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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<36>アラスカ・ユーコン川をカヌーで下る 自転車とは異次元の“自然に溶ける”感覚

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 自転車旅でアラスカを訪れたサイクリストにぜひお勧めしたいアクティビティがユーコン川の川下りだ。といっても、当時の僕はユーコン川下りができるということは知っていたが、カヌーには全くもって乗ったこともなかったし、カヌーを借りる英語力も自信がなかったし、なにより一人で高いお金を払って川下りに行く情熱がなかったので半ば諦めていた。ところがたまたまアラスカで出会った日本人サイクリストに誘われることで、幸運にも3人でこの川下りに参加することができた。

レイクラバージにて。キャンプサイトは入り江になっていて風が弱い Photo: Gaku HIRUMA

初心者には難しいユーコン川

 拠点となる街はカナダのホワイトホース。ユーコン川に寄り添うように小さく可愛らしい街を形成しているが、川下りをする人や、冬はオーロラを見に来る人で賑わっている自然豊かな街だ。カヌーレンタルはホワイトホースの街のいたることろにあり、評判もまちまちだったのだが、それを精査している時間はなかった。

 そこで当時、日本人で唯一レンタルカヌー屋を営んでいた「クロンダイクカヌーイング」の篤史さんと連絡を取った。クロンダイクカヌーイングは店舗を構えていなかったので僕らのキャンプ場まで来てもらい、打ち合わせをすることになった。一言に川下りといってもユーコン以外にもたくさん川があるとのことだったが、僕らはやはり一番メジャーなユーコン川を選んで下ることにした。

 僕ら3人ともカヌーは初心者なので、本番の前日に練習をさせてもらうことにした。てっきり一人乗りのカヌーをそれぞれ借りるのかと思っていたが、それだと荷物が積めないということで、2人乗りで荷物をたくさん積めるインディアン・カヌーと一人乗りのカヤックを借りることになった。

 慣れないうちは、かなり不安定だがコツがわかると進めるようになってくる。一応ひっくり返った時のこともレクチャーされるのだが、「でも実際にひっくり返ったら死にますよ」と笑顔で言われる。夏でも水温は一桁という事で、冗談ではなさそうだ。

 僕らの下るユーコン川はホワイトホースとカーマックスという町まで行く一番メジャーなコースだが、途中50kmのレイクラバージという湖がある。湖なので当然流れが全くないため漕がないと進まず、風が吹くと白波が立つらしかった。篤史さんがユーコン川ではなく他の川を素人の僕らに勧めた理由はここにあった。「最悪の場合本当に死にますよ」と再び笑顔で言われ、真剣にスキルの習得に取り組んだ。

自然の静寂と音に驚き

 本番の日程は余裕を持って9日間。普段9日間の食糧だとラーメンやパスタ・米に根菜を少し持って行くだけだけど、大量に運べるカヌーでは夕食は少しだけ豪華な食事を作ろうと決めた。麻婆茄子や焼き肉、豚汁にカレーなど。クーラーボックスも借りられるので肉も3~4日は持ち運べる。9日分の献立を手分けして考え、必要な食材と、ビールはもちろんケースで買い込んだ。

2人乗りのインディアン・カヌーは大量に荷物を載せることが出来る Photo: Gaku HIRUMA

 自転車と使わない荷物は篤史さんの自宅に預かってもらい、スタートはホワイトホースの町中からスタートする。川幅が狭いので、流れは思った以上に速い。初めは恐ろしいが、このユーコン川下りのポイントはいかに流れに乗るかというとこだった。

 というのも流れの緩いところでは全然スピードが出ないので、当然漕がなくてはいけないのだが、普段下半身ばかり使っている僕らにとっては、この「漕ぐ」という作業は本当に大変だった。流れに乗って町の人達に手を振り、自転車で買い出しに行っていたスーパーもあっという間に通り過ぎ、道路がみえなくなると途端に静寂に包まれた。

 自然とはここまで静かで、ここまで大きな音を発するのかと改めて驚く。魚が跳ねる音、風がざわめく音、石が転がる音、鳥が飛ぶ音。普段は他の音に紛れてしまうこの音たちも静寂のユーコン川では驚くほど大きな音で入ってくる。普段から自転車旅で自然と触れ合っていたが、カヌーで踏み込む手付かずの自然は次元が違っていた。全く人工物が無い大自然の中を、雄大な川の流れに沿ってカヌーで下って行く経験は本当に貴重な体験だった。

「少し豪華な食事」が仇に…

 ところが、そんな感慨に浸れていたのも肝となるレイクラバージまでだった。出発から2日目にはレイクラバージに入った。進むにつれて風が出てきたのだが、問題なく湖の入口から20km地点でキャンプを張ることができた。ただそこから強風と高波に襲われ、まさかの4日間の足止めを食らった。

テントを張ろうと上陸したら真新しいクマの足跡が! 急いで場所を変えた Photo: Gaku HIRUMA

 食糧は切り詰めればやり過ごせる自信はあったし、水も浄水器で飲み水にできていたので何も心配なかった。ただ完全に盲点だったことがあった。全行程の5分の1程しか進んでいないにも関わらず、既にバーナーの燃料となるガソリンを半分近く消費してしまっていたのだ。「少し豪華な食事」が完全に仇となった。火を使わないで食べられる食事を想定していなかった僕らにとって、本当に重大な危機だった。

 ただ極度に乾燥しているこの地では、流木をライターで炙るだけで焚き火を起こすことができた。肉などはできるだけ直火か石焼ステーキなどに切り替え、そのうち焚き火で米を炊いたり直接料理を作ることにした。鍋が傷み、煤で真っ黒になるが背に腹は代えられない。こうして燃料を切り詰め、5日目のほんの少し風が弱まったタイミングで、死ぬ気でパドリングをしてなんとかしてレイクラバージを抜けた。

カヌーでのキャンプでは焚き火は欠かせないものだった。乾燥しているのでライターでも大木に火が付くのは驚きだ Photo: Gaku HIRUMA
燃料の節約の為石焼ステーキや、直火で料理する Photo: Gaku HIRUMA

 川の流れに戻ると嘘のように風が止んで穏やかになった。そこから優雅な舟旅が始まるかと思いきや、今までの遅れを取り戻すために必死に漕ぐことに。

レイクラバージを抜けると嘘のように風が無くなった Photo: Gaku HIRUMA

 無事カーマックスまで辿り着いて篤史さんに連絡を入れると、非常に心配しており、後数時間連絡が無かったら捜索隊を手配することろで、「プラス20万~30万くらいかかるところでした」といわれて冷汗をかいた。(ちなみにオプションで衛星携帯電話のレンタルがあったがケチってしまった)

 優雅な舟旅を想像していたが、思った以上のサバイバル体験だったユーコン川。しかし木の葉の様に流されるカヌーに揺られていると自然と一体化して溶けてしまいそうになる感覚は、自転車では味わうことのできない体験だった。

昼間岳昼間岳(ひるま・がく)

小学生の時に自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ「Take it easy!!

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