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栗村修の“輪”生相談<159>28歳男性「自転車を活用した地方創生について面白い事例はなにかありますか?」

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自転車「活用」をした地方創生についてです。

 私は今、都市部から地方創生を目論んで地方へ移住しました。自転車が好きなので地元団体と連携してイベントを開催したり、地元サイクリングロードの活用・開発を勧めたりしています。

 しかしながら自転車活用による一過性の出来事であり、それがきっかけで移住・定住に結びつくのは難しいと実感しています。

 日本のみならずフランスなど様々な国に行かれた栗村さんとして、「これは面白い自転車活用してるなぁ~!」と思うような海外の事例が有ればご紹介いただきたいです。

(28歳男性)

 日本国内での自転車の活用や普及に対しては、自転車界とその周辺には大きく分けて2つの姿勢があるようです。

 ひとつは、冷笑的というか現実的というか、あきらめが前面に出た姿勢です。これは特に私が長らく身を置いてきた競技系の世界に多く見受けられる姿勢です。

自転車競技がメジャー(文化)ではなく、道路事情も切迫している日本で自転車を普及するなんて難しいよ、ということですね。競技現場に近い人(特に海外志向が強い人)ほどこういう考えを持つ傾向にあるように思います。だから、自転車界を発展させたいなら早めに「本場」へ修行に行くべきだ、となっていきます。

 もっともです。僕も選手としてヨーロッパにいたことがありますし、今は日本でロードレースを作る立場にいますから、ヨーロッパと日本との格差は痛いほど理解しています。日本で自転車イベントを行うことの難しさもです。そういう事情を知っている一部の「業界人」が冷笑的になるのもやむを得ないのかもしれません。

 一方で、地方自治体の人と接すると、自転車への強い需要を感じるのも確かです。若者の流出や空洞化に悩む地方にとって、自転車が救世主になる可能性があるからです。もちろん、一過性だったり義務的だったりする側面もありますが、本気になる担当者の方々が一定数存在しているのも事実だったりします。

 さて、このように相反する2つの立場があるわけですが、どちらが正しいのか、複数の時間軸から検討してみましょうか。

 1年後に一気に普及している可能性は…残念ながらないでしょう。じゃあ100年後はというと…自転車そのものがなくなっているかもしれません。

世界的に注目されているe-BIKEは、山がちな日本におけるサイクルツーリズムの起爆剤になる可能性も Photo: Ikki YONEYAMA

 では、10年後はどうでしょう? 僕は、スポーツタイプの自転車が今以上に日本社会に必要とされている可能性は高いと考えています。

 これはご質問への返答でもあるのですが、海外の動向を見ると、いくつかのヒントを得ることができます。たとえば欧米では、アスファルト道路や橋などのインフラ維持費が国の財政を圧迫しはじめています。それらを抑えるために、アスファルトを剥がす動きや、大きな建造物を必要としない移動手段や街づくりが見直されはじめています。

 近年のグラベルロードの普及の背景には、舗装路を意図的に減らしていることがあるともいわれています。欧米でe-MTBが主流になっているのも、この動きと関係があるのではないでしょうか。そしてもちろん、スポーツや健康、自然と触れ合うことを重視する流れもあります。

 この事情は日本でもそう大きくは変わりません。もちろん欧米と比べるとMTBはやや肩身が狭いのですが、国土が山がちであることはむしろプラスです。そして、地方が強く自転車を求めていることは、お伝えしましたよね。そこに、高齢化はモーターの力を借りられるe-BIKEの普及を後押しするでしょう。

 また、競技的な側面に於いても、近年は「オフロード系」競技出身者の活躍がとても目立っています。特に最近のロードレース界で活躍している選手の多くがオフロード系競技をバックボーンに持っていたりもします。

 「国・自治体の財政(移動手段の再考)」「日本の国土の特徴(利用されていない山だらけ)」「競技的トレンド(オフロード競技が優れている)」などを考慮すると、地方のオフロード(自然)を楽しめる環境のe-BIKEを絡めた整備が、向こう数年~十数年くらいは重要になるのではないでしょうか。ロードバイクも素晴らしいのですが、地方創生という点では、舗装されていない道に目を向けることも大事です。

 そこで生まれた新たな価値から「需要」が生じ、結果的に「雇用創出」に繋がっていけば、本当の意味での地方創生が実現するかもしれません。

(編集 佐藤喬)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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