福光俊介の「週刊サイクルワールド」<306>キーワードは「ロード・トゥ・アルカンシエル」 大物参戦中の“ブエルタの裏レース”に着目

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 シーズン最後のグランツールであるブエルタ・ア・エスパーニャが進行中のロードレースシーンだが、同時に“裏レース”も進行中。ツール・ド・フランスを終えて休んでいたビッグネームたちが活動再開とばかりに各地のレースに参戦を果たしている。彼らの多くが抱えるキーワードは「ロード・トゥ・アルカンシエル」。ロード世界選手権の覇者だけが着用できるジャージ「マイヨアルカンシエル」を視線の先に据える大物たちが、意気揚々と臨んだ注目レースを振り返ってみたい。

熱戦はブエルタ・ア・エスパーニャにとどまらない。8月25日に行われたユーロアイズ・サイクラシックス・ハンブルグでは、ヨーロッパチャンピオンジャージのエリア・ヴィヴィアーニが3連覇を達成した Photo: STIEHL / SUNADA

若手クライマーのデプルスがビンクバンクツアー制覇

 前回のこのコーナーでは、レムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)が制したクラシカ・サンセバスティアンや、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)が制したプルデンシャル・ライドロンドン・サリークラシックについて触れたが、その後もUCIワールドツアーは継続してレースを開催している。

ベルギーやオランダのパヴェや丘陵地帯を進んだビンクバンク・ツアーのプロトン Photo: Cor Vos

 8月12日から18日まで行われたビンクバンク・ツアーは、ベルギーとオランダが舞台のステージレース。春のクラシックで登場するようなパヴェ(石畳)や丘陵地帯もコースに組み込まれ、ちょうど1週間で争われるツアーであることも相まってクラシックハンターが総合争いに加わってくるのがレースの特徴。例年、僅差の勝負となり、最終ステージを終えるまで何が起きても不思議ではないあたりも、この大会が人気を博する理由だ。

 総合争いはまず、96kmの短距離に設定された第4ステージでティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・スーダル)が制して、リーダージャージに袖を通す。得意の丘陵ステージで結果を出して優位に立った。

 その後もウェレンスがジャージを守り続けたが、決定的な瞬間は第7ステージでやってきた。今年のツール第1ステージで通過し、近年のこの大会では恒例となった名所「ミュール・ファン・ヘラールツベルヘン」を走った大会最終日。パヴェスペシャリストのオリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール ラモンディアール)、グレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー、CCCチーム)がアタックを成功させると、前日まで個人総合3位につけていたローレンス・デプルス(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)が追随。決して「申し合わせたわけではない」というが、普段から友人である3人は利害を一致させライバルたちを引き離した。

個人総合での逆転をかけて最終ステージで攻めたローレンス・デプルス。優勝を決めてガッツポーズ Photo: Cor Vos

 個人総合での大逆転をかけて懸命に牽引を続けたデプルスは、最終的にナーセンとファンアーフェルマートのスプリントに屈したが、ステージ3位とまとめ、ボーナスタイムを獲得。レース途中でのボーナスも生かして今年のビンクバンクツアー王者に輝いた。

 ツールでは山岳アシストとして、ステフェン・クライスヴァイク(オランダ)の個人総合3位に大きく貢献したデプルス。その働きで一気に注目度を高めた23歳が、キャリア初のステージレース個人総合優勝を地元でのUCIワールドツアーで飾ることとなった。

 個人総合2位には最終ステージを制したナーセンが食い込み、土壇場でジャージを明け渡したウェレンスは3位。また、現在開催中のブエルタで好調さをアピールしているサム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)が開幕から3連勝し、最終的にポイント賞争いで圧勝。このレースがブエルタへの足掛かりとしたようだ。

ヴィヴィアーニがクラシック・ハンブルグ前人未到の3連覇

 8月25日にドイツ・ハンブルグを舞台に開催されたUCIワールドツアー「ユーロアイズ・サイクラシックス・ハンブルグ」では、ヴィヴィアーニが史上初の3連覇を達成した。

ユーロアイズ・サイクラシックス・ハンブルグのひとこま。緑あふれるコースを通過する Photo: STIEHL / SUNADA

 毎年8月下旬に行われ、スプリンターズクラシックの1つとされるスピードレース。スタートから中間地点過ぎまでは平坦基調が続くが、そこからは細かな変化の連続。中盤と終盤に2回ずつ上る丘陵「ワセベルグ」が集団の絞り込みや、スプリンターの脚を削るポイントとなる。

 序盤から逃げた4選手が最大10分以上のリードを得るが、レースの主導権を握ったのはやはりメイン集団。逃げを捕まえると、いよいよスプリントに向けて各チームが態勢を整えていく。最後のワセベルグ通過ではペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)らが逃げ切りの可能性を探るべく仕掛けを図ったが、いずれも決定打とはならず、勝負は例年通り集団スプリントにゆだねられた。

 ここで力を発揮したのは、「ハンブルグマイスター」となっているヴィヴィアーニ。ツールからの好調を維持して臨んだカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)や、ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、ディメンションデータ)らを寄せ付けず、2017年から3年連続となるクラシック・ハンブルグ勝利を収めた。

上位3選手の表彰。左から2位カレブ・ユアン、1位エリア・ヴィヴィアーニ、3位ジャコモ・ニッツォーロ Photo: STIEHL / SUNADA

 来シーズンはコフィディス ソリュシオンクレディへの移籍が決まっているヴィヴィアーニ。現チームで走る機会は残りわずかとなっているが、8月11日のヨーロッパ選手権で獲得した大陸チャンピオンジャージのお披露目となったこの大会で、史上初の3連覇を達成した。

 ちなみに、ヴィヴィアーニは9月のUCIロード世界選手権について、開催地であるイギリス・ヨークシャー地方のコースに適していないとして、イタリア代表入りの辞退をすでに表明済み。冬場のトラックシーズンに備え、バンク用の脚づくりに専念していく意向を示している。

ファンデルプールやアラフィリップらが世界選手権に向けシーズン後半戦始動

 ヴィヴィアーニの世界選手権回避とは対照的に、シーズン後半の最大目標をマイヨアルカンシエル獲得に定める選手たちが少しずつ動き出している。

アークティック・レース・オブ・ノルウェー第1ステージはシクロクロッサーのマチュー・ファンデルプールが勝利した Photo: ARN/Rune Dahl

 8月15日から18日に開催されたアークティック・レース・オブ・ノルウェー(UCIヨーロッパツアー2.HC)には、シクロクロスの現世界王者であるマチュー・ファンデルプール(オランダ、コレンドン・サーカス)が参戦。昨年のこの大会でステージ2勝、ポイント賞を獲得するなど、センセーショナルな活躍を見せたノルウェーへと帰ってきた。

 4月にアムステル・ゴールド・レースを制して以降は、東京2020五輪で優勝候補にも挙げられるマウンテンバイクに注力するなど、幅広く取り組んできた彼だが、いよいよロードシーンへ“復帰”。目下のターゲットは、ロードでのマイヨアルカンシエル獲得だ。

 その第一歩として臨んだノルウェーでは、第1ステージでスプリント勝利。一見、早掛けかと思われたロングスプリントは、その見立てに反してライバルを蹴散らす力強さ。結果的に、4日間でこの1勝にとどまったが、第2ステージでも2位に食い込むなど、ロードの“レース勘”はまったく衰えていない様子。まだ正式発表には至っていないが、世界選手権でのオランダ代表入りに加え、エースとしてスタートラインに並ぶ公算が高まっている。

8月29日開幕のドイチェラント・ツアーにはジュリアン・アラフィリップが参戦する =ツール・ド・フランス2019第17ステージ、2019年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 8月29日から全4ステージで争われるドイチェラント・ツアー(UCIヨーロッパツアー2.HC)には、UCIワールドツアーさながらの豪華メンバーが顔をそろえる。アークティック・レース・オブ・ノルウェーと共通するのが、ツールを主催するアモリ・スポル・オルガニザシオンが大会の運営に携わっている点。今回はドイツ中部の丘陵地帯が舞台になる。

 参戦を表明しているのは、エヴェネプール、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)、ゲラント・トーマス(イギリス、チーム イネオス)、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チーム イネオス)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)、エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)など。スプリンターでは、ユアンやパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)らが挑む。

ゲラント・トーマスもツール・ド・フランス以来のレースとしてドイチェラント・ツアーに参戦する =ツール・ド・フランス2019第12ステージ、2019年7月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 なかでも注目度が高まっているのは、やはりアラフィリップ。ツールでの活躍以来、その動向を追いかけられる立場となった。ツール後はクラシカ・サンセバスティアンにこそ出走したが(途中リタイア)、ヨーロッパ各地でのクリテリウム巡業参加を1つにとどめ、休養と再調整に時間を注いだ。もちろん目標は世界選手権。その第一歩をドイツで踏み出すことになる。

 かつてヨーロッパカーなどで大活躍し、今年からはフランス代表チームのヘッドコーチに就いたトマ・ヴォクレール氏は、世界選手権に集中するアラフィリップの姿勢を高く評価。多額の出走料が支払われるツール後のクリテリウムを何戦も走って“稼ぐ”ことにフォーカスするのではなく、「レースを戦い、勝つ」という本来あるべき形を追い求める彼の姿にリーダーとしての資質を見出しているよう。

 こうした取り組みが実を結ぶかどうか、いまから動向に注視していくと世界選手権までの楽しみが増えていくことだろう。もちろん、トーマスやニバリらもマイヨアルカンシエル争いの主役候補。ドイツでの戦いも、他のレース同様に世界選手権へのしっかりとした道筋が存在している。

今週の爆走ライダー−セルジオ・イギータ(コロンビア、EFエデュケーションファースト)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 まだまだ序盤戦のブエルタだが、総合系ライダーたちが早々と上位戦線をにぎわせる中に混じって健闘を見せる22歳。第3ステージでは中間スプリントでのボーナスタイム争いにも加わるなど、その姿勢は「本気」である。

セルジオ・イギータは2019年シーズン当初はスペインのコンチネンタルチームで走っていた =ブエルタ・ア・アンダルシア2019第3ステージ、2019年2月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

 注目を集める存在となっているが、ここまで駆け足で進んできた。プロデビューこそ自国のトップチームであるマンザナ・ポストボンだが、ヨーロッパでの活動は今年が初年度。当初は8月に現チームに加わる予定だったが、順調すぎるほどの適応力で結果を残し、3カ月前倒しでチームに合流した。そして、“デビュー戦”だったツアー・オブ・カリフォルニアでは個人総合2位と、いきなりの大活躍。

 現在のブエルタ参戦も本人にとっては想定以上だという。当初はシーズン終盤のビッグレースであるイル・ロンバルディアや、来春のアルデンヌクラシックをターゲットにするつもりだったが、カリフォルニアや8月上旬のツール・ド・ポローニュ(個人総合4位)でチーム首脳陣の見方も確信に変わり、状況は劇的に移っていった。

 もっとも、同国の仲間でもあり、今年のツールを制したエガン・ベルナル(チーム イネオス)と同い年とあり、グランツールデビューを早すぎると不安がってもいられなくなってきた。大先輩のリゴベルト・ウランがチームリーダーを務めているのも心強い。ウランからも背中を押され、自信をもってスペインでの3週間に挑めることがうれしい。

 上位戦線でどこまで戦い抜けるかに多くの視線が注がれ、期待も膨らんでいく。「リゴ(ウラン)やナイロ(キンタナ)のようになりたい」と夢見るヤングパワーの走りは、このブエルタが終わった時に欠かせない話題になっているかもしれない。

 「自転車界の伝説になりたい」。ヨーロッパを拠点に走ることを決め、誓った強い思い。次々とヒーローが誕生する南米からまた1人、華のあるライダーがプロトンに加わった。

EFエデュケーションファーストに加入して最初のレースとなったツアー・オブ・カリフォルニアで個人総合2位。一気にトップシーンで注目される存在となったセルジオ・イギータ(左) =2019年5月18日 Photo: GIBSON / SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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