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久々のつれづれイタリア〜ノ<130>「若者よ、決して満足するな!」 NIPPO水谷壮宏監督ロングインタビュー

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 5月に行われたジロ・ディタリア第3ステージに初山翔選手(NIPPO・ヴィ二ファンティーニ・ファイザネの)が魅せました。劇的な逃げはイタリアの心を鷲掴みにしただけでなく、第18ステージにダミアノ・チーマはグランツールにおける初めてステージ優勝を飾り、このチームの存在感を世界中に示した結果となりました。そして、チーマをサポートしたのが、第2監督として今年チームに入ったばかりの日本人監督、水谷壮宏です。今回、水谷壮宏にスポットを当て、ジロ・ディタリアに関する印象だけでなく、日本人選手に対する助言も伺いました。これからプロ選手を目指す若者に絶対に読んでほしい内容です。

ジロ第15ステージ<イヴレア・コーモ>、レース前のミーティングを終えた水谷監督。この日はチームから誰も逃げに乗れなかった Photo: Marco FAVARO

 筆者は縁があって、今年も5月にスタートしたジロ・ディタリアをNIPPO・ヴィ二ファンティーニ・ファイザネを手伝う事になりました。既に来年以降、グランツールにおけるプロコンチネンタルチームのワイルドカードの参加枠が改定される噂はありますが、今回のUCI(国際自転車競技連合)によるルールの改定によりプロコンチネンタルの登録チーム(2019年は世界で25チームが承認された)が半減する事が懸念されています。

 ワイルドカード云々と言うことよりも、新しい登録基準を満たす為にチーム運営費の大幅な増大が見込まれる事が主な理由ですが、その辺りの事情も踏まえ今シーズンは何か大きな爪痕を残したいと云う意気込みがチームのムードから漂っていました。

チームの第2監督として帯同

——NIPPOの監督になったきっかけを教えてもらえますか。

水谷:昔から監督の大門宏さんと関係があり、以前より大門さんからNIPPOの監督にならないかという話がありました。昨年、自分自身が中国ナショナルチームの監督を務めていましたが、不都合があり残念ながら途中でやめました。そこで大門さんが声をかけてくださって、自分が望むヨーロッパツアーに復帰できる最高のチャンスだと思い、お願いをして監督になったわけです。

——NIPPOに入って、1年もたっていないですが、このチームは選手だけでなく、優れた日本人監督を育ててゆくという使命もあるように思います。この半年間はどうでしたか。

水谷:目標としてはプロコンチネンタルチームの監督をやらせてもらうことであり、今まで携わったコンチネンタルチームより上のレベルのレースに出ることですから、やはり自分のために学ぶことが多いし、大きな組織の中で経験の無い仕事が多くあると思います。そこでキャリアを積んで、将来のキャリアアップに繋げればと思います。

——外国人と日本人のチームということで、難しい場面がありますか。

ピンクに染まる強面のイタリア人たち。イタリアではピンクは男も女も楽しめる色だ Photo: Marco FAVARO

水谷:そうですね。大門監督からも言われていますが、日本人がいる多国籍なチームですから、役目としてはみんなをまとめることが自分のミッションです。イタリアのスポンサーも、日本のスポンサーもありますから、バランス良くスポンサーが目標としている所で選手を勝たせるか、もしくは活躍させるかが重要です。そこで一番難しい所は選手お互いの信頼関係を築き上げる事でしょう、やはりエースとアシスト勢に協調性が無い限りこのレースで勝つ事は不可能です。

——今回、ジロ・ディタリアでチームに監督は3人いましたよね? 指示を出す立場として水谷監督はどの様な立ち位置でしたか?

水谷:この大会の立場として「第2監督」を務めています。第1監督のマリオ・マンゾーニが、メインの監督として作戦や目標を考えています。しかし、これだけの大きなスケールのレースですので、自分と他の第2監督のアレッサンドロ・ドナーティにも相談をし、最終的に3人で協議した後に選手に伝えます。私たちとしてはメイン監督のためにチームを全面的にサポートをる。そのサポートはチームのためになるのです。これが一番大事な課題としています。

——サポートというと、ジロ・ディタリアという21ステージからなる大きな舞台ですが、今までこのような経験がありましたか?

水谷:最長ではツール・ド・グアダループというフランス領カリブ海で行われる全12ステージのレースに参加したことがあります。

 ジロのレベルとは全く違いますが、それでも忙しいレースでした。激坂での激戦時のギャラリー数はグランツールにも引けを取らないでしょう。そしてダミアン・モニエ(フランス、2013〜2017年ブリヂストン・アンカー所属、現在は愛三工業レーシングチーム所属)が最終日に劇的逆転優勝した事など、ロードレースはゴールするまで諦めない事や、長期戦などでは常に冷静さを保つ事など、これがいい勉強になりました。

——ジロ・ディタリアはどういうレースですか。

初山選手が話題となり、NIPPOのバスの前に多くのファンが集まる Photo: Marco FAVARO

水谷:変な言い方かもしれませんが、毎ステージがお祭りのような感じですね。レースの前後も常に賑やかで、厳しくて、楽しくて、様々な様子が混じり合います。そのなかで選手が世界最高の自転車王国イタリアで走り、素晴らしい舞台で強豪たちと戦いますから、その辺では実際に参加しない限り感じられない厳しさと素晴らしさがあります。このレースがイタリアであったからこそイタリアの選手、自転車産業等が世界一までに育った事が良く分かりました。

——プレッシャーに感じることがありますか。

水谷:毎日がプレッシャーです。みんな、毎ステージは真剣勝負ですよね。簡単なステージは1つもないですし、特に今回、舞台はイタリアですので、うちのイタリア人選手は失敗したくないし、でも活躍したいし、選手からもすごくプレッシャーを感じています。彼らはイタリア人である以上、成績を残したいわけですから、プレッシャーが大きいと思います。今年のジロを見ていて、やはりみんな失敗を恐れていました。

完走は自慢にならない

——残念なことに第1ステージで西村大輝選手のタイムアウトがありましたが、逆に初山選手に関して言えば、このジロで大きな変化を遂げたように思います。グランツールに出ることで選手たちも成長するきっかけになるのですか。

レース後、初山翔選手(右)にサインを求めるファンたち。若者の姿が目立つ Photo: Marco FAVARO

水谷:ロードレース選手は、もちろん強靭な脚力も必要ですが、大きな精神力も脚力以上に必要です。やはり第3ステージで初山が単独でおよそ144kmに渡って大きな逃げを決めてから、イタリアではすごく話題になるような選手になり、彼自身もしっかり声援に応えるようになりました。「成長しているな」と実感しました。やはりレースで走ってもグランツールは王道ですから、その中で走ることが自信に繋がります。結果的に彼は完走を果たしましたし、それ以上の思いを持っていると思います。そしてこれからももっと成長してほしいと願っています。

——成長といいますと?

水谷:このチームに入る機会を与えられ、自分自身も色々と学ぶことが多いのですが、欲を言えば更にもっと上を目指したいです。ジロの他、ツール・ド・フランスやオリンピックがありますよね。僕自身も願わくば更に上のワールドツアーを目指したいですし、選手達にも同様な目標を持ってもらいたいです。

 ジロに出場した選手が、無事完走を果たしても決して「自慢」にはならないことは改めて良く解りました。もし「完走」で慢心している選手がいたとしたら「だから、なんだ?」と問いたいですね。ジロ完走後それ以降もあらゆるレースで活躍、勝ち続けてほしいです。

 NIPPOや国内外のコンチネンタルチームに入っただけで、「目標達成!」と思う選手は少なくありません。ここで目標が終わってほしくないんです。終わりではなく始まりなのです。初山選手やアジア大会で活躍した中根選手もすごく良い経験になっていると思います。常にプロとしての仕事が出来る、そして信頼される選手になってほしいです。そう誰もが認める強い選手に。

初山翔選手がアップしているにも関わらず、記念撮影をお願いするファンたち Photo: Marco FAVARO
ほぼ毎日長い移動が必要とされるジロ。選手だけでなく、チームの統制力と組織力が試させられる Photo: Marco FAVARO

——日本人選手とヨーロッパ人選手はここが違う!と他に感じたことがありますか。

水谷:いろいろあります。ヨーロッパで育った選手はレース経験レベルが高いですね。レースでの距離も長く、周回レースもありますがラインレースが基本です。日本は交通事情もあるとは思いますが周回レースやクリテリウムばかりです。日本人選手が強くなる為には、根本的にレース内容や走り方を全て覚えなければなりません。ラインレースの運び方や風の影響だとか、登坂力と共に下り坂で遅れないための技術を身につけなければなりません。ヨーロッパ人選手は普段からテクニカルなコースに慣れているので下りでのテクニックは優れている選手が多いですね。

——日本では下りで有名な選手は数人でしょうか。

水谷:下りのテクニックは簡単なようで習得するには努力とトレーニング以上にセンスが問われます。横風区間の走り方など多くの事を一から日本人選手に教えないとギャップが埋まらないわけです。習得するスピードのセンスも大事ですね。脚力があったとしても経験の絶対値の差が大きく、苦戦している光景は数多く見てきました。若い頃からそれを知り早く習得していける選手だけが、そのステップを飛び越えて、また上の走りを目指して行けるのです。

 さらに食事も大事ですね。日本では身体を絞ることを知らない選手が多いです。ビタミン剤やプロテイン等のサプリメントを必要以上に摂って、体が常に満タン状態の日本人選手は多いです。ヨーロッパ人選手はまず、身体を絞る事を優先させる選手が多いです。サプリメントは体力維持のために摂るのです。ヨーロッパのレースを見て頭で考えて実行するって感じではなく、成長期にレースを身体で覚えるのが大事ですね。

——中根選手や伊藤選手を見てかなり強くなっていると思います。日本人選手のレベルが上がってきたと思ってもいいでしょうか。

水谷:NIPPOはヨーロッパの地でイタリアを始めとする諸国と本格的に組んで15年余りになりますが、マッサーやメカニック等のスタッフと共に確実に日本人選手は成長していると思います。一年でチームを離れた選手もいると思いますが、やはり2年、3年ヨーロッパのレベルで伸びる資質が備わっている選手は確実にこちらでも認められています。繰り返しになりますが、少なくとも日本で才能が認められた選手は早くヨーロッパで走ってもらいたいです。

ジロの通過を歓迎しピンク一色に染まる歴史的建物。今年はこういった風景が目立った(c)Comune di Saint-Pierre

 日本のレースより遥かに厳しいヨーロッパツアーには、更に才能を伸ばす環境があります。勿論そこからワールドツアーへの道が開かれる訳です。実際に私とNIPPOの大門チームマネージャーがイタリアとヨーロッパで活動している以上は我々もアドバイスは惜しみません。ヨーロッパの厳しい土壌に挑戦を望む若者を支援する組織(日本国内)は我々だけではありません。勿論、他にも選択肢や糸口はあると思いますが、一番大切な事はしっかり夢を抱き目標に向かって正しい道を歩む事です。「結果」を出し将来性が見込みのある選手を私はしっかり見ています!

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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