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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<302>ツール第2休息日最新情報 個人総合上位陣会見、運命の第3週へ向けて意気込み語る

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ツール・ド・フランス2019はいよいよ、雌雄を決する第3週へと突入する。ピレネー山脈を走った第2週までを終えて、マイヨジョーヌをめぐる個人総合争いは混戦模様。残り6ステージですべてが決着する。今回は、運命の1週間を前にした有力選手たちの動向を現地フランスからお届け。そして、大会終盤戦についても展望していく。

ジュリアン・アラフィリップ(左から2人目)がマイヨジョーヌを着て迎えるツール・ド・フランス2019第3週。最終決戦地・アルプス山脈でどんなドラマが待ち受けているか(写真は第14ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

上位選手が記者会見の席へ 冷静さ印象付ける

 ツール第2休息日だった7月22日、出場チームは宿泊ホテルなどを中心にプレスカンファレンス(記者会見)を実施。個人総合上位につける選手たちのコメントや動向を押さえるべく、世界各国のメディアがあちらこちらへと飛び回った。

3週間を通して一貫した強さが必要というゲラント・トーマス。一方でエガン・ベルナルとの共闘に難しい局面もあるという(写真は第15ステージ終了後) Photo: Yuzuru SUNADA

 この1日の中でも、早い時間帯にカンファレンスを行ったのが、個人総合2位のゲラント・トーマス(イギリス)とエガン・ベルナル(コロンビア)を擁するチーム イネオス。ピレネーでは決してベストコンディションとはいえなかったトーマスは前日の第15ステージを振り返り、「最後の上りで100%の体調にあるとは感じていなかったが、気持ち的には乗っていた」と振り返った。

 そんななかで、本心がうかがえたのはティボー・ピノ(フランス、グルパマ・エフデジ)がアタックした際の対処についてコメントを求められた時。「エガンがピノをフォローしたが、私はできることに集中した。それはアラフィリップをチェックすることだったが、これは望んだ形ではなかった。状況次第では、自分から攻撃に出ていた可能性もあったので、その点では満足できていない」と、その言葉からは完調ではないことをうかがわせる。

 それでも、「チームとしてマイヨジョーヌが得られれば良い。そのためにレースの間もできるだけコミュニケーションを図っていきたい」と前向きで、この先最大のライバルにはアラフィリップとピノを挙げる。そして、「3週間を通して一貫して強さを保つことこそ重要」と、前回覇者としての経験を踏まえながら戦いを見通した。

 一方のベルナルは、「チームリーダーはゲラント」と明言。標高2000mを超えるアルプスの山々をめぐるステージに、自信をもって臨みたいとする。こちらも、「ピノは総合表彰台に値する」と称えつつ、「この先はどんなことでも起こりうる」として気を引き締める。

 ここまでマイヨジョーヌを守り続けるアラフィリップはチーム首脳陣とともに会見の席につき、その言動に注目が集まった。まず、「落ち着かなければならない」と前置きしたうえで、「マイヨジョーヌのままパリへ到達できるかが現実的であるかは分からない」と述べる。

 第2週を振り返って、「確かにトゥールマレー(第14ステージ2位)は自分自身でも驚きだった。ただ、次のステージは苦しんだ」と自己分析。トーマスらに対するリードも、「アルプスではこのリードは何の意味もなさない。誰がライバルなのかも考える意味を感じない」ときっぱり。もっとも、アラフィリップとエーススプリンターのエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)のステージ優勝を目標に据えて編成したメンバーで戦っており、同席したチームマネージャーのパトリック・ルフェヴェル氏も「1年間でチームを完全に変えることは不可能。総合成績を狙うなら強力な山岳アシストが必要」と語り、今の戦いについても客観視していることをうかがわせた。

ピレネー山脈でのステージを成功させたティボー・ピノ。会見ではツールへの思いを打ち明けた Photo: Yuzuru SUNADA

 トゥールマレー登頂の第14ステージを制し、続く第15ステージでも攻撃を成功させたピノ。その鬼気迫る走りとは裏腹に、カンファレンスでは淡々とした口ぶり。昨年この大会を欠場して以来、1年にわたってツールへの強い思いを抱いていたと打ち明け、上位戦線に加わる現状に「本当に幸運」と語る。

 まずは自らの走りに向き合いたいといい、「まだ夢は見ない。落ち着いていることが大切。誰が競争相手かも深くは考えていないし、すべてはヴァル・トランス(第20ステージフィニッシュ地点)で分かる」とコメント。ただ一言、「戦い方は分かっている」との言葉に、どこか自信を感じさせた。

勢いのあるステフェン・クライスヴァイクはツール制覇へ意欲を示した(写真は第13ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 個人総合上位陣の中では1人、午後にカンファレンスに臨んだ3位のステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)。順調な戦いに「ツールで勝てる可能性はある」と意欲を示した。ここまで上位陣が混戦となっているが「その方が戦いやすい」とポジティブで、「誰か1人に集中するのではなく、複数の選手をチェックする必要がある」と続ける。チーム イネオス勢の走りについて問われると、「ここ数年よりは強さを感じない」ときっぱり。終盤にトーマスとベルナルを支えるアシスト陣が遅れているケースが多いことを挙げ、「過去にフルームを守りながらレースをコントロールしていたときと比較すると、そう多くのことは実行できていない。彼らが第3週をどう走るか見ていきたい」とした。

 それぞれの言葉で、第3週への思いを語った上位選手たち。彼らの共通するのは非常に冷静であることで、アルプスに向けて非常に集中している様子がうかがえた。また、目標や想定される戦い方についても現実的で、いまある状況を受け入れていることも見てとれる。こうした姿を見るに、第3週はより激しい、マイヨジョーヌ争いにふさわしいレースが繰り広げられることが期待できそうだ。

総合上位陣はどう戦う? アルプス最終決戦への期待

 個人総合争い、マイヨジョーヌをかけた戦いは大混戦。本格的な山岳ステージは残すところ3ステージ。泣いても笑っても、この3つですべてが決まる。

個人総合争いにおいて数字の上では頭一つ抜けているジュリアン・アラフィリップ。第3週をどう戦うか(写真は第15ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 ここまでのレース展開やタイム差、コースの難易度を総合すると、首位アラフィリップから総合タイム差2分14秒とする個人総合6位のエマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)までが「マイヨジョーヌ圏内」と言えるだろう。もちろん、後続ライダーにチャンスがないとは言い切れないが、次点がミケル・ランダ(スペイン、モビスター チーム)の総合タイム差4分54秒。特定の選手だけをターゲットにして追い込むことは可能かもしれないが、上位の6人をごぼう抜きすることはさすがに難しいだろう。

 上位6人に絞ってみていくと、アラフィリップが同2位のトーマスに対し1分35秒のアドバンテージがあり、以下は数秒ずつの差となっていることから、数字の上では頭一つアラフィリップが抜けているといえる。ただ、なにぶんグランツールの総合争いは初めてであることや、元々はクラシックハンターであって、総合系ライダーではないあたりにこの戦いを勝ちきる「確実性」をいまだ見出せないことは確かである。

 トップを走るアラフィリップは、たびたび「マイヨジョーヌを着る喜び」を口にするが、その真意にはジャージを長く守りたいという思いも込められていることだろう。守れることならパリ・シャンゼリゼまで守りたい。そこまでの意識はないと言いつつも、レースが進んでいくうちにより明確にその思いは強まっていくはずだ。

第15ステージ、一度は前をうかがったジュリアン・アラフィリップ(右から2人目)だったが、フィニッシュを前に失速した Photo: Yuzuru SUNADA

 最後の1週間、勝負となるステージが限定されていることもあり、まずは当面のライバルとなるトーマスやクライスヴァイク、ピノを見ながら走っていくことが重要になる。ステージを追うごとに順位に変動が出てくる可能性は大いにあるが、その都度総合2位、3位の選手たちをチェックしながら走ることが求められる。

 第2週の最終日、第15ステージではピノの動きに一度は合わせたが、その後失速。トーマスやクライスヴァイクにもかわされ、総合タイム差を縮められる結果になった。この2人を引き離してより優位な情勢に、との思いがあったのかもしれないが、ジャージを守るうえではやはりチェックしていくターゲットを絞りながら、1ステージずつ大事に戦っていきたいところ。

チーム イネオス勢はゲラント・トーマス(左)とエガン・ベルナルが上位につける。アルプスに向け状態を上げていくと同時に共闘体制が保てるかどうかも見もの(写真は第6ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 トーマスは個人タイムトライアルの第13ステージと、トゥールマレー登頂の第14ステージでアラフィリップに対して喫した遅れを第15ステージで多少取り返したが、第3週は総合タイム差の縮小、さらには逆転をかけて攻撃に出ることが求められる。ポイントとなるのはアルプスへ調子のピークを持っていくことができるか。第15ステージでもピノの動きには合わせられず、自らアタックした局面でもアラフィリップこそ振り切ったがクライスヴァイクらの対処にあっており、ライバルを引き離すだけの決定的な動きは第2週では見られなかった。

 チーム イネオス勢は、5位にベルナルがつけており、アルプスでのステージ次第ではどちらかに上位狙いの比重を置くことになるケースも考えられる。いまのところは両者が上位につけており、それぞれにマイヨジョーヌを狙える状況が整えられているが、この関係性がどこまで保たれるのかも見もの。もちろん、ベルナルもアラフィリップとの2分2秒差を巻き返すには3ステージをかけて攻撃を成功させる必要がある。

ステフェン・クライスヴァイクを支えるユンボ・ヴィスマの山岳アシスト陣は実力者ぞろい。ピレネーではジョージ・ベネット(先頭)の貢献度が高かった(写真は第14ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 3位につけるクライスヴァイクは、第14ステージではアラフィリップ、第15ステージではトーマスの動きにそれぞれ対処。要所ではローレンス・デプルス(ベルギー)、ジョージ・ベネット(ニュージーランド)といったアシスト陣が計算でき、勝負どころまで力を温存しながらレースを進行できている。ここまで、自ら目立った攻撃は見せていないが、アルプスでは仕掛けてくるはず。ここまでの戦いぶりで着々と足場を固めていることがうかがえるが、あとはどこで攻撃をするかが上位進出のポイントになる。

 ピレネーステージにおいて、個人総合上位陣で最も強さを見せたのはピノだったのではないか。アラフィリップに対して、第10ステージでの横風分断や第13ステージでの遅れは完全に取り戻すことはできていないが、ひとまずはマイヨジョーヌ圏内に自力で加わってみせた。何といっても第14、第15ステージでライバルを振り切ったあたりに勢いが見てとれるが、同時にダヴィ・ゴデュ(フランス)のアシストも光っており、そこからの組み立てで攻撃パターンが確立できている点に強みを持つ。ライバルの動きを待つのではなく、自らのアタックから上位への足掛かりを作っていくのは第3週でも同様だろう。2位トーマスとは15秒、3位クライスヴァイクとは3秒。これは完全に射程圏内で、あとはアラフィリップとの1分50秒をいかにして縮めるか。

個人総合争いで一躍ダークホースとなっているエマヌエル・ブッフマン(右)。ピレネーでは果敢な攻撃を見せた(写真は第15ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 そして大健闘のブッフマンも侮れない。トゥールマレーではトーマスが遅れるきっかけとなるスピードアップを見せ、続く第15ステージでもピノに食らいついた。現実目標だったトップ10フィニッシュはおろか、マイヨジョーヌ獲得の可能性もある位置を走り続ける。自ら攻撃に出るだけでなく、ライバルの動きにも合わせられているあたりは、アルプスでの走りにも期待が膨らむ。今回の総合上位陣の中では、ダークホース的存在といえそうだ。

 アルプスの各ステージでどう攻撃に出るか、どこで勝負すべきか、各選手がどう見定めているかも楽しみなところ。ただ、第3週初日の第16ステージでは平坦ステージではあるものの、フランス南東部の地方風「ミストラル」にも注意が必要。強い風が吹き、集団内でのポジショニングを誤ると一気にマイヨジョーヌ圏外へ、ということもあり得る。アルプスでの本格的な戦いに向け、他ステージでは確実に走りきることが大前提となる。

 運命の最終週、アラフィリップがジャージを守るのか、追う選手たちがマイヨジョーヌへ手を伸ばすのか。いずれにしても、より攻撃的なレースが繰り広げられることは間違いない。

今週の爆走ライダー−ローレンス・デプルス(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 今大会絶好調のユンボ・ヴィスマ。ピレネーでは総合エースのクライスヴァイクがいよいよ上位戦線に姿を見せ始めたが、重要な局面でレースを構築する役割を担っているのがツール初出場の23歳、ローレンス・デプルスである。

絶好調のユンボ・ヴィスマにあって躍進著しいオールラウンダー、ローレンス・デプルス(右から2人目)。このツールでは山岳アシストとしてステフェン・クライスヴァイク(左端)を支えている Photo: Yuzuru SUNADA

 ジュニア時代からタイムトライアルと上りの強さには定評があり、当時はベルギー国内の年代別最優秀選手にも選ばれたほど。2016年にエティックス・クイックステップ(現ドゥクーニンク・クイックステップ)から始まったプロのキャリアでは、ここまで着実に力をつけてきた。

 今シーズンから合流した現チームへの加入理由も明確。クライスヴァイクやジロ・デ・イタリアで活躍したプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア)の山岳アシストとして必要とされた。もちろん、将来的にはオールラウンダーとして飛躍することを目指しているが、まだまだトップシーンでの走りを学んでいる段階だ。

 今年のジロでは体調を崩し早々にリタイアしてしまったが、目標をシフトさせたツールでは求められている以上の仕事は果たせている。現状について「自信をもって走ることができている。ステフェン(クライスヴァイク)がパリで表彰台に上がることしか考えていない。とにかく時間を取りこぼさないことだ」とのこと。

 今大会での「個人的な野心はまったくない」というが、長い戦いだけあって自分の体を見つめる時間は大切にしているという。「自らのレベルを3週間維持できるよう、走りと回復とのバランスは保ちたい」と、浮足立つ様子は見られない。

 エースの、ひいてはチームの目標に向けてヤマ場となる1週間を迎える。「アルプスに行ってみないと何も分からない」というが、達成に向けてのミッションははっきりと見えている。そんな中で、ツールを「本当に楽しいレース」と口にするあたりは、堂々たるものである。

ツールを「本当に楽しいレース」と語るローレンス・デプルス。アルプスでの戦いに向け「走りと回復のバランスを保つ」と落ち着いた様子を見せる =ツール・ド・フランス2019チームプレゼンテーション、2019年7月4日 Photo: Syunsuke FUKUMITSU
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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