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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<40>自転車旅で楽しむ世界のお酒 人生で一番美味しかった“黄金のビール”

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 メキシコのテキーラやカリブ海のラム、南米・ヨーロッパ・アフリカのワインなど、世界各地で美味しいお酒が飲めるのも海外ツーリングの楽しみだ。お酒は地域ととても密着している。その土地の空気を感じながら、地元の素材を使ったお酒を現地の人と一緒に飲むの最高においしかった。

世界最南端の最南端街ウシュアイアで、「DEL FIN DEL MUNDO」(世界の果て)と言うワインを飲む。ここまで走ってきて飲むのは感慨深い Photo: Gaku HIRUMA

日没後も走る強行軍

 特にメキシコ、コーカサス地方のジョージア(グルジア)やアルメニアなどはお酒好きの国民性が色濃い。手招きされたので近寄ってみると、そのまま酒盛りが始まるなんてことも珍しくなかった。

独特の甘みのあるワイン。発酵してるため、微炭酸を感じる。地元の人も昼から集まってくる Photo: Gaku HIRUMA

 その中で最も身近な飲み物がビールだった。走行後にカラカラになった身体に流し込むビールはいつでも最高だったけど、特に中央アジア・トルクメニスタンで飲んだ生ビールは忘れられないものになった。

 トルクメニスタンは5日間のトランジットビザしかおりないので、500kmにもおよぶ灼熱の砂漠を5日で走らないといけなかった。5日と言っても、初日と最終日は出入国審査の関係で走れる時間が限られているので実質4日半ほどだ。

 普通に4日半で500km走るだけでも大変なのに、日中は50℃にも届きそうなくらいの気温になり、どこまで走っても360度広がる地平線と吹き付ける熱風が襲いかかる。

 日本でイメージする地平線は雄大で美しいものだけど、延々と続く砂漠の地平線は、目的地まで走っているのか出発地に戻っているのか分からなくなるほど絶望する。

 少しでも涼しい時間に走ろうと普段は走らない夜明け前に出発するけど、日陰や休憩するところが無いのでひたすら走り続ける。結局日没後もずっと走って距離を稼ぐという強行軍だった。ルート上にいくつかの街が存在するものの、あとはずっと砂漠だった。

サイクリストのオアシス「チャイハナ」

 中央アジアでは「チャイハナ」(ペルシア語で喫茶)と呼ばれる一段上がった小上がりの座敷で、のんびりと休憩できるようなお茶屋さんがあった。トルクメニスタンの「チャイハナ」はサイクリストにとって、涼しい店内で食事ができてごろごろできる“オアシス”のような所だった。

 そんな灼熱のトルクメニスタンを走って3日目のことだ。日の出前に出発し、夜まで走り続けるのを連日続けていたせいで、眠気と暑さにやられてフラフラしながらも、走らなければならない使命感でなんとか距離を稼いでいた。

トルクメニスタンのチャイハナにて。小上がりになっており涼しくてゆっくり休める Photo: Gaku HIRUMA

 熱さが増してきた昼を前になんとか「チャイハナ」にたどり着いたので、逃げるように涼しい店内に入り込むと一気に生き返った。

 コーラやお菓子を買い込んだ後、座敷に腰を下ろして無心で食べていると、カウンターで地元客が生ビールを飲んでいるのに気が付いた。外は45℃を超えるカラカラに乾燥した砂漠。キンキンに冷えたビールは僕らの視線を釘付けにし、会話をするもの忘れるほど美味そうに見えた。

 というのも、トルクメニスタンを走る前に訪れた国はイランだったからだ。イラン以外のイスラム圏では他の国よりも高いけど酒は買えた。スーパーで普通に売っている国もあれば、隠れたように存在する酒屋さんで買うような国もあった。ところが敬虔なイスラム教国家のイランでは、ビールを含む酒類はご法度で本当にどこにも売ってなかった。そのため僕らは1カ月半ほど全く酒を飲めていなかったのだ。

 「せめて夕方だったら…」誰しもそう思ったはずだ。流石にここで午前中から飲む訳にはいかなかった。

 「行きますか」という誰かの一言で皆我に返り、ビールを前にチープと化したコーラを飲み干した。そして再び気力を振り絞って45℃の砂漠にくり出した。

ビールと串焼き肉という最高の組み合わせ

 不運なことにこの日は全然休憩できる所がなくて、熱風の向かい風と砂嵐の中を誰一人会話することもない。黙々とペダルを漕ぎ続けるしかなかった。

 真っ暗な午後9時半まで走ったところでようやくUcaiyの町の「チャイハナ」が見えてきた。「チャイハナ」に着くと店の従業員が、「明日朝早いんだろ。ここで寝ていいからね」と言ってくれた。きっと多くのサイクリストがここを訪れるのだろうと察せる発言だった。

 疲れ果てて夜に到着した中で、この申し出は本当にありがたく、泣けてくる。かなりハードな旅だったがトルクメニスタン人のホスピタリティの高さには何度も救われた。

案内された奥の部屋には夢にまで見たビールサーバーが。グラスまで冷やしてあって歓喜した Photo: Gaku HIRUMA

 さらに嬉しいことに、ここには念願の生ビールが置いてあった。肴は炭火の串焼き肉という最高の組み合わせ。歓喜に包まれた。目の前に置かれた一カ月半振りのお酒は、まさに黄金のビールだった。走行後のビールは本当に最高で、毎回飲むと「あーーー」とか声が漏れるが、この日は違った。

 互いに労いあいながら乾杯し、キンキンの生ビールを一気に半分くらい飲み干す。高温に熱せられた砂漠に水を撒きかけた時、ジュッと吸収されるのと同じように、疲れ果てて熱く乾ききった身体に流し込んだビールは、ジュッと発泡しながら食道を降りていき、身体中にその余韻を残して消えていった。

1カ月半ぶりのビールは疲れ果てた身体に染みわたる至福の一杯だった Photo: Gaku HIRUMA

 身体が求め過ぎていたものを一気に入れた衝撃、そしてそのビールがうますぎて誰も声を出せず、10秒ほどの沈黙が流れた。ようやく絞り出すように、「うますぎますね」と言うのがやっとだった。

 この日のビールが僕の人生で一番美味しかった。次の日も午前3時起きで走らなければならないことはとりあえず置いといて、今この瞬間を心ゆくまで楽しんだ。

昼間岳昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ「Take it easy!!

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