『Cyclist』独占インタビュー「女性専用バイクの必要性を確信した10年」 Liv創設者ボニー・ツー氏に聞く自転車市場の変化

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 「スポーツバイクを女性にとってもっと身近なものに」─そんな思いから誕生した「ジャイアント」の女性のための自転車総合ブランド「Liv」(リブ)が、今年で創業11年目を迎えた。この間、男性の趣味と思われがちだったスポーツバイクを取り巻く状況は様変わりし、イベント等で見かける女性サイクリストの数も明らかに増加した。バイク本体のみならず、ウェアやアクセサリー等女性のためのサイクルアイテムを総合的に世に送り出してきたリブが、この変化の一端を担っているといっても過言ではないだろう。ときに「女性専用」を不要と指摘する“逆風”も受けたパイオニアは、この10年をどう振り返り、次の10年をどう見据えるのか。創始者であるジャイアントグローバルグループのボニー・ツー会長に話を伺った。

女性ブランド「Liv」の創始者、ボニー・ツーさん(ジャイアント現会長) ©Liv

リブが提唱し続ける「女性専用」の意味

─ボニーさんがスポーツバイクに乗り始めようとした当初、バイクを含め女性用のアイテムが存在しなかったことがリブを立ち上げたきっかけだそうですが、それから10年、リブを通してボニーさんの夢はどれくらい実現しましたか?

ボニー:ロードバイクのパフォーマンスモデル「Avail」(アヴェイル)からスタートし、街乗り仕様のクロスバイクからオフロード、そして最新のe-BIKEまで、これまで実に様々なモデルを作り出してきました。現在は女性のプロチームのレース機材として採用されるまで性能とクオリティを高め、世界的にも女性用バイクとしての存在感を確立できていると感じています。

2010年に特別モデルとして限定生産された「AVAIL DIAMOND」。ピンクとホワイトの色使いで、いわゆる女性らしい印象 ©Liv

 ただ現状に満足しているかというと、それはまだまだです。最近の女性は「性差」を明確にすることを好まない傾向もあって、マーケット的に「女性専用」という考え方は理解されにくくなっているようにも思います。自転車メーカーの間でも「女性専用は重要ではない」という認識が一般的で、女性専用を掲げているブランドは、いまなお世界でリブのみです。

─リブのバイクを乗ったとき、初めて「女性用のバイクとはこういうことか」と感じました。しなやかな剛性で、これまで乗っていたバイクの硬さがよくわかりました。

ボニー:リブの「女性用バイク」の真意はそこです。カラーやデザインは男女共通でも良いと思いますが、求められるジオメトリーや素材の剛性は、体の構造や筋肉量が異なる男性と女性では大きな違いがあります。女性が男性を基準とした剛性のバイクに乗ると、体にかかる負荷は歴然。さらに小柄な女性となると、現在の自転車市場では選択の幅は一気に狭まります。

10年を経てリニューアルされた現在の「AVAIL ADVANCED」シリーズ(画像は PRO 2)。「女性だからといって必ずしも皆ファンシーなものを選ぶわけではありません」とボニー氏。初代モデルから洗練され、色使いもかなりクールな印象に ©Liv

 リブの「女性専用」の考え方はその「サイクリングサイエンス」がポイントで、女性の体や脚力に合ったバイクとはどういうものか、どういう乗り方をしたら快適に乗れるのか、高いパフォーマンスが得られるのかということについて、医師を交えた女性スタッフたちが日々科学的な分析・研究を行っています。この考え方は女性サイクリストの増加、乗り方の多様化、そして科学の進化に伴い10年前よりも重要性が増していると考えます。

 男性仕様に作られた自転車をもって、「自転車はそういうもの」と思って乗っている女性も多いかと思いますが、お尻が痛い、首が痛い、疲れやすいなどの悩みを抱えている人は、剛性や設計が合っていない可能性があります。せっかくサイクリングを楽しみたいのに、それは非常に残念なことですし、さらにいえばそれが日本の女性の間で自転車がスポーツとして浸透しない1つの理由でもあると思います。

─オールラウンドのレース機材「LANGMA」(ランマ)や、エアロロードの「ENVI LIV」(エンヴィリブ)等モデルのコンセプトが明確ですが、その着想はどこから?

ボニー:リブには女性スタッフのみで構成された開発チームがあります。もちろん皆サイクリストで、トライアスリートもいます。それぞれ自分たちの経験から発想や意見を出し合い、それが少しずつ実現されています。

女性サイクリストを中心に構成されているリブの開発チーム ©Liv

 例えば、ヒルクライムにも強いオールラウンドのロードバイク「ランマ」を生み出したスタッフは、レース志向のサイクリスト。上りや下りが苦手という女性は多いと思いますが、そんな女性たちがバイクに何を求めているのか、機能として何が必要なのかを体験をもって理解し、それを製品開発に生かしています。さらにプロライダーとともにニューモデルのプロトタイプを使って何度もテストを繰り返し、ブラッシュアップを重ねて最終的に製品化にこぎつけます。

オランダに拠点を置く女性のプロサイクリングチーム CCC-Liv  ©Liv
世界6カ国から集まった14人の女性からなるグローバルチーム「Liv Racing」 ©Liv

 リブはその全プロセスを女性たちだけで行っており、このこだわりはバイクにとどまらず、アパレルやアクセサリー、ヘルメットからシューズまで及びます。ラインナップの全てが女性のサイクリングを快適に、そしてスタイリッシュにするために企画され、生み出されているのです。

日本市場では母親世代もターゲットに

─リブに対する市場の受け止めは?

ボニー:国や地域によって異なります。例えばアメリカ、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア等の英語圏では高い支持を得ており、売上もこの10年で伸びています。ヨーロッパではe-BIKEの流行とともにリブのe-BIKEのユーザーも増えてきています。その正確な理由はわかりませんが、Livのサイズ展開やカラーが彼女たちの好みに合ったのかもしれません。

リブが6月に発売した日本限定の女性専用スポーツe-BIKE「ESCAPE RX W-E+」。乗り降りしやすい小さめのフレームに小柄な女性向けのパーツセレクト、走りにこだわった高性能な装備が特徴。カラーはブルーの他にパールホワイトを展開 ©Liv

 一方、残念ながら日本はそもそもスポーツバイクに乗る女性自体の数が少ない印象ですが、どうでしょうか?

─日本でも少しずつ女性サイクリストは増えてはいますが、アメリカ等と比べると、女性にとってはまだメジャーなスポーツとはいえません

ボニー:「しまなみ海道」を走ったときにたくさん素敵な女性を見かけましたし、9月に走ったツール・ド・東北でもたくさん見かけました。実は日本は自転車に乗る女性の数はとても多いですし、乗ることも上手です。これほど自転車に乗るスキルをもっている女性が多いことは、自転車をスポーツとして取り入れる文化として特筆すべきポテンシャルです。

 しかし、自転車に乗る女性の大半は子どもを持つ母親世代で、子どもを乗せたり買い物をすることを目的としています。そういう特性を踏まえると、日本の女性向けには子乗せや買い物用のe-BIKEをデザインしたいのですが、これがなかなか難しく、自分が好きな形が出せないので、いま一生懸命勉強しているところです(笑)。

 私にとってもこれは非常にチャレンジングな試みですが、子育て世代にもリブを使ってもらい、子育てが一段落して自分のやりたいことができたときにも、その傍らにリブがいられたらという思いがあります。

「日本の女性はもっと自分を愛して」

─意外な展開ですが、日本の女性をターゲットとする上ではユニークですね

ボニー:ただ、世界的に見て日本のお母さん方は子どもや家族のことばかりを優先し、自分のことを犠牲にする傾向があるように思います。例えばアメリカの女性たちは母親であっても自分のことを大切にし、時間やお金を自分の時間に費やします。彼女たちにとっては自転車もスポーツの選択肢になっていますし、リブを取り扱う自転車ショップにも「これからは女性の時代」という認識があります。

リブのショップでは、街乗り用からレース機材までの各種バイクはもちろん、アパレル、アクセサリーまですべてを揃えることができる Photo: Kyoko GOTO

 日本の女性たちにも自分を愛すること、自分が楽しむ時間をもつことの大切さを伝えたいですね。それは自分や家族がハッピーでいるために、とても大切なこと。そのためのツールは自転車でなく、他のものでも構わないと思います。

 ちなみに私は毎週末、少なくとも60km以上はライドを楽しむ時間を確保しています。メインバイクはランマとエンヴィリブ、この2つです。お気に入りは、平地を走って、山を上り、ゆっくりとダウンヒルするコース。例えば土曜の朝6時から走り始めて、家族とランチをとるために12時までには戻ります。それから昼寝をし、マッサージを受けます。そのように自分自身を大切にする時間をもつようにしています。もちろん家族も大事ですが、それだけの生活だったら、私はとっくに自転車には乗れなくなっていたでしょう。

9月に宮城県でサイクリングを楽しんだときのボニーさん。乗っているのはリブのe-BIKE「ESCAPE RX W-E+」だが、平地をアシストの制限速度(24km/h)以上のスピードで楽々と走行。つまり、ノーアシスト! Photo: Kyoko GOTO

─先日ライドをご一緒した際に70歳とは思えない見事な走りに驚きました。若さの秘訣は間違いなく自転車ですね。

ボニー:私の父は「自転車を始めてから歳をとらなくなった」といってました。私もそう思います(笑)。マラソンはとてもハードなスポーツですよね。それと比べると自転車は景色を楽しんだり美味しいものを食べたりしながら運動ができるとても豊かなスポーツで、年齢を経ても長く楽しめるスポーツです。

今年初めて「ツール・ド・東北」を出走。日本にもたびたび訪れ、自転車の旅を楽しんでいる ©Liv

 若い世代にそういう自転車の楽しみを知ってもらうことも重要ですが、最近は私と同世代の女性でもe-BIKEを使えば、それまで自転車の経験がなくても同じように楽しむことができる時代になりました。体力がないことを理由にスポーツを諦めている人がいたら、ぜひe-BIKEからトライしてみてほしいと思います。

「リブへの期待を裏切らない」

─リブの“次の10年”の展望は?

ボニー:この10年間、実に色々なことがありました。業界関係者からも、たびたび「“女性専用モデル”はいらない」と指摘され続けてきました。

ボニー・ツーさん(70)。自身がスポーツバイクを始めようとしたときにアパレルやアクセサリーはもちろん、女性に適したバイクがなかったことため、自ら2008年にリブを創設。現在、クロスバイクから女性のプロチームに供給する機材を手掛けるなど、女性専用ブランドのパイオニアとしての地位を確立している Photo: Kyoko GOTO

 しかし、私はそうは思いません。社会の変化とともに、女性たちの意識の変化とともに確実にリブに対するニーズは増えているし、手応えも感じています。リブを信頼してくれている人たちを失望させないために、これからもリブを続けていくために、周囲からなんといわれようとこれからも自分の信念は貫いていきたいと思います。

 そして次の10年で、私は80歳を迎えます。その間に、この自分の夢を引き継いでくれる後継者が現れることを願っています。

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