門田基志の欧州XCマラソン遠征記2019<5>MTBマラソンレース第3戦 相次ぐトラブルであわや熱中症も、執念のUCIポイント獲得

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 マウンテンバイク(MTB)クロスカントリーの門田基志選手(チームジャイアント)と、まな弟子の西山靖晃選手(焼鳥山鳥レーシング)のヨーロッパ遠征記。門田さんにとっての“アナザースカイ”だというドロミテを後にし、次なる戦いの地、チェコのホレショフへと向かいます。出走するのは6月29日開催の117km、獲得およそ3340m(非公式)からなるマラソンレース「Bikemarathon Drásal」。順調な出だしでしたが、不運のパンクと、たった一度の水分補給の失敗が命とりに…。どんな窮地に立たされても詳細を伝える、門田さんのレースリポートです。

ボロボロになりながらUCIクラス24位でゴールした門田基志選手 ©Bikemarathon Drásal

◇         ◇

 レース地まで車で30分ほどのチェコの田舎町、ナパイェドラに到着。ホテルの裏にあるモラバ川の川沿いにサイクリングロードが整備されていて、カフェも点在していて軽く足を回すのには適していた。近場のサイクリングロードを走りつつ、バイクをチェックしたり体の感覚を確かめる。サイクリングロードを行き交う人たちにロードバイクに乗っている人が少ない。石畳や未舗装路が点在する道路事情が影響しているのだろう。

 そしてチェコの夕食。個人的な意見だが、はっきりいってチェコでは食事はそんなに期待できない。というのも注文してどんな料理が出てくるのかがわからないからだ。レース前夜の食事は過去に食べたことのあるメニューで失敗しないものを選ぶようにするのが鉄則だ。英語が通じているようで通じていない場合が多いのもチェコ(笑)。留学経験がある西山が英語で伝えるも、相手は笑顔で「無理です。わかりません」という空気を漂わせることが度々ある。こうなったらあとは人間力とスマホ頼み。食はレースを左右する重要な要素。怯んだら負けだ。

一山全部、まさかの先頭牽引

 そしてレース当日。朝が早いので、前日に買っておいたパンやシリアル、フルーツ、肉類も長距離系のレースには必要なので、ハムなど調理しないでも食べられるものを中心に食べる。マラソンレースの場合、ハンガーノックを心配してつい食べ過ぎてしまいそうになるが、コンディションを崩さないためにもいつもの摂取量を守ることが重要だ。

 余裕を持ってレース会場に到着し、バイクの最終調整とウォーミングアップ。と思ったが、朝は寒くて動くと体が冷えるので日向ぼっこすることに。これもマラソンレースにありがちで、スタートから追い込む必要がないので、わりとゆるい。

©Bikemarathon Drásal

 スタートラインへはUCIランキング順に呼ばれて位置につく。我々2人は中盤ほどの位置でスタートとなった。待機している間は周りの選手が強く見えるもので、「おい西やん!周りの選手めっちゃ強そうやなぁ〜。前の人、筋肉すごくてゴリラみたいだ!俺ら上半身の筋肉足りんな〜」等と話すが、実際には彼らとわりと良い勝負ができてしまうのだ。

 程なくしてカウントダウンが始まり、爆音のスタート合図で思わず「びっくりした!」と言葉が出てのスタートとなった。スタート後はロードレースのように集団がまとまってロータリーに突入する。前の選手がハンドサインを出して後方を導き、さらに後ろの選手も集団が安全に通過できるように配慮するのはXCO(クロスカントリー・オリンピック)レースと異なるところだ。

©Bikemarathon Drásal

 その後、緩やかな上り基調の舗装路から石畳、少し走って荒れた林道に突入した。林道ではラインが2本しかなく、集団が2列に展開して一気に詰まり始めるが、皆さすがに上手いのでラインが出来、程なく安定して突き進む。その後林道で一つ目の頂点へ向けてヒルクライムがスタートした。

 なんとなく踏めるし、今年は先頭のペースが遅いなと思いながら15位前後で走っていたら、ふと前が空いた。フラフラ〜っと先頭付近まで上がってしまうと、イケイケな性格を抑えることはできず、一気にレースの先頭まで上がってしまった(笑)。それでも余裕があるので少しペースを上げつつレースを引っ張ってみる。すぐに誰か出てくるだろうから、先頭付近で展開して下に入ろう、と思っていたら…??誰も出てこず整然と並んでいる!? 気持ちいいので、気にせず一山全部を先頭固定で引っ張ってみることにした。

©Bikemarathon Drásal

 その後のアップダウンで10位前後に落ち着き、最初の長い下りに入る。しかし前の集団で展開している西山との間に入った選手が遅すぎて、前方から大きく遅れをとる展開になってしまった。マラソンレースでは中盤以降は近くを走っている選手の傾向が分かるが、さすがに最初の下りで、しかもフルサスであそこまで遅いとは予想できなかった。

パンクに給水ミス…相次ぐトラブル

 林道のキャンバーのコーナーでインから強引に抜いて一気に加速。メーターをチラと見ると時速70kmも出ていた。こうなるとペダリングしても加速できないのでエアロポジションで下るが、大き目の石1個で落車にする危険性が高まる。視界が広いkabutoの「サングラス121」は風の巻き込みがなく、視認性抜群で安心してかっ飛ばせるが、どんなに視認性が良くても土煙の集団に追いつくと前が見えないので、そうなるとあとは前を信じて突き進むのみだ!

 下りきったところで前の集団が見えてきてロックオン! 自分がいる集団の先頭を引きつつ攻めの走りでリバークロスに思いっきり突っ込んだら…「ガツン!!」。リヤをリム打ちした感覚がした。慌てて下をみてタイヤを確認すると少し空気が抜けているような抜けてないような…暫く走ってみたら、やっぱり抜けてました!

 前の集団の後ろまで追いついた矢先にパンク修理で足止めを喰らうことになった。さっき強引に抜いた選手にも追い抜かれることに。なんとか復帰したが「リムにダメージがあるかも?」「タイヤは大丈夫か?」と気になって下りや荒れたセクションで思いっきり攻めきれなかった。

 レースも中盤、数名の集団で走ることが多いコースレイアウトで、しかも気温も上がってきた。補給地点はしっかりしているが、もらったボトルの水が半分しか入っていなかった! 慌ててもう一個もらおうとしたが受け取れず、集団から遅れるわけにもいかないのでそのままレースに復帰する。

©Bikemarathon Drásal

 一山越えてほぼ空っぽのボトル、小腹が空いてきて持っていた固形の補給をとると喉が乾いて喉を通りにくい。あと15km程度…。容赦無く降り注ぐ太陽、脱水になり始めた足が痙攣し始めた。「ヤバイ、持たない!」と思い、ペースダウンを余儀なくされたが一度脱水に陥るとレース中の回復が難しいのも事実だ。

 なんとか補給地点に辿り着いた頃には少し寒気もして、熱中症予備軍になっていたが、停車して水分を多めに取り、ボトルも2本もらい中身も満タンであることを確認! レース70km地点で、まだあと40km以上残っている。回復させて巻き返しだ!と気持ちが先行するが、体が動く気配はない。

 少し悲壮感が漂い始めた僕の背後から「オツカレサマデ~ス」「ゲンキデスカ~?」と、片言の日本語を話すドイツ人を含む集団が現れた(笑)。この変なノリの集団にドッキングしたおかげで集中力が戻り、暫く集団で展開した。

©Bikemarathon Drásal

 後半に入っても足の痙攣は収まらず、ポジションを変えたり踏み方を変えながら騙し騙し走った。出来た集団でまたペースを上げるも、地獄絵図のように泥沼化した水溜りに突っ込んで集団は崩壊。突っ込んで止まる選手、上手く避けた選手、急ブレーキで止まった選手、各々再スタートしてバラバラになった。長いマラソンレースではバイクを傷めない走りがレースを左右する。この場合、ブレーキで止まった選手や脇道を押して歩いた選手より泥に突っ込んだ選手がゴールまでに大きなハンデを背負うことになる。

西山が世界選手権の出場権獲得

 レース終盤、小刻みなアップダウンとテクニカルセクションが続くと集団はばらけて単独走行になり、長い登坂に入ると追いつかれドッキング。さらに距離が長いと僕が集団から遅れてしまい、さらにアップダウンで追いつくというレース展開では順位も上がらず、小さな集団内で最後のレースが展開し始めた。

 そして見覚えのある草原が見えてきた。そこは去年最後の最後にパンクした因縁の場所。そう認識した時、後ろから追い上げてくる選手が見えた。振り払うように下り基調で加速して、エアロポジションで舗装路を下り、最終の池周辺を回ってゴールへと向かう。

©Bikemarathon Drásal

 メイン会場に戻った時に、最後に競り合った選手は池の対岸で他の選手と競り合っていた。ボロボロになりながらUCIクラス24位でフィニッシュした。

 絶好調の西山は単独で世界選手権の出場権を獲得する20位以内でフィニッシュ。マラソンレースでの強さが際立ってきた。XCOより、XCM(クロスカントリー・マラソン)の方が西山には向いているとアドバイスし、今日に至る。昨年より10分以上早くゴールしているのを見ると、レースレベルが下がったわけでもなく、単に西山の才能が開花し始めた令和元年! といえる。

 一方で自分は、長い距離、特に登坂が長いと対応が難しい。加齢に抗いながら進化を遂げるためには、より一層の調整と基礎を作らなければならない。まだまだヤル気だけど、脱水でボロボロで動けなくなっていたら、優しい弟子がバイクまで洗ってくれて感謝感激の43歳!

 次は連戦による疲労との勝負だ。そしてUCIレース最長にして最難関の130km獲得標高7000mのMBレースに挑む! 気力は満点だが…体はボロボロだ(笑)。

(画像提供:門田基志)

<つづく>

門田 基志門田 基志(かどた・もとし)

1976年、愛媛県今治市生まれ。世界最大の自転車メーカー、ジャイアント所属のMTBプロライダー。選手として国内外のレースに参戦する一方、レース以外のサイクリングツアーも展開。石鎚山ヒルクライム、サイクリングしまなみなど数多くの自転車イベントを提案し、安全教室の講師やアドバイザーも務めるなど、自転車文化の発展に奔走している。

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