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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<308>ブエルタ運命の最終週へ 盤石ログリッチェら総合上位陣の戦闘態勢はいかに

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2019年シーズン最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャは残すところ5ステージとなった。大会中盤戦の第2週で個人総合の「マイヨロホ」争いの形勢が明確になり、個人タイムトライアルで実力を発揮したプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)の優勢が続いている。2回目の休息日を経て迎える終盤戦。まだまだ見どころが多いレースの方向性を確認していこう。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2019第14ステージ。海沿いを走るプロトン。マイヨロホを着るプロモシュ・ログリッチェ(先頭右)は残る5ステージでその座をキープできるか Photo: Yuzuru SUNADA

ログリッチェの強さがスーパーチームへの道しるべに

 ログリッチェが極めて盤石な態勢だ。

 大会初日のチームタイムトライアルでのクラッシュを乗り越え、その後も数度のトラブルに見舞われたものの、第10ステージの個人タイムトライアルで「圧勝」。“予定通り”に、スペインをめぐる期間の半ばでリーダージャージであるマイヨロホに袖を通すこととなった。

第15ステージ、プリモシュ・ログリッチェ(左)は最大のライバルと定めたアレハンドロ・バルベルデ(右)に対してリードを与えなかった Photo: Yuzuru SUNADA

 その段階で総合争いのライバルたちに対して2分前後のリードを奪ったこともあり、第2週は彼らの動きに注視しながら戦いを進めることができた。それでいて要所で仕掛けることにも抜け目なく、激坂を上った第13ステージでは攻撃に成功し総合タイム差を拡大。以降は個人総合2位につけるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)を最大のライバルと照準を定め、この週後半の山岳ステージも結果的には危なげなく終えた。

 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)ら、ログリッチェの対抗馬と目された選手たちが息切れする一方で、ここまでのレースリーダーはすこぶる順調だ。もちろんコンディション面での充実や、得意とするタイムトライアル、急坂での力強さもさることながら、ライバルたちの動きに対するスマートさやチーム力の高さも光っている。

第16ステージでプリモシュ・ログリッチェはライバルの動きに慌てず対応。スマートな戦いぶりが光っている Photo: Yuzuru SUNADA

 記憶に新しいところでいけば、第16ステージで最後に上った超級山岳アルト・デラ・クビーリャ.レナで、バルベルデをチェックするあまり、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ プロチーム)のアタックに対応が遅れたが、直後の追走で自身のペースが上がりすぎているとみるや、いったんスピードを落ち着かせてテンポで追いつく冷静さを披露。ロペスに対する対応が瞬時の動きとはならなかったため、レース後には「第3週に向けての不安材料ではないか」との突っ込んだ質問を受けたようだが、本人はバルベルデに集中しすぎていたことを認めつつも「まったく問題なかった」と自信を見せている。

 チームとしてもレース全体のコントロールに慣れが出てきている印象だ。スーパーエースの1人であるステフェン・クライスヴァイク(オランダ)が大会を去り、山岳アシストをそろえるアスタナ プロチームやモビスター チームと比較して戦力面での不安があるかと思いきや、各選手が適材適所での働きを見せ、ここまではログリッチェをしっかりと守ることができている。第15ステージでのセップ・クス(アメリカ)が山岳を制して勝利したことも、戦力が整っていることを示す意味で他チームへの十分すぎるほどのアピールとなったに違いない。

ログリッチェを守るユンボ・ヴィスマのアシスト陣も機能。数的不利な状況を感じさせない安定感だ(写真は第13ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 とはいえ、ステージは残されておりまだまだ気を抜くわけにはいかない。総合争いに変動が起きる可能性のある山岳ステージは、第18ステージと第20ステージ。ともに複数のカテゴリー山岳を上り、戦略的にも体力的にもタフな戦いになる。総合上位の選手を抱えるチームの多くが、先手攻撃に出ることも予想される。そんななかでジャージを守る立場にあるログリッチェとユンボ・ヴィスマは、王者になり得るだけの強いレース運びを見せられるだろうか。

 今年はすべてのグランツールで快進撃を見せるチーム。ログリッチェは5月のジロ・デ・イタリアでも総合争いに加わったが、このときは大会初日の個人タイムトライアルを制して、チームとしても早い段階からレースをコントロールする必要に迫られた。そのときとは違い、今回は想定していたであろうタイミング(第11ステージ)から、やるべき仕事が本格化した点も、戦い方に大きな影響を与えていることが考えられる。

 第16ステージ終了後、「かつてのチーム スカイ(現チーム イネオス)のようになれるのではないか」とチームの強さについて問われたログリッチェは、「われわれもこの先、多くのステージレースを制した彼ら(チーム スカイ)のようになれるかもしれない」と答えた。ツール・ド・フランスを支配し、王道の戦いぶりを見せてきたイギリスが誇るスーパーチームのように、オランダ発のイエロー軍団もグランツールを席巻することになるだろうか。ログリッチェには、そんなチームを牽引する大仕事を大会最終週に務めあげる責任がある。

追撃か現実路線か 総合上位陣の考えは?

 順調に戦いを続けていくログリッチェに対して、追う立場の選手たちは大会最終週、どんな意識で走ることになるだろうか。

第2週最後の第16ステージで後れを取ったアレハンドロ・バルベルデ。残るステージで、トップのプリモシュ・ログリッチェとのタイム差を挽回できるか Photo: Yuzuru SUNADA

 前回のこのコーナーでは「ビッグ4」として個人総合上位4選手に着目したが、その時のメンバーからキンタナが脱落し、タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAE・チームエミレーツ)が浮上。バルベルデ、ロペスとともにログリッチェを順位のうえでは追っている形となっている。

 “順位のうえ”と称したが、追って、追いついて、そして追い抜いて…というのは実情として、決して簡単とは言えない。

 再三申し上げるように、ここまで盤石のログリッチェに対して、個人総合2位のバルベルデが2分48秒差、絶好調のポガチャルが3分42秒差、ロペスが3分59秒差。ポガチャルとロペスは25歳以下対象の新人賞ジャージ「マイヨブランコ」争いも展開している。

ナイロ・キンタナ(右から2人目)の脱落によってモビスター チームのリーダーとなったアレハンドロ・バルベルデ。マイヨロホを諦めない姿勢を見せている(写真は第15ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 トップを追う一番手であるバルベルデは、キンタナの脱落によって“チームリーダー”として地位がはっきりとし、同時に総合成績を意識して走ることが明白になった。スペイン籍のチームとあり、ホストレースの上位進出は至上命題。当初は「キンタナがリーダー」といったコメントを残していたが、このような状況になって「好リザルトを目指す」との言葉も聞かれるようになった。

 何より、いまのところは「諦めない」姿勢を示している。第16ステージでは終盤の遅れによって、ログリッチェとの総合タイム差が広がったが、「まだ狙えるステージが残されており、最後まで勝負は分からない」と話す。百戦錬磨の大ベテランの言葉だけに説得力もある。

 山岳が舞台の第18ステージ、第20ステージではアシストを含めた総力戦を仕掛けることだろう。ここまではアシスト陣を逃げに送り込んで、勝負の上りでエースの合流を待つ「前待ち」作戦を繰り返し、マルク・ソレル(スペイン)が機能。残りのステージでログリッチェやユンボ・ヴィスマのほころびを誘発できるだろうか。

個人総合4位を走るミゲルアンヘル・ロペス。まずは総合表彰台確保を目標に最終週に挑む(写真は第15ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 一方、現実路線に立っているのが個人総合4位のロペス。まずは、最終目的地であるマドリードの総合表彰台に立つことを目標に据える。目下のターゲットはポガチャルで、その差は17秒。両者の争いを制することは、つまりマイヨブランコの獲得も意味する。

 加えて、チームの絶対的リーダーであるヤコブ・フルサング(デンマーク)は、「バルベルデのポジションまでは狙えるのではないか」と可能性を語る。自身を含めたアシスト陣が調子を上げているほか、バルベルデが第16ステージで苦しんだこともロペスにとってプラスに傾くのではないかとの見立てだ。両者の総合タイム差は1分11秒。2つの山岳ステージで逆転可能な差ではある。

グランツール初出場で総合争いに加わるタデイ・ポガチャル。最終週の山岳でも強さを見せるか(写真は第16ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、誰よりも失うものがないのがポガチャルだ。初のグランツールで、大会3週目という完全な未知の領域へと足を踏み入れているが、プロデビューイヤーながらステージレースを2つ制するなど、そのポテンシャルは本物。第1ステージのチームタイムトライアルでの落車によって出遅れ、その後もグランツールにおける力の配分を試行錯誤していたこともあって、大会の半ばから浮上してきたが、残るステージでさらなるトライをしていきたい。自らのアタックから勝機を見出しつつも、周りの動きに合わせてチャンスを広げていくクレバーさも今大会の走りからは感じられる。もう1つや2つ、大仕事をやってのけてもなんら不思議ではない。

 個人総合4位のロペスから、次点のラファル・マイカ(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)までは4分近い差があり、総合表彰台争いはログリッチェ、バルベルデ、ポガチャル、ロペスまででおおよそ固まりつつあるといえるだろう。

スプリンターにも再度のチャンス訪れる最終週

 マイヨロホ争いと合わせて、スプリンターたちにとっては意地の見せどころとなる大会最終週。第2週は第14ステージにスプリントチャンスが限定され、レースの終盤には大規模クラッシュが発生したが、混乱を乗り越えてスピードマンたちが最強スプリンターの覇権を争う。

今大会出場中のスプリンターでは最も強さを発揮しているサム・ベネット(左)。最終週のスプリントステージでも勝利数加算なるか(写真は第13ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 最終週幕開けの第17ステージは、今大会最長の219.6km。カテゴリー山岳はゼロだが、終始細かなアップダウンをこなしながら進んでいく。フィニッシュに向かっては、最後の約3kmが上り基調。急勾配ではないので、スプリンターたちもパワーで乗り切ることができそうだ。

 続くスプリントチャンスとなる第19ステージは、序盤に3級山岳をクリアして、あとはほぼフラット。よほどのことがない限り、スプリンターチームが主導権を握って展開するはず。

 そして最後を飾るのは、マドリード市街地サーキットをめぐる第21ステージ。大会最終日とあって、スタートからしばらくはパレード走行になるが、マドリード市内に入る手前から少しずつレースモードへと切り替わっていく。ジロ・デ・イタリアにおけるミラノ、ツールにおけるパリ・シャンゼリゼとならんで、ブエルタにおけるマドリードフィニッシュを制することは、スプリンターの夢でもある。今年、その“夢”を叶えるのは誰だろうか。

 今大会、フィニッシュ前でのスピードの違いを見せつけているサム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)や、そのベネットを第4ステージで破ったファビオ・ヤコブセン(オランダ、ドゥクーニンク・クイックステップ)、第14ステージではヤコブセンに代わってスプリントに挑んだマキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)といった選手たちが奮起するはずだ。

今週の爆走ライダー−カールフレドリク・ハーゲン(ノルウェー、ロット・スーダル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 プロ1年目ながらブエルタの上位戦線をにぎわせるポガチャルの存在に隠れがちだが、第2週までを終えて個人総合9位につけるカールフレドリク・ハーゲンもルーキーイヤーながら健闘を見せる。

グランツール初出場でトップ10入りの可能性を高めているカールフレドリク・ハーゲン。第10ステージで走った個人TTはキャリア8回目のタイムトライアル出走だった Photo: Yuzuru SUNADA

 ルーキーと言いながらも、年齢は27歳。ここまでの道のりは異色そのものだ。子供の頃からあらゆるスポーツに親しみ、サッカーやクロスカントリースキーといった、自国ノルウェーの国技にもトライした。しかし、どれもその実力はほどほど。一流選手になるでもなく、やがて友人たちと同様に学生生活を謳歌する日々を送っていた。

 ターニングポイントは、22歳で乗り始めたマウンテンバイクだった。2年間オフロードを走り続けていた彼の才能を見抜いたのは、同国の英雄にして元世界チャンピオンのトル・フスホフトだった。2015年にフスホフトが率いる育成チームで走り、今シーズンから現チーム入りを果たした。

 確かに、昨年までは大小あらゆるレースで上位進出を果たし、プロ入りのきっかけを作ったが、今シーズンは決してビッグリザルトに恵まれているわけではない。ところが、ブエルタが始まってみると、山岳を中心に好調な走り。本人いわく、その理由は夏場に行ったイタリアでの高地トレーニングだという。

ロードキャリアは約5年。27歳ながらプロとしては歩みを始めたばかりのカールフレドリク・ハーゲン(写真は第8ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 また、プロデビューをベルギーのチームで迎えられたこともよかったと感じている。「サイクリングの聖地であり、多くの経験豊富な選手たちから学ぶことができる環境だ。プロトン内のポジショニング1つとっても本当に難しくて、このチームで走ることでそれらを克服できているんだ」とは本人の弁。

 トップ10入りの可能性が膨らむ現状にも、決して浮かれる様子はない。「現実的な目標は20位以内。どんな結果になるかは、日々取り組んでいくことで分かるはず」と淡々。さらには、「苦しむことを恐れず最善を尽くす」と誓う。

 スプリントや逃げで結果を残し続けるチームにあって、違った色合いのライダーの台頭。今大会の第10ステージが「ロードキャリア8回目の個人タイムトライアル」だったように、経験を積むことでより活躍の場も増えていくことだろう。

 グランツールレーサーとしての大きな可能性を感じさせるオールドルーキーは、キャリアの第一歩を踏み出したに過ぎないのである。

ブエルタの目標はトップ20というカールフレドリク・ハーゲン。初のグランツールでその狙いを大幅に上回る可能性が出てきている(写真は第8ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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