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栗村修の“輪”生相談<160>20歳男性「プロになる選手は競技を始めたときから他の人より速いですか?」

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プロロードレースの世界では、20歳前後から競技生活をスタートし国内や世界で活躍する選手が他のスポーツと比べて多いと聞きます。

 単なる興味本位なのですが、そのような選手たちはやはり自転車競技を始めた直後から他の人とは違う速度で走れたり、高パワーを出せるのでしょうか。もしそうであれば色々な数値などを教えていただきたいです。

(20歳男性)

 
プロロードレーサーになるには才能がとても重要というお話をよく聞きますが、日本国内で活躍しているプロロードレーサーの方々は、練習を始めたばかりの頃から他の人とは違う能力なのでしょうか。それとも練習を始めてからの伸びが非常に大きいということなのでしょうか。人それぞれだとは思いますが、どちらが多数派なのでしょうか。

 また、20歳前後で競技を始められたプロの方は、初めはどれくらいのスピードで走る能力があったのでしょうか。

(初心者男性)

 2つのご質問ですが、ほぼ同じ内容なのでまとめて回答しますね。同じ方でしょうか?

 シンプルですが、スポーツの核心に迫った質問です。人間に数字で優劣(順位)をつけて競争させるスポーツでは、才能(持って生まれたもの=先天性)を無視して語ることはできません。

 その一方でスポーツには自己鍛錬や努力・研究と言った重要な側面(努力で得られるもの=後天性)もあり、とくに日本ではこういった面が重視されがちです。だから、才能という言葉は敬遠されるというか、あまり好まれていない印象もありますね。それだけに大切な質問です。

 さて、そもそも才能とは何でしょうか? 一般的には持って生まれたフィジカルの能力を指すことが多いようです。自転車競技なら、パワーメーターの普及により可視化できる能力値がたくさんありますよね。そして、トレーニングを行うことで最終的に得られる能力の上限値は、持って生まれたもの(フィジカルの才能)に左右されることは皆がうすうす感じていることです。

 しかし才能は他にもあります。努力を続ける能力や逆境に立ち向かう能力、ストレスと戦う能力、そして研究する能力もあきらかに才能です。これらは「メンタルの才能」と言っていいでしょう。

 一人の自転車選手の強さは、このフィジカルの才能とメンタルの才能の合計によって決まります。

 フィジカルとメンタルをそれぞれ100点満点とします。ツール・ド・フランスなどでは合計点が200点近い選手たちが競い合っているわけですが、200点に達することができる選手はまずいません。いくらフィジカルが100点でも、トレーニングを続ける能力(メンタル)が50点ならその選手は150点止まりです。逆に、フィジカルが60点でもメンタルが100点なら合計160点ですから、フィジカルの才能に富んだ選手に勝てることになります。以上が才能の基本概念です。

22歳で自転車競技に転向して、わずか数年でトッププロに上り詰めたプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)。スキージャンプ選手として世界レベルで戦ったメンタルは自転車競技でも生かされたに違いない Photo: Yuzuru SUNADA

 今の例えではフィジカル・メンタルともに100点満点ということにしましたが、実際にフィジカルとメンタルのどちらが重要かはスポーツによって変わると思います。そして僕の印象では、自転車はメンタル、つまり努力の占めるウェイトが大きなスポーツなんです。

 誤解がないように繰り返しますが、グランツールの総合優勝を目指すレベルならば、フィジカルも100点近くなければ勝負にはなりません。フィジカル+メンタルの合計点が200点近い選手たちが争うわけですからね。ただ、たとえば現時点での全日本選手権だと、フィジカル+メンタルの合計点が120点くらいでも可能性があります(数値はあくまでも例ですが)。

 これはつまり、全日本の優勝を目指すなら、フィジカルの才能は最低20点でも可能性がある、という意味です。フィジカルが20点といまいちでも、メンタルが100点ならば優勝を狙えるからです(努力家タイプ)。もちろん、フィジカル100点・メンタル20点という組み合わせもあるでしょう(あまり練習しなくても勝ってしまう天才タイプ)。

 ちなみに、競技をはじめた段階でフィジカル100点・メンタル20点の選手は、とんでもなく速いはずです。フィジカルが100点なんですから。でも、メンタルは20点ですからあまり伸びないでしょう。

 逆に、競技を始めた段階でフィジカル20点・メンタル100点の選手は、最初は速くないはずです。でもメンタルが100点なら効果的なトレーニングを積み重ねられるので、時間をかけて120点までは強くなれます。

 というわけで、「プロは最初から速いのか」というご質問への答えは「速い場合もそうでない場合もある」です。なぜなら、才能はフィジカルとメンタルの合計点で決まるからですね。

 僕が見聞きした範囲でも、自転車に乗りはじめた直後から速い選手もいれば、まったく速くないのにだんだん強くなる選手もいます。フィジカルの才能に比べて、メンタルの才能は計るのが難しいのですが、長期的には大きな影響を及ぼすということです。

(編集 佐藤喬)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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