福光俊介の「週刊サイクルワールド」<303>新時代の幕開け告げたベルナルの勝利 総合上位陣の走りを中心にツール2019総括

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 世界最大のサイクルロードレース、ツール・ド・フランスは7月28日に感動的なフィナーレを飾った。ベルギー・ブリュッセルでスタートし、4つの山岳地帯を走破。そして、パリに凱旋した。今大会のマイヨジョーヌ争いは、ここ数年では類を見ないほどの大熱戦。そして、最終的にエガン・ベルナル(コロンビア、チーム イネオス)というニューヒーローを生んだ。そこで、今回は大会の主役となった総合上位陣の走りを振り返り、若き王者誕生までのポイントをおさらい。「ベルナル時代」の到来を感じさせるレースシーンへの期待も込めてお届けする。

ツール・ド・フランス2019で個人総合上位を占めた3選手。左から2位のゲラント・トーマス、1位のエガン・ベルナル、3位のステフェン・クライスヴァイク Photo: Yuzuru SUNADA

ミスなく上りでの快走につなげたベルナル

 史上3番目、戦後では最も若い22歳6カ月15日でのツール制覇と成し遂げたベルナル。マウンテンバイクにバックボーンを持ち、2016年にロードレースに本格転向。キャリアにしてわずか3年と少しの期間でロードシーンの頂点に立ってみせた。

個人総合ワンツーを飾ったチームメートのゲラント・トーマス(右)とパリ・シャンゼリゼのフィニッシュを越えるエガン・ベルナル Photo: Yuzuru SUNADA

 ベルナルの今大会の戦いぶりはハイレベルでの安定そのものだった。数字で見てみると、個人総合成績ではチームタイムトライアルで2位となった第2ステージ以降、7位を下回るポジションにつくことがなく、一貫して上位をキープ。第13ステージの個人タイムトライアルでは、その段階でマイヨジョーヌを着ていたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)から1分36秒離されたが、その後のピレネー、アルプスの山岳ステージで着々と総合タイム差を取り戻していった。

 特筆すべきは、山岳比重が高まっていた大会後半にその走りを合わせてきたことにあるだろう。トゥールマレー峠を上った第14ステージでは快進撃のアラフィリップから2秒失ったが、続く第15ステージでそれまでのビハインドを58秒取り戻すと、一気に追撃態勢を固めた。

第19ステージのイズラン峠を攻めるエガン・ベルナル(先頭)。この日は悪天候によりレース途中打ち切りとなったが、予定通り行われていたらかなりの大差をつけていた可能性もある Photo: Yuzuru SUNADA

 圧巻だったのは、イズラン峠でライバルを圧倒した第19ステージだ。悪天候により、レース終盤部分がカットされたが、もし予定通りレースが行われていたなら、劇的なステージ優勝を飾り、ライバルとの差を大きなものにしていた可能性は高いとみる。レース打ち切りになった時点で先頭を走っており、その後上る予定だった1級山岳モンテ・ド・ティーニュではどんな走りを見せていただろうか。

 今大会のベルナルには、大きなミスがなかったことも挙げられる。確かに、激坂ラ・プロンシュ・デ・ベル・フィーユを上った第6ステージでは、最終的な総合上位陣の中で最上位だったチームメートのゲラント・トーマス(イギリス)から9秒遅れ、前述のトゥールマレーでもアラフィリップからわずかながら後れを取った。個人タイムトライアルでのロスもあったが、その後のピレネーやアルプスでの圧倒的な走りを見る限り戦いを難しくするほどのものとはならなかった。

 ベルナルの勝因として挙がるのは、本人の脚質や状態のよさはもちろんだが、山岳比重の高かった今大会のコース設定と、充実するチーム戦術にもあったといえそうだ。

 山岳比重の高さは、レースを追っている方ならお分かりだろうが、タイムトライアルステージが個人・チームそれぞれ1つずつに収まり、マイヨジョーヌを争うその他の区間はほぼ急峻な山々にゆだねられる形だったこと。彼にとって得意とする区間がそろい、タイムトライアルの遅れを取り戻せるだけのセッティングだったことは大きな要素となっている。

横風に大きく揺れた第10ステージ。チーム イネオスはレース前からの細かい分析で大成功を収めた Photo: Yuzuru SUNADA

 チーム戦術については第10ステージがすべてを物語っているのではないだろうか。今大会で唯一、横風分断でプロトンが崩壊したステージでベルナルが、というよりはチームとして難局を乗り切っていた。チーム内で、レース当日に強風が吹くことを想定し、予測される風向きとレースルートとを細かく分析。ここぞというタイミングでアシスト陣によりチームはスピードアップを図っていたという。そこで確実に前方に残り、自らも攻撃参加したことが、その後に訪れた総合争い参戦に結びついている。

 もっとも、チーム イネオスは今大会、アシスト陣が例年ほどの状態になく、いままで見せてきたような徹底したレースコントロールは見られなかった。長い時間メイン集団を引き続け、レースを支配するといった姿は見られず、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド)やワウト・プールス(オランダ)といった、実力のある山岳アシストが早々に離脱してしまうステージもあった。大会終盤に入ってプールスやヨナタン・カストロビエホ(スペイン)が機能したが、アシスト陣がいつもより手薄な状態であってもトーマスを含めエースクラスがしっかりと戦えるあたりに、改めてチームの充実度が感じられる。

第13ステージの個人タイムトライアルを走るエガン・ベルナル。タイムトライアル能力の向上で完全オールラウンダーとなりたい Photo: Yuzuru SUNADA

 この勝利で確たる地位を得たベルナルだが、今後へは、タイムトライアル能力の向上によってどんなステージ設定にも対応できる「完全オールラウンダー」への道を歩むことを期待したい。とはいっても、タイムトライアルでもコロンビア王者になったこともあり、特別苦手としているわけではないことも事実。圧倒的な登坂力、オフロードで養ったダウンヒルテクニックは今大会で大いに披露し、そこにもう1つアドバンテージとなるものを増やすことができるか。

 年齢的に見ても、この先まだまだ長いだけに焦る必要はないが、ワンステップ、ツーステップ、レベルを上げていったときにどれだけの強さをみせるのか。われわれでは想像がつかない“驚異”を目にすることになるだろう。しばらくはチーム管理のもと、レース数を絞るなど無理はさせないと思われるが、ターゲットに定めたところでその力をフルに発揮していくはずだ。

22歳にしてマイヨジョーヌを戴冠したエガン・ベルナル。これから新時代を築いていくことができるか Photo: Yuzuru SUNADA

アシスト宣言しながらも2位を押さえたトーマスの強さ

 チーム イネオスはチーム スカイ時代も含めこれで、ここ8大会のうち7回の制覇を達成。2012年のブラッドリー・ウィギンスにはじまり、2013年と2015~2017年のクリストファー・フルーム、2018年のトーマス、そして今年のベルナル。

第21ステージ、パリ・シャンゼリゼ通りを走るチーム イネオスの選手たち。マイヨジョーヌのエガン・ベルナル(中央)をゲラント・トーマス(右)が守りながら走る Photo: Yuzuru SUNADA

 特徴的なのは、これまでチーム本拠のイギリスの選手を総合エースに擁立して勝ち続けてきたが、今回初めて同国外の選手が頂点に立ったことにある。今大会を迎えるにあたり、総合2連覇がかかっていたトーマスと、ベルナルとのダブルリーダー態勢で臨むことは明らかになっていたが、最終的に勝利を収めたのはコロンビア人ライダーのベルナル。これまでとは違った勝利の形に、チームは新たな一歩を踏み出したといえそうだ。

 もっとも、トーマスが昨年ほどの調子になく、アルプスに入ってからはベルナルのサポートにまわったことも状況を加速させた。しばらくは両者に勝負をする“権限”が与えられていたため、第18ステージでのガリビエ峠ではベルナルがアタックで飛び出した後にトーマスも仕掛けるなど、チーム戦術としては一見ちぐはぐな場面もあったが、第19ステージではトーマスがベルナルに飛び出すよう指示を送り、形勢を確かなものに。そのトーマスは、第20ステージの前に「ベルナルのサポートにまわる」と“アシスト宣言”をした。

ゲラント・トーマスはマイヨジョーヌを獲得した前回のような決定的なアタックを山岳で見せられなかったが、それでも2位を押さえたあたりはさすが(写真は第18ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 そんな状況下でも2位を押さえたトーマスはさすがである。前述したように山岳アシスト陣が苦戦を強いられる中で、総合上位陣に絞られた山岳ステージでは大きな取りこぼしなく、何とかまとめてみせた。個人タイムトライアルではアラフィリップに敗れたとはいえ、他の総合上位陣には先着するなど、得意とする分野でしっかりとタイムを稼いでいたことも最終的な結果につながっている。

 昨年の優勝、そして今回の2位と、こちらもグランツールレーサーとして完全に地位を固めた。前哨戦のツール・ド・スイスでは落車リタイアを喫し、今大会も第8ステージでは下りで落車するアクシデント。体調的にもベストとはいかないなかでもしっかり戦ったことは、本人としても自信となったよう。「再びツールへ戻ってきて、必ず勝ちたい」、その言葉に強い意志が込められていた。あとは、ベルナル、今大会をけがで欠場したフルーム、さらにはストーブリーグへ向けて大物獲得の噂も挙がっており、チーム内での棲み分けの中で、再びチャンスがめぐってくるかどうかにかかっている。

似た境遇で上位を押さえたクライスヴァイクとブッフマン

 グランツールレーサーとして新境地に到達したのが、3位となり初のグランツール総合表彰台を勝ち取ったステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)と、初のグランツールトップ10入りが4位と大躍進のエマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)。マイヨジョーヌ争いの好勝負の立役者となったことは明白だ。

 両者に共通しているのは、「チームとしてツールを成功している」ことと、「アシスト陣の機能」である。

チームの好ムードの中しっかりと結果を残したステフェン・クライスヴァイク(写真は第20ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 チームとしての成功という意味で見ていくと、ユンボ・ヴィスマは今大会4勝。大成功を収めたチームの1つといえるだろう。マイク・テウニッセン(オランダ)の第1ステージ勝利で勢いに乗ると、続く第2ステージではチームタイムトライアルで会心の走り。ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ)は第7ステージで、ワウト・ファンアールト(ベルギー)は第10ステージでスプリント勝利を飾った。クライスヴァイクは個人総合3位にあたり、「チーム内に複数の目標が存在していても、それらを成功させることができることを証明できたと思う」を胸を張った。

 ボーラ・ハンスグローエも同様で、複数の目標を定めてツールに乗り込んでいた。なかでも、ペテル・サガン(スロバキア)のポイント賞「マイヨヴェール」獲得と、ブッフマンの総合トップ10入りは、最大目標としてチーム内ではほぼ同列の扱いだった。その結果、ダブルでミッション達成。サガンは前人未到のマイヨヴェール7勝目、ブッフマンにいたっては目標をはるかに上回る4位である。

初のグランツールトップ10入りがツール個人総合4位と大躍進のエマヌエル・ブッフマン(中央)。チームとしても大きな成功を収めた大会となった(写真は第20ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 次にアシスト陣の機能。クライスヴァイクであれば、ピレネー山脈以降ローレンス・デプルス(ベルギー)とジョージ・ベネット(ニュージーランド)が大きく貢献。当初はベネットもリーダー格だったが、横風分断のあった第10ステージで沈み、以降はアシストにまわった。結果的にはそれが山岳アシストの強化につながっており、クライスヴァイクが総合表彰台に向かって集中できる環境を生み出したと考えることもできる。

 またブッフマンには、大会後半にかけて調子を上げたグレゴール・ミュールベルガー(オーストリア)の存在が大きかった。第19ステージのイズラン峠では、トーマスのアタックをほぼ1人で対処するなど、強敵を相手にする状況でエースの負担を減らす大車輪の働き。第20ステージのヴァル・トランスでも集団の先頭に立ってペーシングを担うなど、ブッフマンの上位進出を支えた。

 勢いがあり、地道に育ててきた選手たちが成長。それらをリザルトをもって証明したのが、ユンボ・ヴィスマとボーラ・ハンスグローエだった。

 クライスヴァイク、ブッフマンともに今回の走りから、次に向けた目標はさらに上へ。クライスヴァイクは「いつかツール制覇を」と誓い、ブッフマンは総合表彰台に上がった3選手の強さを認めながらも、その一角に食い込めなかったことを悔やむ。クライスヴァイクが「3位と4位では大違い」というように、たった1つの順位差でその価値が大きく変わってくることをともに実感したツールとなったよう。

ステフェン・クライスヴァイク(右から2人目)を支えたジョージ・ベネット(右端)。山岳アシストの機能が上位進出の大きな要因となった(写真は第14ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA
第20ステージ、超級ヴァル・トランスの頂上フィニッシュを果たして喜ぶエマヌエル・ブッフマン(左)とグレゴール・ミュールベルガー。ミュールベルガーのアシストが大会後半に入って光った Photo: Yuzuru SUNADA

 チーム イネオスのように目標をマイヨジョーヌ1点集中させるチームもあれば、複数のターゲットを抱えながら成功を収めていくチームも存在を誇示するようになった。それぞれの在り方で目指すマイヨジョーヌ、来年以降の戦いも見ものとなりそうだ。

今週の爆走ライダー−ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ここまで戦い続けることを誰が予想しただろうか。目の肥えたフランスのファンでさえ、彼がマイヨジョーヌを争うことになろうとは想像していなかったはずだ。

第3ステージで独走勝利を決めたジュリアン・アラフィリップ。ここから快進撃が始まった Photo: Yuzuru SUNADA

 ワンデーレースにめっぽう強く、グランツールでは狙いを定めたステージで勝ちにいくのが定番だったアラフィリップが、14日間マイヨジョーヌを着用。大会の3分の2でトップに立っていたことになる。

 日増しに高まる彼への期待。マイヨジョーヌ候補と目されたロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)が脱落し、ティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ)も負傷でリタイアすると、いよいよ頼みの綱はアラフィリップだけになった。本人の意思とは裏腹に、シャンゼリゼのポディウムでマイヨジョーヌ戴冠を期待する人たちの思いは強くなる一方。現地メディアも報じるのは彼のことばかりになった。

 自身も少しずつその気になっていたようだ。第14ステージのトゥールマレー峠で2位となったことから、戦える手ごたえをつかんでいた。「最後までジャージを守ることは難しい」と繰り返しつつも、決め台詞は「限界に挑戦する」。マイヨジョーヌへ高まる気持ちは隠しきれなかった。

マイヨジョーヌを14日間着続けたジュリアン・アラフィリップ。ジャージを失った翌日、第20ステージのヴァル・トランス登坂ではすでに限界に達していた Photo: Yuzuru SUNADA

 だから、第19ステージでジャージを失ったときは落ち込んだ。グランツールレーサーではない彼にはすでに限界がやってきていて、翌日のヴァル・トランスではさらに失速。フランス国民の夢でもある「1985年以来の自国選手によるツール制覇」は、来年以降にお預けになった。

 彼にとっても、ファンにとってもせめてもの救いは、「スーパー敢闘賞」を獲得したこと。まぎれもなく、レースを盛り上げた大会のヒーロー。この活躍は長くファンの間で語り継がれることだろう。

 大会を終えるにあたり、再びツール・ド・フランス制覇に挑戦するかと問われ、「ツール・デ・フランドル制覇に挑戦したいね」とかわしてみせた。これはきっと、本来ワンデーレーサーである彼の本心でもあり、重い質問に対する冗談でもあるようだ。ただ、すぐに「いずれはそうなる(ツール制覇に挑戦)とよいね」と続けた。彼の誠実な人柄はそんなところに現れているようで、ファンに愛される理由が分かった気がした。

文句なしで今大会のスーパー敢闘賞を獲得したジュリアン・アラフィリップ。3週間の“爆走”が報われたのだった Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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