山口和幸の「ツールに乾杯! 2019」<5>ポーの街が見せた奇跡 フランスの勇者アラフィリップにマイヨジョーヌマジック

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
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 ポーはパリに続いてツール・ド・フランスがよく訪問する都市だ。この避寒地がゴールやスタートになること、今回で71回目。40kmほど離れたタルブやルルドが発着点となったときもチームや関係者の多くが宿泊するのはポー。それだけ自治体としても裕福であり、自転車競技に好意的な町なのである。

はるかに望むピックデュミディ。その近くにトゥールマレー峠がある © D.Guilhamassé

元王者の意地を打ち砕いたフェドリゴ

 2010年はピレネー3日目の第16ステージとしてポーにゴールした。この年は新城幸也も出場していたが、Bbox・ブイグテレコムのチームメートであるピエリック・フェドリゴがゴール勝負でランス・アームストロング(当時レディオシャック)ら7選手を制して優勝した。

かつての“英雄”アームストロング(右から2人目)を打ち破ってステージ優勝を挙げたピエリック・フェドリゴ(フランス、Bbox・ブイグテレコム) Photo: Yuzuru SUNADA

 いまさら不正薬物使用で全記録が抹消されたアームストロングの話を持ち出してもどうかと思うが、活動の晩年を迎えた元王者が「最後のツール・ド・フランス」と宣言して挑んだ大会は、連日先頭集団から遅れ、「もう8回目の総合優勝の可能性はない(当時としてのコメント)」と認めざるを得ない心境だった。

 それでも「最後の1勝を」という気迫にあふれる走りを見せ、ツールマレー峠越えの難関ステージで勝利を目指したことが印象に残っている。あのときのアームストロングにはこれまでなかった悲壮感が漂っていた。

 山岳で決着がつかず、8人のゴール勝負になった。その直前にアームストロングはフェドリゴに「お前は強いから協力はしない」と声をかけている。それだけ最後の区間1勝がほしかった。

ポーにゴールするツールマレー峠で晩年になったアームストロングが最後の意地を見せた。路面には新城の文字、日の丸も Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 アームストロングは結局7位。大会は残り4区間で、現在のパフォーマンスでは勝ち目はもうない。勝利はつかめなかったが、そのときは彼の意地を感じた。

フランス勢に40年ぶりの快挙

フェドリゴは2012年もポーのステージで優勝。ツールでは通算4勝を挙げた © ASO

 2012年にポーにゴールしたときは、ピレネーを離れて比較的平たんなコースで行われた。FDJ・ビッグマットに移籍していたフェドリゴがガーミン・シャープのクリスティアン・バンデベルデとの一騎打ちを制して優勝。ポーで連勝を挙げた。

 特筆すべきなのが、新城(当時のチーム名はヨーロッパカー)の活躍ぶり。波状的なアタック合戦が一段落した31km地点で、新城ら5選手が集団を抜け出し、これに4人が追走して9人の第一集団を形成していた。59km地点で捕まるが、新城のチームエースであるトマ・ヴォクレールがカウンターアタックするなど、チームから求められた役割をしっかりとこなしていたのはさすがだ。

新城幸也が激しい攻撃を見せる Photo: Yuzuru SUNADA

 2017年もポーは平たん区間のゴール地点となり、クイックステップフロアーズのマルセル・キッテルが2日連続のスプリント勝利で、この大会5勝目、大会通算14勝目を挙げた。

2018年にポーで優勝したアルノー・デマール © ASO

 続く2018年。グルパマ・FDJのアルノー・デマールが伝統のポーで、コフィディスのクリストフ・ラポルトとのフランス人対決を制して大会通算2勝目を挙げた。フランスのスプリンターが平たんステージで1位と2位を占めたというのは、じつは40年ぶりだったという。

ポーの女神はフランス勢の味方

 2019年のポーはいつものように快晴だった。そしてこの大会唯一の個人タイムトライアルの舞台として、すべての準備が整えられていた。フランス南西部に位置するため、フランスの中では緯度が低く、さらに西の端にあるので朝は7時前まで暗い。そんな中、イネオスは前年と同じホテルに宿泊し、スタッフがぬかりない準備をしていた。

ポーの河岸段丘。スタート地点はこの高台の下で、タイムトライアルの最後も段丘の上に駆け上がる © Soazig de la Moissonnière

 ポーはポー川が作った河岸段丘の上に栄えた町で、ゴールがあるのは丘の上の中心街だ。スタート地点はいわゆる河川敷で、ここからすぐに丘の上に駆け上がる、個人タイムトライアルのコースの大半は町の南に広がる平坦地だが、ある程度のアップダウンがあり、そしてゴール手前で再び丘に上がる。ほとんどの選手がパワーを使い果たし、止まりそうなスピードで苦戦する。これがこの日のポイントだ。

 大会期間中唯一の個人タイムトライアルであり、その中盤に設定されている。距離27.2kmは個人の独走力をはかるにはあまりにも短い。過去にミゲル・インドゥラインや、後に白紙となるがアームストロングがこの種目で圧倒的優位に立ち、山岳ステージで上りのスペシャリストの攻撃をしのいで逃げ切ったのとは、戦い方が異なるといってもいい。

ディフェンディングチャンピオンのトーマスが、得意の個人タイムトライアルで躍進を図る Photo: Yuzuru SUNADA

 スタート地点とゴール地点の距離が歩けばなんとかなるポーで、ファンや市民がこの日の戦いに熱いエールを送る中、アラフィリップが第1計測ポイント、第2計測ポイント、さらに第3計測ポイントをトップタイム通過していく。タイムトライアルを得意とするゲラント・トーマスを上回る記録だ。

 沿道のフランス人は大興奮。ボルテージは次第に高まっていく。そしてまさかのトップタイムでステージ優勝するとともに、当然マイヨジョーヌを死守。その瞬間、ポーのサルドプレスからは拍手がわき起こるほどだった。

全力を振り絞ってゴールに飛び込んだアラフィリップがステージ優勝してマイヨジョーヌを防衛 Photo: Yuzuru SUNADA

 「信じられないよ。本当に幸せだ。ゲラント・トーマスにこれだけの差をつけて優勝できるなんて」とアラフィリップ。

 チームの監督もスタッフもこの偉業に感極まって涙を流したという。

 ポーの奇跡。ポーはいつもフランス勢の味方だ。そしてマイヨジョーヌは勇者に想像以上のパワーを与えてくれる。

山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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