日本勢の活躍には課題山積男女ともスイス勢が優勝、世界のトップ選手が絶賛の難コース 東京五輪MTBテストイベント

by 織田達 / Satoshi ODA
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 2020年に開催される東京オリンピック・マウンテンバイククロスカントリー競技のテストイベント「READY STEADY TOKYO -自転車競技(マウンテンバイク)」が10月6日、静岡県伊豆市にある日本サイクルスポーツセンター内の伊豆MTBコースで行われた。オリンピックを見据えた世界のトップ選手が集結し、本番さながらの熱戦を繰り広げた。

ドロップオフの向こう側に大勢の観客が見える。この光景を日本で見られたのはフォトグラファーとして胸アツだった Photo: Satoshi ODA

各セクションに伊豆の名所・名物

 今回レースはUCI(国際自転車競技連合)のクラス3のレースに位置づけられ、優勝してもポイントが10ポイントと多くないため、来日したワールドカップ常連のアメリカ・ヨーロッパ勢にとっては、UCIポイントよりも試走色が色濃い印象を受けた。

 全長約4km、高低差約160mのコースは、各セクションが地元伊豆の名所・名物をモチーフに「天城越え」「浄蓮の滝」「箸」「散り桜」「わさび」「踊り子歩道」「枯山水」「伊豆半島」といった名称が付けられ、開催地である静岡県のこだわりを感じられた。

「天城越え」の後に設置されたフライオーバーを通過するアン・テルスプトラ(オランダ) Photo: Satoshi ODA
「散り桜」とネーミングされたドロップオフを豪快に飛ぶ、川口うらら Photo: Satoshi ODA
修善寺駅前には臨時バスを待つ列がきれいにできていた Photo: Tomohiro SAITO

 また、このイベントは静岡県が募集した1000人の観客が観戦でき、運良く抽選に当選した観客は伊東駅、修善寺駅からそれぞれシャトルバスで、実際のオリンピックの観客搬送のテストも兼ねて来場する形となった。


修善寺駅前から会場に向かうシャトルバスの乗車場には抽選に当選した観客が並ぶ Photo: Momiko Tanne
修善寺駅の出入り口にはミストを設置、本番のTOKYO2020に向けてこの日も稼働させていた模様 Photo: Momiko Tanne

 午前11時にスタートした女子エリートでは、UCIランク上位40のうち31人を含む、43人がスタートリストに名を連ねた。なお、2018年の世界チャンピオンで2019年ワールドカップの総合チャンピオンのケイト・コートニー(アメリカ)は、前日の試走で膝を6針縫う怪我を負ったため、大事をとって未出走となった。

前日の負傷でレースは欠場したケイト・コートニーだったが、カメラを頭につけたスタッフと、レース前試走でコースをチェック Photo: Kenta SAWANO

女子はスイス勢が上位占める

 5周回で争われたこのレース、スタートで2019年世界チャンピオンのポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス)が大きく出遅れる。スタートループ後1周目に突入するとUCIランキング2位のヨランダ・ネフ(スイス)がトップに立つと、徐々に後続を離し始め2周回目になる頃には完全な独走状態となった。

ホールショットを奪ったのはハーレイ・スミス(カナダ) Photo: Satoshi ODA

 スタートの遅れを取り戻そうとプッシュするフェランプレヴォだが、ロックセクション下りで鼻骨を折るほどの激しいクラッシュをし、1周目にレースを棄権した。

世界チャンピオンの証、虹色のアルカンシエルを着るポリーヌ・フェランプレヴォ Photo: Kenta SAWANO
ロックセクションで落車し、鼻を負傷し棄権するポリーヌ・フェランプレヴォ  Photo: Kenta SAWANO

 ブロンドの髪を後ろに束ねたネフに続くのは、UCIランキング6位のシナ・フレイ(スイス)とUCIランキング1位のアン・テルプストラ(オランダ)。ネフとフレイの差はどんどん広がる一方だが、フレイとテルスプトラの差は付かず離れずといったところ。その後ろにはスタートしたアレッサンドロ・ケラー(スイス)が追い上げ5周目には前を走行中のエイブル・ロンジャ(イギリス)をかわし4位に浮上した。

最終ラップ、完全な独走状態となったヨランダ・ネフ(スイス) Photo: Satoshi ODA

 結局、「本当に調子がよく予想以上にいい走りができた」と語ってくれたネフが、2位のフレイに1分46秒の大差を付け優勝。スイスのワン・ツーフィニッシュとなった。3位にはテルプストラが入り、所属するゴースト・バイクが2−3を占め、4位にケラー、6位にもスイスのリンダ・インダーグランドが入ったことで、スイスからエントリーした4人が上位にランクインした。完走は39人だった。

2位でフィニッスしたシナ・フレイ(スイス)を迎えハグするヨランダ・ネフ(スイス) Photo: Satoshi ODA
女子ポディウム。左から2位シナ・フレイ(スイス)優勝ヨランダ・ネフ(スイス)、3位アン・テルスプトラ(オランダ) Photo: Satoshi ODA

女子日本勢は完走ならず

 スイスチームの強さについてネフは「自分たちの強さは団結力の強さ。シーズン中でも何度もトレーニングキャンプを行い、お互いを敵視するのではなく、お互いのために協力しながらレベルの底上げができているのが強さの秘訣」と答えてくれた。またコースの印象については「自分たちが普段走っているワールドカップと同じスタンダードな印象を受け、地形をうまく使った完成度の高いリアルなコース」との感想だった。

シナ・フレイ(スイス)は丁寧にファンサービスをしていたのが印象的だった Photo: Satoshi ODA
コントロールラインのゲートを背景にメダルを手にするヨランダ・ネフ(スイス) Photo: Satoshi ODA

 日本勢は2年連続全日本チャンピオンの今井美穂、U23チャンピオンの松本璃奈、アジア選手権U23カテゴリー3位の川口うららが出走するも、いずれも完走とはならず。今井と松本は最終ラップまであとわずかというところで、80%ルールで切られることとなった。

エリート女子スタート前に各国チームのライダーが紹介された。日本ナショナルチームに大きな歓声 Photo: Satoshi ODA
パックについて、序盤の急坂を上る今井美穂  Photo: Kenta SAWANO
海外選手から進路を閉ざされながら、必死に急坂「山葵」を上る松本璃奈  Photo: Kenta SAWANO
丸太越えを通過する松本璃奈。惜しくも最終ラップに入れずマイナス1ラップとなった Photo: Satoshi ODA
2年連続全日本チャンピオンの今井美穂は観客の応援を受けて前に進む  Photo: Kenta SAWANO

 国内シリーズ、アジアシリーズでは順調に勝利を重ねている今井だが、今回のコースは「今まで経験したことのないコース、急に行って走れるようなコースではありませんでした。特にロックセクションは経験がゼロなので正直、普通に走ることすらできず、経験の差を痛感しました。楽しく走ることができるようにレースやトレーニングで様々な経験を積んでいきたいです。日本の方々の声援が本当に凄く、本当に力になりました。そして、とても嬉しかったです。ありがとうございました」と語ってくれた。

世界王者シューター「素晴らしいコース」

 スタート前に空が曇り始め、雨が降り出しそうな空模様に変わった午後2時に男子エリートがスタート。このレースには6月早々に出場宣言をしていたMTB-XCのニュースター、現シクロクロス世界チャンピオンのマチュー・ファンデルプール(オランダ)の来日が期待されたが、先週行われたロードレース世界選手権の影響でコンディションを考慮し出場は取りやめに。それでもUCIランキング・世界選手権トップ10のうち7人を含む46人がスタートリストに名を連ね、ハイレベルなレースが予想された。

男子エリートのスタートは大迫力。ワールドカップで目にするトップライダーのほとんどがそこにいた Photo: Satoshi ODA

 レースはニノ・シューター(スイス)、ヘンリケ・アバンチーニ(ブラジル)、ゲルハルド・ケルシュバウマー(イタリア)ら、UCIランキングのトップ10圏内の数人がパックになりレースが進む。国内勢ではU23の平林安里がスタートからもうプッシュをするもペースダウン。平野星矢もクラッシュし遅れる。前田公平もここのところ調子を崩しているというも、必死にペースを保とうとしているが、苦しげな表情を浮かべていた。全日本王者の山本幸平だけが「最後まで走りきるのが目標だった」と語るように、唯一落ち着いた表情で淡々とペースで30〜35番手あたりを走る。

後方から好スタートを決めた平林安里 Photo: Satoshi ODA
順調に完走を目指して走行していた平野星矢だったが、この後クラッシュにより遅れてしまう Photo: Satoshi ODA
高低差のあるドロップオフの「散り桜」に密集した状態で突入するトップ集団 Photo: Satoshi ODA

 先頭集団ではセクションによって先頭が変わるものの大きな動きもなく、7人の先頭集団のまま最終ラップに突入すると、ホームストレート後に現れる「天城越え」のセクションでシューターがアタック。パックは崩壊し、シューターが単独先行する形となった。2〜3人によるゴールスプリントも予想されたが、シューターがホームストレートに現れると後続のコレトツキー・ヴィクトール(フランス)との差は10m近く。追いすがるヴィクトールを振り切って、UCIランキングトップで、世界チャンピオンのシューターが両手人差し指を空に向けてフィニッシュした。2位にはUCIランキング10位のヴィクトール、3位にはUCIランキング14位のルカ・ブライドット(イタリア)が入った。

ファイナルラップ突入時点でこの先頭集団の人数。しかしこの後ニノ・シューターがアタックを仕掛けパックが崩壊する Photo: Satoshi ODA
「天城越え」を通過するニノ・シューター(スイス)、この時点でリードが広がり始めた。 Photo: Satoshi ODA
両手で空を指さしフィニッシュする世界王者のニノ・シューター(スイス) Photo: Satoshi ODA
ホームストレートの両側を取り囲む観客とハイファイブを交わすニノ・シューター(スイス) Photo: Satoshi ODA

 上位3選手のコメントは以下の通り。

●優勝したニノ・シューター(スイス)

 「フィジカル的にも、技術的にも難しいコースだった。シーズンオフなので、調子が良いわけではなかったが、勝つことができた。コースは素晴らしく、後半の花畑のあたり(伊豆半島ゾーン)は、周りが静寂で日本的なコースだと感じた」

優勝後、ファンの男の子にグローブをプレゼントしサインしたニノ・シューター  Photo: Kenta SAWANO

●2位のコレトツキー・ヴィクトール(フランス)

 「スプリントまで持ち込んだが、最後のスプリントで勝つことは難しかった。でも2位には納得している。今回このコースを走れたことは大きいので来年の本大会につなげたい」

●3位のルカ・ブライドット(イタリア)

 「非常にテクニカルな難しいレースだった。次々とアタックがかかる状況だったのでレース中はとにかく集中力を切らさないように、先頭グループから遅れないように最大限注意を払った。オフシーズンに入っているのでどれだけ走れるか分からなかったけれど、結果的に自分のパフォーマンスには満足している」

男子ポディウム。左から2位コレトツキー・ヴィクトール(フランス)、優勝ニノ・シューター(スイス)、3位ルカ・ブライドット(イタリア) Photo: Satoshi ODA

日本チームにホームの利少なく

 日本人は出場4選手中ただ1人、山本が35位で完走した。ゴール後の山本は、次のようにコースとレースの印象を語った。

 「このコースを見るのが楽しみでこの日を迎えた。序盤に第1集団から遅れたが、今日はテストということで、自分なりに最後まで走り切るのが目標だったので、本番でしっかり走れるように集中して下りを走った。トップから7分差で遅れたが、来年は夏の環境で日本人に有利な環境になると思うので、もし出られたら、ベストを尽くせるよう仕上げていく。日本のMTBのレースは普段こんなに多くのお客さんは来ないが、今日はテストイベントということで世界のライダーがこんなにたくさん集まるのは今までなかったこと。今日から日本のマウンテンバイクシーンが始まる。世界のライダーとコースを見られたので、ここから若い選手が育ってきてほしいと思います」

「天城越え」を通過する日本人ただ一人の完走者である山本幸平 Photo: Satoshi ODA
35位、+8:38で観客とハイファイブしながらフィニッシュする山本幸平 Photo: Satoshi ODA
フィニッシュ後、大勢のメディアが山本幸平にコメントを求める Photo: Satoshi ODA

 最後に日本ナショナルチームを率いる鈴木雷太監督からは、「みなさんが見たとおり、世界との差がまだ大きくある事実を確認できたなかでも、前田公平や松本璃奈たちがギリギリマイナス1ラップとなってしまいましたが、善戦したかなと思っています」と率直な感想を聞かせてもらった。

声援を受け、ロックセクションをクリアする前田公平 Photo: Kenta SAWANO

 今後このコースは、日本ナショナルチームですら使用が許可されていないとのこと。ホームの利が生かされない状況だが、今回のレースで得たデータや映像を元に、似たようなシチュエーションを探すか、造るかしてトレーニングできればとのことだ。

 多くの観客だけではなく、我々報道陣も普段インターネットの向こう側にいるワールドカップを走る選手たちを目の前にし、驚き、興奮した1日だった。9カ月後このコースで本番のレースが行われるのだ。気候は明らかに晴れれば10℃近く、もしくはそれ以上高くなり、日差しも強くなるのが容易に想像できる。そんな中どんなレースが展開されるのか、想像するだけでワクワクしてしまう。幸運にもチケットの抽選に当選した方々には、ぜひとも真夏の修善寺で熱狂してもらいたい。

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