山口和幸の「ツールに乾杯! 2019」<6>アルプスへの途上、南仏ニームにて スプリンターステージの悲喜こもごも

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
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 ツール・ド・フランスは2回目の休息日を中世の円形劇場やローマ神殿などが建ち並ぶニームで過ごし、いよいよ最終週の6ステージでフィナーレを迎える。ニームを発着とする第16ステージは平たんで、スプリンターにとってはこの日をねらっていかないと、勝利のチャンスは最終日のシャンゼリゼのみとなる。

ニームの中心地にあるローマ時代の神殿 Photo: Kazuyuki Yamaguchi

ローマ時代からの古都

 セミ時雨が鳴きやまず、極めて高温となる南仏の中心都市。ニームは織物の町としても有名で、ジーンズ生地のデニム(デ・ニーム)はこの町の名前にちなんでつけられている。2017年にはブエルタ・ア・エスパーニャの開幕地ともなった。

 この大会の各ステージを講評している大会ディレクターのクリスティアン・プリュドムは「ニームは集団ゴールになる」と断言している。戦後のツール・ド・フランスでニームにゴールしたのはこれまで8回。2008年はマーク・カヴェンディッシュ、前回の訪問となる2014年はアレクサンドル・クリストフがゴールスプリントで優勝している。

2008年の第13ステージで当時23歳のカヴェンディッシュが優勝 © ASO

 2008年の第13ステージは当時23歳だったイギリスのカヴェンディッシュ(チームコロンビア)が2日連続、この大会4勝目を挙げた。ステージが終わっての首位はオーストラリアのカデル・エヴァンス(シランス・ロット)だったが、マイヨジョーヌはその後CSC・サクソバンクのフランク・シュレクに移り、そしてアルプスのラルプデュエズでチームメートのカルロス・サストレに譲られ、サストレがパリに持ち帰っている。

この年が2度目のツール出場だったカヴェンディッシュ。第5ステージの初勝利から破竹の4勝を挙げた Photo: Yuzuru SUNADA

 この年の前半は天候不順だったが、レースが地中海沿岸に到達するとようやく真夏の日差しが降り注いだ。気温30℃以上の暑さの中、2選手が果敢にアタック。エヴァンスを擁するシランスチームは、この2人が総合成績で大きく遅れていることから、その逃げを容認。ゴール勝負に持ち込んで区間勝利をものにしたいスプリンターたちに追撃を任せた。

 逃げた選手は残り10kmまでに吸収され、最後は各チームのスプリンターが猛ダッシュ。カヴェンディッシュがキレのいいスパートを見せた。

 「4日前の落車による痛みや疲れもあるが、チームメートのおかげで結果を残せている」とカヴェンディッシュ。「キング・オブ・スプリンターの称号である緑色のマイヨヴェールも着てみたい」とゴール後にコメントしていたが、ステージ優勝はここまでにとどまり、ポイント賞のマイヨヴェールもオスカル・フレイレにさらわれた。

ツールを勝ち損ねたバウアー

 2014年は第15ステージでニームを訪れた。イアムサイクリングのマルティン・エルミガー(スイス)とガーミン・シャープのジャック・バウアー(ニュージーランド)が区間距離222kmのうち、220kmを逃げ続けて勝利を目指したが、ゴールラインのわずか50m手前で大集団に飲み込まれ、ゴール勝負を制したカチューシャのクリストフが第12ステージに続く2勝目を挙げた。

2014年の第15ステージ、クリストフがサガン、グライペルらを抑えてスプリント勝ち。その傍らでバウアー(左端)が失意のゴール Photo: Yuzuru SUNADA

 「強豪スプリンターが最後に残っていたが、彼らはアルプスの疲れがあったので、ボクが勝てた」とクリストフ。

 このニームを目指した2人の敢闘精神こそ、これぞツール・ド・フランスという思いがした。エルミガーとバウアーはステージのほとんどを逃げ続け、そして最後のわずか50mで捕まったのである。

 前日までアルプスの2連戦があり、最後の勝負どころとなるピレネーへの移動区間と位置づけられる平たんステージ。バウアーの所属するガーミンチームはエースを落車で失い、まだ勝ち星を挙げていなかった。

 「最終週に勝てる舞台はない。だったら今日がラストチャンス。他選手はアルプスで疲労しているので積極的には走ってこないだろう」とバウアーは計算した。スタート直後にエルミガーが抜け出すとそれに反応。エルミガー自身はバウアーだけが追いついてきて、「逃げ切るにはもう少し数がほしかった」と回想している。

スイスチャンピオンのエルミガー(左)とバウアーの逃げ © ASO

 通常なら数にものを言わせたメイン集団がゴール前までに逃げを吸収することがほとんどだ。しかしこの日は南フランス特有の季節風に加え、ときおり豪雨となって追撃がままならない。先頭で逃げる2人の意思も統一され、一時は8分50秒差をつけた。

 終盤になってもタイム差が縮まらず、残り1kmで15秒。後続のメイン集団が追いつかない可能性が出てきた。しかし、こうなると協力して走って来た2人の思惑に「勝ちたい」という願望が加わる。

 「最後はポーカーゲームだった」とエルミガー。「疲れているふりをしたけど余力はあった」とバウアー。ハイペースを維持しながらも微妙な牽制状態だった。最後はバウアーがエルミガーを突き放したが、次の瞬間に大集団に飲み込まれた。初優勝まであと50mだった。

ゴール後、コース脇で泣き崩れたバウアー Photo: Yuzuru SUNADA

 「ツール・ド・フランスで勝つのは子供のころからの夢だった。ボクのようなアシストがチャンスを与えられることはまずないので、どうしても勝ちたかった」とバウアーはゴール後にいつまでも泣き崩れていた。

今年はニーム〜ニーム

強い日差しを避ければしのぎやすい Photo: Kazuyuki Yamaguchi

 2019年のツール・ド・フランスはここまで好天に恵まれている。休息日前のステージでは最後の山岳で通り雨に見舞われたが、それ以外は乾いた夏の空気が楽しめる絶好の気象条件。しかしニームは暑い。日本のような湿度も意外とある。並木にとりついた巨大なセミの鳴き声は隣の人の会話が聞こえないほど大きく、その不快感を増長させる。

 そんな中、マイヨジョーヌをめぐる戦いはアルプスを見すえて小休止となるのか。有力選手が体力温存することをチャンスとばかり、スタート直後からステージ優勝ねらいの選手が抜け出すのか。それを追撃し、最後はいつものニームの通りゴールスプリントとなるのか?

 スタートもゴールもニーム。歴史ある建造物を堪能しながらこのステージを楽しんでみよう。

ニームの象徴である円形劇場 Photo: Kazuyuki Yamaguchi
山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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