門田基志の欧州XCマラソン遠征記2019<4>「3人揃って『HERO』に」 約束し、挑んだそれぞれのドロミテMTBマラソンレース

  • 一覧

 マウンテンバイク(MTB)クロスカントリーの門田基志選手(チームジャイアント)と、まな弟子の西山靖晃選手(焼鳥山鳥レーシング)のヨーロッパ遠征記。第4回はドロミテのクロスカントリーマラソンのUCIシリーズ戦「HERO」の出走レポートを紹介します。総距離86km、4500m獲得という過酷なコースを総勢6000人が走る一大レース。今年は一般人で友人の「すーさん」こと鈴木博宣さんも日本から加わり、3人揃って完走し、「HERO」になることを誓います。

©︎HERO Südtirol Dolomites

◇         ◇

 それぞれの「HERO」への挑戦がスタートした。

前が見えなくなるほどの紙吹雪の中をくぐってスタート ©︎HERO Südtirol Dolomites

 スタートは町のメインストリートなのだが、盛り上げ方がすごい。前が見えなくなるほどの紙吹雪が噴射され、その中を一斉にスタートする。数年前にはスモークまで炊かれて本当に前が全く見えないことがあった。今年スモークが無くなっていたのは、イタリア人でもさすがに行き過ぎたと思ったのだろうか?

ゼブラのジャージがひときわ目立つ西山 ©︎HERO Südtirol Dolomites

 長時間のマラソンレースであっても、スタートの速度は国内シリーズより速い。 位置取りはおそらく必要ない。ずっと車が通れる道幅の林道登坂だし、単純に競り合ってるのではなく単にペースが速いだけである。実はこの“坂道HERO”決定戦で、僕は弟子の西山に勝てたことがない。精神力が強く、体型的に登坂が得意な西山はスルスルと激坂コースを上っていく。

©︎HERO Südtirol Dolomites

 ガルデーナ峠という一つ目のピークにはゴンドラでアクセス可能なため、観客の数がすごく多い。イタリア人の応援は熱狂的で走っている僕らも気持ちが上がるが、酸素が薄くて力はそれなりにしか入らない。

 下りセクションに進むと、絶景の中をかっ飛ばす気持ちの良いダウンヒルセクションに入る。先にスタートしていた女子エリート選手をパスしつつ、快調に飛ばしているとメーターは時速70km程度に達していた。少し驚いたが、このスピードにビビってたらレースにならないのがヨーロッパラウンドだ。

©︎HERO Südtirol Dolomites

 6000人からなる“HERO予備軍”は際限なく後ろからどんどん押し寄せてくるので、すぐに集団を作ることができる。走りやすいパックを作り、ひたすら坂道と戦いながら絶景を堪能するが、不思議と同じブランドのバイクに乗る選手は言葉が全く通じずとも気持ちが通じて、お互いに母国語で声を掛け合って何を言ってるのか分からないけど意気投合!(笑)

 こうなると出せる力を振り絞り、周りの選手たちが押して上る激坂をなんとしてでも乗車でクリアするとか、人と戦うレースというよりはドロミテのコースと勝負しているよう。大自然は強大にして美しく、そして…人の力では敵わないということを思い知らされる。

山に現れた「HEROおじさん」

 そして HEROになるための最大の難関! ジロ・デ・イタリアでも名勝負を繰り広げ、頂上にはイタリアローレース界の英雄、ファウスト・コッピの像があることで有名なボルドイ峠、に向かう山にアタックする。舗装路の峠は標高の高い山から見ると実は谷の部分で、僕らのコースからしたらボルドイ峠は谷になるのだ。HEROのコースはその高い山岳の森林限界を越えた岩山と雪原を行く。そして眼下に見えるボルドイ峠に向かって下る。その過酷さといったら半端ない。

©︎HERO Südtirol Dolomites

 そして今年のコースは森の伐採と雪の影響から例年以上の激坂っぷり。僕もかなりの距離を押すことになった。そして押している人たちが成す列が、なんともいえない過酷さを物語っていた。ボルドイへの楽しいはずのダウンヒルセクションは雪解けの境目で、雪が溶けて泥沼化した路面は超テクニカルなコースになり、横に落ちたらボルドイの舗装路へ真っ逆さまという危険な状態になっていた。

あまりの激坂に皆バイクを下りて押し歩く Photo: Hironobu SUZUKI

 レースも後半に差し掛かったところで、コース唯一の高速セクションに入る。もはや高速セクションとは呼べないペースでしか踏めないが、ペースを維持して突き進んだ先にはまた激坂が待っていた。

 ここでイタリアの“応援おじさん”が現れた! と思ったら、なんとおじさんは、激坂でボロボロになっていた僕のお尻を力一杯押して走ってくれたのだ(笑)。僕にとってはこのおじさんがHEROに見えた。

 この人、多分あとからくる数千人を押して、応援するのだろう。その瞬間、ふと高校生のときに聞いた“伝説”を思い出した。ロードのトップスプリンターがペダルを漕がず峠を越えたという伝説。こんな感じで背中を押してくれる「HEROおじさん」が峠の上まで大勢いたのかもしれない。

根性で完走を目指す西山

©︎HERO Südtirol Dolomites

 最後の峠を越え、あとは高速のダウンヒルセクションと少しの登坂、そしてアップダウンが続く高速の林道だ。下り坂を時速70kmほど出してカッ飛び、下り切った補給地点で西山がスタッフに助けられていた。どうやらパンクで修理できず、途方にくれていたようだ。

 しかし、その横にいた補給地点のおじさんが陽気で面白かった(笑)。とりあえず補給食をもらおうとしたら「スシ!スシバー!」だといいながら普通のケーキを渡してくる。限界の状況でも日本語のジョークは心に響き、西山と爆笑! おかげで元気を取り戻した西山に「残り走れそうか?」と聞くと「エア漏れしつつ、なんとか持ちそう」という力強い返事で再スタート。しかし途中からエア漏れが酷くなり、限界に達する前に「俺はパンクしないから持っていけ!」とサドル下に2本あったCO2ボンベを走りながら西山に渡してレースを続行した。

©︎HERO Südtirol Dolomites

 その後の高速のダウンヒルセクションが岩場でガレガレで、偉そうに「俺パンクしないから…」などといってボンベを渡したことを早くも後悔…。「パンクしたらダサいやん!」って思いながらも、一つでも順位を上げようとペダルを回した。

©︎HERO Südtirol Dolomites

 見覚えのある街が見え始めると、次第に歓声とお祭り騒ぎが大きくなっていった。そして大観衆の中でゴール! ゴールできた全員がHERO! 完走者をHEROとして扱ってくれるゴールエリアは、毎年どんなにきつくても来年もまた走ろうと思える素晴らしい雰囲気だ。

 ゴールエリアで配られているノンアルコールビールを飲み干し、暫くしても西山が帰ってこない。エアを充填しつつ走れたら30分も遅れないはずと思い、待ちに待ったが来ないのでとりあえずホテルで着替えてゴールエリアに戻った。

©︎HERO Südtirol Dolomites

 その後、ゴールエリアへの道のりで出会った西山は心身ともにボロボロになって魂が抜けていた…。聞くとラスト10kmは徒歩! そしてさらにラスト5kmはSPDシューズが固すぎて足を痛めそうでだったので、シューズを脱いでソックスでドロミテの山を歩いてゴールしたという。

なんとしてでもゴールしようと懸命にバイクを押し歩く西山 ©︎HERO Südtirol Dolomites

 スタート前に僕とすーさん、西山の3人でした「全員でゴールしてHEROになろうな!」という約束を果たすべく根性でゴールした西山をみて、精神力の強さは自分以上かもしれないと思った。

すーさんも最高の笑顔でHEROに!

 その後、2人はスーさんのゴールをゴールゲート横のレストランで待った。Googleで位置情報を確認すると、スーさんが超ギリギリのラインで関門をクリアしている。

こちらの心配とは裏腹にレースを思いっきり楽しむすーさん ©︎HERO Südtirol Dolomites
制限時間ギリギリでも完走したらHERO! いい笑顔だすーさん! ©︎HERO Südtirol Dolomites

 のん気にメッセージを送ってくるすーさんの顔色が少し白い…。大丈夫か?「死ぬ気で踏まないとHEROになれんぞ!」とメッセージを送ると、また返信してくるすーさんに「携帯なんか見ずに走れ!」と激励のメッセージ。ハラハラしながら携帯とにらめっこしていると、すーさんはゴールエリアに残り10分のタイミングで現れ、一般クラスを制限時間ギリギリで完走した。これでHEROが3人、今年も誕生した。

HEROに贈られるメダル ©︎HERO Südtirol Dolomites

e-MTBならレースのコースも楽々

 レース翌日は3人でe-MTB(電動アシストMTB)をレンタルし、毎年行く山頂のレストランに肉を食べに行くツアーを決行! しんどくても楽々と進むe-MTBは、ドロミテエリアではとても普及している。

悪路も激坂も行ける、無敵のe-MTB Photo: Motoshi KADOTA

 e-MTBレンタルショップは確認できただけで4軒ほどあり、走っているMTBもホテルの前で見る限りでは3割ほどがe-MTBという状況になっていた。そりゃそうだ。レースで押して歩くか迷った激坂もe-MTBならなんと片足ペダリングで上れてしまうし、永遠に続くと思った登坂もあっという間に頂上に辿り着くのだから。

 3人で美味しいごはんと、いつものおばちゃんの笑顔に癒されて帰路につく。が、e-MTBの楽しさに勢いよく遠慮なく山岳を走りまくり、激坂を何度も走り、計画性のない僕らはバッテリー残量を確かめずに2000m級の山岳を1つ残して、電池をほぼ使い切っている状況ということに気づく(笑)。

あれだけしんどかったレースのコースもe-MTBだと楽々 Photo: Motoshi KADOTA

 冷静な西山は緩い登坂ではアシストオフで走る。僕は、まあ大丈夫やろ!と全開モードで、さらに最初にバッテリー切れになったすーさんを押してみたり余裕。間もなくバッテリー切れを起こしたのは言うまでもなく僕で、最後まで残ったのが西山だった(実はご飯を食べたレストランはチャージステーションだったということは、すーさんには秘密にしておく)。

バッテリー切れになったすーさんの背中を押す Photo: Yasuaki NISHIYAMA

 日本国内でもe-BIKEの活用をめぐって盛り上がりを見せているが、計画的なチャージステーションや連携して協力してくれるレストランなど、まだまだ課題が盛り沢山。しかし、高齢化の日本でもスポーツとして自転車を楽しむ環境にe-BIKEは大きな意味を持っていることは間違いない。

 自転車に乗れさえしたら、しまなみ海道を当たり前に往復できるのがe-BIKEであり、それはアクティビティーとして確立されると思う。四国一周にしても、普通の体力と時間があれば毎日100km、トータル1000kmを走り切れる夢のような乗り物だ。

 このドロミテエリアでも仕事をリタイアしたような年代の夫婦がe-MTBで僕らがレースで走ってる峠をバンバン走っている。近い将来、日本もこうなれば良いなと思いにふけりつつ、バッテリー切れの僕らのe-MTBツアーは終わった。

<つづく>

門田 基志門田 基志(かどた・もとし)

1976年、愛媛県今治市生まれ。世界最大の自転車メーカー、ジャイアント所属のMTBプロライダー。選手として国内外のレースに参戦する一方、レース以外のサイクリングツアーも展開。石鎚山ヒルクライム、サイクリングしまなみなど数多くの自転車イベントを提案し、安全教室の講師やアドバイザーも務めるなど、自転車文化の発展に奔走している。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

MTBレース マウンテンバイク 門田基志の欧州クロスカントリーマラソン遠征記

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

  • タイム
    アルプデュエズ01 ディスク

    ディスクブレーキで伝統の走りを進化

  • リブ
    AVAIL ADVANCED

    走る好奇心を止めない リブの新型‟無敵”ロードバイク

  • インプレッション一覧へ

    連載