体幹で走りが大きく変わる元プロロードレーサー・宮澤崇史さんに聞く「ロードバイクと腹筋」の話<後編>

by 大澤昌弘 / Masahiro OSAWA
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 選手時代体幹を鍛えたことで、走りが何もかも変わったという元プロロードレーサーの宮澤崇史さん。ディスタンスペース走では長い時間走っても疲労しにくく、スプリント力もつき、坂でも遅れず、レースでは重いギアを回せるようになったという。レースに興味のあるサイクリストならば、関心は高いのではないだろうか。しかし、体幹について理解しているサイクリストはごく少数かもしれない。そもそも体幹とは何を示すのか。宮澤さんに聞いた。

体幹が使えると何が変わるのか Photo: Masahiro OSAWA

不安定な体幹、安定した体幹

 体幹とは頭と四肢を除いた胴体部分の筋肉群のことだ。ロードレースのように長時間、安定的にパワーを出し続けたり、高強度で走っても失速せずに走り続けるには、体幹の安定が不可欠だ。背骨は体幹の筋肉と密接に関わっている。体幹が安定した状態を保てると脊柱が安定し、体幹の筋肉の動きが不安定だと背骨は安定せず、せっかく臀筋や足で出した力を逃してしまう可能性がある。

 皆さんは空港のカートに腰を曲げた状態で寄りかかって、歩いてみたことはあるだろうか? 一瞬楽な感じがするが、だんだん腰が痛くなったりあまり楽ではないことに気づく。足と腕で体を支えて体幹の筋肉が機能しない状態にあることがわかる。

 よく見かける体幹が安定していない例としてお腹が折れてしまうサイクリストが多い。先に例に挙げたカートの状態に似ていて、ハンドルに上半身の体重をのせて腰椎で折れてしまっているタイプだ。

体幹の使用の有無で体の動きはどう変わるか

 自転車に乗るとどうなのだろう。宮澤さんにお腹が折れない場合と、折れてしまっている場合のペダリングを見せてもらった。踏み込む強度はFTP(1時間継続して漕ぎ続けられる最大強度)の90%程度。宮澤さんがアドバイザーを務めるLEOMO(リオモ)のセンサーデバイス「TYPE-R」を活用して実演してもらった。

 動画内は2画面分割されるが、左側が体幹をうまく使えているペダリングとなる。右側がお腹が折れて、上半身を支えるためにハンドルにもたれかかっているペダリング、体幹をうまく使えていないペダリングとなる。画面下半分には波形が記されるが、これがセンサーから受け取ったデータだ。

■動画内のペダリングの違い

動画内左側が体幹を意識したペダリング、右側がハンドル荷重になっており、上半身の重さを肩でも受け止め、腹筋が折れて体幹をコントロールできていない状態のペダリング

■テストの目的、方法など

【目的】腹筋で支えられない、お腹が折れてしまったサイクリストの特徴を掴む
【方法】LEOMO Type-Rを使って腹筋が抜けている(お腹が折れている)状態では本当に背骨は安定しないのかを検証。FTPの90%辺りで1分間計測する
【センサーの取り付け位置】仙骨(尾てい骨の上)・腰椎と胸椎の間(背骨の下から6番目辺り)の2個所
【理由】腹筋が折れると腰椎の上辺りで腰が折れ、骨盤の動きや背中の動きが不安定になるとデータ上Variance(波形の大きさ)に差がでるのではないか(以下VarianceはVarで表記)

■テスト結果

【結果】
1)骨盤の前傾方向の動き(データ上段)
・波形の大きさはVar0.6(左)からVar2.8(右)へ。波形の大きさにも差がある。見た目も大きく異なる。Varが大きいほど四肢末端の動きに大きく影響する
2)腰椎の前傾方向の動き(データ中段)
・こちらもVar0.9(左)からVar5.0(右)と動きが大きく乱れ、安定した動きになっていない
3)骨盤上下の動き(データ下段)
・骨盤の上下の動きは腹が折れると周期性がなくなり、Varの波形も大きく乱れて、リズミカルな動きになっていない。この辺りが自転車が不安定になる動きになっていると予想できる
【結論】腹筋で支えることができない状態だと、骨盤や腰椎周りの動きが不安定になり、自転車の動きにも支障をきたすことがわかった

腹斜筋を徹底的に鍛える

さいたまクリテリウムにて。欧州の選手を横から見ると体幹まわりに厚みがあることがわかるはずだ Photo: Masahiro OSAWA

 それでは、体幹力を向上させるにはどうすればいいか。宮澤さんは、欧州で活躍する選手に共通する寸胴型の体型を目指し、腹筋の強化を図った。「見た目は重要です。速い選手に共通すること、一方で遅い人にも共通することがあると思うんです。速い人に共通していたのは体幹が太いことでした。いわゆる逆三角形とよばれる体型は自転車選手にはあまりいないと思うんです。だから、体幹が太くドラム缶のような体型にするにはどうしたらいいのか。ウエストで細くならずにしっかりしたドラム缶体型を作るために腹筋をしようと思いました」。

 寸胴型の体型を目指すために、宮澤さんは腹筋のなかでも、腹斜筋(外腹斜筋、内腹斜筋)に注目した。マットを使った腹筋トレーニングに加えて、電気的に筋肉を刺激するコンペックスという機器も使った。次の日に張りが残っているくらいが、ちょうど自転車に乗っていて意識しやすかったので、毎日1時間ほど行なっていた。腹筋は回復しやすい筋肉なので、トレーニングもほぼ毎日でき、結果意識もしやすくどんどん体が吸収していった。

宮澤さんが腹斜筋のトレーニングに使ったEMS機器の「コンペックス」 Photo: Masahiro OSAWA
腹斜筋へ電気的刺激を送る。刺激は非常に強く苦痛を滲ませるときもあった Photo: Masahiro OSAWA

継続するトレーニングを!

 体幹を鍛えるといっても、もちろん、一般のサイクリストには、これだけの時間を費やすことは無理だ。また宮澤さんの体のラインは参考になっても、腹筋トレーニングを個別具体的に記すことも大きな意味は持たないだろう。なぜなら継続が重要だからだ。

 宮澤さんによれば、鍛える方法は人それぞれだという。体幹を意識して自転車に乗る回数を増やす、腹筋トレーニングするなど様々だ。「僕は腹筋でしたが、体幹力の必要なスポーツを取り入れるのもひとつの手かもしれません。自分だったら何が続けられるのか、楽しいのかやってみて決めればいいと思います。僕の場合はコンペックスが合ったのでやっていただけです。寝ていて終わりますしね。実際は苦しすぎて悶絶しているので、寝ることなんて絶対できませんが(笑)」

 ちなみに、見た目が重要だと先に述べたが、トレーニングにおいても見た目は重要になる。「体幹が使えていると体に変化が出てくるんですよ。逆三角形が寸胴型の体型に変わってきます」。そうした体の変化を見るためにも、定期的に腹筋周りの写真を撮影し、体のラインを確認することも必要だという。

体幹を使った乗り方を意識する

 体幹を鍛えるだけでなく、体幹を使った乗り方を意識することも重要だ。その方法について宮澤さんはサドル高を変えることで意識しやすくなると話す。サドル高を大きく下げ、サドルを大きく後退させるとハンドル荷重がなくなり、体幹が意識しやすくなるという。「僕のサドル高は668mmなんですが、645mm-650mmくらいに下げていました。サドルの前後位置は、1cm下げるにつき3mm-5mmサドルを後退させる感じです。シーズンの最初はそうしたポジションを作って、ペダリングが落ち着いてきたら元のポジションに戻していくといったことをやっていました」。

◇         ◇

 本稿では体幹とは何かから始まり。うまく使えた場合とそうでない場合などを比較してみた。体幹はロードレースのフィジカル面において重要だと認識できるのではないだろうか。速くなりたいのなら、体幹は鍛えるべき。速くなりたいのなら、どんな腹筋トレーニングがいいのか。自分なりに考え実行することで、少しずつ変化が出てくるに違いない。

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