垣間見たのであった。

10kmで獲得標高1000m!

 そうこうしているうちに標高が上がり、さすがに気温が下がって来たので最後は少しだけ出力を上げた。すると一気に視界が開けた。頂上だ…。サイコンを見ると10kmで獲得標高1000m。富士アザミラインの馬返しを10km走った感じだ。

ドイチャンからの夕陽。火照った体に沁みた…

 目的地のドイチャン看板に辿り着くと、新城選手は「最後は少し出力上げてましたからね、あれは大事です!」といってくれた。とても嬉しかったが、この暑ささえなければもっといい所をお見せできたはず!と思うと少し悔しい気もするのだった。

<続く>

(画像提供:猪野学・NHK・テレコムスタッフ)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:50)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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