編集部コラム【先頭交代】<4>愛車との“マンネリ”打開策なるか? サイクリスト目線で見たトライアスロン挑戦記<前編>

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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取材でなく、ついに選手として足を踏み入れてしまったトライアスロン Photo: Kyoko GOTO

 『Cyclist』編集部員がリレー形式で担当する不定期連載コラム『先頭交代』。イベントの参加リポートや流行の話題について、それぞれの目線で書いていきます。前回と変わらず、先頭を引き続ける後藤恭子がお届けする話題は「トライアスロン」です。すでに自転車をもっていて初期費用の負担が少ないにも関わらず、3種目で最も“出身者”が少ないといわれる自転車。自分も含め、なぜサイクリストはトライアスロンを頑なに拒むのか? サイクリストが走ったり泳いだりしたらどうなるの? 自ら挑んで感じたサイクリスト目線のトライアスロン挑戦記を2回に渡ってお届けします。

「私は自転車が好きなの!」

 ご他聞にもれず、私もトライアスロンへの移行を頑なに拒むサイクリストでした。これまでも「ロードバイク持ってるなら有利だよ」「子どもの頃、水泳やっていたなら有利だよ」といわれることがしばしばありましたが、「有利って何? 私は自転車に乗って遠くに行くことが好きなの。そもそも競技志向でもないし、なんでわざわざ嫌いなランをしたり、ウェットスーツ着て泳がなきゃいけないの。エントリーフィーも高いし…」─と言われれば言われるほど抗っていました。

トライアスロン、かっこいいけどムリムリ(※画像は筆者のイメージです) Photo: iStock.com/JMichl

 ランナーやスイマーと比べて、サイクリストがトライアスロンに挑戦しない理由はおそらくそんなところだと思います。スポーツバイクはコンペティティブな要素だけでなく、機材としての魅力だったり移動の楽しさだったり、他の2種目と比べて楽しみ方の幅が広いのだと思います。

 まあでも正直なところ、当時の私はトライアスロンを隔絶された「すごい競技」だと思っていたのでしょう。とてもとても、自分の自転車ライフの延長線上にあるものとは思っていませんでした。そんな「THEサイクリスト」だった私がトライアスロンに挑んでみようと思ったのは、世界最高齢の「アイアンマン」稲田弘(ひろむ)さんを取材したことがきっかけでした。

世界最高齢アイアンマンとの出会い

 ご存知の方も多いと思いますが、一言でトライアスロンといっても複数の距離設定があります。一般的に知られるのはスイム1.5km、バイク40km、ラン10kmという合計51.5kmの「オリンピックディスタンス」。一方で稲田さんが冠するアイアンマンは、スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195kmというとてつもない距離に挑戦する、文字通り「鉄人」レースです。稲田さんは、ほぼ毎年世界選に出場し、そのたびに最高齢アイアンマンのギネス記録を更新しています。

2018年に自身がもつ世界最高齢のアイアンマンのギネス記録を更新した稲田弘さん(2018年11月撮影) Photo: Kyoko GOTO

 バイクで180km走る大変さは身をもって知っていますが、その前後を約4kmのスイムとフルマラソンで挟むなんて、はっきり言って想像がつかない世界。若い頃からどれだけ体を鍛えてこられたのかと思ったら、意外なことに稲田さんのトライアスロンのデビューは70歳。若い頃からスポーツをバリバリやっていたアスリートではなく、むしろ60歳で水泳を始めるまでは仕事一筋の勤め人だったそうです。この話を聞いたとき、稲田さんのポテンシャルに驚いた一方で、迂闊にも「もしかして、トライアスロンて自分にもできること?」と少し気持ちが傾き始めました。

2018年のアイアンマン世界選手権。バイクセクションで沿道の応援に笑顔を返す稲田弘さん ©京葉インターナショナルスポーツ倶楽部

倦怠期を脱する“カンフル剤”に

 続けて稲田さんに「アイアンマンて、楽しいんですか?」という単刀直入な質問をしてみると、淡々と「楽しいというより挑戦できることが嬉しいんですよ」という返答。「この人をそこまで惹きつけるトライアスロンの魅力って何だろう?」と話に引き込まれていきました。

取材後に稲田さん(中央)と、取材にご協力いただいた猪野学さん(右)に撮らせてもらった記念のオフショット Photo: Kyoko GOTO

 この言葉が刺さった当時の私にも理由がありました。折しも少し自転車と距離を置くようになっていた当時、週末に早朝から輪行してフィールドに向かおうにも腰が重たく、自転車旅でも企てない限り、行動範囲が自宅からの自走圏内に限定されるようになっていました。端的にいえば自転車との関係がマンネリ化していたのでしょう。ある程度キャリアのあるサイクリストなら、このぼんやりした感覚は理解していただけると思います。

 そんなところに入ってきた稲田さんの「挑戦できることが嬉しい」という言葉。レベルは違えど、かつて毎週のように峠を上ったり、ひたすら距離を伸ばしていた頃の楽しかった気持ちがユサユサと揺り起こされました。それと同時に、周りにいるトライアスリートの友人の存在が気になるようになっていきました。

 「最初はヒルクライムを楽しむ気持ちなんてわからなかったけど、やり始めたらハマったもんな。ランも嫌いだけど、実は食わず嫌いなだけなんじゃないか…」と自分を顧みる気持ちが沸々と沸き起こり、次第に「たまに違うことをしてみたらマンネリ感も打破できるかな。実際、トライアスリートって名乗れたら格好いいし…」等と横道に逸れ始め、ついには「あとは泳いで走ればいいんだよね!」となってしまいました。

 ちなみに自転車の場合、タイムを計測するイベントは他人との競争でしかありませんが、トライアスロンの場合は「完走すれば皆勝者」とのこと。自転車のレース文化に晒されているアタマには“異文化”な感じですが、稲田さんをはじめ、友人のトライアスリートを見ていると「自分との戦い」という考え方が根っこにあるのは本当のようです。負けず嫌いが高じてレース嫌いになっているような自分にとっては、そういう考え方ができるのも気が楽でした。

 かくして、早速自宅のクローゼットをあさってみたところ、以前購入したスイムウェア一式を発見。昔履いていたランニングシューズも引っ張り出し、ウェットスーツは…またあとで考えるとして、とりあえず手持ちの道具で3種目にトライできることがわかりました。自転車をもってるアドバンテージは、たしかに高いです。

離れて気づいた自転車愛

 そんなノリでゆるゆると開始したトレーニングですが、結論として、予想以上に自転車との付き合い方が変わりました。

 まず、バイク以外にスイムとランの練習もしなければならないので、そのためのトレーニング時間をどう確保するかというタイムマネージメントが必要となります。私の場合は平日にスイムの時間がとれなかったので、自ずとスイムは週末送り。その結果、週末にまとめてロングライドの時間をとるという従来型のスタイルが通用しなくなりました。

 さらに、いざ練習を開始すると鬼門はやはり、ラン。苦手を克服しようとランに時間を割くと、得意だと思っている自転車の練習がどうしても後手に回ります。まあ得意種目があるという点ではそれも強みなのですが、マンネリ化していたとはいえ、こうも強制的に自転車から引き離れされると、それはそれで恋しく感じるものでした。

練習は苦手なランが中心に… Photo: Kyoko GOTO

 朝晩のいずれかで時間の合間をみつけつつ自宅周辺をランニングしていましたが、そんな中でたまに自転車に乗ると、風を切る疾走感に飢えていたのか、まるで水を得た魚のような解放感を味わいました。「やっぱり私はサイクリストだわ~」と、この瞬間だけですでにパートナーの魅力を再発見です。

 さらにランとは違う筋肉を使うので、バイクで使う筋肉をより意識するようになります。そうなるとペダリングにも変化が現れます。レースの距離は平坦40km。時速30km強をキープできればいいかな、とサイコンを見ながら、どう踏めばランに向けて脚を残すことができるのかを考えつつペダリングの練習をしていました。

たまに乗るバイクが癒しの時間に感じるように Photo: Kyoko GOTO

 そうやって試行錯誤を繰り返しているうちに「このバイクってこんなに走ったっけ?」という発見。「最近ちゃんと向き合ってなかったね」と謝りつつ、ここでもパートナーの魅力を再発見、というか“復縁”です。

一日の使い方が変化

 そんなトレーニング生活の中で何よりも変わったのは一日の使い方でした。3カ月後に設定した大会に向けて月単位で大まかなトレーニング強度を考え、トレーニングとリカバーのバランスをとるために1週間単位で練習内容を考え、さらに朝晩いずれかで練習時間を確保するために24時間の使い方を組み立てます。

一週間の大体のトレーニングメニュー。守れず、レスト日が増えることも… Photo: Kyoko GOTO

 その結果、出勤時間を早めたり、勤務時間中の集中力があがったり(?)と好循環が生まれ、パシパシと生活面にもメリハリがついていきました。「練習する時間を確保できない」というのもこれまでトライアスロンを避ける口実だったのですが、作ろうと思ったら意外とできるものだな、というのが実感です。

 もともとそんなキッチリとした質ではないのですが、ゼロから始めた苦手種目(ラン)のパフォーマンスが少しずつ改善されたり、短期間で体の変化を感じられるというのがモチベーションになったり、その中でストレスフリーな自転車が楽しく感じたり、雨が降っても「自転車乗れない~」ではなく「スイムやればいいや」と思ったり、ちょっとしたことに新鮮さを感じながらマイペースで3カ月の日々を積み重ねていきました。

 そんなトレーニング期間を経て、いよいよ後編はトライアスロンレース本番へと続きます。

<後編につづく>

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