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栗村修の“輪”生相談<162>30代男性「ヨーロッパの選手と日本人選手はなぜ強さに差があるのでしょうか?」

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主にヨーロッパの選手と日本人選手はなぜ強さに差があるのでしょうか?

 オリンピックまであと1年。できれば日本人選手に活躍してほしいですが、プレ大会をみるとトップ10には外国の選手ばかりでした。なぜここまで差がついてしまうのか教えてください。

(30代男性)

 こういったご質問は多いですね。口にしなくても、同じことを考えているファンも多そうです。切実な問題ですが、ぼんやりと「日本人は弱いなあ」と繰り返していても一歩も前に進みませんから、頭を冷やして考えてみますね。

 なお、今回のお答えは前々回の輪生相談で触れた才能(先天性)と努力(後天性)の関係を念頭に置いた上でお読みいただくと、より理解しやすいかもしれません。

 まずは、前提をもう一度確かめてみましょう。そもそも「日本人ロード選手は弱い」という印象は事実でしょうか?

 結論から言うと、視点によって答えは変わります。たとえば、アジアから見た日本とヨーロッパから見た日本では、かなり評価が変わるのです。

東京五輪自転車ロードレースのテストイベント(プレ大会)は、イタリアのディエゴ・ウリッシ(中央)が優勝。トップ10全員を欧州代表選手が占めた Photo: Shusaku MATSUO

 先日、台湾の自転車競技関係者が「なぜ日本からは強いロード選手が続々誕生するのか?」と語っていたという話を聞きました。「強いロード選手」とは別府選手や新城選手のことではありません。その台湾の関係者は、ツール・ド・台湾にやってくる日本人選手たちが全般的に強いことから上のような印象を持ったようです。また、日本の国内年間シリーズ戦であるJプロツアーを高く評価し、そのシステムにも興味を持っていたそうです。

 たしかに、同じように本場ヨーロッパから距離があり、人種面でも日本に似ているアジアの国々と日本とを比較すると、日本の競技レベルは決して低くはありません。特に国策として自転車の普及を進めている台湾は、ジャイアントやメリダなど世界的な自転車メーカーがありながら、選手強化が思うように進んでいない現状に危機感を覚えているのかもしれません。

強い選手を生み出すためには

 ここで改めて、強い選手を生み出すために必要なリソースを確認してみましょう。

1. フィジカルの才能(選手)

 持って生まれた、自転車ロードレースに向いたフィジカルです。自転車ロードレースに必要な運動能力、自転車ロードレースに向いている骨格や柔軟性、免疫力、回復力、胃腸の強さ、性能の良い血液などが相当するでしょう。

2. メンタルの才能(選手)

 フィジカルを自転車ロードレースに順応させていくためのメンタルです。研究力・継続力・協調性・環境適応力・根性・負けず嫌いであること・語学などを学ぶ力などが挙げられます。

3. ノウハウ・指導力(指導者)

 世界最先端の研究力や指導力を備えた指導者が必要です。具体的には、身体能力向上のためのトレーニング管理・動作改善(効率化)、フォーム改善(効率化、空力)、バイクコントロールスキルの習得、レーススキルの習得、メンタルケアなどそれぞれのスペシャリストが必要です。ちなみに、ここで言う指導者とは単にレースの作戦管理や期間中のチームアテンドを行う監督(スポーツディレクター)ではなく「コーチ」のことです。

4. 継続可能な環境(経営者)

 優秀な指導者が優秀な選手を指導していくためには時間・お金・場所などが必要ですから、それらを確保する人間が必要です。自転車ロードレースに関する専門知識がなくとも、プロ経営者のようにチームマネージメントや安定した資金調達スキームに関する知識を持っている人材のことです。

 おそらく、上記のリソースが全て揃えば、継続して強い選手を輩出できる国になれると思います。国ではないですが、現状ではワールドチームの「チーム イネオス」が最も良い条件を手にしている存在なのではないでしょうか。また「チーム ユンボ・ヴィスマ」も近年良いリソースを手にしはじめています。

 話を戻します。日本はアジアの国々のなかでは良いリソースを持っているほうでしょうが、世界と比べるとリソースの質と量が圧倒的に足りていません。

 日本の現状は上記の「1」と「2」頼り、つまり選手の才能に頼っている状態です。まるで宝クジが当たるように優れた「1」「2」を持つ逸材が日本人の中から発掘され、すぐに「3」と「4」(指導力と経営力)を持つワールドチームなどに入れれば、少し待てば「世界と戦える強豪選手」が誕生するでしょう。

 しかし天才の登場を待つだけではなく、優れた「3」と「4」を日本に構築することができれば、「1」と「2」が多少劣る選手たちだけだったとしても、ツールの総合優勝は無理ですが、ある程度は全体の底上げができるかもしれません。

 つまり、強い選手が生まれるためには才能を持った若者だけではなく、指導力と経営力も必要なのです。

日英の差で考えると

 さて、ご質問に「なぜここまで差がついてしまうのか教えてください」とありますが、野球に置き換えてみるとわかりやすいかもしれません。

 日本が、イギリス・フランス・スペイン・コロンビアなどに、野球でコテンパンにやられる状況を想像できるでしょうか(なお、オランダは強いですが選手の大半は野球が盛んなキュラソー出身です)。難しいですよね。上記の国々はWBCにも出場していますが、日本の野球の歴史・文化・人口・ノウハウ・マーケットなど、つまり実力を全体として完全に超えるのはまず無理でしょう。

 もし、「なぜ日本とイギリスの野球の実力はここまで差がついてしまうのか教えてください」とイギリス人に聞かれたら、ほとんどの日本人が「そりゃそうだろ、バカにしないでくれよ」と感じるかもしれません。イギリスがWBCで優勝を狙うなら国家プロジェクトに近いレベルの取り組みを相当に長い時間をかけて行わなければ実現しないでしょう。

 日英の立場を逆転させれば、自転車についても似たようなことが言えます。ただし、幸い自転車ロードレースの場合、ルール上は個人競技ですしスタジアムなども必要ないので、野球よりは世界的な選手を輩出するための難易度は低いと思います。

 強い選手を生むためのリソースはひとつではなく、複数必要なのです。まずは上記に挙げたリソースをどうやって手にいれば、また作っていくのかを全体で考えなくてはいけません。

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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