山口和幸の「ツールに乾杯! 2019」<1>「人食い鬼」メルクスの国、ベルギーで開幕 自転車の国が織りなす人間ドラマ

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
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 第106回ツール・ド・フランスが7月6日、ベルギーのブリュッセルで開幕した。女子サッカーW杯フランス大会と開催日程が2日間だけ重複しているため、いつものようにツール・ド・フランスは海外を訪問することにしたのだが、ベルギーの英雄エディ・メルクスのツール・ド・フランス初制覇から50年の節目とあって、ベルギーを訪れたのである。

ブリュッセルの仮スタートゲートから市街地を望む Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

ブリュッセル訪問は9年ぶり

 ベルギーは隣国であり、その一部はフランス語圏ということもあり、ツール・ド・フランスは頻繁に訪問している。また、地元フランスの次に総合優勝回数が多いのもベルギーである。2010年は開幕こそオランダのロッテルダムだったが、大会2日目にはベルギーのブリュッセルにゴールしている。ブリュッセルをツール・ド・フランスが訪問するのはそれ以来だ。

 2010年はアルベルト・コンタドールがアンディ・シュレクに39秒差をつけて総合優勝したのだが、後日不正薬物使用で総合優勝者名はシュレクとなった、いわく付きの年だ。初日は雨の降るロッテルダムで距離の短い個人タイムトライアルがプロローグとして行われた。大会2日目が第1ステージとなり、ロッテルダムをスタートしてブリュッセルへ、そして第2ステージでブリュッセルをスタートし、ベルギーのスパにゴールするステージだった。

ロッテルダムをスタートした2010年、新城幸也が参戦した。雨のプロローグを走る Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 初日恒例のプロローグ(個人タイムトライアル)はファビアン・カンチェラーラが制した。プロローグは3連続の勝利で、通算5勝目だった。カンチェラーラは春先のレースであまりにも人間離れしたスピードで走ったことで、「電動モーターをフレーム内に仕込んでいるのでは」という疑惑が持たれていて、この日、国際自転車競技連合がフレーム内をスキャンする大型機械を持ち込んでカンチェラーラの自転車をチェックしたがが、結果はシロ。

 「ありえない疑いをかけられたものだが、この美しい勝利を純粋に喜びたい」とカンチェラーラ。

初日タイムトライアルで圧倒的な強さを発揮していたカンチェラーラ。あまりの速さに「モーター内蔵疑惑」のエピソードが発生 Photo: Yuzuru SUNADA

カンチェラーラが見せたスポーツマンシップ

 そしてブリュッセルにゴールした第1ステージで優勝したのはアレッサンドロ・ペタッキ。ツール・ド・フランスでは03年に区間4勝を挙げたスプリンターにとって7年ぶり5度目の勝利だった。

 ペタッキはかつて手がつけられないほどの爆発力を有し、ゴール勝負で無敵の強さを誇った。2004年も期待されてツールに挑んだが、1勝も挙げられずに序盤でリタイア。以来ツール・ド・フランスには出場していなかった。その後、ぜんそく薬がドーピングとみなされ、不遇の時代を送った。ブリュッセルでの勝利は久々の栄冠だ。

 第4ステージでも区間勝利したペタッキはこの大会5勝を挙げたマーク・カヴェンディッシュを抑えてポイント賞のマイヨヴェールを獲得している。

2010年ツール、6年ぶりに出場したペタッキが、第1ステージで7年ぶりのツール勝利を挙げた Photo: Yuzuru SUNADA

 そして大会3日目、ブリュッセルをスタートしたレースは豪雨に襲われた。10km地点から他の7選手とともに集団を抜け出したのがシルヴァン・シャヴァネルで、最後は独走を決めて2年ぶり2度目の優勝を飾った。後続集団に3分56秒差をつけたことから、マイヨジョーヌは初日から着用していたカンチェラーラからシャヴァネルに移った。

 この日の後半はアルデンヌ地方の森林地帯に突入し、6つの山岳ポイントが待ち構えた難コース。それに加えて豪雨に見舞われ、そのなかで優勝候補のアンディ・シュレクがクラッシュ。すぐに大集団の中にいたチームメートのカンチェラーラがペースダウンを提案。シュレクが復帰するまで大集団は積極的に走ることはなかった。

 カンチェラーラはゴールを目前にして、審判長と交渉。「すでに独走していたシャヴァネル以外は、スプリント勝負をしない」という特別規定を採用。このため大集団のゴール勝負はなく、ゆっくりとゴールラインを通過。スポーツマンシップを感じるシーンだった。

メルクスの時代から幾年月

パレロワイヤル宮殿前がチームバスの駐車位置。この日はベルギー国王も選手らを歓迎するために顔を見せた Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 話は2019年となって第1ステージ。ゴール手前で落車があり、ユンボ・ヴィスマはディラン・フルーネウェーヘン(オランダ)が地面にたたきつけられた。2017年はシャンゼリゼで区間優勝、2018年は区間2勝を挙げたスプリンターがこの時点で脱落。しかしチームメートのマイク・テウニッセン(オランダ)が先頭争いに残り、ボーラ・ハンスグローエのペテル・サガン(スロバキア)を写真判定となる僅差で制してツール初優勝を挙げた。そして総合成績でも首位に立ち、2019年最初のマイヨジョーヌを着用することになる。

 その瞬間のブリュッセルは、「あー、ベルギー選手が勝てなかったか」という残念感が漂う。「人食い鬼」と呼ばれるほど、総合優勝からステージ優勝まで勝ちまくったメルクスとはちょっと時代が異なるか。

山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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