山下晃和の「“キャンプ”ツーリングの達人」<13>実践“グラベルバイクパッキング”スタイル③ 全ての時間が楽しめるキャンプ旅
「実践シリーズ」と題し、山下晃和さんが3回に渡って実走リポートをお届けしている2泊3日の長崎キャンプツーリング。飛行機輪行で長崎まで飛び、空港からフェリーに乗って時津へ移動。そこから自転車に乗って長崎市内定番の観光地を巡り、念願だった長崎の夜景を堪能した後にキャンプ場へと到着しました。シリーズ最終回は雲仙経由で長崎空港へと向かう旅の模様をお伝えします。方角を決めたあとは「おもしろそうな道」を選べる自由さは、山下さんいわく「グラベルロード旅の特権」です。

方角決めたらルート選択は自由自在
初日に利用した「崎野自然公園キャンプ場」から雲仙へと向かう道は2つあります。最短で行くには諫早市を通るルートですが、一方で「南の海沿いのルートの方が眺めが良い」という情報を耳にしました。キャンプ場の管理人の方やコンビニエンスストアの店員の方に尋ねても同じ意見でした。
ということで南の海沿いのルートを目指すことに。途中に峠越えがありましたが、キャンプ道具満載のヘビーなグラベルロードなのでのんびり上ります。その分、日本らしい田園風景や瓦屋根の家々をゆっくり見下ろしながら走ることができました。
途中、肥前古賀駅から船石町を上がったところに「権現神社」という看板があり、さらによく見ると「林道権現線」という道標が。その後ろにはダブルトラックのダートが続いていました。あまりにも美しい木漏れ日に誘われるように入っていくと、現れたのは凸凹の未舗装路。これがとても楽しく、この「どこでも行ける」感がグラベルロードの旅の仕方だと再認識しました。

ダート走行をすると、荷物がきちんと積めていないと左右に車体が持って行かれるので、短い距離を走るだけでもとても勉強になりました。フレームの真ん中にボトルケージがあり、ここに水分を入れる理由も分かります。真ん中の部分は重くなってもそれほどダート走行に影響がないのです。
このままこの未舗装路を抜けてしまうと、予定していたルートと違う場所に出てしまうのではと思い、途中で引き返して飯盛町へ。飯盛町で唯一平日でもランチ営業している「あやめ食堂」というお店に入り、長崎ちゃんぽんを食べ、予定通り海沿いの道に入りました(ちなみに後日、市の方に確認したところ、ここの未舗装路でも海沿いのルートへ抜けられるとのことでした)。
「旧小浜鉄道跡」を運転士気分で走る
「旧小浜鉄道跡」という道を通って雲仙へと向かいます。文字通り、もともと鉄道の線路だったところを舗装路にしたもので、鉄道ファンであれば最高に楽しめるロケーションだと思います。大正12年から昭和13年まで実際に鉄道が走っていたそうで、かつて通過していたであろうトンネルや、海が見える絶景ポイントがあったり、さらに車通りも少ないので本当に走りやすかったです。走っている間、まるで当時の運転士になったような気分を味わいました。



この日のキャンプ地は「休暇村雲仙」。ここは宿泊施設に大浴場(有料)があり、ゆったり湯船に浸かることができます。ロビーにはフリーWi-Fiも完備。そして僕は使いませんでしたが、無料のコインランドリーもあったようです。
キャンプ場自体はかなりワイルドな感じで蚊が大量にいたのですが、お客さんは僕以外に1組しかおらず、スペースを広く使えましたし、自販機があったので飲み物も買うことができました。もちろん、水場もあります。ただ、休暇村の宿泊施設からキャンプ場までは少し離れているので、その間は自転車で移動した方が良いでしょう。


発見!日本の「キー・ウェスト」
最終日は雲仙の温泉街まで上り、雲仙岳をかすめて「堤防道路」という有明海の上にかかる長い道を通ります。ちょうど真ん中が雲仙市から諫早市へとの境になります。雲が多く、湿度が高かったこともあって、この日は気持ち良いとはいえませんでしたが、晴れていたら最高の眺めだったと思います。僕はここを日本の「キー・ウェスト」(※)と呼ぶことにしました。
※米国本土の最南端にある島で、フロリダ州マイアミから海上を渡る橋で繋がっている
長崎空港からすぐのところにある「天然温泉ゆの華サンスパおおむら店」という大きな温泉施設で汗だくになった身体を洗い、ゆっくりとご飯を食べてさっぱりした後に空港へと戻りました。輪行袋を取り出し、キャンプ道具をまとめたらチェックイン。長崎空港はそれほど広くないので、輪行した自転車を持ち運ぶ距離も短くて楽でした。
1日の走行距離は50kmが目安

グラベルロードで行く飛行機輪行キャンプツーリングは観光と、各地を巡るルート選びとライド、さらにカフェや山の中での休憩、キャンプの時間と全ての時間が楽しめます。そしてマイナスイオンがたっぷりの美しいダートの林道を見つけた時の喜びは、まるで宝物を見つけたような感覚でした。そんな偶然の発見は、本当に自転車の特権です。おまけに、旅費を安く抑えられるのも嬉しいポイントです。
ちなみに、自転車で行くキャンプツーリング1日の距離は50km〜70kmくらいがちょうど良いでしょう。初めての人は20km〜30kmでも楽しいと思います。それは走る時間と同じようにキャンプ場で過ごす時間も楽しむため。キャンプ場でギアを使い、自然の中に身を置く時間も癒やしがあるからです。
ぜひ、皆さんも自由なグラベルロードのキャンプ旅を楽しんでみてください!

タイクーンモデルエージェンシー所属。雑誌、広告、WEB、CMなどのモデルをメインに、トラベルライターとしても活動する。「GARVY」(実業之日本社)などで連載ページを持つ。日本アドベンチャーサイクリストクラブ(JACC)評議員でもあり、東南アジア8カ国、中南米11カ国を自転車で駆けた旅サイクリスト。その旅日記をもとにした著書『自転車ロングツーリング入門』(実業之日本社)がある。趣味は、登山、オートバイ、インドカレーの食べ歩き。ウェブサイトはwww.akikazoo.net。