門田基志の欧州XCマラソン遠征記2019<6>UCIマラソン最恐のMBレースに3年ぶりチャレンジ “14作戦”で世界選出場権を獲得!

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 マウンテンバイク(MTB)クロスカントリーの門田基志選手(チームジャイアント)と、まな弟子の西山靖晃選手(焼鳥山鳥レーシング)のヨーロッパ遠征記。今回の遠征最終戦は7月6日開催の「MBレース」に挑みます。フランスアルプス、モンブランの麓で繰り広げられるレースは、距離140kmで獲得標高7000mという、UCIマラソンシリーズ最長距離・最高獲得標高を誇る厳しさ。3年前返り討ちにあったリベンジなるか、門田さんのレースリポートです。

街のベンチで試走の作戦を立てる。ヨーロッパでは補給の確保が山に入る時には必須! 本当に何も補給が取れなくなることがある Photo: Motoshi KADOTA

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 次なる目的地はモンブランの麓! コンブルーという街になる。UCIマラソンシリーズのなかで最長距離、最大獲得標高のMBレースだ。2016年に軽い気持ちで参加して見事に返り討ちにあい、僕は12時間半にも及ぶレース時間のうちにパンク3回&落車でバイクは壊れ散々。西山もパンクとシューズが壊れて徒歩という結果だった。

もう一度、心のオアシスドロミテに戻り、高地順化とトレーニング Photo: Motoshi KADOTA

 チェコから一気に行けば良いのにちょっと遠回りして心の充電を!?ということでドロミテ再び(笑)。進路をイタリアへ向けてドロミテに立ち寄り2泊して高地トレーニング。毎回泊まるHotel condorのスタッフは帰ってきた僕らを見て爆笑! 美味しい食事と綺麗な景色、暑かったチェコとは大違いの涼しさで心身共に癒されてモンブランへと車を走らせた。

僕は軽くインターバルを入れ、西山はレースの疲労から回復に努める感じ Photo: Motoshi KADOTA
ドロミテでは食で回復!息抜きもかねてティラミスとグラッパを楽しむ西山 Photo: Motoshi KADOTA

 グーグルマップのナビ機能に運命を預けての進路は、狙ってなかったけど有名なモンブラントンネルをルートに選んでいたようで、長い長いトンネルを越えてフランス入りした。

 ホテルは高台にある綺麗な感じで、スタッフと話すと何人かはMBレースに出場すると! 宿もバイク保管庫もあり洗車場、ブラシなど揃っていて助かった。

Photo: Motoshi KADOTA

試走も一苦労!

 翌日はホテルの朝食を眺めの良いレストランで食べて作戦を練る(といっても試走の作戦だ)。全ては試走できないので効率を考えて最初の20kmくらいと、途中に何度か通るセクションを走ることにする。コースの一部といっても獲得標高は1500m程度になる。

 気持ちよく景色を見ながら林道に入り「お!ここ走ったな!」とか言いながら下りをぶっ飛ばしいると前に倒木! 大きなモミの木が倒れている。よく見るとぶっとい幹が折れている…そして元気な折れ口をみるとなぜ?と疑問が。もしかして雷が?って思ってあたりを見渡すと、結構な数の木が折れていて、その後の試走でも川に降りたり木をくぐったりと何度も道を塞いでいた。

試走中、とにかく倒木が多くて迂回したり川に降りたり大変だったが、レース日には全て整備されていた Photo: Motoshi KADOTA
MBレースの看板は無数のトレイルにきちんと整備されている Photo: Motoshi KADOTA

 草むらを歩き、微妙に痒いような痛いような感覚の足を触ってたら、西山も「やっぱりなんかチクチクしますよね」と。得体の知れない草に負けることは遠征中に何度か経験している。この程度は特に気にしないが、日本より海外の方が圧倒的に皮膚に影響が出る草木が多い気がする。

 炎天下の中、思ったより試走が長引き、街に帰った頃には腹ペコでレストランに吸い込まれ、喉もカラカラで冷えた炭酸水とパニーニを補給した。自販機も無く不便なヨーロッパだけど、店に入って飲み物を買うと何となく触れ合いができて、MBレース走るのか?とかどこから来たの?とかやはり日本では少なくなってきてる人と人との交流が楽しめる。日本も、しまなみ海道もこんなになったらもっと楽しいのになと、遠征後半に入り日本を思い出すことが多くなってきた。

大会会場の風景 Photo: Motoshi KADOTA
アジアで有名なタイガーバウムが出展していて驚いた<br />! Photo: Motoshi KADOTA
フランス人がフランスパンを普通に持っている人数が多くて、思わずフランスパンを食べたくなった Photo: Motoshi KADOTA

 そしてレース展開のシミュレーション。序盤先頭集団で展開すると長すぎる登坂で潰れるだろうな〜と、圧倒的に長いレースは特殊な走り方が必要だというのが自分なりの答え。過去より2時間半タイムを短縮して10時間(平均時速14km)でのゴール目標! 名付けて「グッと我慢のアベレージ14作戦」!

 バイクは日本のクロカンコースにはない激しい根っこ、岩、落差、のMBレース! こうなれば最強の走破性を武器にANTHEMをチョイスする他ない。そしてタイヤチョイスが難しいのがマラソンレースだ。今回のレースは舗装路、根っこ、岩、泥、ジープロード、と多種多様でどこに合わせるのか? 悩んだ結果、ROCKET RON 2.1サイズを前後でチョイスした! 理由は激坂で上半身を少しでも休めるためにトラクション重視、泥対策、単純に重量が軽い、あと細いサイズをチョイスしたのはタイヤ外径を下げて登坂対策。

長距離レースは体に背負うと負担になるので、チューブやボンベなどバイクに直接取り付けたりテープで貼り付け負担軽減 Photo: Motoshi KADOTA
レース補給は万全に!日本国内から持ち込む!慣れたもの、日本人に合うものが最高だ Photo: Motoshi KADOTA

スタートは我慢、ペースで追い上げ

 MBレース3000人のビッグイベントの朝は早く6時スタートだ! 朝食は真夜中に食べて、各々のペースでレースに向けて気持ちを作っていく。

MB Race © Jérémie Reuiller

 召集エリアでは物凄い選手の数でごった返していたが、ポイントがあるので2列目に並ぶことが出来た。ボックスに入る時はもう色々な参加者がそれぞれの思いで、写真を撮る選手、ローラーを持ち込みアップしている選手、本当にそれぞれのMBレースが始まろうとしている。

 そしてゼブラジャージの西山はいつでも大人気だ! テレビカメラや写真、一般の人の携帯カメラまでもが西山狙いで、ちょっとしたスター選手化していた(笑)。カッコつけてポーズ取ってるスター西山が面白かったが、ジャージデザインの大切さを再認識できて良かった。

 そしてスタートの合図とともに踏み込むと!ズコっ!…ペダルを踏み外し失速してしまう。ジープ先導のパレードスタートなので普通に復帰して、恥ずかしいだけで終わったのは不幸中の幸いだ。

MB Race © Jérémie Reuiller

 パレード中も何となくイケイケ気味の15人程度が先頭集団を形成しつつ様子を見ているが、先は果てしなく長い!と言い聞かせて集団中ほどで様子を見つつ我慢。本スタートの合図から少しペースが上がるが、後ろを見るともう結構バラバラだ。

 西山は先頭付近に上がり3番手あたりを頑張って存在感を出している! 僕はメーターと睨めっこしつつアベレージ作戦で登坂を突き進む!が、14kmのアベレージといってもキツイ(笑)。

MB Race © Amandine ELIE

 先頭集団からは切れるものの目視範囲で、ペースが合う3人程度でローテーションしつつ効率が良いところで維持! 下りでペースを上げて前のグループの更にその前まで上がり、次の激坂の登坂へと突入する。

MB Race © Jérémie Reuiller

 激坂では先行していた集団が、細かくグループ毎に4人から5人程度が綺麗に並んで上っている。足を着かれたらパック全員が押す感じになるが、僕はどうしても押したくないし乗った方が後に(体力を)残せると思い1m程度車間を取っていたら、前の選手たちが足を着き始め押し出した!! でも「ソーリー」なんて言ってみると、押している選手たちが道を開けてくれる(止まってまで開けるのではなく、テクニックあったら通れるだろ程度に開けてくれる)。

 乗車して激坂はクリアして次なるゲレンデ直登では、視界に入ってきた前走グループがみんな押している…。ここでも押したくない!乗車でクリアしながらパスしようと登坂に入ったが…押してるスピードとあまり変わらないペースでしか上れず、抜く心配のない激坂っぷりに一人で笑えた。

長い長いレースは集中力が大事

 毎回登坂でパックが出来て緩斜面や平坦基調ではローテーション、そして下りで他の選手を千切って一人旅になりまた前を追う展開となる。

 登坂の頂点でアベレージ14kmを切ってしまうと、下りで挽回して下り切ったところで15kmとか、そして次の登坂では余裕を少し持ってのスタートで14.9…14.3…と14kmまでのカウントダウンが始まり、出来るだけアベレージを落とさないようにペースで上り、下りはかっ飛ばす!

MB Race © Jérémie Reuiller

 でもさすがにお腹も空いてくる中盤には、梅丹本舗サイクルチャージ10本入りのボトルも空になり、充実しているエイドステーションに吸い込まれた。エイドでは慣れたおばちゃんにボトルを渡すと、中身を補給してくれる! そして紙コップにはいま飲む物を入れてくれて、チーズ、生ハム、サラミ、パン、ドライフルーツ…とワインでもあったら飲み会が出来そうな補給の中から、糖分と塩分を選んで口に頬張る。

MB Race © Jérémie Reuiller

 GPSとコース案内板と目印のコーステープを頼りにレースを進めるが、たまに何も無いセクションで不安になる…気持ちよくかっ飛ばして山を下ったけど間違った?と確認のため何度もペースダウンするが、どうしよう?って思った頃に現れるサインのコーステープで一安心。

 後半に入ってコース図を確認すると、気が遠くなるような勾配のアップダウンで、MBレースは後半に差し掛かっても松野四万十バイクレースの獲得標高より多いのには驚愕した。

 ここまで来ると前を走る選手を視界に捉えても一気に追いつく事は命取りになる。維持できるであろう限界ペースと、14kmアベレージルールを死守しての追走で、1つ順位を上げるのに物凄い時間を要する。逆に集中して走れていたら、後方に選手が見えてもなかなか追いついてこない。最後は精神力との戦いだと悟りを開いた

MB Race © Jérémie Reuiller

念願の世界選切符を確保!

 長く開けた上りの先に西山が見えた。若者は先行して前でレースを展開する勢いのレース、僕は14km作戦でのレース展開。どちらにしても集中力が切れてしまえば、気持ちも切れる…そして一気にペースダウンして後続選手に抜き去られる。

 西山に下りで一気に追いつき、次のエイドステーションでドッキング。集中力も切れて身体もボロボロのようだ。ペースを出来るだけ維持して頑張れよ!と伝え再スタートするが、自分もボロボロでペースが上がらない、というかむしろ落ちている。

MB Race © Jérémie Reuiller

 最後40kmのループに入る手前でパンクしている選手をパス、更に激坂でもう1人をパスして最終のループ前エイドステーションで補給。ここではシマノのサポートが受けられ、補給している間にチェーンにオイルをさしてくれて、変速などもチェックしてくれる。レース後半に泥や埃で痛んだバイクを再調整してくれるのは本当にありがたい! ヨーロッパのレースは本当に必要なところを手厚く、大丈夫そうなところは自己責任で!と明確で良い!

 そしてラスト40km舗装路から山に向かう途中、応援の人が「20位だよ!」と教えてくれた。「えっ?20位?」と聞き直すと「そう思うよ」と。世界選手権参加資格20位以内の規定にギリギリ入ってるやんか!とテンションは上がり死力を尽くす。

 しかしペースアップというよりは、ペース維持しか出来ない…後ろから抜いた2人がパックで追ってくる展開で、筋肉が終わっていてギヤを掛けるペダリングは無理なので、クルクル戦法で回して上る! しばらくしたら後方2人の姿は見えなくなったが、見えない恐怖で、見通しのいいところでは確認してしまう(笑)。

MB Race © Jérémie Reuiller

 そしてゴールの街コンブルーに入ったら、街の人や先にゴールした選手たちの声援! コース誘導員の熱狂的な誘導! 10時間以上にもおよぶレースが終わりを迎えようとする達成感で、街中の迷宮のようなコースを誘導に従ってメイン会場に雪崩れ込んだ!

 UCIクラス18位で世界選手権への切符を確保し、3年前にトラブルで散ったタイムより2時間短縮し、43歳まだまだ速くなれると確信した、長い長いレースのゴールとなった!

遠征終了、43歳の挑戦はまだ続く!

 ゴール後、ホテルまでの道のりは過酷なものとなる…。緩い登坂でもバイクは進まずフラフラだけど、フランスの良いところは、道行く車が何台も減速して窓を開けて祝福してくれる! 上位ゴールした影響は凄い!

レース後の西山…この状態から1時間ほど動けず Photo: Motoshi KADOTA
僕が体に熱が入り、冷えピタで冷却状態1時間以上! 想像を絶するダメージだった Photo: Motoshi KADOTA

 そしてホテルでも影響を感じる事になる。ホテルのレストランの一番良い席だろう景色を一望できる窓際の席はいつも欧米人の席としてサーブされていたが、ホテルのスタッフも宿泊客も順位とタイムを聞くと祝福してくれて何か認められた感(笑)。そして食事でレストランに行くと特等席に案内されて、リスペクトされたのが手に取るように理解できた。

 ヨーロッパでは自分の居所は自分自身で証明して確保するものだと、改めて再確認したヨーロッパ最終戦となった。

MB Race © Jérémie Reuiller
MB Race © Amandine ELIE

 マラソンレースは町おこし的な面もあり、XCOよりも街中を走る事で街の関わり方がすごく濃く、自転車文化に触れる面ではプロ選手としての面以外でも、自転車文化に関わる者として勉強になる面が多い。

何があっても対応できるように荷物を用意すると140kgにもなるが、ANAのサポートで安心して運べるのは嬉しい Photo: Motoshi KADOTA

 今回の遠征では自転車文化への成果と、昨年に続き二人ともUCIマラソンシリーズ20位以内の規定で世界選手権への出場権を獲得できたことは、僕らの挑戦へのある一定レベルの成果が出始めたことだとは思うが、同時に世界の壁の高さを痛感するものとなった。

 次回ヨーロッパ遠征は世界選手権のスイス! 道路交通法が厳しく運転には気をつけないといけない国であり、厳格な国民性の中でアジア人として自分の居場所をどう作るのかが鍵となる。その前に国内戦を数レース走り体を作っていかないと対応しきれない。

 まだまだ伸びている43歳の挑戦は全てを楽しみながら続く!

門田 基志門田 基志(かどた・もとし)

1976年、愛媛県今治市生まれ。世界最大の自転車メーカー、ジャイアント所属のMTBプロライダー。選手として国内外のレースに参戦する一方、レース以外のサイクリングツアーも展開。石鎚山ヒルクライム、サイクリングしまなみなど数多くの自転車イベントを提案し、安全教室の講師やアドバイザーも務めるなど、自転車文化の発展に奔走している。

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