「安全性の向上にも繋がる」実戦で感じたディスクブレーキの真価とは? シマノレーシングの各選手にインタビュー

by 松尾修作 / Shusaku MATSUO
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 ロードレースでのディスクブレーキ使用がUCI(国際自転車競技連合)から解禁されて約1年、新たなブレーキシステムは国内市場でも盛り上がりを見せています。フレームの自由度が向上したことによるエアロ化や、スルーアクスルの採用による性能アップはよく聞かれる話題ですが、実際に乗り手はどう感じているのでしょうか。国内最高峰の舞台で戦うシマノレーシングに、ディスクブレーキに対する本音を聞きました。

シクロクロスの選手としても活躍する横山航太はスムーズにディスクブレーキへ移行できたという Photo: Shusaku MATSUO

雨のレースで絶大なメリット

 全ての選手がディスクブレーキを使用するシマノレーシングは、5月のツアー・オブ・ジャパン(TOJ)を境に、全面的にリムブレーキから現行のブレーキシステムへと移行しました。以降、ツール・ド・熊野をはじめ、今年からディスクブレーキが解禁されたJプロツアーの各レースに参戦。200kmを超える距離を雨の中で走った全日本選手権では、入部正太朗が勝利を飾りました。

終盤にアタックをかけた木村圭佑  Photo: Shusaku MATSUO

 シマノレーシングに取材をしたのは7月に行われた、Jプロツアー第12戦「第18回JBCF石川サイクルロードレース」。この日も朝から雨が降りしきり、路面は完全なウェットコンディションでした。全て公道を使用したコースはダイナミックなアップダウンが連続します。70km/h以上で下る区間も登場し、レインコンディションでは乗り手の集中力と、バイクのセッティングがリザルトに直結するレースです。

 この日、終始レースの前方へと選手を送り込んだシマノレーシング。終盤は木村圭佑がアタックを決めて先行。最終的には集団へと捕まるも、集団スプリントに挑み3位入賞の活躍をみせました。アタックの際、単独でテクニカルなコースへと臨んだ感想を木村はこう話しました。

全日本選手権をハイスピードでコントロールするシマノレーシング Photo: Shusaku MATSUO

木村:「ほかの選手と比べて1テンポ、今日のような雨では2テンポ遅くブレーキを開始できるのがメリットです。安心感があるので、アタックをかけた際でも、ぎりぎりまでブレーキを我慢してコーナーへと進入し、タイムを稼ぐことができました」

 「全日本選手権でシマノレーシングが集団をコントロールをしていた際、後ろの選手たちは速いと感じていたみたいなんです、特に下りでは。僕たちは普通のペースで走っていたつもりでした。凄まじいアドバンテージでしたね。指を置いておくだけでも安定してブレーキを掛けられるので、女性や力が強くないサイクリストにもお勧めしたいです。選手だけでなく、誰しもが体感できる性能ですよ」

JPT「石川ロード」では木村圭佑が3位に入賞する活躍をみせた Photo: Shusaku MATSUO

 制動力のメリットは多くの選手が語っています。スプリンターの黒枝咲哉や、スピードに長けた中井唯晶は自身の脚質にあった使い方でレースを有利に進めていました。

黒枝:「直前の動きが機敏でシビアなスプリントシーンで生きます。下りやコーナーではほかの選手より10~20m奥でブレーキングが開始できる。その分、脚を貯められるので結果にも直結すると感じています。昨年も同じバイクのリムブレーキ版に乗っていたのですが、比較すると重心が低くなりました。もがきやすくもなりましたね」

スプリンターの黒枝咲哉は「下りのブレーキングで10〜20m、10~20人分くらいポジションをアップできる」と明かした Photo: Shusaku MATSUO
「体力のマネジメントに効果的」とディスクブレーキを評価する中井唯晶  Photo: Shusaku MATSUO

中井:「僕は上りが得意ではないので、集団の先頭で上りに入り、上りきるころには集団後方まで下がります。そして下りで前に上がるという動きをレース中することが多いのですが、遅れてブレーキングしても十分な制動力があるので、体力のマネジメントに効果が絶大です。リムブレーキと比較すると多少重量増ですが、それを感じさせないメリットがあります。スルーアクスルはダンシング時の“軸感”が安定性に大きく繋がっていますね」

 横山航太はシクロクロスでも活躍しており、元々ディスクブレーキに対する理解が深い選手。「リムブレーキからスムーズに移行できた」と明かしました。

シマノレーシングのバイク全てに採用されたディスクブレーキ Photo: Shusaku MATSUO

横山:「雨の場合、特にカーボンリムへのブレーキだと“当て利き”をして、水分をある程度飛ばさなければ制動力を発揮しません。しかし、ディスクブレーキではそれが全く必要ありません。こういう天気だと特にメリットがあるのではないでしょうか。現在はシマノレーシングと弱虫ペダルレーシングチームがディスクブレーキを採用していますが、今後も採用チームが増えるのではとも思っています」

 全日本王者の入部も天候による変化がないことに好感を持っているといいます。

入部:「ディスクブレーキの制動力は雨のレースであっても晴れの日と同じ利きなので、恐怖心が生まれません。以前は制動力が上がるとタイヤがロックするのでは、というイメージを持っていましたが、使ってみると微調整とコントロールが利くので走りはさらに安定しました」

入部正太朗が駆るバイク Photo: Shusaku MATSUO
シマノ「ST-R9170」は油圧システムと搭載しつつコンパクトなフードに Photo: Shusaku MATSUO

 野寺秀徳監督は、積極的なディスクブレーキの採用に対し、「デメリットの怖さもあった」としつつも、得られたメリットが多いと明かしました。

野寺監督:「ディスクブレーキに対するネガティブな面を当然考えました。パンクの対応が遅れるのではないか、重量が増えるのではないかと。しかし、TOJや熊野でそれは払しょくされました。実際に安全性能の向上と速さに繋がりました。ちょっとくらいブレーキの性能が上がっても…と思うことがありましたが、変えてみたらリザルトの向上にも繋がり現場の人間として驚かされました」

雨で長丁場となった全日本選手権もディスクブレーキが入部正太朗の活躍を支えた Photo: Shusaku MATSUO

 具体的には雨の全日本選手権が例として挙げられます。200kmを超える長丁場のレースでは、一つ一つの動作がストレスとなり、脳が疲れてきます。思考能力は意思の決定も左右します。コーナーや下りて少しずつ軽減されることで、パフォーマンスに差が表れたのではないでしょうか。入部の優勝はその積み重ねがあったからかもしれません。油圧ブレーキはレバーの引きが軽く、制動力も十分なのでストレスはリムブレーキよりも少なかったと思います。

◇         ◇

 シマノレーシングは今季、まだパンクを多く経験しておらず、レース中のホイール交換のデメリットについてはまだ見極めることができていないとのことです。しかし、選手と監督は口を揃えて「考えられるデメリットを上回るメリットがある」と語っていました。

 特に印象的だったのが野寺監督の「ブレーキの性能向上は安全装置の向上とも同義です。積極的なディスクブレーキの導入は文化の発展にも繋がるのではないでしょうか」という言葉。速さだけでなく、サイクリストの安全レベルを引き上げるシステムとして更なる発展と普及が期待されます。

松尾修作松尾修作

Cyclist編集部員。10代からスイスのUCIコンチネンタルチームに所属し、アジアや欧州のレースを転戦。帰国後はJプロツアーにも参戦し、現在は社会人チーム「Roppongi Express」で趣味のレースを楽しむ。JBCFのカテゴリーはE1。数多くのバイクやパーツを試してきた経験を生かし、インプレッション記事を主に担当している。

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