単なるレースイベントではなく「さいたまクリテリウム」の開催意義は? 探ると行きつくサイクルパーク構想と壮大なテーマ
多くのサイクルロードレースファンにとって「さいたまクリテリウム」は日本で行われる大規模なレースイベントのひとつ、といった認識だろう。しかし、大会の開催目的や位置づけを探っていくと、サイクルパーク構想といった興味深い取り組みを知ることになり、さいたまクリテリウムの存在意義や見え方も変わってくる。
開催意義はレースを見せるためではない!?
さいたまクリテリウムは、単なるレースイベントではない。もともとは、さいたま市の自転車を活用した街づくりを広く伝え、自転車の楽しみを伝えることを目的にしたシンボリックなイベントなのだ。
観覧者はどれだけ出場選手が豪華だったか、どれだけレースにワクワクできたか、という尺度しか持てないが、イベントを通じて自転車を活用したさいたま市の街づくりに触れていたわけである。
では、さいたま市が進める自転車を活用した街づくりとは何か。それは「さいたま自転車まちづくりプラン~さいたまはーと~」からわかる。ここには「さいたまクリテリウム」などイベントが位置づけられた「たのしむ」、交通安全教室などを実施する「まもる」、自転車レーンの拡張等の「はしる」といったキーワードと取り組みが記されているが、サイクリストならば誰もが興味を引く文字が見える。
それは「サイクルパーク構想」だ。さいたまはーとには軽く述べられている程度であり、その中身はほぼ知られていないと思うが、調べると驚愕の内容だ。
超充実したサイクルパーク構想の中身
さいたま市が公表する「サイクルパーク構想の検討状況」よれば、1周約2kmのロードレース周回コース(歩行者立ち入り不可)、MTBとシクロクロス用のオフロードコース、BMXコース(フリースタイルパーク、スピードレース)を備えた横幅500m、縦幅250mといったイメージを描いている。
構想するサイクルパークは、自転車安全教室を初めとして子供から大人まで楽しむことができる場所であり、レースイベントもロードレースでは毎週末から月1回の高頻度なイベントの開催を構想する。
MTBは入門、シクロクロスはある程度の本格競技ができる難易度のコースを想定。BMXもダブルヒル形式のジュニア規格と国際規格に対応したスピードレースコースなどとしている。さらにはサイクルパーク内に、インバウンドニーズに応え、選手強化合宿にも使える宿泊施設も設けるという。
計画では今年度までに基本計画を定める予定で、さいたま市内のどこにできるのかは決まっていないが、完成すれば、さいたま市民を中心にサイクリストで賑わいそうだ。
街づくりのシンボルから文化浸透の指標に
さいたまクリテリウムを探ったら、サイクルパーク構想にたどり着いたが、この2つは点と点ではなく、線で結べる密接な関係にある。
さいたまクリテリウムは、自転車の街づくりのためのシンボルとしての存在。そこを頂点として、自転車文化を根付かせるには、自転車に親しみ、自転車を楽しむ機会が不可欠となる。365日触れ合う“代表的なコンテンツ”としてサイクルパーク構想があり、市民と自転車が近い関係になってこそ、自転車ファンを増えていく。その循環が成り立ってこそ、さいたまクリテリウムの価値向上につながっていくというのだ。

このことを明確にメッセージとして発信しているのが、池田純氏だ。
池田氏は倒産状態の横浜DeNAベイスターズを復活・躍進させた人物。現在はスポーツ振興と地域の活性化を目的とし、さいたまクリテリウムの主催団体となる一般社団法人さいたまスポーツコミッションの会長となっている。
池田氏はさいたまクリテリウムの課題について「市民に喜ばれつつ、収益を伸ばしながら、自転車文化を根付かせていけるかが今後の課題となる。そのためにも、どうやって365日自転車に接する文化を作るかが重要。行政(さいたま市)と一緒に、ハード、ソフトを作り、自転車文化が根付けば、さいたまクリテリウムが人気になり、ファンが増えていく。さいたまクリテリウムだけではなくて、どうやって自転車文化をつくっていくかが重要」と語る(4月15日イベント概要発表会にて、以下発言同)。
さいたまクリテリウムを頂点とし、裾野拡大のために多くの人が自転車に親しみ、自転車を楽しめるように体験を生み出す手法は、横浜DeNAベイスターズを復活に導いた考えと同様であるという。
さらに池田氏は「地域活性にスポーツを活用できるか。モデル事例になれるか」と、さいたまスポーツコミッションが取り組む壮大なテーマについて話している。さいたまクリテリウムは現状、さいたま市の自転車を活用した街づくりのシンボルとしての存在にすぎないが、同氏の発言をもとにすると、イベントの賑わいは、いずれさいたま市内の自転車文化の浸透具合を推し量るひとつの指標となるだろう。さらには、自転車を活用した街づくりが本当に可能なのかを示すものとなりそうだ。