編集部コラム【先頭交代】<5>サイクリストが泳いで走ると、どうなる? トライアスロン挑戦記<後編>

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 『Cyclist』編集部員がリレー形式で担当する不定期連載コラム『先頭交代』。半ば、愛車との“マンネリ打開策”としてトライアスロンに挑んだ編集部員・後藤恭子の挑戦記・後編では、約3カ月間の練習期間を経て挑んだ、てんやわんやのトライアスロンレース初出場の様子を綴ります。サイクリストが3種目を挑むとこうなるという「作戦負け」の典型例ですが、エイジグループでまさかの入賞を果たすなど、“自転車だのみ”の自分でも意外と健闘できました。

街中で開催される「サンポート高松トライアスロン」。バイクセクションでアンダーパスをくぐり上る選手たち ©サンポート高松トライアスロン大会実行委員会

目標は「とにかく完走」

 記念すべき初戦は香川県高松市で開催された「サンポート高松トライアスロン」を選択しました。はるばるこの大会をデビューの地に選んだ理由は、「瀬戸内海」というきれいで穏やかな海のイメージと、街中を走る都市型レース(平坦で会場アクセスが良い)であるということ、そして暑くなりすぎない7月上旬開催といった好条件が揃っていたこと。

 魅力的な大会は他にもあるのだと思いますが、なんせ不慣れなビギナーですから、会場を選ぶ上で「海がキツい」等心が折れる要素を極力排除したいと思いました。おまけにここは「うどん県」ですから、郷土料理の「さぬきうどん」で美味しくカーボローディングできるという嬉しい特典付きです。

さぬきうどん巡りとカーボローディングを兼ねて一石二鳥 Photo: Kyoko GOTO
魅惑の釜玉うどん。美しい Photo: Kyoko GOTO

 そうして迎えたレース当日。知り合いから直前に借りたウェットスーツとスイムキャップを着用し、自転車用アイテムとランシューズを肩にかけて、トランジット会場へと自転車を押し歩きます。

トランジット会場。選手の皆さん、手慣れた感じで準備をしています Photo: Kyoko GOTO
人生初のウェットスーツ。このあと惨劇が起きることを知らず、のんきな顔の筆者 Photo: Kyoko GOTO

 自転車レースではあり得ない光景。格好からしてシュールだし、持ち物も多くて不慣れなサイクリストは準備だけで混乱しそうになります。明らかに場違いな自分。「海からあがったら靴下とバイクシューズ履いてヘルメットかぶって、バイクが終わったら…ええと、何だっけ?」─気持ちの余裕がないなか、とにかく「完走する」という目標だけで黙々と頭と手を動かします。

衝撃的なウェットスーツデビュー

 朝7時、いよいよレースの開始です。男性(401人)は年齢別(エイジ)グループごとに、参加人数が少ない女性(57人)は一つのグループで順次ウェーブスタートを切ります。スイムは港なので、陸からではなくフローティングスタートという海に“浮き待ち”した状態からのスタートになります。

スイムスタート前。会場の雰囲気に急に緊張感が高まる ©サンポート高松トライアスロン大会実行委員会

 これが不慣れで結構大変。「海のスタートは揉みくちゃになるから混雑を避けた方がいい」というアドバイス虚しく、とにかく浮くのに必死で混雑を避けようにも避けられず、スタート地点は満員電車状態。緊張も不安もすべて消え失せたところに、「ファ~」という合図で自分のグループが一斉に泳ぎ出しました。

 ウェットスーツデビューはなかなか衝撃的なものでした。前評判では「浮力が生じ、水の抵抗も軽減されるから楽に泳げる」と聞いて楽しみにしていましたが、まず水をかく腕が思い通りに動かず、呼吸もできているはずなのに苦しい。「なんで?」─いつもと違う感覚に思わずコースロープにしがみついて目をパチクリ。

スイム会場は高松港。港を泳ぐのは初めてで、少しワクワクして臨んだのですが… ©サンポート高松トライアスロン大会実行委員会

 その後も泳いでは捕まりを繰り返し、さすがに「DNF」(Did Not Finish)の文字が頭をよぎりましたが、ウェットスーツのフロントジップを緩められることに気づき、少し開放したところ楽になりました。あとで聞いた話では、ウェットスーツは水に濡れると柔らかくなるので、スタート前に入水してウェットスーツを水に慣らすのだそう。反省しきり。ビギナーの方はレースでの動きを想定して、事前にウェットスーツ着用の海練しておくことをおすすめします。

サイクリストのバイクセクションは「稼ぎどころ」

 なんとか36分で1500mを泳ぎ切り、陸に上がると次はバイクセクション。スイムで苦労した分、バイクステージが甘美なものに見えました。得意な分野を持ってるとそれだけで精神的な安心材料になります。

 トランジットエリアでいそいそとサイクリストの“正装”に着替えます。ジャージにグローブ、靴下もしっかり着用し、ヘルメットをかぶってスタートです。コースは4.4kmを9周。完走が目標ですが、少し色気が出てついロケットスタート。気合が入り過ぎてしまい、序盤で無駄に脚を使った気もします。

4.4km×9周回するバイクセクション ©サンポート高松トライアスロン大会実行委員会

 トライアスリートにはバイクセクションは「休みどころ」だそうですが、スイムで失速した自分にはそんな選択肢はありません。ランでもダメになることが目に見えているのなら、せめて少しでも得意なバイクでタイムを稼ぎたい、というか稼がなきゃ。いま振り返ると、近年稀に見る必死な自分でした。

 レース中盤から軌道に乗り、時速30kmを維持するペースでペダルを回していると、男女問わず脚力が似ている選手と抜きつ抜かれつを繰り返します。こうなると個人的“自転車対決”。脚も自転車も同じグレードと思しき相手には「負けたくない」という余計な闘争心に火が付き、ご近所同士の密かな競り合いが始まります。

普段は注意しながら走っている車道を爆走できるのも都市型レースの醍醐味かも ©サンポート高松トライアスロン大会実行委員会

 そんな我々の横を、ディスクホイールを唸らせて猛スピードで抜き去るモンスターのようなトライアスロンバイク。観念する気持ちがバイクの値段に比例してしまうのはサイクリストの性なのか。片やスマートに抜き去っていく最新モデルのエアロロードの格好良さといったら、純粋にリスペクトです。仕事で目にする機会が多いエアロロードですが、こんなにも格好良く見えたのは初めてでした。

「作戦負け」だけど晴れ晴れラン

 9周回でしたが、おかげで集中力も途切れることなく結果的に平均時速33kmを維持してフィニッシュ。かろうじて目標の30km/hペースをキープできたことに、一人達成感に浸ります。一方で「これはトライアスロンだよ」というもう一人の自分に、渋々ランセクションへと引っ張られていきます。

 バイクとランでは使う筋肉が違うのでラン用の筋肉はフレッシュ、かと思いきや! 脚が思うように動きません。バイクからランへ移行する「ブリックトレーニング」は本番までわずか2回しか経験したことがありませんでした。初めて経験したときは脚がパニックになり、まるで別人格をもったかのように言うことを聞いてくれませんでした。2回目はパニックにはならなかったものの、やはり思うように動かない。こういうものなのだろうと思い、3回目がレース本番となりました。

コースとなっているサンポート高松の中央埠頭を走る選手たち。小豆島との間を往復するフェリーがランナーを見守っているようです ©サンポート高松トライアスロン大会実行委員会

 「バイクの最終周回はランに向けて脚を温存」とアドバイスをもらい、少し力を緩めていましたが、そんなに器用にできるわけもありません。ヨタヨタと1km6分ペースで走り始めます。トライアスロン的にいえば、これは明らかに「作戦負け」なのでしょう。でも、なぜか心は晴れ晴れ。サイクリストとしての自分の仕事を終えた気分で、「あとは這ってでも10km完走すればいいんだ」と思うと気持ちが楽でした。

 時間が経つにつれ日差しが強まり、それに対応するようにボランティアスタッフも懸命に給水を渡してくれたり、柄杓で水を浴びせかけてくれます。とにかくボランティアスタッフの数が多い。海でのライフセーバーを始め、バイクセクションでコーナーごとに叫んで注意を促すスタッフ、そしてランセクションでのたくさんの給水サポートと高校生の応援団。都市型トライアスロンだからでしょうか? こんな至近距離で受ける声援に不慣れなもので、前を通るたびについカッコつけようとしてしまいます。

子どもたちもボランティアに参加して選手たちに声援を送ってくれます ©サンポート高松トライアスロン大会実行委員会

 脚はそのうち慣れていくと思っていましたが、慣れるどころか7kmを過ぎたあたりから脚全体の筋肉にバリバリとした痛みが出てきました。「え?ひょっとして完走できない?」─そんな思いが頭をよぎり始めます。歩きたいけれど、こんなにたくさんの声援の中で歩くわけにはいかない。

 「やっぱりサイクリストは自転車を下りちゃダメだ。これからはおとなしく自転車だけ乗ってよう」と、残り数kmをひょこひょこ走り、ゴールへの最終コーナーを曲がると、見えてきたのは立派なフィニッシュゲートと青く眩しいランウェイ。

やっとゴール! 走ってゴールテープを切る感覚が新鮮(写真中央が筆者) Photo: Kyoko GOTO

 それまでのストレスから一気に解放され、脚の痛みも忘れ、沿道の声援を受けながらやっとゴールしました。タイムは58分58秒、こちらもギリギリ目標の1時間切りを果たしました。素晴らしい達成感。順位なんて関係ない。「トライアスリートは皆が勝者」は本当でした。

まさかのエイジ入賞でずっこけデビュー

 トータルのタイムは3時間11秒。「あと11秒頑張れば3時間切れたんだな。でも完走できたし、満足満足」とほっこりした気持ちでアフターパーティーのカレーを食べていると、表彰式が始まりました。5歳刻みで表彰されるエイジグループの1~3位の人がステージへと呼ばれていきます。「かっこいいな~」と眺めていたら、なんとなく自分の名と似た名前が呼ばれました。まさか自分の名が呼ばれるとは思わないので「自分と似た名前の人がいるんだな」と思い、カレーを食べ続けました。

エイジ入賞を果たした女性選手の皆さん。すごいな~と思いながらカレーを頬張る筆者でしたが… ©サンポート高松トライアスロン大会実行委員会

 その後リザルトを確認したら、なんと自分の名の横にエイジグループで3位であることを示す「3」の文字。「あれは自分の名だったの?」と急いで事務局に行くと「おめでとうございます」という祝福とともに賞状と香川県の銘石、庵治石(あじいし)で作った記念キューブ、さぬきうどんが授与されました。受賞者全員の記念撮影はとうに終了。嬉しい反面、かっこよくキマらない自分らしいトライアスロンデビューとなりました。

入賞者に贈られた庵治石の記念キューブ。順位と、上の面には開催10周年のロゴが描かれています。スイム会場となった高松港をバックに Photo: Kyoko GOTO

 リザルトを見ると周辺のタイムはなかなか拮抗。1分速いだけで一気に10位は繰り上がります。トランジションがもっとスムーズにできていたら…挙げれば切りのない「短縮できた時間」が思い返されます。「順位なんて関係ない」と言ってましたが、やっぱり離れられない自分の「自転車脳」に苦笑いです。

 とりあえず1回だけでも経験してみようと挑戦したトライアスロンですが、「今度はバイクセクションでグローブと靴下を履くのやめよう。バイクのシューズもベルクロにしよう」などと、いつしか次回のバイクセクションの改良策を考えている自分に気付きました。

 サイクリストのトライアスロン挑戦はもう少し続きそうです。

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