e-BIKEが広げる新しい世界ツール・ド・東北と仙台ライドで日本・台湾の女性サイクリストが交流 「自転車は共通言語」

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 大会史上最多となる3973人の参加者となった9月15日の「ツール・ド・東北2019」。その中に総勢20人の女性のチームの姿があった。女優でエッセイストの一青妙(ひとと たえ)さん率いる、ほぼ全員がビギナーの女性10人から成るサイクリングチーム「ワンダーブルー」と、ジャイアントグローバルグループのボニー・ツー会長率いる台湾人のツアー参加者だ。サイクリストで、日本と台湾にルーツをもつ一青さんがつないだ日台女性サイクリストの輪。東日本大震災の被災地で、それぞれ「初めてのロングライド」「初めての日本」を走った女性たちは何を見て、何を感じたのだろうか。

東日本大震災の震災遺構となった荒浜小学校の前で。「加油(がんばれ)!東北!」 © GIANT

環島挑戦の女性チーム「ワンダーブルー」結成

 サイクリストであれば一度は聞いたことがあるだろう「環島」(ファンダオ)という言葉。中国語で「島を一周する」という意味で、台湾一周(966km)を旅することをいう。ここ10年ほどは自転車で一周するチャレンジライドがブームとなっており、いまや台湾人のみならず世界のサイクリストが挑戦するサイクリングルートとなっている。

 一青さんはこの環島の完走者。自分の出生のルーツがある台湾をもっと知りたいと環島に挑戦したことを機に自転車から見える景色に魅了され、以来各地で開催されるイベントに参加しながら、日本国内を自転車で巡っている。

一青妙さん。エッセイスト・女優・歯科医として活躍。台湾人の父と日本人の母との間に生まれる。「四国一周サイクリングPR大使」等の任を受け、日台の架け橋となる文化交流活動に力を入れる © GIANT

 そんな一青さんが女性たちで構成するチーム「ワンダーブルー」を立ち上げた理由は、「国内のライドイベントに参加する中で女性サイクリストの少なさを感じた」からだという。「欧州や米国はもちろんですが、台湾でも女性が気軽に自転車に乗り、家族や友人とサイクリングを楽しむ姿をよく見かけます。一方で日本では、街では“ママチャリ”に乗る女性の姿をたくさん見かけるのに、サイクルイベント会場は男性ばかり。女性にもスポーツバイクの面白さを知ってほしい」と語る。

 一青さんの声掛けで集まった10人の女性は2人を除きロングライド未経験者で、かつスポーツバイクに触れたことがない人が半数以上というメンバー。最終的な目標に環島を掲げるチャレンジングなチームだが、環島に挑戦したい人から、台湾が好きだからという人まで参加動機は多種多様。「ここでチャレンジしなかったら、もう次はないと思い」と一念発起して臨んでいる女性もいた。

10人の女性で結成されたサイクリングチーム「ワンダーブルー」の皆さん(手前、左から2人目が一青妙さん)。メンバーには高校生も! 提供: 一青妙

 ちなみに「ワンダーブルー」というチーム名は一青さんの名にある「青」に由来するもので、「空の色、海の色、草花の色、さまざまなブルーがあるように、メンバーそれぞれが自分らしくサイクリングを楽しみ、輝き続けてほしいという想いを込めた」という。

 ツール・ド・東北をキックオフの場に選んだことについて、「ただ走るだけでなく目的意識がはっきりしているイベントで、エイドステーション含め大会運営がしっかりしていること。また、沿道で応援してくれる地元の方と触れ合いながら走れるのも同大会の特長で、初めてのサイクルイベントとしては印象に残るものになると考えたから」という一青さん。さらに、台湾から参加する女性チームとともに走ることで影響を受け、台湾の環島への意欲につながればとの思いもあった。

 台湾から訪れたのは同国の自転車ブランド、ジャイアントの台湾支社が実施するツアーを利用して来たボニー・ツー会長を含む女性を中心とした14人のサイクリスト。ジャイアントは東日本大震災が発生した当時、道路の損壊で車両移動に困難を来した被災地に、ボランティア等の移動手段としてマウンテンバイク1000台を無償提供するなど、被災地としても深い縁がある。

開会式で挨拶するジャイアントグローバルグループのボニー・ツー会長 © GIANT
サイクリングツアーで参加したボニー・ツー会長を含む14人の台湾人 © GIANT

 かつて台湾で起きた大地震で日本からの支援があったことに触れ、「当時のことはとても感謝している。日本とはお互いに助け合う仲。いつか私も自分の脚で被災地を巡り、復興の様子をこの目で見届けたいと思っていた」というボニー会長。その思いが8年越しでようやく叶った格好だ。

e-BIKEで被災地を走るということ

 ワンダブルーと台湾グループが走るコースは「北上フォンド」。リアス式海岸を体感できる勾配を走破し、景勝地・神割崎を折り返すコースで、100kmで獲得標高約1,080mというなかなかの健脚向けだが、両チームが乗るのはジャイアントの女性ブランド、リブの女性専用スポーツe-BIKE「エスケープRX W-E+」。「まずはライドイベントの楽しさを体験してほしい」という一青さんの提案にリブが賛同し、サポートライドが実現した。

ワンダーブルー、台湾グループともにリブのe-BIKE「ESCAPE RX W-E+」に乗ってらくらくサイクリング © GIANT

 練習会を2回行い、自転車にまたがることから始めて試走した程度で本番を迎えたワンダーブルーのメンバー。「正直、完走できない人が出るのではと思っていた」という一青さんの不安をよそに、全員が快走を見せていた。

 メンバーの1人で、仙台在住の松本尚美さんは「e-BIKEは山道でも後ろから押してもらっているような感じ。ロードバイク男性が真っ赤な顔をして上っている横をスイッと追い抜かすのは罪悪感を覚えました(笑)」と余裕のコメント。一方でギヤの操作がまだ不慣れなせいか、脚にじわじわと疲労感が溜まったそうで、「電動といっても、あくまでも『アシスト』なんですね」と、しっかり“自力感”を感じていた。

一青さんの誘いで6月から自転車に乗り始めた、地元在住の松本尚美さん。まったく運動経験がなく、不安を感じていたがe-BIKEのおかげで完走! © GIANT

 そして「仙台に移り住んで13年。昔の街並みを思い出すと心がぎゅっとして、少し視界がぼやけました。同時に石巻、女川、南三陸の人口の少なさに悲しくなりました。応援や見に来ている人が少なくて、しかも応援してくれる人に高齢者が多く、街の未来を思うと切なくなりました。これも車で普通に通ったり、こういうイベントに参加しなければ気づかずにいたことだと思います。東京出身の私がなぜ仙台に永住することを決めたのかをもう一度思い出し、これから自分がすべきことを改めて考え直すきっかけになりました」と話していた。

「沿道からの声援に感激!」と今井さきさん © GIANT

 「イベントに参加したくても勇気や知識が無く、前に踏み出せなかった」という今井さきさんは、「復興の応援を頭の片隅においてスタートしましたが、沿道に出た瞬間から声援を送って下さる地元の方たちに逆に励まされ、涙が暫く止まりませんでした。e-BIKEとはいえ100kmを走れるか不安でしたが、声援のおかげで元気づけられ、ゴールをまで漕ぎ続けることが出来ました。初めて参加するイベントが『ツール・ド・東北』でよかった」と話していた。

沿道で応援してくれる地元の皆さんと一緒に記念撮影 © GIANT
エイド食を美味しそうに頬張る台湾グループの皆さん。ライドで疲れすぎないのでグルメもしっかり堪能できる © GIANT

 ライドを楽しむ一方で、一青さんは被災地への思いを馳せていた。震災発生から3カ月後の2011年6月、歯科医として被災地の石巻市に歯科医療支援に向かった当時、見渡す限りの瓦礫と、人影よりも多いトラックの往来を眺めながら呆然とした。今回、8年前に訪れたのと同じ場所を走り、確実に復興された街並みを見て、一青さんは「人間の生きる力の偉大さを実感し、現地の人たちが悲しみから確実に前に進んでいる姿に感銘を受けた」と話していた。

アップダウンを繰り返した100kmコースの「北上フォンド」を皆そろって笑顔でゴール © GIANT

サイクリングの延長にある震災遺構

 ツール・ド・東北の翌日にはワンダーブルーの一部のメンバーと台湾チームと合同でサイクリングを実施。仙台沿岸部から人気の温泉地「秋保」を目指す66kmのコースを走った。

 途中で訪れたのは震災による津波の被害を受け、「震災遺構」となった仙台市立荒浜小学校。仙台市中心部から東に約10km離れた太平洋沿岸部に位置しており、海岸線に沿うように運河が流れ、その周辺には約800世帯、2200人が暮らす集落が存在していた。

翌日のアフターライドで訪れた荒浜小学校。津波で被災した当時の状態がそのまま残されている Photo: Kyoko GOTO

 そこに暮らしがあったとは思えないほど何もなくなってしまった土地に、唯一つ残された荒浜小学校。校舎の1、2階は窓が割れ、手すりが曲がるなど、津波の爪痕がそのまま残されており、その生々しい様子を参加者は息を呑んで見つめていた。

 当時、校舎の屋上に避難した住民は消防ヘリコプターによって救助されたそうだが、一人ずつ引き上げるため非常に時間がかかり、全員の救助が完了するまでに27時間を要したという。地震が発生したのは3月11日。当時の寒さと過酷さを思ったのか、参加者たちからは驚きの声が漏れた。

震災当時の様子を語る高山智行さんの話に、真剣に耳を傾ける © GIANT
津波によって拉げたベランダの手すり Photo: Kyoko GOTO

 荒浜小学校について解説をしてくれた仙台市職員の高山智行さんは、「普通の生活が一瞬で全て失われた。これは特別なことではなく、日本中どこでも起き得る可能性がある。災害に備える気持ちを持ち続けるためにも、この事実を忘れないでほしい」と話していた。

津波が飲み込んだ1階の教室 Photo: Kyoko GOTO
校舎4階には、地元の人たちが作成したというかつての町の模型が展示されている © GIANT

 日本人の参加者からは、「ツール・ド・東北を完走出来た喜びが大きい中、被災の地であることを振り返って教えてくれる震災遺構などの見学が含まれていて、本当によかった」という感想が寄せられた他、台湾人の参加者からは「胸が痛いが、震災遺構をサイクリングで訪れるということは海外からのサイクリストにとって311を風化させないための有効な方法。これからも続けてほしい」といった声もあった。

2日間のライドで起きた“化学変化”

 その後は、日本三大名瀑の一つに数えられる秋保大滝へ向けて里山サイクリング。アップダウンが多く、ときに勾配10%超の激坂も現れたが、前日同様e-BIKEで参加者は皆、快適に行程をこなしていった。

黄金色に染まりかけた稲穂を横目に © GIANT

 黄色に染まり始めた稲穂や、周辺に咲き誇るそばの花畑など、次々に変わっていく里山の景色に台湾グループは興味津々の様子。ワンダーブルーのメンバーも、「自転車で走ると五感が刺激されました。草の擦れる音、風の音、海の匂い、川の音、全てが新鮮」と嬉しそうな様子だった。

 途中からは郡和子・仙台市長も合流。地元仙台のサイクルツーリズムの魅力を紹介するように、ボニー会長をエスコートしていた。

白い花畑がそばの花だと知り、驚くボニー会長 © GIANT
途中から郡和子・仙台市長もライドに合流 © GIANT

 終点は「ニッカウヰスキー仙台工場宮城峡蒸溜所」。サイクリングはここで終了し、一行はおみやげを物色しながら試飲コーナーでウイスキーを堪能していた。あちこちで聞こえる乾杯の声に目を向けると、杯を交わしているのは日本人と台湾人。2日間のライドですっかり打ち解けた様子だった。

ウイスキーで乾杯する台湾人のアマンダさん(写真左)と日本人の中島静佳さん Photo: Kyoko GOTO

 ワンダーブルーのメンバー、中島静佳さんは「スポーツバイクはキツい体験から始まって嫌になってしまう人も少なくないけれど、原体験が楽しければ人はもっと自転車が好きになる。入り口が楽しいかどうかはとても重要で、そういう意味で“快適・絶景・美味しいもの”が堪能できたe-BIKEサイクリングは本当に楽しい思い出になった」と感想を語った。

最後のお別れを惜しむ両国の参加者 Photo: Kyoko GOTO

 松本尚美さんは台湾グループとのライドについて「同じものを見て、同じように雨を浴び、おやつを食べて、トイレに並んでるうちに、いつの間にか日本語、英語、中国語混じりで話していました。台湾人、日本人ミックスで雨の中走った田んぼ道、峠道は良い思い出になりました」とのこと。とくに面白かったのは、自転車に世界共通言語があると知ったこと。「『右に行く』『ここ危ない』『ゆっくり』などがすべて共通のボディランゲージで、いつのまにかチーム一丸となって目的に向かっていました」─。

自転車は皆を一つにする共通言語

 今回の日台サイクリストをつないだ一青さんは、「台湾は私のもうひとつの故郷で、サイクリングを通じた台湾人と日本人の交流は私にとっての夢です。言葉があまり通じなくても、両国の女性ライダーがお互いに声を掛け合い、途中で一緒に写真を撮ったり、連絡先を交換したりする姿を見て、サイクリングは文化や芸術と同じように皆が一つになれる共通言語だと確信を持てました」とコメント。

 ワンダーブルーの目標である環島挑戦については、「約900kmを6~9日で走るという大変なプログラムですが、初心者でもe-BIKEの力を借りれば、必ず、楽しく環島を完走できると信じています。環島で得られる格別な達成感を皆で味わいたいです」と実現に向けて意欲を語った。

秋保大滝をバックに日台全員集合! 台湾語で「ツール・ド・東北」と書かれた横断幕を掲げて Photo: Kyoko GOTO

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