宮城県大崎市の佐々木さん親子に同行初の家族全員旅行で「ツール・ド・東北」に参加 父娘が北上100kmに挑戦した理由

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 大会史上最多の約4000人が参加した9月15日開催のロングライドイベント「ツール・ド・東北」。イベント初挑戦にこの大会を選ぶサイクリストも多く、今年の北上フォンド100kmには昨年の1.5倍という参加者が集まり、快晴の三陸沿岸を快走した。今回、イベント初参加の宮城県大崎市在住の親子に帯同。なぜ100kmに挑戦したのか? そしてどのような気持ちで走ったかを編集部の同行リポートでお届けします。

女川港をバックにヒルクライムする佐々木殉子さん Photo: Kenta SAWANO

お揃いのピンク色ジャージ

 9月15日の朝、快晴の石巻専修大のスタート地点に、チェレステグリーンのビアンキにまたがり、ピンクのジャージで揃えた父と娘がいた。宮城県大崎市から参加した佐々木林次郎さん(50歳)・殉子さん(大学3年)親子だ。「走り切れるかな」と顔を見合わせる2人の表情からは、不安よりもイベント初挑戦の期待感が見て取れた。

笑顔でスタートを待つ佐々木林次郎さん殉子さん親子 Photo: Kenta SAWANO

 細身の父・林次郎さんはヒルクライムが得意。しかし酪農を営み、牛の世話で365日休みがないため、5時間以上家を離れることができず、練習は月に2、3回程、自宅周辺の山岳コースを走っている。距離は15kmでこれまで1回で走った最長距離は50km程度だという。

 父がロードバイクに乗る姿に憧れ、この春に貯金をしてロードバイクを買ったという殉子さんは、現在北海道の大学に通い、週末に50km走るというが全て平地。「65km(雄勝フォンド)は完走できる気がしたので、100kmという距離に挑戦したかったんです」と初参加の理由を話してくれた。もう一つの理由は「震災後から、さらに海が怖くなりました。それは津波被害がかなりのショックで、海への漠然とした恐怖があったためです。今回の100kmへの挑戦は、苦手なヒルクライムと海への克服でもありました」と後に振り返った。

午前7時半、快晴の石巻専修大をスタートする Photo: Kenta SAWANO

 午前7時30分、100kmに挑戦する参加者の後半部分でスタート。林次郎さんの後ろに殉子さんがピッタリついて、昨年よりもきれいに舗装された石巻市の道路を進んだ。収穫期を迎えつつある稲穂、いくつもの川を渡ると、女川に向かう最初のヒルクライムへ。ヒルクライムが得意な父・林次郎さんが殉子さんを気遣いながら、2人で前後に並んでクリアした。長いダウンヒルも無難にこなした親子は、もとは海だった湖・万石浦(まんごくうら)を右に見ながら最初の休憩地点「女川エイドステーション(AS)」へ。

石巻を出て最初のヒルクライム区間。ピンクのウェアが映える Photo: Kenta SAWANO

地元グルメがモチベーションに

女川AS付近では大漁旗の歓迎を受けた Photo: Kenta SAWANO

 地元の婦人会の方々が心をこめて作ってくれた「女川汁」を楽しみにしていた2人は、女川駅の前の芝生に座って、大事にイワシのつみれやネギの入った地元グルメを堪能。コースマップではASのグルメもしっかりチェックしてきたとのことで「次は、焼いたホタテが出るというのでモチベーションも上がります。ここから上り坂が多いと言うのが心配ですが」と次の雄勝ASを目指して出発した。

最初の女川ASではサンマのつみれが入った女川汁に「おいしい~」 Photo: Kenta SAWANO
「おいしそう!」目の前で焼かれるホタテを写真に収める Photo: Kenta SAWANO

 あまりヒルクライムの経験がない殉子さんは、ここからリアス式海岸沿いのアップダウンに一苦労した。少しずつ林次郎さんから遅れを取り、マイペースに進んだ。上りの頂上や、トンネルの手前など、要所要所で2人は合流し、苦しい坂をクリアしていった。雄勝に近づくと、大漁旗や、並んで応援する地域の方々が段々多くなり、2人の表情も明るくなった。雄勝ASではお目当ての焼きホタテを楊枝に刺してパクリ。「お腹がすいているのでもっとお代わりしたいくらいです」と言いながら折り返し地点の神割崎ASへ向かった。

 ここからが2人にとって最難関ポイントだった。アップダウンの標高差が多くなり、苦悶の表情を浮かべる殉子さんだったが、決して急坂にも自転車を降りることなく、しっかり漕ぎ続ける。「まだロードバイクで立ちこぎができないんです」と吐露するが、多くのビギナーと見られる参加者が歩く中、バドミントン競技経験者らしいしっかりとした下半身で、シッティングのままペダルを漕いだ。「お父さんに負けたくないですから」。父を目標に神割崎付近のアップダウンもクリアした。

ヒルクライムに苦戦する殉子さんを林太郎さんが後ろから優しく見守る Photo: Kenta SAWANO

初めて海を見る家族と神割崎で合流

 「神割崎AS」に到着すると一番楽しみにしていた「シーフードカレー」で栄養補給。この地で水揚げされたタコが入って、“海のパイナップル”ホヤもトッピングされた一品を食べ終え、バイクの元に戻ると、そこには家族4人が待っていた。「ここまで大丈夫だった?」と心配する母章江さんたち家族。次女・道子さん、長男・凜三郎くん、次男・幸四郎さんも一緒だった。

神割崎では待ち受けていた家族から激励を受けた Photo: Kenta SAWANO
ボトルから補給するタイミングも一緒の佐々木親子 Photo: Kenta SAWANO

 佐々木さん親子にとって今回のツール・ド・東北参加は2人だけのイベントでなかった。6人家族全員での初の家族旅行となったからだ。酪農家は飼っている牛をそのままにして家を空けることができない。今回は代わりに世話をしてくれる業者を雇って初めて一家で石巻の両親の家に宿泊。「2人の息子は生まれてからまだ海を見たことがなかったので、宮城の海を見せたかったんです」と林次郎さんは話す。

酪農家として被災の影響

佐々木さん一家の経営する牧場の牛舎で遊ぶ弟たち(提供写真)

 佐々木さん一家が住む宮城県大崎市は、内陸部に位置し、東日本大震災で一家に直接大きな被害はなかったが、停電したことで大きな苦労があったという。「乳絞り機が動かなくなったので、家族全員で乳を手で搾り、3月11日は夕方5時から搾り始め、作業が終わったら12日の2時になっていました。沿岸部に大きな津波が来ていたのもその時は知りませんでした」と震災直後の苦労を振り返る。そこから8年半、震災直後に生まれた2人の息子さんも小学1、2年になり、初めての家族旅行を計画し、それがツール・ド・東北になった。

 家族の応援と、三陸の幸の入ったカレーライスで栄養補給した2人は、未体験の100kmへ快調に復路を走った。後半の平地では、追い風もあり往路よりもスピードに乗る殉子さん。「ロードバイクってこんなに気持ちいいんですね」と平地ではグイグイ進んだ。足に痛みが出てきた林次郎さんを引っ張るシーンも出てきた。

 最後の補給地点白浜ASは今年、海岸付近が整備された。ここまでエイドステーションでは食事以外は時間を割かなかった2人だが、ここでは新しくできた、海を見渡せる東屋からゆっくり海を眺めた。「小学生の頃、母の実家(石巻)へ夏休みに帰省した折り、白浜海水浴場に良く連れて行ってもらいました。今回白浜ASに立ち寄る事が出来て懐かしく思い、まさか自転車でこの海岸付近を走るとは夢にもおもいませんでした。津波の被害により海岸の景色も変わってしまったと思いますが、これからは息子達を海水浴に連れて来ようと思います」と林太郎さんは、生まれ変わった海岸に自らの思い出を重ねた。

北上川近くの田園風景を真横に進む Photo: Kenta SAWANO

 石巻に戻ってくると、再び収穫前の稲穂を眺めながらゴールに向かう。最後まで周りの集団と一緒に走った佐々木さん親子は石巻専修大のゴールを2人横に並んで通過した。2人は走りきったらやろうとしていた手を合わせてガッツポーズの記念写真を撮った。

2人で握手しながらゴールはできなかったけれど、満足そうな笑顔! Photo: Kenta SAWANO

 初挑戦でアップダウンのあるツール・ド・東北を完走した2人。殉子さんは「自信になる北上100kmでした。みんなで走ると楽しいということが分かりました。神割崎では辛い坂を登りきった先に、海が見えました。今まで見た海の中で一番美しく綺麗でした。このツールド東北は、きっと一生忘れることはないと思います。そして、復興と地域の方々のパワーを感じながらのライドは、とても勇気づけられるものでした」と語った。

揃って完走した林次郎さんは、左手で同じグローブをした殉子さんとがっちり握手 Photo: Kenta SAWANO

 父の林次郎さんは「小学生の頃、母の実家へ夏休みに帰省した折り、白浜海水浴場に良く連れて行ってもらっいました。今回白浜ASに立ち寄る事が出来て懐かしく思い、まさか自転車でこの海岸付近を走るとは夢にもおもいませんでした。津波の被害により海岸の景色も変わってしまったと思いますが、これからは息子達を海水浴に連れて来ようと思います」と新しく復興しつつある三陸の海への再訪を誓った。

※取材費用の一部をヤフー株式会社が負担しています。

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