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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<304>移籍市場「ストーブリーグ」開幕! 新天地での活躍誓う大物と今後の動向について

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2019年のサイクルロードレースシーンは後半戦へと突入。レースはもちろんのこと、これからの時期はまた違った見どころが増えてくる。その1つが、2020年シーズンを見据えた各チームのメンバー編成。この8月1日からは移籍市場が解禁され、ビッグネームを中心に他チームへ移る選手の話題が大きなトピックとっている。今回は、次々と明らかになる移籍市場「ストーブリーグ」の情報をお届けしよう。

2020年シーズンに向けた移籍市場が解禁。エリア・ヴィヴィアーニのコフィディス ソリュシオンクレディ入りが大きなトピックとなっている =ツール・ド・フランス2019第4ステージ、2019年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

8月1日に移籍市場解禁

 サイクルロードレースにおけるチーム移籍の正式な契約や発表は、8月1日からとすることがUCI(国際自転車競技連合)によって定められている。各チームならびに当該選手による移籍のアナウンスが8月に入って次々と出てきているのは、この規定にのっとったものである。

ツール・ド・フランス2019第21ステージを走るプロトン。この大会の期間中に交渉を加速させている選手もいるものとみられる Photo: Yuzuru SUNADA

 ただ、翌シーズンに向けた補強活動は早い時期から行われているのが実情で、獲得を目指す選手に対してチーム側がオファーを出していたり、水面下での交渉といった動きはシーズン序盤、ビッグネームともなると前年の段階から、といったケースもあると言われる。また、ツール・ド・フランス期間中に交渉が進んだといった事例も数多くあり、先日閉幕した今年の大会でも同様の動きがあったものと思われる。

 早くから移籍が「既定路線」と見られる選手たちは、移籍先のチームと相思相愛になっていることが多い。待遇などの条件面はもとより、翌年、さらには数年先(複数年契約の場合)のレーススケジュールなどの構想を話し合う機会が多く設けられることによって、加入後の取り組みがクリアになっていることも大きな要因といえるだろう。

 加えて、「いつ発表するか」といった面もポイント。ここまで世話になったチームに対する恩義であったり、シーズン後半のレーススケジュールの関係から、すでに移籍で合意に達している場合でも発表を急がず、目標としてきたレースが終わった直後であったり、なかにはシーズンのレースプログラムが終わった時点で移籍を明らかにするといった選手もいる。このあたりは選手、チームともに慎重になる部分といえる。

ランダ、ヴィヴィアーニらが新たな環境で躍進目指す

 ストーブリーグ解禁とともに、有力選手たちの移籍が次々と明らかになっている。

 ビッグネームで先陣を切ったのは、マッテオ・トレンティン(イタリア、ミッチェルトン・スコット)。8月2日にCCCチームへの移籍を明らかにした。

ツール・ド・フランス2019第17ステージを勝利したマッテオ・トレンティン。来シーズンからはCCCチームで走ることが決まった Photo: Yuzuru SUNADA

 トレンティンはツール第17ステージで見せた独走勝利が記憶に新しいが、昨年はヨーロッパ王者に輝き、今年は“本職”でもある北のクラシックでたびたびの上位進出。ツールではトップ10フィニッシュ9回というハイアベレージにあるように、スプリントでも計算ができるとともに、逃げや上りでも力を発揮できるオールラウンドタイプのスピードマンだ。新天地では、“チームの顔”であるグレッグ・ファンアーフェルマート(ベルギー)を北のクラシックで支える一番手であると同時に、レース展開次第では自らもチャンスをうかがっていくことが見込まれる。

ドゥクーニンク・クイックステップはスポーツディレクターのトム・スティールスの甥、ステイン・スティールスが加わる =E3ビンクバンククラシック2019、2019年3月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 翌3日にドゥクーニンク・クイックステップが発表したのは、ステイン・スティールス(ルームポット・シャルル)とベルト・ファンレルベルフ(コフィディス ソリュシオンクレディ)の両ベルギー人ライダーの来季加入。スティールスはチームのスポーツディレクターで、かつてはスプリンターとして鳴らしたトム・スティールス氏の甥にあたり、自身もスピードマン。トラックでの実績に長け、現在も冬場は6日間レースなどピストバイクに跨り活躍する。普段からティム・デクレルクやイヴ・ランパールト(ともにベルギー)といったドゥクーニンク・クイックステップの主力ライダーたちのトレーニングパートナーを務めていることもあり、スムーズにチームに溶け込んでいけると前向き。ファンレルベルフは、昨年のオンループ・ヘットニュースブラッド7位など、パヴェやスプリントを得意とする選手。アルバロ・ホッジ(コロンビア)やファビオ・ヤコブセン(オランダ)といった若きスプリンターの発射台として期待されている。

バーレーン・メリダはモビスター チームからミケル・ランダの獲得を発表した =ツール・ド・フランス2019第14ステージ、2019年7月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 バーレーン・メリダはグランツール路線での補強にまずは成功。ミケル・ランダ(スペイン、モビスター チーム)の加入が5日に発表された。今年で現チームでの契約最終年となっていたランダは、移籍が「既定路線」と言われてきた1人。バーレーン・メリダとの関係も密になっていることがヨーロッパのサイクルメディアを中心に明かされており、あとは正式発表を待つのみとなっていた。先のツールでは個人総合6位とまとめたが、昨年のモビスター チーム加入以降は「複数総合リーダー制」を重視するチームプランにあって、決して望んでいた扱いではなかったよう。チーム選びで重視したのは、単独エースとして戦えるかどうかにあったとみられる。

 そして同日、もう1つの大きな動きが起こった。現在のプロトンにおけるトップスプリンターの1人、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)のコフィディス ソリュシオンクレディ入りが正式に発表されたのだ。

エリア・ヴィヴィアーニの移籍の背景には現所属のドゥクーニンク・クイックステップのチーム事情もあったといわれる =ツール・ド・フランス2019第6ステージ、2019年7月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ツール第4ステージの勝利をはじめ、今シーズンは8勝。4日にイギリス・ロンドンで行われたプルデンシャル・ライドロンドン・サリークラシックでも優勝と、ここまで順調に戦いを進めてきているヴィヴィアーニ。チームや仲間との関係にも問題がないとしているが、ビッグネームを複数抱える現チームの「経済的事情」にマッチしなかったとの見方が強い。実情として、契約最終年となっていたヴィヴィアーニとジュリアン・アラフィリップ(フランス)のどちらかを選ばざるを得ない状況だったと、チームマネージャーのパトリック・ルフェヴェル氏が明かしている。

発射台のファビオ・サバティーニもエリア・ヴィヴィアーニとともにコフィディス ソリュシオンクレディへと移る =ジロ・デ・イタリア2019第14ステージ、2019年5月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 移籍先のコフィディス ソリュシオンクレディは、期待外れとなっていたナセル・ブアニ(フランス)を放出し、改めてスプリント路線を構築していくことを目指していた。交渉にあたっては、ヴィヴィアーニ側から「発射台としてファビオ・サバティーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)を招くこと」「弟であるアントニオ・ヴィヴィアーニのスタジエール(研修生)加入と2020年シーズンからの正式契約」「東京2020五輪でのトラック・オムニアム連覇に向けた環境づくり」が提示され、いずれもゴーサインを出したとしている。現在、チームは来季のUCIワールドツアーライセンスを申請中で、今年のUCI世界チームランキングでトップ18に入ることが条件ではあるものの、トップカテゴリー入りに向けて着々と準備を進めている段階。ヴィヴィアーニらの加入がチーム躍進への第一歩となりそうだ。

 そのほか、UAE・チームエミレーツはアンダー23(23歳未満)年代でトップをゆくオールラウンダーのブランドン・マクナルティ(アメリカ、ラリー・UHCサイクリング)、タイムトライアルスペシャリストのミケル・ビェアウ(デンマーク、ハーゲンスバーマン・アクション)を獲得。モビスター チームは、UCIヨーロッパツアーをメインに結果を残しているスプリンターのガブリエル・カリー(イギリス、チーム ウィギンス ルコル)の加入を発表している。

動向が注目されるビッグネームは?

 今年が現チームとの契約最終年のビッグネームは多く、移籍、契約更新含めてこの先あらゆる動きが報じられることになりそうだ。動向が注目される選手を挙げておきたい。

ストーブリーグ動向で最も注目されるヴィンチェンツォ・ニバリ =ツール・ド・フランス2019第20ステージ、2019年7月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 グランツールレーサーの中で目が離せないのは、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)とナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)。ニバリは現チームの立ち上げ時の目玉となったが、当時からのミッションは果たしたとして次のステップを目指しているとされる。ツールではステージ優勝を挙げたキンタナは、このところグランツールの総合争いで思ったような成果が得られずにいるが、新天地でもう一花咲かせたい、というのが正直なところのよう。両者とも移籍は既定路線だ。

今年のジロ・デ・イタリアを制したリチャル・カラパスは現在のモビスター チームをさらに超えるビッグチームで新たな挑戦をする見通しだ =2019年6月2日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今年のジロを制したリチャル・カラパス(エクアドル)も、プロデビュー以来3シーズンを過ごしたモビスター チームを離れ、新天地でさらなるステップアップを目指すことになりそうだ。ランダ、キンタナ、カラパスとグランツールレーサーを相次いで失うモビスター チームだが、そこは経験・実績に富んでいるチームとあり、彼らの後任となる選手はすでに選定し準備をしている様子。

チーム サンウェブとの契約を残しているトム・デュムランだが移籍の可能性が高まりつつある =ジロ・デ・イタリア2019第1ステージ、2019年5月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 また、トム・デュムラン(オランダ、チーム サンウェブ)は、2021年までの契約が残っているが、前倒しでのチーム離脱を検討していると報じられている。その背景には、グランツール制覇を狙う中での山岳アシスト強化が進んでいないチーム事情に馴染めていないことや、その実力や実績に見合う年俸をチーム側が用意できない状況に陥っているという。ここ数シーズンで勢いを増しているユンボ・ヴィスマがデュムランの受け入れを目指していることも明確になっているが、UCI規定上、現契約の履行が優先されるため、移籍を確定させるためにはチーム サンウェブ側の承認が必要となる。

 そのほか、ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ プロチーム)、ダニエル・マーティン(アイルランド、UAE・チームエミレーツ)、ワウト・プールス(オランダ、チーム イネオス)、イルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン)、エステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット)、エンリク・マス(スペイン、ドゥクーニンク・クイックステップ)、ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)、ルイス・メインチェス(南アフリカ、ディメンションデータ)といった選手たちも、今後の動向が見ものとなっている。

勝利数を積み重ねていながらチーム3番手の扱いとなっているサム・ベネット。ビッグチームへの移籍が濃厚だ =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2019第3ステージ、2019年6月11日 Photo: STIEHL / SUNADA

 スプリンターでは、サム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)の移籍が濃厚だ。現チームではペテル・サガン(スロバキア)、パスカル・アッカーマン(ドイツ)に続く3番手の扱いで、昨年のジロ・デ・イタリアでポイント賞を獲得した実力者ながら今シーズンは活躍の場が限られている。それでも、現段階まででシーズン8勝を挙げており、10月に29歳という年齢を考えてもまだまだ勝利数量産が見込めるところ。ビッグチームが獲得に名乗りを挙げるものとみられている。

 5月にカチューシャ・アルペシンを離脱したマルセル・キッテル(ドイツ)は、復帰か引退かを近いうちに決めるとしている。こちらもユンボ・ヴィスマが獲得に名乗りを挙げ、ツール開催時に会場を訪問した際にもチーム関係者とコンタクトをとっていたことが明らかになっている。同じくスプリンターでは、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)も契約の最終シーズンを迎えており、数年にわたる不調からの復活を目指している段階だが、新しい環境を求めるのかが注目される。

今年のパリ〜ルーベを制したフィリップ・ジルベールはツール・ド・フランスでのメンバー外が最終的な決め手となって移籍を決断したといわれている =2019年4月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 クラシック路線では、フィリップ・ジルベール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)の動きが目玉の1つになりそう。今年は悲願のパリ~ルーベ制覇を果たしたが、ツールはメンバー外。これが大きな要因となって移籍を決意したともいわれる。同様に今年のツール出場はならなかったジョン・デゲンコルプ(ドイツ、トレック・セガフレード)も今年が契約最終年。パヴェからステージレースまで幅広く戦うティシュ・ベノート、4月にアワーレコードを更新したヴィクトール・カンペナールツ(ともにベルギー、ロット・スーダル)は、移籍に向け準備を進めているとも報じられている。

今週の爆走ライダー−ルカ・メズゲッツ(スロベニア、ミッチェルトン・スコット)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 8月3日から9日まで行われているツール・ド・ポローニュ(ポーランド)。シーズン後半の活躍を誓う選手たちが多数そろい、スプリント・山岳と有力選手たちがしのぎを削っている。

ツール・ド・ポローニュ第2ステージを勝利したルカ・メズゲッツ。実に4年ぶりのUCIワールドツアー勝利を挙げた =2019年8月4日 Photo: STIEHL / SUNADA

 同国南部のカトヴィチェに設定されるフィニッシュ地点は、下り基調なのが特徴的。本来は危険性が高まるため認められないレイアウトだが、このステージに限っては特例として設けられている。

 そんなユニークなフィニッシュを今年制したのはベテランスプリンターのメズゲッツ。最終200mのスピードは時速82kmを記録。これは過去のスピードより1.2km速い新記録だという。この名物スプリントにあたり、主催者設定の「最速スプリンター賞」が贈られた。

 今シーズン2勝目、UCIワールドツアーに限定すると実に4シーズンぶりの勝利。ジャイアント・アルペシン(現チーム サンウェブ)時代はスプリンターとして活躍の場が多かったが、2016年から現チームで走るようになって以降は、カレブ・ユアン(オーストラリア、現ロット・スーダル)の発射台や、グランツール制覇を狙うチーム編成の中でアシストに回ったりと、そのスピードをフルに発揮する場面が限定されてきた。

 それでも、いまある環境に対する不満はないという。当面の目標はブエルタ・ア・エスパーニャへの出場。各選手のレベルが上がっていることもあり、チーム内での競争も激しいというが、「みんなにチャンスがある状況。だけど、この勝利はメンバー入りに向けてかなりプラスになると思う」と勝利が好況を呼んでいることを喜ぶ。

 「さすがにこのスプリントは特別」と、下りスプリントの結果だけですべてを判断するつもりはない。それでも、同様の脚質であるチームメートのトレンティンやダリル・インピー(南アフリカ)がツールで結果を出しただけに、自身も負けられないという思いはあるようだ。

 チームメートが活躍をしていたツールの期間中は、高地トレーニングを行ってシーズン後半に向けた準備を整えてきた。その成果を示したステージ優勝。ツールから続くチームの勢いはまだまだ続くものであることを、自らの走りをもって証明してみせた。

ツール・ド・ポローにゅ第2ステージのポディウムに上がったルカ・メズゲッツ。下りスプリントで時速82kmをマーク。スピードはまだまだ健在だ =2019年8月4日 Photo: STIEHL / SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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