今回は日本人392人参加の人気イベント鉄人・三船雅彦の3度目「パリ~ブレスト~パリ」 睡魔、空腹、低体温さえも楽しんだ1200km

by 三船雅彦 / Masahiko MIFUNE
  • 一覧

 フランスのパリからブルターニュ半島西端の都市ブレストまでを往復する1200kmの超長距離サイクリングイベント「パリ~ブレスト~パリ」(以下PBP)が8月18〜22日に開催された。4年に1度開催されるこのイベントには今年、日本人392人が参加。前回の2015年大会で、43時間23分の日本人最速記録を樹立したプロサイクリストの三船雅彦さんに今回の挑戦を振り返ってもらいました。

1200kmを完走し、ボランティアのご婦人からメダルを首にかけてもらう三船雅彦さん Photo: Yufta OMATA

◇      ◇

前回2015年は2位でゴール

 今回でパリ~ブレスト~パリ(以下PBP)も3回目の挑戦。早いもので何もわからず手探りで走った11年から8年の歳月が流れた。要領を得ないまま苦しんでゴールした2011年、サポートをしてもらい万全で走り切った2015年。毎回いろいろな発見を得つつ、また飽きることなく、懲りることなく3回目のスタートへとやってきた。

 今回の目標は「ゴールへ1番にゴールすること」、それがすべて。2015年のPBPを終えて最初に頭によぎった率直な思いだ。フランス人が最初に戻ってくることを期待して、まさかのドイツ人。そして2番目にやってきたのは日本人…このPBPにかけるフランス人ランドヌール(ブルべに参加するサイクリスト)たちの情熱を感じるつもりが予想していなかったシナリオだったに違いない。

今回の三船さんの使用バイク、エディ・メルクスの「EM525」。大会3週間前に組みあがった Photo: Yufta OMATA

 愛国心の強いフランス人のこと、レースではないにしろ内心は穏やかではなかったはずだ。自分としてはその面くらった顔を自分が見せたい、その思いだけだ。タイムは正直予想できない。それはロードレースと同じで、コンディションや駆け引きによることろが多く、全く読めない。

時差ボケ対策で4日前に渡仏

 過去2回での教訓は確実に糧となっている。時差ボケ対策のために、ミニマムで4日前には渡仏。もちろんフランス人に対してハンディがゼロになるわけじゃないけど「不利だな」と言える範囲で納められるのが4日前だと思う。3日前そして2日前に時差ボケを抜くために4時間以上のライドへ。この2日間で脚を回していつも通りの感覚を取り戻す、そして体内時計を日本にいるときに近づけるのに重要だ。

 前日の受付ではそれまでの好天とは打って変わり雨が降ったりやんだり。それも午後の遅い時間ほど雨がしっかりと降る最悪の天気。天気予報では大丈夫だがどうなるのかはわからない。あとは天気予報通りに走行中は晴れることを祈るだけだ。

今回、三船さんが自撮りした唯一の写真。「スイッチが入ってカメラが重く感じたので、次のチェックポイントで預けました」 Photo: Masahiko MIFUNE 

 当日朝からは天気は回復。パリ郊外の都市・ランブイエを晴天の中、午後4時15分にスタートした。ただ強烈な西風、すなわちブレストに向けて延々向かい風だ。個人的にはスピードが上がらないだろうし、荷物が多い、もしくは力量が劣るサイクリストでも集団にはついては来られるはずなのであまり望ましくはない。過去にそういう力量を超えている人たちが序盤の落車などの原因だったり、集団分裂のきっかけになっている。

 今回も町の入り口にある車のスピード減速帯「バンプ」を減速せずに勢いで通過したために、大型のサドルバッグが外れたり、その揺れで横の参加者と接触したりで落車が起こっている。

 注意点はシンプルだ。

今回の注意すべき3つのポイント

●序盤の上り
●コントロール(チェックポイント)での滞在時間
●ナイトラン

 このタイミングが集団をコンパクトに、もしくは抜け出す好機となる。序盤の上り、モルターニュを前にポンニィ・オゥ・ペルシュの町を抜けてすぐの上り約1km、そしてモルターニュの町の上りは序盤の要注意ポイントだ。ここは必ずペースアップする。ここで集団後方にいると中切れの影響を受けることがある。

217km地点の最初のチェックポイント「Villaine la Juhel」には6時間46分で午後11時に到着 Photo: Yufta OMATA

 今回も実は最初のコントロール(チェックポイント、117.54km)に先頭4人で合流するも補給地点でのタイムが致命傷となった。今年の道案内は意外と見づらく、追走時もラウンドアバウトで道を間違ってしまい脱落してしまった。睡魔で路面状況がよくわからない。そんな状況が疲労度を増す。ナイトランは力を振り絞らなくて引き離すことができる。

集団で協調した前回から一転

 今年の流れは前回とは全く違う展開だった。過去2回は集団内で「一緒に協力しよう」という雰囲気が序盤にはあったのだが、今回は比較的コンパクトなグループでの展開が続いた。このことが想定内で進むと考えていたサポートチームとの連携で乱れが生じてしまった。

三船さんの往路の走行データ概要

 前回(2015年)は集団のままブレスト(620km)を折り返した。そのおかげで、うまく「長いもの」に巻かれた走りができたので正直なところ、それほど消費カロリーも大きくなく、冷静な判断のまま走り続けられた。復路に入ってからは常にフランス人のリーダー的存在が「次は5分だけ休もう」とか仕切ってくれた。

 しかし今回は折り返しのブレストすらタッチアンドゴー。その手前のブレストまでの区間でデンマーク人と抜け出したが、フランス人から同じ集団で協力せずに抜け駆けしたように言われ、実は走りながら一発触発状態になっていた。それもあって、ブレストでは彼らより先に出ようと思いスタートした。そのためしっかりと食べることを怠ってしまった。

スタートからほぼ24時間、ブレストと折り返し、693km地点のCharaixでわずかな休憩 Photo: Yufta OMATA

 ここで勝負に出た(?)フランス人、デンマーク人、そしてドイツ人の4人でブレストから先へ進んだ。フランス人がかなり飛ばしていて、あまりの速さに焦りまくったが結局上りをローテーションして走っていたら最初にちぎれたのはフランス人だった。

 こうなってしまうと、もう後には引き返せない。後方集団はほぼフランス人。ここでついにロケットエンジンに点火だ。先頭はB組から3人が前のA組に追いつき、16人ほど。なかなか苦戦していたが折り返してから30分以上離れていたが徐々に差が縮んできている。

あえてTTバーは使わない

 一緒に走っていたA組からの脱落ドイツ人もスイッチ入ったのか、下りではまさにロケット、千切れそうになりながらついていく。この区間、先頭とのタイム差が一気に縮まった。今回のPBPでは今までとは決定的に違うことがある。今回はTTバーの使用が認められたことだ。集団になかなか追いつかない、もしくは集団とあっという間に差が開いたときはだいたいTTバー使用者がいる。

上位にはTTバーを使う参加者も多かった Photo: Yufta OMATA

 今回B組から抜け出した3人のうち1人もTTバー。さすがに1200kmともなると1人でもTTバー利用者がいると平均時速が大きく変わってくる。聞いた話ではブレーキレバーよりも突き出していなければOKとのことだったので、ショートタイプは問題なく使えたようだ。

 私の場合は、そもそもブルべでTTバーを使用しようという気もないのだが、装着した時のスタイルも格好よくない。そもそも昔のランドヌールたちが使っていない、そして憧れのベルナール・イノーやエディ・メルクスがロードレースで使っていないものを使いたいとは思わない。そういう意味では古典的なライダーなのかもしれない。

 もし使えばショートタイプと言えどトータルで4時間は速く走れるだろう。今回のように向かい風を突き進んで追い風で戻ってくる展開だと集団でなくてもそれほどハンディにならないはずだ。逆に言えば今までとまったく違うものになる。

 先頭3人がTTバーの恩恵でペースを維持している頃、ノーマルバイクのデンマーク人と2人で追走。それでもA組のメンバーをどんどん吸収しルディアックでA組は全員吸収完了。沿道で見ている人たちが先頭とのタイム差が縮まっていること、そして現在4番手を走っていることを伝えてくれる。これは自分でも驚き、そして大きく勇気がわいてきた。

無念の補給失敗

 今回のターニングポイントは、ズバリ「補給」だった。はっきり言うと4年前のように補給がうまくいかなかった。原因としては集団が早々とコンパクト化してしまい、補給チームにリクエストを出しながら走るという、4年前のような臨機応変な走りを今年は余裕がなくできなかったからだ。

 最初のチェックポイントでは4人で抜け出しに成功したが、ボトルの中身で水しかなく、さすがに200km走って新たにエネルギーが求められている状態。スポーツドリンク、そして補給食もできればバゲットのハムチーズなどが欲しかったが、リクエストを伝えられずスタートすることが多く、結果的に甘い補給食を得るのに半日かかってしまい、実は前半にエネルギーは枯渇寸前だった。

夜間のチェックポイントで貴重なドリンクをおいしそうに飲み干す Photo: Yufta OMATA

 そしてB組から抜け出しての先頭追走。ここで完全に枯渇ギリギリでルディアックに到着したタイミングでサポートカーが道を間違えて到着できず、次の100kmを食べ物なし水なしでスタートする羽目に。「さすがにこれはヤバい!」とコントロールを飛び出したところで手あたり次第、周りに声をかけて“物乞い作戦”となった。

さすがの三船さんと言えども後半はペダルを重そうにチェックポイントを出る Photo: Yufta OMATA 

 イギリス人サポーターに「先頭4番目で補給チームが到着してないんだ。LEL(ロンドン~エディンバラ~ロンドン)も81時間で走ったんだぜ」と話をすると、水1本もらった上に、さらに追加でいただけた。それでもここからタンタニアックまでを考えると心もとない。手あたり次第声をかけたらまさか往路でやりあったフランス人の家族…彼らも私の素性を知りつつもそれでも渋々食べ物をくれたことは感謝しかない。今はどうであれ彼とは正々堂々と、騎士道において真っ向から勝負するのみだ。

まだ往路の日本参加者から「がんばれ!」

 ルディアックから先、最初の上りでデンマーク人が力尽きる。待つか待たぬべきか…待たないということは前3人と1人の戦い…しかしこの先どうなるかなんてわからない。行けるところまで行くしかない。その気持ちと自分を信じて単独になって踏み続ける。まだ往路を走るたくさんの日本人参加者がこちらに気づき声をかけてくれる。「がんばれ!」

日本人参加者からも人気の三船さん。スタート直前でも気軽に記念写真に納まる Photo: Yufta OMATA 

 心の中で「それはお前もだろ!人にエール送る前にお前が頑張れよ!」そう思いながら胸が熱くなる。頑張らないといけない人に元気をもらうなんて本当に泣けてくる。その気持ちを追い風に、ただひたすら見えない3人を追いかけて走り続ける。タンタニアックに着いたとき、正直後ろの集団から逃げ切れるなんて思わなかったが、これが一つ判断力を鈍らせてしまった。

 追いつかれたくない一心で、完全に身体にエネルギーを充填させることなく走り出してしまった。このことがハンガーノック、集中力を失い道案内の看板を見落としてしまい、往復20kmのミスを犯してしまった。

三船さんの復路の走行データ
三船さんの各チェックポイント通過時間とペース(PBP公式ページより)

 今回ルートデータをインストールせずに走行。このことでルートをミスすると自分がどこにいるかはまったくわからなくなる。ポラールV650のメーターにはマップデータが入っているが、スタート前にみたマップデータを思い出し、今自分がどこにいるかを推測するしかない。

 なんとなく道路の曲がり方を見て「ここは地図で見おぼえのある形だ、ここに違いない。間違ったのはこのポイントだ!」と狙いを定めて走った。3次元の視覚と2次元の視覚を瞬時にリンクさせる能力は親に感謝だ。しかし体力は完全に底をつき、そして後続集団にはここで逆転されてしまった。ある意味ここで自分の1番を狙うチャレンジは終了していた。

 フールージュに到着した時には自分でも薄々感じていたが、それまで張りつめていたものが欠片もなくなっていた。そのことが走り始めて低体温で睡魔に襲われ、路上で15分ほど寝落ち。寒さと疲労、そして空腹?で目の焦点が合わない。そして体調が急変したのか嘔吐。ずっと胃液がこみあげてくる状態で残り300kmを進み続ける。

1200kmを駆け抜けPBP3度目のゴール Photo: Yufta OMATA
ゴール後、1200kmをサポートしたラファ・ジャパン矢野大介代表(左)から声をかけられる Photo: Yufta OMATA
ゴール後は戦ったライバルたちと談笑 Photo: Yufta OMATA

 正直なところ今回は1番でなければ最下位でもDNFでも自分にはどうでもいいという気持ちだった。それでもゴールを目指したのは、多くの人の応援、そして最後まであきらめずにゴールするというブルベ的な気持ちが大きかったのだと思う。49時間44分でゴール。タイムだけで言うと4年前より7時間ほど遅い。今回のチャレンジでは多くの反省もあるが、それと同時に「1番でゴールすることは可能性が十分にある」ということははっきりと分かった。

 4年後、間違いなくPBPのスタートに戻っているだろう。今回出せなかった答えを求めて。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

ブルベ ロングライド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

  • タイム
    アルプデュエズ01 ディスク

    ディスクブレーキで伝統の走りを進化

  • リブ
    AVAIL ADVANCED

    走る好奇心を止めない リブの新型‟無敵”ロードバイク

  • インプレッション一覧へ

    連載