ツール・ド・フランス現地取材高速化するレースの武器に ツール出場選手が支持する油圧ディスクブレーキという選択

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
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 油圧ディスクブレーキがロードレース界に導入されて久しいが、いよいよ本格的なトレンドとなることは間違いない。最高峰となる2019年のツール・ド・フランスを見てみると出場全22チーム中、ライダーの要望にあわせて特別に用意したケースも含めれば、ブレーキにこのシステムを採用していたのは14チーム。まさに『油圧ディスクブレーキ元年』といえるだろうが、その中でシマノ「デュラエース」の油圧ディスクブレーキシステムをチョイスしたチームはじつに11を数える。ツール取材30年目のスポーツライター・山口和幸さんの現地リポートをお届けします。

世界最高峰のレース「ツール・ド・フランス」出場選手やスタッフに油圧ディスクブレーキについてインタビューした Photo: Pressports

“油圧ディスクブレーキ元年”の今年のレース

 ツール・ド・フランスに参戦する各チームはステージの特性によってタイムトライアル(TT)モデルを含む2、3タイプのバイクを使い分けているが、3タイプ全部に油圧ディスクブレーキを導入していたのが3チームあり、そのすべてがシマノ製であったことも注目すべきだろう。

全天候で安定した制動力を生むデュラエースのディスクブレーキ(ローターは「SM-RT900」、キャリパーは「BR-R9170」) ©SHIMANO

 なぜここまでトップの世界で油圧ディスクブレーキが使われているのか? 真相を探るべく、選手はもちろんメカニック、チームマネージャーなどそれぞれの立場からの狙いや目的を現地で取材。今、最前線で必要とされているテクノロジーを浮き彫りにしていきたい。

チーム サンウェブのチーフメカニックであるヘームスケルクさん。チーム戦略の構成に欠かせないメカ&エキップメント全般を司る Photo: Pressports

 最初に注目したのは、このデュラエースの油圧ディスクブレーキシステムを、ホイールとローターを含めたフルセットで投入していたチーム サンウェブだ。

 チーム サンウェブは、フレームをより扁平型にデザインし、さらなる空気抵抗の削減を狙ったエアロバイク、山岳コースはもちろん平地のステージまでカバーできる軽量ロードバイク(従来型の純ロードバイク)、そしてTTバイクの3種類を使い分けている。そんな中、TTバイクとエアロバイクが油圧ディスクブレーキ、純ロードバイクに従来型のリムブレーキをチョイスしている点が興味深く、理由をチームメカニックのピム・ヘームスケルクさんに聞いてみた。

チーム サンウェブはエアロロードを油圧ディスクブレーキに、それ以外のロードバイクをリムブレーキに統一 Photo: Pressports

 「我々のチームはヒルクライム用バイクを用意しているが、これはより軽く仕上げることを優先させる方針なのでリムブレーキとなっている。一方、平地ステージをメインで考えているエアロバイクは、巡航速度の年々の高まりを鑑みてより制動能力の長けた油圧ディスクブレーキをチョイスしている。もちろんTTバイクも同じ理由だね。今年も(TTは)2ステージあるけど両方とも油圧ディスクブレーキで行くよ」。

 油圧ディスクブレーキ未経験の筆者には、コントロールがシビアになるのではないだろうかという考えがあったので、実際の選手から個々の特別なセッティングリクエストはあるのか? と聞いてみる。

油圧ピストンを備えつつ、コンパクトな握りを実現したDi2用レバー「ST-R9170」 ©SHIMANO

 「それは全くない。制動力の高さに加え、取り扱いやすさもシマノの油圧ディスクブレーキシステムの長所といえるので、せいぜいリーチ(ブレーキストローク)幅の微調整くらい。これは選手の好みに合わせるんだけど、リムブレーキでもあるリクエストだから」

 では好んで油圧ディスクブレーキを使っている選手はどうだろうか?

 オランダのセース・ボルは、「トレーニングで試している段階から、油圧ディスクブレーキのアドバンテージをかなり感じていた。自分の走りには油圧ディスクブレーキのほうがより合っている。というのもボクはスプリンターなので、よりスピードが出しやすいバイクが好み。だから優れた制動能力が得られるモデルを使っているんだ。ステージによってエアロバイクと純ロードバイクを使い分けるなんてことはしないね」

セース・ボル(オランダ、チーム サンウェブ)はパワーをしっかりとコントロールしやすい油圧ディスクブレーキを全ステージで使用 Photo: Pressports
クライマーゆえ「軽さ」を最優先しているというチャド・ハガ(アメリカ、チーム サンウェブ) Photo: Pressports

 一方、同じチームで内でもリムブレーキにこだわるライダーもいる。クライマーのチャド・ハガ(アメリカ)だ。「パワーに長けているライダーはウチでは油圧ディスクブレーキを優先しているが、ボクの役割の登坂に絞るとブレーキをかけることが少ないのでリムブレーキを使っている。ただTTバイクで油圧ディスクブレーキを利用しているからその性能は分かっているよ。限界高速域での安心感は明らかに高いよね」

 巡航性能や軽量化といった各々のモデルにて求められる性能にあったブレーキシステムをチーム側で統一。それをライダーがチョイスするというのがサンウェブのスタイルだった。

今後、油圧ディスクブレーキ化はさらに進む予感も

 さらにメカニックの立場からの意見を聞いてみよう。同じくシマノの油圧ディスクブレーキシステムを導入しているチームのメカニックは、「油圧ディスクブレーキの取り扱い(メンテナンスの手間など)自体は我々にはなんら問題ない。ただひとつ難点があるとすれば、万が一、レース中のパンクでホイール交換の必要性が生まれたときだね」

 パンク時には自転車ごと交換すればいいが、それが不可能なシチュエーションもレースではあり得るかもしれない。しかし、1秒を争うプロの世界の話で、一般ユーザーには関係ない話かもしれない。

オールマイティなミドルハイトホイール「WH-R9170-C40」(左)と、平坦ステージで効果を発揮する「WH-R9170-C60」 ©SHIMANO

 また、油圧ディスクブレーキシステムへの移行の端境期により、悩ましい問題を抱えているチームもある。出場チームの中には「ウチのチームは、各々の好みによって4人が油圧ディスクブレーキ、4人がリムブレーキを使っている(TTバイクを除く)。だから(同じモデルで2種類のブレーキを使い分けるので)メカニックへの負担はちょっと大きいね。でも制動力から操作性までトータルの性能で優れているのは明らかなので、来シーズンはすべてシマノの油圧ディスクブレーキになるよ」と笑いながら説明してくれるメカニックもいた。革新的テクノロジーへの過渡期といったチームもあるということだろう。

一番の性能は『高い信頼性』

チーム内唯一の油圧ディスクブレーキが目立ったセバスティアン・ライヒェンバッハ(スイス、グルパマ・エフデジ) Photo: Pressports

 今回油圧ディスクブレーキを取材していて、一番気になった選手がいる。スイスチャンピオンのセバスティアン・ライヒェンバッハ(グルパマ・エフデジ)だ。同チームはコンポーネンツ、ホイールともシマノ製品がアッセンブルされているが、8人いるライダーのうち7人がリムブレーキ。つまり彼だけが油圧ディスクブレーキをチョイスしていることとなる(TTバイクを除く)。気になったのでバイクを管理するチームスタッフに聞いてみた。

 「彼の特別なリクエストなんだ。年々速く、そしてより激しくなっていくレースに欠かせないということだね」

 本人曰く、「安全、安定、安心。この3つをボクは重要視していてこの油圧ディスクブレーキシステムを選んでいる。要約すると信頼性を重視しているんだよ」

右がセバスティアン・ライヒェンバッハ(スイス、グルパマ・エフデジ)のバイク Photo: Pressports

 このライヒェンバッハは平地、山岳ステージとも油圧ディスクブレーキを使用。厳しいレース環境の中で勝ち取った、スイスチャンピオンジャージをまとった姿でのコメントに、非常に重みを感じた。

→<ツール・ド・フランスで勝利を量産するシマノプロダクツに注目>

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