ツール・ド・フランス2019 アフターコラム<2>ステージ4勝をあげたロット・スーダルに見る、グルペットの活用法とは

by あきさねゆう / Yuu AKISANE
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 ツール・ド・フランスは世界最大の自転車ロードレースであり、通常のステージレースに比べると、完走すること自体が大変な名誉である。総合を争う選手も含めて、全21日間すべてをフルスロットルで走り抜けることは不可能だ。また、厳しい山岳ステージではタイムアウトの危険も潜んでおり、上りが苦手な選手にとっては総合争いとは別の戦いを強いられる。いずれのケースにおいても、「グルペット」の存在がとても重要となる。今回は「グルペット」について分析してみた。

第11ステージにてカレブ・ユアンの優勝を喜びながら、グルペット内でフィニッシュするジャスパー・デブイスト(左)とティム・ウェレンス(右) Photo : Yuzuru SUNADA

集団スプリント以外の日は徹底して体力温存

 ツールに限らず、ステージレースでは制限時間が設けられている。ツールの場合は、コースの難易度と先頭選手の平均スピードに応じて、フィニッシュタイムの何%まで遅れてもOKというようなタイムリミットが決定される。平坦ステージでタイムアウトになることは稀であるが、短くて上りの厳しいステージほどタイムアウトの危険が高まる。上りが苦手な選手たちは、制限時間との戦いを繰り広げることとなる。

 そこで、上りが苦手なスプリンターを中心にメイン集団から遅れた選手たちで「グルペット」(イタリア語で“集団”。その日の勝負からは離れて完走を目指す集団の意味で使われる)を形成し、フィニッシュを目指す。上り区間では集団走行の効果は薄いものの、下りや山と山をつなぐ平坦区間では、集団で走った方が圧倒的に速い。

 このグルペットをどう活用するかが、3週間にわたるグランツールを生き抜く鍵である。まずはスプリンターのグルペットの活用法について、集団スプリントで3勝を飾ったロット・スーダルの選手たちを具体例にあげて、解説したいと思う。

ロット・スーダル ツール2019出場メンバー

カレブ・ユアン(オーストラリア)
ティシュ・ベノート(ベルギー)
ジャスパー・デブイスト(ベルギー)
トマス・デヘント(ベルギー)
イエンス・クークレール(ベルギー)
ロジャー・クルーゲ(ドイツ)
マキシム・モンフォール(ベルギー)
ティム・ウェレンス(ベルギー)

 ロット・スーダルは、総合を狙える選手を連れてきておらず、基本的にはユアンのスプリント勝利と、デヘント、ウェレンス、ベノートの逃げを狙う布陣を敷いていた。

 ユアンのリードアウトは、デブイスト、クルーゲ、クークレールが担当し、平坦ステージの集団コントロールに関しては、モンフォールが中心に担い、状況に応じてデヘント、ベノート、ウェレンスがサポートする形をとっていた。

 ロット・スーダルの各選手のフィニッシュタイムを調べてグラフ化してみた。縦軸はトップからどれくらい遅れているかを表し、100%の場合はトップとタイム差ゼロ、0%の場合はステージ最下位と同タイムであることを表している。つまり、縦軸で下の方に位置する場合は、グルペットを走行しているといえる。

ロット・スーダルの8選手と、エガン・ベルナルのタイム差をプロットしたグラフ Photo: Yuu AKISANE

 比較のために総合優勝したエガン・ベルナル(コロンビア、チーム イネオス)のデータも記載した。総合勢が争うような山岳ステージ(第6、14、15、18、19、20ステージ)では、ユアンを中心に大きく遅れ、グルペット内でフィニッシュしていた。

 そこで、ユアン、デブイスト、クルーゲ、モンフォール、クークレールの5人のみを抽出したグラフを掲示する。

エーススプリンターのユアンと、リードアウトトレインを形成するデブイスト、クルーゲ、クークレール、モンフォールの5人のタイム差をプロットしたグラフ Photo: Yuu AKISANE

 リードアウトを務めるユアンのアシスト陣は、ユアンとともにグルペットを形成していることがわかる。デブイストとクークレールは上りがそこまで苦手ではないためか、ユアンを待たずにフィニッシュすることもあるようだ。モンフォールとクルーゲは基本的にユアンを最後までサポートしている。ただし、クルーゲはユアン以上に上りを苦手としており、ユアンからさらに遅れてフィニッシュするケースも見られる。

 モンフォールは平坦ステージでは、序盤から終盤にかけて集団先頭でけん引することが多く、最終盤を迎える前に仕事を終えて集団から離脱するため、平坦ステージでは大きく遅れがちだ。

補給地点でサコッシュを受け取るロジャー・クルーゲ Photo: Yuzuru SUNADA
平坦ステージでは集団コントロールを担っていたマキシム・モンフォール Photo: Yuzuru SUNADA

 クルーゲは第12ステージ、クークレールは第17ステージ、デブイストは第18ステージで逃げに乗って、ウェレンス、デヘント、ベノートのサポートをしていたが、リードアウト陣を含めたこの5人は基本的にスプリントステージ以外では、徹底してグルペット内で体力温存に務めているようだった。特にユアンはマイヨヴェール獲得のために、逃げに乗って中間スプリントポイントを狙う動きは一切見られなかった。だからこそ、疲れの溜まってくる大会後半にユアンは集団スプリントで3勝をあげる活躍ができたのかもしれない。

シャンゼリゼで大会3勝目を飾ったカレブ・ユアン Photo : Yuzuru SUNADA

 また、ロット・スーダル以外のスプリンターとそのリードアウト陣たちも似たようなグルペット運用をしている。ドゥクーニンク・クイックステップ、ユンボ・ヴィスマ、ボーラ・ハンスグローエ、UAE・チームエミレーツといった有力スプリンターを抱えるチームは、最終的に一緒にグルペットを形成して、フィニッシュを目指すことが多かった。

 ちなみに最も制限時間ギリギリにフィニッシュしたのは、第14ステージで制限時間30分27秒遅れのところを29分57秒でフィニッシュしたマルクス・ブルグハート(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)だった。グルペットからさらに遅れて、単独でフィニッシュしており、非常に危ない状況にあったといえる。それでも、全体的にはグルペットを走る選手が多かったためか、今年はタイムアウトによる失格者は一人も出なかった。

逃げを狙う日の前後は体力温存に専念

 次に逃げを狙う選手にとっても、グルペットの活用は重要である。ロット・スーダルで逃げ切りを狙っていたデヘント、ウェレンス、ベノートの3人のみを記載したグラフを次のようになっている。

逃げを狙うデヘント、ウェレンス、ベノートの3人のタイム差をプロットしたグラフ Photo: Yuu AKISANE

 ひと目見て、交互にギザギザしていることがわかるだろう。このなかで、3人が実際に逃げたステージは次のとおりだ。

逃げたステージ一覧

デヘント:6、8、17
ウェレンス:3、5、6、12、14、18
ベノート:9、12、18

 デヘントは第8ステージで逃げ切って、見事なステージ優勝を飾った。その前日は集団から大きく遅れており、翌日も逃げに乗らずグルペット内でフィニッシュしている。ステージ3位に入った第13ステージの個人タイムトライアルの前後も逃げに乗っておらず、力を出すと決めた日以外では、できるだけ体力温存に務めていることがうかがい知れる。

第8ステージで逃げ切り勝利を飾ったトマス・デヘント Photo: Yuzuru SUNADA

 ウェレンスは山岳賞ジャージ防衛のために第1週は積極的に逃げに乗り、第5、6ステージと連日逃げることもあった。以降は、隔日ペースで逃げに乗っており、体力温存しながら山岳賞ジャージを15日間にわたって着用することができた。

 ベノートも新人賞ジャージの可能性があった序盤ステージ以外は、頑張るステージと頑張らないステージがハッキリしている。惜しくもステージ優勝こそあげられなかったが、逃げに乗った3回ともメイン集団から逃げ切っている。

15日間にわたって山岳賞ジャージを着用したティム・ウェレンス Photo: Yuzuru SUNADA

 このように、デヘントとベノートは逃げ切ってのステージ優勝狙い、ウェレンスは山岳賞ジャージの防衛を目的に、ハッキリとした役割分担ができているうえに、3週間でチームとして最大限の成果を出せるよう、体力をマネジメントするチーム戦略が浮かび上がった。

 スプリンターとリードアウトトレイン陣は勝負する日以外は徹底して体力温存に務め、逃げメンバーは連日逃げに乗ることはせずに消耗を避けることで、結果的にチームでステージ4勝を飾るなど、大きな成果をあげることができたのだ。

ファンとの距離が近いのもグルペットの魅力

 一方で、タイムアウトの危機が迫らない限り、グルペットは総合争いやステージ優勝をめぐるピリピリとした勝負の雰囲気はないため、ファンにとっては有力選手を間近で楽しめる絶好の機会でもある。

 実際にファンサービス精神旺盛な選手たちは、ウィリー走行を披露したり、ボトルをプレゼントしたりしながら、沿道のファンの声援に応える姿も見られる。

 特にペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)は今大会でたびたびウィリー走行を披露していた。

 サガンはウィリー走行にとどまらず、沿道のファンから差し出された自分の写真に、走行しながらサインをするという究極のファンサービスも見せていた。選手との並走は危険行為であり、称賛されるような行動ではないのだが、それに応えるサガンはやはり只者ではない。

 他にもイバン・ガルシア(スペイン、バーレーン・メリダ)もトゥールマレー峠にフィニッシュする第14ステージでウィリー走行を披露。ガルシアは2年前にツアー・オブ・ジャパンに参戦した時も伊豆ステージのフィニッシュ地点でウィリーを披露しており、自身のSNSにもたびたびウィリーする映像を投稿しており、得意技のひとつであるようだ。

 ブルグハートは沿道で観戦している子供にボトルをプレゼントしている姿も見られた。しかし、これらはツール・ド・フランスという文化が定着しているフランスだからこそ見られる景色なのかもしれない。

 戦略としてのグルペット、交流の場としてのグルペット、いずれも世界最大の自転車レースであるツール・ド・フランスだからこそ見られるものである。

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