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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<307>ブエルタ総合争いの形勢が明確に 大会第2週は上位陣によるノーガードの戦いに期待

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 熱戦が日々展開されているブエルタ・ア・エスパーニャ。第2週が始まり、その初日にあたる第10ステージ・36.2kmの個人タイムトライアルで、いよいよリーダージャージ「マイヨロホ」争いの形成がはっきりとしてきた。第1週は“ビッグ4”が実質横並びで進んだが、プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)の快走によって、ついにその均衡が破られた印象だ。山岳比重の高いブエルタにあって、今年は第2週がカギとなること必至。注目のマイヨロホの行方を中心に、大会の中盤戦を占ってみたい。

得意の個人タイムトライアルで圧勝。ブエルタ第10ステージを終えてマイヨロホ争いの均衡を破ったのはプリモシュ・ログリッチェだった Photo: Yuzuru SUNADA

個人TTでライバルに“圧勝”のログリッチェ

 個人タイムトライアルで争われた第10ステージ。この日を迎えるにあたり、個人総合で上位を占めていたナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)、ログリッチェ、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ プロチーム)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)の“ビッグ4”は総合タイム差20秒の中にひしめき合っていた。この状況で、4人のうち圧倒的なTT能力を誇るログリッチェが優位な情勢となったことは明確だった。

ブエルタ第10ステージ。プリモシュ・ログリッチェは苦戦するライバルたちを尻目に圧倒的なパフォーマンスを見せた Photo: Yuzuru SUNADA

 このステージを終え、実際にログリッチェがマイヨロホに袖を通すことになったが、これは他の3選手も元々織り込み済み。彼らにとってのテーマは、「ログリッチェとの総合タイム差をいかに少なくとどめるか」にあった。

 だが、ふたを開けてみるとログリッチェはステージ優勝を挙げたばかりか、総合争いのライバルたちに“圧勝”。バルベルデが1分38秒差で何とか踏みとどまった感じだが、ロペスが2分差、キンタナに至っては3分6秒差と、数字の上ではブレーキといえる結果に。

マイヨロホで第2週を迎えたナイロ・キンタナは個人タイムトライアルでブレーキに Photo: Yuzuru SUNADA

 第10ステージを終えた時点でトップに立ったログリッチェとバルベルデとの総合タイム差は1分52秒、ロペスは2分11秒、キンタナは3分0秒。そしてステージを追うごとに調子を上げているタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAE・チームエミレーツ)が3分5秒差につけ、“ビッグ4”の一角を崩す勢いに。個人タイムトライアルが1ステージのみで、総合争いにおいては山岳比重の高い大会と目された今回だが、一度や二度の攻撃を成功させたところで、好調のログリッチェにはまだまだ追いつくことは難しいというのが実情だろう。

マイヨロホ争いの運命が分かれる第2週

 第2週は、レースリーダーとなったログリッチェをライバルたちが追う構図となる。追われる立場となったログリッチェだが、第1週で数回の落車に見舞われたものの、その影響を感じさせない戦いぶり。特に、第9ステージではコース内を走行するモーターバイクとの接触によって足止めを余儀なくされながらも、その後のメイン集団までの追走や、最終局面でのアタックなど、その走りには力強さが見られた。この状態が維持されるようであれば、ライバルたちにとっては迫ることが難しくなってくる。

ログリッチェ擁するユンボ・ヴィスマはメンバーが手薄な状況でいかに戦うか。写真は山岳アシストのセップ・クス Photo: Yuzuru SUNADA

 総合争いや山岳での戦いといった観点から見れば、ログリッチェを擁するユンボ・ヴィスマよりは、ロペスを支えるアスタナ プロチームや、キンタナとバルベルデを盛り立てるモビスター チームの方が戦力が充実している印象だ。ユンボ・ヴィスマはツール・ド・フランスでの活躍が記憶に新しいステフェン・クライスヴァイク(オランダ)が、今大会は早々に離脱。第9ステージでは「前待ち」が機能したアスタナ プロチームやモビスター チームだが、両チームともに山岳アシストが充実しており、この先はまずまず同様の戦術でユンボ・ヴィスマの選手たちの消耗を誘っていくことだろう。

 一方で、第2週で登場する上級山岳ステージのうち、急峻なカンタブリア山脈を上る第13ステージと第15ステージは、どちらも終盤がフィニッシュに向けた激坂が待ち受けるコース設定。第13ステージのロス・マチュコスは登坂距離6.8km・平均勾配9.2%だが、途中数カ所の平坦と下りを加味してのデータであって、上りだけで見ると15%前後の急勾配が連続する。また、第15ステージのサントゥアリオ・デル・アセボも同様で、10%を超える急坂がフィニッシュ前にそびえる。これほどの激坂勝負ともなれば、難易度からしてもさすがに「前待ち」は有効打とはならず、上位陣によるノーガードの戦いとなることが予想される。

追う立場となったミゲルアンヘル・ロペス。持ち場である山岳で勝負をかけたい Photo: Yuzuru SUNADA

 むしろログリッチェにとってはライバルのチェックに集中ができ、最低限タイムを失わないこと、状況によってはタイムを奪うべくアタックでリードを広げるチャンスともなりうるだけに、現状をプラスに働かせたいところ。かたや、ロペスやキンタナ、バルベルデのモビスター勢にとっては、いまあるタイム差をいかにして縮めていくか、仕掛けどころを練っていく必要がある。

 最終の第3週まで目を向けると、超級山岳やカンタブリア山脈ほどの難関の山々が控えていないことが挙げられる。そうした意味でログリッチェを追う選手たちは、超級山岳アルト・デ・ラ・クビーリャの頂上フィニッシュが待つ第2週最終日・第16ステージまでに、マイヨロホの背中を完全に捉えておきたい。

 上位陣個々の駆け引きからチャンスを見出していくのか、チーム戦術から現況を打開していくのか。第2週は今大会の運命の分かれ目ともいえそうだ。そして何より、上位戦線をゆく選手たちにとっては、突如不調が訪れる“バッドデイ”や落車、バイクトラブルといったアクシデントにも十分に注意をしなければならない。

激坂が待ち受ける第2週の山岳ステージ。総合上位陣によるノーガードの戦いが期待できそうだ(写真は第7ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

逃げ屋やスプリンターも第2週で意地を見せられるか

 総合争いもさることながら、第1週を盛り上げた逃げライダーたちによる戦いも、まだまだ観る者を楽しませてくれそうだ。

逃げを得意とする選手たちにもまだまだチャンスが残されている(写真は第2ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 チャンスは第11ステージと第12ステージ。スペインとフランスの両国を行き来するルートの第11ステージは、中盤に3級2つと2級1つのカテゴリー山岳が登場。レース終盤だけ見ればハードな上下動がないルートだが、コースレイアウトから見れば逃げた選手たちに有利に働きそうだ。その中でも、一瞬のアタックに長けた選手や少人数スプリントを得意とするスピードマンに勝機が訪れそう。

第14ステージでは久々のスプリントチャンス。山岳ステージで我慢してきたスプリンターたちが躍動する(写真は第3ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 第12ステージは、バスク州最大の都市ビルバオを目指す。ビルバオを前に、3つの3級山岳が選手たちをふるいにかける。なかでも最後のアルト・デ・アライスは登坂距離2.2kmながら、平均勾配12.2%。最大勾配20%の上りは、レースを追っている方々にはおなじみの熱いバスクファンでにぎわうはず。ブエルタにおけるビルバオへのフィニッシュでは、幾度となくドラマティックな幕切れとなってきた。今回も逃げメンバーによる劇的なレースが見られるはずだ。

 また、第14ステージは実に10ステージぶりの平坦ステージ。大会序盤戦を華やかにしたサム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)やファビオ・ヤコブセン(オランダ、ドゥクーニンク・クイックステップ)らがステージ優勝候補だ。

今週の爆走ライダー−ニコラ・エデ(フランス、コフィディス ソルシオンクレディ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 第8ステージを終えて袖を通したマイヨロホ。当初、このステージでは逃げる予定はなかったというが、あらゆる要素がエデのプランを変化させることになった。逃げている間に気づいたマイヨロホ獲得の可能性。レース後の「一生に一度のチャンスだった可能性が非常に高かったから、何としても手にしたかった」との言葉は、31歳となった彼の偽らざる気持ちだった。

第9ステージではマイヨロホで出走したニコラ・エデ。「一生に一度のチャンス」をしっかりとモノにした Photo: Yuzuru SUNADA

 元々ブエルタとの相性は上々。2013年には山岳賞を獲得し、終着点のマドリードで総合表彰台にも上がった。そのときとの比較を求められて、「もちろん今(第8ステージ終了後)の方がうれしいよ」と即答。改めてマイヨロホがいかに特別な存在かを実感したという。

 リーダージャージは1日で手放すことになったが、チームは絶好調だ。第5ステージでホセ・エラダ(スペイン)が最後まで優勝争いを演じる(3位)と、翌日には弟のヘススがステージ優勝。来年にはエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)らビッグネームが加わり、メインスポンサーのコフィディス社はブエルタの大会メインスポンサーを2022年まで延長することに合意。チームを取り巻く環境の変化は、選手たちをよりアクティブにする。

 「本当はクライマー」を自認するエデにとって、この先のステージは再び逃げに挑戦するか、総合成績を意識するか判断が求められる。いずれにせよ、残りのステージは楽しむつもりだ。

 「娘がいつも、ツールで目にするライオン(マイヨジョーヌ着用者に授与されるスポンサーLCL社のマスコット)を持ち帰ってくるよう言うのだけれど、今回のスペインの黒牛のぬいぐるみで満足してくれることを願うよ」。マイヨロホとともに手に入れた思いがけないお土産は、マドリード到達までの大きなモチベーションだ。

マイヨロホのポディウムで笑顔のニコラ・エデ。黒牛のマスコットを贈られ愛娘へのプレゼントと喜んだ Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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