ピストカルチャーから派生した新競技固定ギヤのオフロードレース「トラックロクロス」世界選手権が日本で開催 世界各地のライダーが山梨に集結

by 腰山雅大 / Masahiro KOSHIYAMA
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 固定ギヤのバイクでオフロードを走る新感覚レース「トラックロクロス」の世界選手権が8月29日、山梨県富士河口湖町で開催されました。斬新な競技が生まれた背景を振り返りつつ、大会当日の様子を、レースに出場した腰山雅大さんのリポートでお送りします。

山梨で開催されたトラックロクロス世界選手権の一コマ。この競技のルール、そしてルーツが固定ギアにある Photo: Masahiro KOSHIYAMA

◇         ◇

メッセンジャーが始めたもの

 厳しい夏の暑さもすでに折り返し、季節の変わり目を少し感じる8月の終わり。富士山を望む西湖のほとりで、固定ギヤのシクロクロス(CX)レース「トラックロクロス世界選手権」が賑やかに開催された。カルチャーの創出を感じさせる本イベントをリポートする。

スキッドコンテストで会場を盛り上げたちゃんさだ選手のバイク。ストリートバイクにオフロードタイヤという正装 Photo: Masahiro KOSHIYAMA

 Track“lo”Cross(トラックロクロス)は、固定ギヤのトラックバイクにオフロードタイヤを装着してコースを走る新しいジャンルの競技だ。元々のルーツはシクロクロスレースではなく、街を主体に走っていたメッセンジャーや、その文化を支えていたライダーたちが面白がって始めたもの、とされている。

 それを裏付けるべくTwitterを遡って検索すれば、ピストカルチャー真っ只中の2008年に初めて「Tracklocross」という言葉が登場し、ニューヨークを舞台にライダーたちがオフロード走行を始めていたことがうかがえる。「トラックロクロス」という言葉はトラックバイクの”トラック”と、シクロクロスの”クロクロス”が混じった造語だという。2009年にはローカルのレースが行われ、そこからジワジワとタイムラインを賑わす存在となっていった。

個性を放つライダーとバイク

 自転車の仕様もメッセンジャーカルチャーを踏襲しており、固定ギヤということ以外のレギュレーションは無いが、一定の傾向は見て取とれる。フレームは金属製が主となり、伝統的なトラックエンドを持つ細身のクロモリフレームや、エアロ形状のアルミフレームのほか、スルーアクスルなどが採用されたシクロクロスバイクでの参戦も目立つ。

クロモリフレームを中心に様々なバイクが集まった Photo: Masahiro KOSHIYAMA

 ブレーキについても装着可能となっているが、今回は唯一、決勝のみ取り外しが義務付けられた。ただ、ほとんどのバイクのハンドル周りには、余計なものが取り付けられておらず、取り扱いやすいフラットバーにグリップだけのシンプルな佇まいのバイクが正装と言える。タイヤは多くのライダーがオフロード用の700×33c(シクロクロスに準ずるもの)を装着しているが、グラベルなどでバリエーションが増えている40cなど幅広のものも目立った。

参加者は見た目から個性が滲み出ている Photo: Masahiro KOSHIYAMA

 兎にも角にも言えることは、ライダーとバイクが個性の塊として存在感を放っていることだ。今回はジャカルタで行われたCMWC(メッセンジャー世界選手権)からの流れで来日している海外勢も多く、会場を賑わす参加者たちは誰もが独自性で溢れていた。多くライダーが全身にタトゥーを纏っていて、Tシャツからは何かしらのメッセージ性が感じられ、なぜか常にSPDシューズを履いて会場をウロウロしている(足に窮屈感は覚えないのだろうか)。

バイクは所有者のセンスが出る Photo: Masahiro KOSHIYAMA
個性的なアートワークのフレーム Photo: Masahiro KOSHIYAMA 

 バイクに関しても汚いと言ってしまえばそれまでだが、色合いや付けているパーツはひたすら使い込まれた味わいがある。そしてひとたび何かしらのトピックに対する意見を伺えば、どんどん話が広まっていき、考え方や想いをポジティブにアウトプットすることがデフォルトとなっている。正にスタイルを地で行くライダーたちがここに集まっている。

各フィールドのトップライダーが決勝へ

 前置きが長くなってしまったがレースへ話を戻すと、参加者たちは4グループに分かれて男女混合で予選を走った。1周約4分ほどのコースには、芝生のフラットセクションとパンプトラック、そして細やかなテクニックが要求されるシングルトラックが2セクション登場する充実の内容。大変走りごたえがあり、試走から走り方に関する意見が交わされた。

ライダーたちがバイクにめがけ、一斉にスタートを切る Photo: Masahiro KOSHIYAMA

 いわゆるル・マン式でスタートした予選を上位通過した面々は、各フィールドで活躍するトップライダー。先陣をきって熱い戦いを見せたのが女子決勝の選手たちだ。序盤~中盤を独走したCosmic CyclesのAdoria Ezzintoit選手がパンクで後退すると、後を追っていた選手たちとの三巴になりレースは振り出しに。鬼気迫る表情で2人を振り切ったMeesh選手が世界チャンピオンの称号を獲得した。

女子レースの一幕。パンクでバイクごと交換した Photo: Masahiro KOSHIYAMA
コース内は障害物も多い  3位に入賞したKellのバニーホップ。軽やかにシケインを越えていった

 男子決勝は波乱の幕開けとなった。スタート直後のコーナーで優勝候補、Cosmic Cyclesを運営するKazz Spencer選手がスリップして転倒した。アメリカチャンピオンのKell Mckenzie選手もバイクトラブルで後退。その影響で一時は筆者も3位を走ったがこれもパンクでDNF。

男子の白熱したレース Photo: Masahiro KOSHIYAMA 

 そんな中、スリップして後退していたKazz選手がトップへと復帰し独走態勢を築く。終始安定した走りを見せていたMASHのChas選手を振り切って、優勝を手にした。3位にはバイクトラブルから復帰したKell選手。日本人最上位は、終盤にパンクトラブルがありながらフルラップの大健闘を見せたZEN Distributionの由谷選手が8位に食い込んだ。

ライダーたちの表現の場

 観戦者たちはレースが進むにつれ、熱狂の渦へと引き込まれていったが、とりわけ人気を博しているスター選手たちの存在が大きい。先に述べたように彼らの存在感をひと言で「スタイル」と形容できるが、スタイルとはまさに彼らにとっての日常であり、それが彼ららしさを作り上げている。自転車にまたがり、常に楽しむことを最大限努力しているからこそ、この遠く離れた日本であっても、噂を聞きつけて様々な地域からぞろぞろと集まってくるのだ。

スタイルを持つ選手の1人、MASHのChas選手 Photo: Masahiro KOSHIYAMA 
今大会の立役者の1人、「JP」ことJunpei Nakata氏 Photo: Masahiro KOSHIYAMA 

 当然イベントそのものも、世界の様々な文化・歴史背景をもったライダーたちの表現の場と言える。前述のCMWCと同じく、このトラックロクロス世界選手権は立候補制となっており、昨年ミネアポリスで開催された世界選手権へ出向いたJPことJunpei Nakata氏がバトンを受け取り今回の開催へ漕ぎ着けた。「誰が一番速いか」ということは当然争われるが、それだけでなく世界中の仲間たちと空間や時間、アイディアを共有し、新たな自転車文化を創出する為にイベントが開催され、ここにその立役者たちが顔を揃えている。

表彰式の様子。みんな笑顔だ Photo: Masahiro KOSHIYAMA

 2019年度の世界選手権はこれで終了となったが、国内でもまだまだトラックロクロスのイベントが控えている。詳しいアナウンスはTracklocross世界選手権 のインスタグラムアカウントを覗いていただきたい詳しいアナウンスはのインスタグラムアカウントを覗いていただきたい。来場いただければプリミティブな自転車文化の楽しさに触れることができるはずだ。

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