山口和幸の「ツールに乾杯! 2019」<2>美しいアルザスの街コルマールにまつわる熱戦 ジャラベールからサガンまで

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
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 アルザス地方のコルマールはドイツ国境に近く、中世から近世にかけてドイツ領となった時代もあることから、食文化や言語にドイツの影響が色濃くある。といっても第2次世界大戦の戦禍は逃れたので、中世に建造された木骨組みの家並みが残る人気観光地だ。ツール・ド・フランスでは2001年7月14日、つまりフランス革命記念日に行われた第7ステージでフランスのローラン・ジャラベールが優勝し、フランス中を沸かせたことが記憶に残る。

おなじみのコルマールにゴールする第5ステージ。この日はロレーヌからアルザスにかけての丘陵地を走る。平たんステージとは言えないほど起伏がある Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

スプリンターが山岳王に転身

 当時ジャラベールは、トウシバ時代のチームメートだったビャルネ・リースが立ち上げたCSCチームに所属していた。ツール・ド・フランスではそれまでの1992、1995年にポイント賞を獲得するほどのスプリンターだったが、リース監督の指導で新たなポテンシャルを見出した。それがスプリンターからオールラウンダーへの転換だ。コルマールで勝った2001年は山岳賞を獲得。続く2002年も山岳賞を連取している。かつてのポイント賞獲得者が、である。

2001年のツール表彰台。山岳賞を獲得したジャラベール(左)に、この年に史上最多となる6度目のポイント賞を獲得したエリック・ツァベル(中央)、マイヨジョーヌのアームストロング(右)は後のドーピング発覚により記録を抹消された Photo: Yuzuru SUNADA

 ちなみにこの2001年、シャンゼリゼの表彰台でマイヨジョーヌを着用したのはランス・アームストロングだったが、不正薬物使用の発覚・自白によってすべての記録が抹消されている。

スタートのサンディエデボージュ © Ville de Saint-Dié-des-Vosges

 もうひとつ、コルマールで記憶が残るのは、ゴール後にまだ観衆が残るエリアに高齢者が運転するクルマが暴走してくるというアクシデントがあったこと。最近の日本でも社会問題となっている高齢者の運転事故が18年も前にフランス中を震かんさせていたのだ。

 ちなみに当時の事故現場は2019年も採用されたゴール前の直線路。コルマールにゴールするときは残り5kmから市の中心部を貫通し、郊外に出たところにゴールラインが敷かれるのが慣例だ。

雨の中ほぼ200kmを逃げ切り

 2009年の第13ステージが直近のコルマール訪問となる。アスタナにアルベルト・コンタドールとランス・アームストロングがいて、新城幸也と別府史之が揃って初出場を果たした年だ。

2009年のツール・ド・フランスに、揃って初出場した別府史之(右)と新城幸也(左)。コルマールをスタートする第14ステージにて Photo: Yuzuru SUNADA

 この日は冷たい雨の中を164選手がスタートした。スタート直後の2kmでクリストフ・モローがアタックし、3km地点ではハインリッヒ・ハウスラーが追走してこれに合流した。さらにイェンス・フォイクト、フアンマヌエル・ガラテ、ルーベン・ペレス、リゴベルト・ウラン、シルヴァン・シャヴァネルの5選手が加わって第1集団を形成。しかし起伏がちなコースと冷たい雨に体力を奪われ、徐々に脱落。ハウスラー、ペレス、シャヴァネルの3人の先頭争いに。さらにペレスが脱落してハウスラーとシャヴァネルだけとなった。

 残り50kmの下りで、コーナーの深さを熟知しているハウスラーがシャヴァネルを振り落として、ゴールまで独走。なんとハウスラーが距離200kmのステージで197kmの逃げを決めて初優勝した。ゴールはドイツ国境に近いアルザス地方のコルマールで、ハウスラーはそこから40kmほどの町に住んでいたという。

雨のステージをスタート直後から逃げて勝利したハウスラー Photo: Yuzuru SUNADA

 「コースは知り尽くしていたし、ボクが得意とする雨になったのも最高だった。前日に天気予報を確認して、スタート前からアタックする決心を固めていた。しかし山岳に強い選手が集まったので、ちょっと心配だった。だから何度かアタックをして彼らをふるい落とすことが必要だった」とハウスラー。

2019年のコルマールに超人サガン

 このコルマールはアジア最高峰のロードレース、ツール・ド・ランカウイと深い関係がある。マレーシアのマハティール・ビン・モハマド首相が20年前にコルマールを訪れ、このチャーミングな町に魅了されたのがそもそもの始まりだ。またフランス訪問時にツール・ド・フランスを目撃。新婚旅行を過ごしたランカウイ島をメインにマレーシア半島周辺でステージレースを開催するように政府を動かして実現に尽力した。

このコルマールのカラフルな町並みがツール・ド・ランカウイ創設のきっかけになったとは驚きだ © Office du Tourisme Colmar

 1996年にこうして始まったツール・ド・ランカウイ。今季のツール・ド・ランカウイにもエガン・ベルナルやリッチー・ポートらトップ選手が参加した。この日アタックしたサイモン・クラークも参戦している。その最大の勝負どころ、ゲンティンハイランドにはコルマールの町並みを模した高級リゾートホテルなどが立ち並んでいる。

 そして2019年のコルマール。アルザス地方の激しいアップダウンに、前日に勝利したエリア・ヴィヴィアーニらのピュアスプリンターはたまらず脱落。上りをそれほど苦にしないペテル・サガンが不可思議なポーズで今大会初勝利、大会通算12勝目を挙げた。

 得意なガッツポーズはデビューイヤーの2012年でも見せたものだ。「テレビ番組の超人ハルク、知ってるでしょ。ここぞというときに緑色になるんだ」。7年前の優勝者インタビューでサガンが説明した言葉も記憶に残っている。

2012年のツール・ド・フランス第6ステージ、この年ツール初出場のサガンがステージ3勝目で“ハルクポーズ”の雄叫び。7年後の今年、史上最多となる7度目のマイヨヴェール獲得に向けて走る Photo: Yuzuru SUNADA
山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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