Cyclist単独インタビューUCIが推し進める新制度が重しに チーム運営会社解散発表のNIPPO・大門宏マネージャー

by 松尾修作 / Shusaku MATSUO
  • 一覧

 今年のジロ・デ・イタリアに出場し、初山翔の逃げなど活躍したNIPPO・ヴィーニ・ファンティーニ・ファイザネが、今季限りで活動を終了するというニュースが入った。国際自転車競技連合(UCI)が掲げる2020年のレギュレーション変更が重しとなったことが原因だという。渦中の大門宏マネージャーに今回の経緯と、今後の見通しについてインタビューを行った。

これまでにも多くの若手日本人を大舞台で採用してきた大門宏マネージャー(右)(=2015年撮影) Photo: Yuzuru SUNADA

レギュレーション変更でコストが倍に

――どのような経緯で解散が決まったのでしょうか

大門マネージャー:まず申し上げたいのが、NIPPOが自転車業界から手を引くわけではありません。今回はチームを運営するフランチェスコ・ペロージGMの会社「STC PRO Srl」の解散に伴う活動の停止です。NIPPOは約30年間、現在のJBCF(全日本実業団自転車競技連盟)や、日本籍だけでなくフランスやイタリアといったいくつもの海外籍へのUCIコンチネンタルチーム登録など様々な形態としてチームを運営、時にはスポンサーとしてかかわり、そのたびに解散と結成を繰り返してきました。今日まで約5年、同体制で運営してこれたことは初めでではないでしょうか。

今年のジロ・デ・イタリアで144kmに及ぶエスケープを披露した初山翔とチームカーを運転する水谷監督 Photo: Yuzuru SUNADA

 チームマネージャーのペロージが2020年の活動を断念した理由の1つは予算の確保です。プロコンチネンタルチームの登録におけるレギュレーションが変更になったことが大きな要因でした。まず、登録選手の最低人数は16人から20人に増加したうえで、一人当たりの最低年俸も上がります。そしてチームは3チームが稼働できる体制を必ず整えなければならず、それに伴ってチームカーや機材、スタッフも当然増えます。最終的には人件費が膨れ上がる見積もりです。

 現在、UCIルールで定められているプロコンチネンタルチームの選手の最低年俸は500~600万円ほど、チームに2人くらいいるエースが年俸2000万円程でしょうか(コフィディスなど大型チームを除く)。ペロージの様なチーム運営会社は年間トータル約3億5000万程を多くのスポンサーから集めて運営している現状ですが、UCIが示唆している登録規定では約5億5000万円は必要と見込まれています。

「スポンサーに状況を説明できない」

――増加した分のコストはスポンサーから賄えないのでしょうか

大門マネージャー:スポンサー費の増額を要求するには理由が必要です。お話ししたレギュレーションにはUCIが推し進める新たな枠組み「プロシリーズ」が背景にあります。これはチームランキングを主体にビッグレースへの招待が得られるシステムと言われてますが、育成を理念に掲げるペロージのチーム(NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネ)が不利になることは目に見えています。

 グランツールを例にとると、プロコンチネンタルチームはワイルドカード枠でしか出場できません。我々のチームは今年、ジロ・デ・イタリアに出場できたのもこの枠です。

 ワイルドカードは大会主催者が選出するものですが、少なからず地元チームであること、またイメージが良いチームであることが反映されます。よってチームの社長であるペロージは、積極的にマーケティングのニーズを重視し、日本のスポンサーも加えて国際的なチームであることをアピール。バイオロジカルパスポートの一般開示を取り入れ、クリーンであることなどイメージアップを図ってきました。これはワイルドカードに対応した措置でもあった訳です。

ダミアーノ・チーマがジロ初勝利。チームにとっても初のグランツールでの区間優勝となった Photo: Yuzuru SUNADA

 しかし、ランキングの上から順番に選出されてしまうと我々のチーム方針では出場が難しくなります。ジロのワイルドカードがコフィディス、トタル(旧ディレクトエネルジー)、イスラエルサイクリングアカデミーといった資金が10億円クラスのチームしか出られず、イタリアのチームが1チームも出られないといった事態も想定できます。

 例えばですが、「ツール・ド・フランス命」の、トタルまたはアルケアが三大グランツール全ての出場を望んでいますか? 規模的にオーガナイズ出来ると思いますか? ここに出場したいチームとしたくないチーム(グランツールは出たいけど1つか2つに絞りたい)の歪みが生じます。

 グランツールや、その他のビックレースに出場する見込みが立たなければ、スポンサーもチーム運営会社に対して広告価値の目標設定もできません。そもそも、この話は未確定の部分が多く、チームを登録する為に欠かせない申請書の様式は元よりUCIから制度に関する正式なリリースが現時点で出ていません。巷で出回っている「噂」だけです。

 8月1日から選手の来季に向けた移籍情報も解禁になるのに、もう7月です。その点ではショッティー氏(チームのパートナーでもあるヴィーニ・ファンティーニのCIO)も「選手をスタートさせておいてルールを後から説明する様なもんだ」と憤慨されてますが、正におっしゃる通りだと思います。

 噂話を元にスポンサー費の増額だけお願いするなど企業に対して説明できるわけがありません。欧州の自転車業界はスポンサーもチーム運営会社も根っからの自転車好きが関わっている側面が強い。未だに閉鎖的なんです。グローバルスタンダードに向いているとは思えません。広告業務には大手広告代理店を間に入れ組織的にスポンサーする日本の企業スタイルとは温度差も有りますし雰囲気が違います。

 そもそも、現在のワールドツアー制度が始まった際、UCIはランキングに準じて入れ替え制にするとしていたんです。そう言った大義を盾にメインスポンサーの契約も4年にしなければならないルールでした。しかし、現状では未だに「公約」を果たせてません。ここにきて、同じ理由でプロコンチネンタルチームのメインスポンサーは契約を3年にする暫定案がチームに提示されています。そう言う意味ではUCIに不信感を抱かざるを得ません。

 アルケアもそうですが、コフィディス等のフランスのチームは近年予算も大幅にアップさせ今年から早々に選手を20人に増やして準備してきていました。ヨーロッパの限られた関係者同士で改革に向けての情報が共有されているようです。世界中の新規参入を目指したいスポンサーに対しても公平だとは思えません。

他チームとの合併も

――今後NIPPOはどのようにサイクルロードレースと関わるのでしょうか

大門マネージャー:話は戻りますが、今回の解散については、NIPPOもVINI FANTINIを始めとするスポンサー、関わる選手、スタッフには落ち度は全く在りません。FANTINIが抜けたから、という声も聞こえますがそれも全く違います。ショッティー氏の決断が運営に打撃を与えた訳ではありません。お陰様で彼とは今でも良好な関係です。

 チーム運営会社の社長であるペロージの観点では今在るメインスポンサー同等のスポンサーをあと2社、合計4社探して来なければならない状況に立たれていた訳です。20%とか50%増なら見込みは立った可能性が有りますが、2倍ですからね(苦笑)。ペロージの切羽詰まった心境は凄く理解出来ます。今回は取り巻く環境の変化が、彼の運営会社が撤退を決断した最大の要因です

 一概に選手に責任を押し付けるつもりはありませんが、将来ワールドチームを目指せる有望な若手日本人選手を何人も抱えた状態であれば、スポンサーとしてもグランツールを目指す様な体制に向けて努力する事になるでしょう。しかし、冷静に選手の成長を念頭に最優先に考えるなら現状はとても難しい。これから2021年にかけてペロージが苦渋の決断をしたように判断を迫られる同じ境遇のプロコンチネンタルチームも多く出てくることでしょう。

 個人的には現在24チームあるプロコンチネンタルチームのうち、半数は解散しスポンサーも解体されると思います。それぞれ関わっていたスポンサーの中には合併して新しいチームを誕生させると思いますが、関わり方は選択肢があるにせよ、なかにはワールドツアーのスポンサーに参入するスポンサーも有るかも知れませんね。育成をうたうチームは路線変更を強いられるでしょう。

NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネの大門宏マネージャー Photo: Yuzuru SUNADA

 これもイタリアで囁かれている予測なんですが、2020年に関しては、選手の増加に関しての予算の増額だけで存続に向けてトライするチームもあるのではないかとの憶測も飛び交っています。確かに登録に関する公式な情報が無い限り「見切り発進」を余儀なくされているチーム運営会社もあるでことでしょう。しかし蓋を開けたらビッグレースに参加出来きないどころか、レースから1ヶ月以上も遠ざかる選手を多く抱える等、20名以上の選手を持て余し活動面に置いて大きなリスクが伴います。先にも申し上げた様に、今回の「UCI改革」は、スポンサー同士の合併を推奨してる様にも見受けられます。

 ですから、個人的にはNIPPOがそういった渦に関わり新たなチームが誕生する事も大いに期待しています。先にも述べましたが、NIPPOが自転車業界から撤退することは現時点では非常に考えにくい。2020年から新たに設定される「プロシリーズ」等 まだまだ蓋を開けてみないと解らない要因が数多く水面下に潜んでる現状では、「先ずはこのカテゴリーに留まって様子を見てみたい」のが正しく「本音」です。

 以前、UCIが掲げるヴィジョンに、プロコンチネンタル、コンチネンタルカテゴリーの分割化がありました。簡単に解釈するとプロコンチネンタル、コンチネンタル両方、またはどちらかをAグループ、Bグループと区別して、最低給料保証(現在コンチネンタルチームの最低給与のガイドラインは設定されて無い)のガイドラインも設定し、ワールドツアーの選手がコンチネンタルチームと同じレースに参加する事を拒絶する根源になっているドーピング対策(バイオロジカルパスポート、アダムス等)を強制加入にする等をレギュレーションに盛り込み、チームの価値観に委ねてグループを選択させるシステムも再考、2021年の再改革にも期待しています。そこに糸口が見出されるかも知れませんね。

 この5年の間、プロコンチネンタルチームでなければ出場できないレースや環境を日本人の若手選手、スタッフに提供し経験させる事が出来ました。それが糧となって伸びた選手もいるでしょう。日本人選手の実力が伸びる環境を第一に自分も2014年まで毎年の様にNIPPOと共にチームの変革を支えて来た様に、時代のニーズにも合わせチームの運営に関わって行きたいと考えています。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

インタビュー チームNIPPO

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載