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猪野学の“坂バカ”奮闘記<37>RPM70で「ややキツイ」を10分 「主観的運動強度」で強くなる柿木式トレーニング<後編>

by 猪野学/Manabu INO
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 開幕戦を終えていきなり最終カードを切られた『チャリダー★』の新生「坂バカ女子部」。もはや結果を残すしか道は残されていない。結果を残すには、そう、女子日本代表コーチである柿木孝之氏と、兄の克之氏が作ってくれた練習メニューを毎日やるのみだ。それしかない! 代表強化コーチのメニューに作ってもらったのだから、簡単に速くなるだろう。誰もがそうお思いかも知れない。しかしそんなに簡単だったら、私もとっくに表彰台に乗っているはず。世の中はそんなに甘くないのだ。

柿木兄弟の兄・克之さんから指導を受けるステテコさん

積年の1時間を返せ!

 なぜ簡単ではないかというと、柿木兄弟のメニューはワットや心拍数を目安にするわけではない。「主観的運動強度」(RPE)によって強度が決まるのだ。

 主観的運動強度の‟うちわけ”は、①楽である②ややキツイ③キツイ④かなりキツイ⑤非常にキツイ─の5段階。この運動強度でインターバルを行う。

柿木コーチの主観的運動強度。表には「かなり楽である」「非常に楽である」というさらに2つの段階があるが、ここでは割愛

 ここにギヤ比やケイデンスも関わってくる。例えば、「軽めのギヤでケイデンス70を『ややキツい』レベルで10分」という具合だ。脚力を強化するために重いギヤで踏む場合もある。

 興味深いのは「SFR」のような重いギヤで低いケイデンスではなく、重いギヤなのにケイデンス60~70と高めのメニューがあることだ。これはものすごく脚にも心拍にも来る。3分もてば良い方だ。そしてこのメニューの後には筋疲労を散らすため、軽いギヤでケイデンス110を10分というメニューがある。疲れを残さないように配慮が行き届いているのだ、

「主観的運動強度」でトレーニングを行うふるやいなやさん

 そして軽めのギヤで高い負荷もある。2分~3分間フルもがき!これは2分が2時間に感じるくらいキツい! 逆にレストの2分はあっという間に終わる。あまりのキツさに時間に歪みが生じる。アインシュタインの言いたいことが少しだけ分かるような気がする。

 そして何より意外だったのが、長い時間回し続けるメニューがないのだ。1番長くて20分だ。私はこれまで1時間負荷をかけ続けるメニューをやって来たが、そこまでやらなくてよかったということか…私の1時間の積み重ねを返してくれ!!

弟・孝之さんの直接指導で実践トレーニングを受ける坂バカ女子部(と女子部監督の筆者)

 しかし問題は、この「主観的」という所だ。私の主観的主観なんてとてもいい加減なもので、体調によってはややキツいレベルが非常にキツかったりする。特に追い込んだ翌日は主観的にも肉体的にも出力は堕ちる。逆にキツかったメニューが楽に感じる事もある…。それの繰り返しで、何だか堂々巡りの無限ループに迷い込んでしまったかのようになるのだ。

「黄金のタレ」が…来ない?

 そうこうしているうちに、坂バカ女子部の存続を掛けた第2戦「榛名山ヒルクライムin高崎」がやって来た! 女子部の皆も無限ループにハマっているようで、速くなった実感はあまりない様子だった。毎日メニューをこなして来たが本当に速くなっているのかだろうか? だが時は待ってくれない。運命のスタートが切られた。

試走後に榛名山をバックに

 私は女子部エースの星恵莉奈さんと同じ組のスタート。監督らしくエースをアシストするために引っ張ろうと思っていたが、その考えは大間違いだった。星さんに付いて行くのが精一杯だったのだ! これは相当仕上がってるぞ!さすが星さん、大したもんだ!と感心していたら、みるみる星さんの背中が小さくなっていく。

 「おかしい…こんなはずではない!」この瞬間、私の監督としての意地が心拍数を最大まで押し上げてしまった。やってはいけないことを、私はやってしまった。オーバーペース。ヒルクライムにおいて一度最大まで上げ切ってしまったものは、なかなか元には戻らない。ゴールするまで回復しないのだ! しかし上げてしまったものはしょうがない! 上等だ、最後まで上げたままでとことん行ってやろうじゃないか!とわけの分からん根性論が芽生えた。

 ただただキツい!柿木コーチのRPEでいえば、「非常にキツい」が延々と続いている。しかしどうしたことか、いつもやって来るお決まりの‟黄金のタレ”がやって来ない。これが日本強化コーチのトレーニングの成果なのか!? 知らず知らず心肺機能が強化されていたのだ!

 非常にキツい地獄が激坂区間でも続いたが、タレることなく最後まで駆け抜け49分でゴール! なんと、自己ベストを4分縮める好結果となった!

 流れ星の如く私の前から消え去った星さんは見事に年代別優勝! 彼女はひょっとすると、行く所まで行ってしまうポテンシャルを秘めているのかも知れない。もちろん、そんなに甘い世界ではないのかも知れないが、そんなことを感じさせるほどの成長を見せた。

虜にするヒルクライムの無限ループ

目標タイムをクリアし調子に乗るステテコさん

 メンバーのステテコさんとふるやいなやさんもまずまずの成果を残し、坂バカ女子部はなんとか崖っぷちで踏み止まる事ができた。我々の戦いは続く。柿木コーチのメニューでどこまで登り詰めることができるのだろうか…。

 努力しても報われるないことが多い世の中で、ヒルクライムは功労者に「成長」という一筋の光を与える。一方でこんなに労力を費やしているのに、「表彰」という見返りが遠い競技も他にない。だからこそ一喜一憂させ、翻弄するこの競技の虜に、いつしかなってしまうのだろうか…。

 どうやら私はこの無限ループからまだまだ抜け出せそうにない。

(画像提供:猪野学・NHK・テレコムスタッフ)

猪野 学猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:50)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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