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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<309>勝敗を分けたのは冷雨への適応力 UCIロード世界選エリート男子総括

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 23歳と285日。UCIロード世界選手権の歴史上11番目の若さで世界王者に輝いたマッズ・ペデルセン(デンマーク、トレック・セガフレード)。今大会の最終種目であったエリート男子ロードレースは、戦前の予報通り激しい雨に見舞われ、完走者が46人にとどまるなど直接的にレース展開に影響を及ぼすものに。終わってみれば、表彰台を占めた3選手の悪天候への適応力の高さという共通項と、悪天候で強豪国の計算にズレが生じていたことが浮き彫りとなった。そこで今回は、レース総括としてこれらをピックアップ。マイヨアルカンシエルを決める戦いにおいて、何が起きていたのかを分析してみる。

UCIロード世界選手権・エリート男子ロードレースを制したマッズ・ペデルセン。史上11番目の若さで世界王者となった Photo: Yuzuru SUNADA

冷雨への適応力がレース結果に作用

 悪天候により約20km距離が短縮されて行われたエリート男子ロードレース。コースが発表された段階では、厳しいアップダウンが脚を試すものとみられ、クラシックレースなどワンデーの戦いを得意とする選手たち優位との声が大多数だった。

激しい冷雨の中でのレースとなったエリート男子ロードレース Photo: Pool / SWP / SUNADA

 実際そのようなコースの難易度も一因になったとみられるが、何よりも天候がすべてを左右した。特に一線級をそろえられる強豪国であれば、1年近く前からコースチェックを数回にわたって行っているケースもあり、レースコースに適応する選手たちをフルに揃えられるだけの選手層の厚さも持ち合わせる。いわば、戦力的には紙一重といえるレースにあって差を生み出したのは、強い雨とそれにともなう寒さに適応できたかどうかだった。

 それでも、今回のペデルセンの優勝を予想できた人はほとんどいなかったのではないだろうか。確かに、昨年のツール・デ・フランドル2位など、ここ一番での好走が光る選手ではあったが、今シーズンはビッグレースでの上位進出はなし。挙げるとするならば、世界王者となる1週間前にフランスで出場したレースで独走勝利を演じていたことくらい。

マッズ・ペデルセンを勝利に導いたデンマーク代表。実力者を揃えて臨むことができた Photo: Yuzuru SUNADA

 そんな伏兵が勝利を収めるきっかけとなったのは、早めの飛び出しだった。今大会、充実した戦力をそろえられたデンマークは、ペデルセンが残り4周でアタックした時点で、メイン集団にはミケル・ヴァルグレン(ディメンションデータ)とヤコブ・フルサング(アスタナ プロチーム)が待機。レース前半からカスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ)やマグナス・コルトニールセン(アスタナ プロチーム)らが集団コントロールを行い、終盤にかけても実績十分の選手を残すなど、タフな展開に対応できるだけのチーム力があったことも大きかった。

 悪天候によって他国が消耗し、ペデルセンらの逃げ切りが決まった形になったが、自身も6位と好走したヴァルグレンがレース後に「雨には慣れている部分がある」と答え、年間を通して雨の多いデンマークの天候が今回のレースに適応する要素となったと分析している。

最終局面へと向かう上位3選手。かねてから悪天候への適応力の高さを見せていた選手たちだった Photo: Pool / SWP / SUNADA

 冷雨への適応力という面では、上位を押さえた3選手はいずれも同様のレースで結果を残してきたという共通点もある。ペデルセン、2位のマッテオ・トレンティン(イタリア、ミッチェルトン・スコット)、3位のステファン・キュンク(ベルギー、グルパマ・エフデジ)はいずれも、天気が変わりやすいベルギーの石畳系クラシックで実績があるほか、トレンティンは今回に近い天気だった昨年のヨーロッパ選手権で優勝。キュンクも大雨の中で逃げ切り勝利を挙げたことがある。これらのデータと今回の上位進出とに、直接的な関連があるとは言い切れないが、彼らがハードワークが求められるレースに強いことを証明したことは事実だろう。

 若くして世界の頂点に立ったペデルセンだが、今後のキャリアにおいてマークされる存在となることに覚悟を決める必要がありそうだ。もっとも、レース後には「今までのように静かな場所で走ることは難しい」とのコメントを残しているように、ノーマークから相手の虚を衝くような走りはこの先できないと思った方がよいだろう。世界王者にふさわしい戦いぶり、そして強さを今シーズン終盤、さらには来シーズンと見せていくことが期待される。プレッシャーの中でいかにして戦っていくかが見ものだ。

死闘を制して世界王者となったマッズ・ペデルセン(左)。これからは他選手のマークが厳しくなることへの覚悟が求められる Photo: Yuzuru SUNADA

天候が誤算を招いたフランスとベルギー

 レース終盤に差し掛かっても5人の先頭グループらリードし続け、最終的に4人が逃げ切った今回のエリート男子ロード。メイン集団は数的に優位なはずで、実際に人数をそろえていた国も複数あった。

レースを終えて苦痛に表情を歪めるジュリアン・アラフィリップ。優勝候補と見られたが寒さに敗れる格好となった Photo: Yuzuru SUNADA

 フランスはジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)での勝利を悲願に戦ったが、肝心のアラフィリップが最終周回で脱落。長い時間集団のコントロールをアシスト陣が担ってきたが、最終周回に入る頃にはその流れも崩壊。結局、トニー・ガロパン(アージェードゥーゼール ラモンディアール)がペデルセンから1分50秒遅れて23位でフィニッシュしたのが最高だった。

 さらに遅れて28位で終えたアラフィリップは、「今までになく厳しいレースだった」とコメント。「望んでいたコンディションではなかった」と、やはり天候に苦しめられたことを明かす。ただ、レースプランはヘッドコーチであるトマ・ヴォクレール氏の指示通り進められたといい、その点に関しては満足しているという。天気さえよければ…といったところか。

戦力を整えて臨んだベルギーもグレッグ・ファンアーフェルマートの8位が最高だった Photo: Yuzuru SUNADA

 同様にチーム戦を望みながらうまく運べなかったのがベルギー。レース中盤に落車したフィリップ・ジルベールと、その後メイン集団への引き上げを担ったレムコ・エヴェネプール(ともにドゥクーニンク・クイックステップ)が早々にリタイアに終わったが、その時点からグレッグ・ファンアーフェルマート(CCCチーム)での上位進出に狙いを切り替えた。

 しかし、こちらも最終周回にアシスト陣が崩壊。単騎になってしまったファンアーフェルマートは集団内での上位争いをかけたスプリントに挑むのが精いっぱい。

 絶対的なエースを擁し、レースの中心になると思われた両国。最高クラスの戦力をそろえていても、天気には勝てずに終戦を迎えたのだった。

単騎ゆえの難しさに苦杯

 天候に味方にした選手、嫌われた選手とさまざまだが、異なる立場で勝ちを逃した選手も存在する。

5位に終わり肩を落とすペテル・サガン Photo: Yuzuru SUNADA

 2年ぶりの世界王座奪還に挑んだペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)は、出場枠獲得が4つと有力国と比べ少ない出走人数にあって、アシストがレースから離脱した終盤は孤軍奮闘。これまでも単騎で強国を打ち破ってきていたが、今回ばかりはそうもいかなかった。

 ペデルセンら5人が先行した時点で、前述したようにフランスやベルギーが人数を残しており、メイン集団をコントロールしていたこともあって、サガンとしては最低限少人数スプリントには持ち込めると読んでいたという。有力選手たちのアタックにも備え、勝ちパターンに運んでいく計算はできていた。

 そんな読みにズレが生まれたのは、寒さに苦しんだ有力国の失速だった。単騎ではなかなか自分からは仕掛けられず、残り3.5kmで飛び出したものの「その頃には手遅れであることは分かっていた」と、現実を直視しながら一縷の望みをかけた追走だったことを示唆。5位という結果に悔しさをにじませつつも「これもレースのだから」と前を向いた。

 サガンほどの実力・実績のある選手であれば、仮にペデルセンらと同様に早めに前に出る選択をしたところで、他選手・チームのマークが厳しかったであろうことは容易に想像ができる。逃げようにも選手間での協調体制が生まれず、集団に引き戻されていた可能性が高い。もちろん、これらはあくまでも推察でしかないが…。

 だが、本人もこれらを見越して終盤勝負と踏んだのだろう。ここにもまた、狙い通りにレースが進められず終戦を迎えた大物がいたのだった。

今週の爆走ライダー−ミッケル・ビョーグ(デンマーク、ハーゲンスバーマン・アクション)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 今年のUCIロード世界選手権・エリート男子ロードを制したペデルセンの「デンマーク自転車連盟のサポートの手厚さが勝利に結びついた」との言葉が証明するように、いまやロードレース王国である“北欧の雄”の勢いはとどまることを知らない。男女を問わず、育成年代からのプロまでの一貫した強化が進行中。ペデルセンはジュニア時代にも世界の表彰台を経験していたが、今回の勝利こそが同国の取り組みにおける最大の成果である。

3年連続でアンダー23個人タイムトライアルの世界王者となったミッケル・ビョーグ。2020年シーズンからUAE・チーム エミレーツで走る Photo: Yuzuru SUNADA

 彼らに続く世代も着々と力をつけている。アンダー23の個人タイムトライアルを制したミッケル・ビョーグは、この世代ではナンバーワンと言われるTTスペシャリスト。同種目での3連覇を果たし、晴れてアンダー世代を卒業する。

 プロでの活躍が大いに注目されるが、キャリアのステップアップに選んだのはUAE・チーム エミレーツ。2020年からの3年契約に合意した。

 他のビッグチーム入りなども噂されたが、最大の決め手となったのは「アワーレコード挑戦への理解」だった。契約期間である3年の間に同種目でのUCI世界記録樹立を目指すことで話はまとまった。

 その手始めとして、10月6日にデンマーク記録に挑戦する。ターゲットとなるのは53.975km。「うまくいけば54kmを超えることができると思う」というが、今回はUCI世界記録である55.089kmは現実的ではないと理解している。

 プロ入り後のレース活動についても考えていかなければならない時期に差し掛かっている。現状は典型的なクロノマンで、ロードの走りは本人にして「まだまだ未熟」。同年代にあるエガン・ベルナル(コロンビア、チーム イネオス)やエヴェネプール、そして来年からチームメートになるタデイ・ポガチャル(スロベニア)とは、まったくもって比較にならないと話す。「タイムトライアルは本当に自信があるのだけれど、ロードレースになると…」という口ぶりは、彼の偽らざる気持ちだ。

 違った見方をすれば、まだまだいくつもの可能性を秘めているといえそうだ。魅力十分のタイムトライアルに加えて、ロードでも長所を見つけられたとき、プロトン最高のライダーとなっていることだってあり得るのだ。191cmという大きな体躯に秘められたポテンシャルは、ロードレース界の未来とも言えそうだ。

タイムトライアルに絶対的な自信を持つミッケル・ビョーグ。この数年のうちにアワーレコードへの挑戦を計画。まだまだ未熟というロードレースでも将来の活躍を誓う Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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